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なぜ、ブラックホール同士は次々に合体しているのか? 答えは連星になり合体を起こしやすい領域の存在にあった

2023年07月21日 | ブラックホール
2019年のこと、太陽質量の約85倍と約66倍のブラックホール同士の合体による重力波が検出されました。

この合体現象で謎になっていたのは、2つのブラックホールが理論的に予測されていたよりも著しく重いこと、合体に付随して突発的な可視光での放射が観測されたことの2点。

今回、この謎を説明できる新たな説を国立天文台が発表しました。
この研究成果は、国立天文台 科学研究部の田川寛通特任助教らの国際共同研究チームによるものです。

隔週程度の頻度で見つかるブラックホール同士の合体

2016年2月にアメリカの重力波望遠鏡“LIGO”が検出したのは、13億光年彼方で発生した、それぞれ太陽質量の約36倍と約29倍のブラックホール同士の合体イベント“GW150914”による重力波でした。

それ以降、現在では隔週程度の頻度で、重力波観測によりブラックホールの合体が発見されています。

これだけ頻繁に観測されているとなると、2つのブラックホールが強大な重力でお互いを引き付け合って、一気に正面衝突で合体するようなイメージを持ちますよね。

でも、そうではないようです。

それは、2つのブラックホールは、ある程度まで接近すると共通重心を回る連星ブラックホールになり、膠着状態に陥ってしまうと考えられているからです。
3つ目のブラックホールにより、均衡が崩れて合体するという説がある。
そのため、宇宙のどこでどのようにして対をなし、そして合体に至ったのか?
まだ良く分かっていない点が多く残されているんですねー

巨大ガス円盤に存在する恒星質量ブラックホール

そうした中、2019年5月には“LIGO”とイタリアの重力波望遠鏡“Virgo”が、それぞれ太陽質量の約85倍と約66倍のブラックホール同士の合体による重力波イベント“GW190521”を報告。

“GW190521”では、これまで理論的に予想されていた質量よりもブラックホールが著しく重いことに加え、合体に付随して突発的な可視光の放射が観測されました。

これらの特異な特徴は、通常の環境下での合体シナリオでは説明が難しく、議論が続くことになります。

そこで、研究チームが注目したのは、ブラックホールが対になり合体を起こす領域。
その領域は、銀河の中心にあると考えたわけです。

大多数の銀河の中心領域には、太陽の数百万倍から数十億倍という大質量ブラックホールが存在しています。
それらは、しばしば回転する巨大ガス円盤に囲まれています。

これらの巨大ガス円盤に存在するとされているのが、たくさんの恒星質量ブラックホールです。
恒星質量ブラックホールは、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つブラックホール。宇宙に多数存在している。
この恒星質量ブラックホールたちは、ガスや他の天体との相互作用により均衡状態が崩れやすいので、時間をかけてお互いに近づいて対をなして合体することになります。
連続した合体によって、“GW190521”で観測されるような重いブラックホールを形成可能なことが、田川特任助教らのこれまでの研究により明らかにされている。

巨大ガス円盤のガスとブラックホールのジェットとの衝突

また、この環境では、巨大ガス円盤からブラックホールへのガスの降着によって、電磁波が放射される可能性があります。

でも、これまでは“GW190512”に付随して観測されたような可視光線の特徴や、電磁波がブラックホールの合体の後にのみ放射される過程を説明できる物理過程が解明されていませんでした。
そのため、この光の放射の付随は、偶然の一致によるものだと広く解釈されることになります。

このような背景の下、今回研究チームが明るい電磁波の放射を作り出す過程として着目したもの。
それは、ブラックホールから放出されるジェットと、巨大ガス円盤内のガスとの衝突により生じる、強い衝撃波からの放射でした。

このシナリオでは、一部のブラックホール合体事象で、電磁放射が付随することが予測されています。

これは、連星ブラックホールが合体すると、ブラックホールのスピンの向きが合体前後で変わることにより、合体後に出るジェットが再び活動銀河核の円盤と相互作用して衝撃波を形成するため。
その衝撃波が円盤表面に達すると、様々な波長で観測可能な電磁波が放射されることになります。

このシナリオにより、過去に報告されている重力波イベント“GW1905521”と電磁波の対応天体候補を説明可能なことが明らかになりました。
放射過程の概略図。ジェットの方向がブラックホールの合体時に変化し、冷たいガスと衝突して強い衝撃波を形成することで、電子が加熱・加速され、合体に付随して電磁波が放出される。(Credit: 国立天文台科学研究部)
放射過程の概略図。ジェットの方向がブラックホールの合体時に変化し、冷たいガスと衝突して強い衝撃波を形成することで、電子が加熱・加速され、合体に付随して電磁波が放出される。(Credit: 国立天文台科学研究部)
さらに、この現象から見込まれるのは、ブラックホール合体の起源、活動銀河核円盤の構造、宇宙論、プラズマ物理、重力理論の理解の向上など、様々な天文学・物理学的進展です。

このことからも、今後の連星ブラックホール事象に対する電磁波追観測が期待されています。


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