今回の研究では、アメリカと中国の火星探査機により、太陽コロナ質量放出(CME)が火星大気に与える影響を観測しています。
太古の火星には厚い大気があり、気候は温暖で、その表面には大量の液体の水が存在した時期があったと考えられています。
この研究で分かってきたのは、太陽コロナ質量放出による影響により大気が散逸した可能性があること。
火星を温暖で住みやすい惑星から、今日のような乾燥した過酷な世界に変える役割を果たしたようです。
太陽コロナ質量放出が、太陽風と相互作用しながら惑星間空間を伝播していくと惑星間コロナ質量放出(ICME)と呼ばれます。
惑星間コロナ質量放出が地球に到達すると、地磁気が一時的に弱まる現象“磁気嵐”が発生することがあります。
磁気嵐は規模が大きくなると、極域で見られるオーロラが活発になるだけでなく、低緯度の地域でもオーロラを見れることができたりします。
大規模な磁気嵐は、私たちの生活とも密接に関連していて、地上の送電設備や人工衛星へ障害を与えることもあります。
地球の大気は強力な磁場によって保護されているので、多くの場合惑星間コロナ質量放出が地球上の人間や社会活動に大きな影響を及ぼすことはありません。
でも、宇宙空間では状況が異なってきます。
惑星間コロナ質量放出により発生した高エネルギー粒子によって、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在している宇宙飛行士は被爆する危険性が高まり、人工衛星や搭載機器が損傷する可能性もあります。
一方、固有の磁場が存在しない現在の火星では、大気は磁場によって保護されていません。
そのため、将来の火星ミッションにおける、惑星間コロナ質量放出の影響と“火星への航海”や“火星での居住可能性”との関連は重要な課題になります。
2021年12月4日に太陽で発生した太陽コロナ質量放出は惑星間コロナ質量放出となり、第1回水星スイングバイを行ったばかりの“ベピコロンボ”の探査機(※1)を通過。
その後、12月10日に火星に到達しています。
惑星間コロナ質量放出が火星の昼側に到達すると、太陽風の動圧によって火星の電離層は圧縮され、プラズマ密度が急激に変化する“電離層界面”の高度が数日かけて徐々に低下していきます。
一方、“MAVEN”は夜側に存在するイオンの大幅な減少を測定しています。
地球の通常の状態では、電離層のプラズマの一部が夜側に移動します。
でも、火星の場合はイオンが惑星間コロナ質量放出によって押し流され、大気から宇宙空間に流出したことを示唆しています。
火星の大気はごく一部しかイオン化していないので、惑星間コロナ質量放出によって散逸した大気はごく少量に留まるようです。
ただ、数十億年にわたるタイムスパンを考慮すると、惑星間コロナ質量放出による複合効果はより大きくなる可能性があります。
太古の火星には厚い大気があり、気候は温暖で、その表面には大量の液体の水が存在した時期があったと考えられています。
イオンの大気からの散逸は火星大気の進化を形作った可能性が高く、火星を温暖で済みやすい惑星から、今日のような乾燥した過酷な世界に変える役割を果たしたと考えられます。
近年、太陽活動に伴う“宇宙天気”が注目を集めています。
今回の研究は、惑星間コロナ質量放出の強力な磁場と高い動圧がもたらす宇宙天気が、火星の大気に及ぼす影響を浮かび上がらせてくれたと言えますね。
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太古の火星には厚い大気があり、気候は温暖で、その表面には大量の液体の水が存在した時期があったと考えられています。
この研究で分かってきたのは、太陽コロナ質量放出による影響により大気が散逸した可能性があること。
火星を温暖で住みやすい惑星から、今日のような乾燥した過酷な世界に変える役割を果たしたようです。
この研究成果は2023年8月8日付で“The Astrophysical Journal”に掲載されています。
図1.NASAの火星探査機“MAVEN”によってとらえられた火星北半球の紫外線が増。(Credit: NASA/LASP/CU Boulder) |
太陽コロナ中のプラズマが大量に放出される突発的な現象
太陽活動に伴って太陽コロナ中のプラズマが大量に放出される突発的な現象が、太陽コロナ質量放出です。太陽コロナ質量放出が、太陽風と相互作用しながら惑星間空間を伝播していくと惑星間コロナ質量放出(ICME)と呼ばれます。
図2.NASAの太陽観測衛星“SOHO”によってとらえられた2000年11月に発生した2つのコロナ質量放出。(Credit: ESA/NASA/SOHO) |
磁気嵐は規模が大きくなると、極域で見られるオーロラが活発になるだけでなく、低緯度の地域でもオーロラを見れることができたりします。
大規模な磁気嵐は、私たちの生活とも密接に関連していて、地上の送電設備や人工衛星へ障害を与えることもあります。
地球の大気は強力な磁場によって保護されているので、多くの場合惑星間コロナ質量放出が地球上の人間や社会活動に大きな影響を及ぼすことはありません。
でも、宇宙空間では状況が異なってきます。
惑星間コロナ質量放出により発生した高エネルギー粒子によって、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在している宇宙飛行士は被爆する危険性が高まり、人工衛星や搭載機器が損傷する可能性もあります。
一方、固有の磁場が存在しない現在の火星では、大気は磁場によって保護されていません。
そのため、将来の火星ミッションにおける、惑星間コロナ質量放出の影響と“火星への航海”や“火星での居住可能性”との関連は重要な課題になります。
火星大気の進化
今回の研究では、惑星間コロナ質量放出が火星の大気に及ぼす影響を調べています。2021年12月4日に太陽で発生した太陽コロナ質量放出は惑星間コロナ質量放出となり、第1回水星スイングバイを行ったばかりの“ベピコロンボ”の探査機(※1)を通過。
その後、12月10日に火星に到達しています。
※1.“ベピコロンボ”はJAXAとヨーロッパ宇宙機関が共同で推進する水星探査ミッション。それぞれの周回探査機が飛行を担当するヨーロッパ宇宙機関の電気推進モジュールに搭載され水星を目指している。
惑星間コロナ質量放出の到達を待ち構えていた中国国家航天局の火星探査機“天問1号”(※2)は太陽に照らされた火星の昼側から、NASAの火星探査機“MAVEN”(※3)は夜側から観測を実施しました。※2.“天問1号”は中国が2020年に打ち上げた火星探査機。
※3.“MAVEN”はNASAが2013年に打ち上げた火星探査機。火星の上層大気を中心に観測することを目的としている。
※3.“MAVEN”はNASAが2013年に打ち上げた火星探査機。火星の上層大気を中心に観測することを目的としている。
図3.惑星間コロナ質量放出の中国国家航天局の火星探査機“天問1号”とNASAの火星探査機“MAVEN”の軌道図。水星探査ミッション“ベピコロンボ”の探査機は、太陽に近い位置から惑星間コロナ質量放出の通過を確認している。(Credit: Yu et al. 2023) |
一方、“MAVEN”は夜側に存在するイオンの大幅な減少を測定しています。
図4.惑星間コロナ質量放出の火星の電離層に対する影響の概要。点線は電離層界面の高度、実線は電離層プラズマの密度を示す。(Credit: Yu et al. 2023) |
でも、火星の場合はイオンが惑星間コロナ質量放出によって押し流され、大気から宇宙空間に流出したことを示唆しています。
火星の大気はごく一部しかイオン化していないので、惑星間コロナ質量放出によって散逸した大気はごく少量に留まるようです。
ただ、数十億年にわたるタイムスパンを考慮すると、惑星間コロナ質量放出による複合効果はより大きくなる可能性があります。
太古の火星には厚い大気があり、気候は温暖で、その表面には大量の液体の水が存在した時期があったと考えられています。
イオンの大気からの散逸は火星大気の進化を形作った可能性が高く、火星を温暖で済みやすい惑星から、今日のような乾燥した過酷な世界に変える役割を果たしたと考えられます。
近年、太陽活動に伴う“宇宙天気”が注目を集めています。
今回の研究は、惑星間コロナ質量放出の強力な磁場と高い動圧がもたらす宇宙天気が、火星の大気に及ぼす影響を浮かび上がらせてくれたと言えますね。
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