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これまでの銀河形成や銀河進化の理論では全く予想されていなかった… 初期宇宙に巨大星形成銀河を多数発見!

2019年08月20日 | 銀河・銀河団
アルマ望遠鏡の観測により、星形成の活発な巨大銀河が110億年以上前の宇宙で39個発見されました。
こうした銀河は可視光線や近赤外線では見えていないだけで、たくさん存在しているとすると…

このことは、これまでの銀河形成や銀河進化の理論では全く予想されていなかったこと。
ビッグバンから20~30億年しかたっていない時代にこれほど多くの巨大天体を作ることはできないんですねー
これまでの銀河形成論を再検討する必要があるのかもしれません。

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遠い銀河は赤外線より波長の長いサブミリ波で観測

NASAのハッブル宇宙望遠鏡は、初期宇宙に存在する誕生直後の銀河や星形成の活発な銀河を観測する上で中心的な役割を果たしています。

でも、何でも観測できるわけではなく、ハッブル宇宙望遠鏡だと観測できる光の波長は可視光線から近赤外線までの範囲。
そう、どんな銀河でもハッブル宇宙望遠鏡で撮影できるわけではないんですねー

たとえば、活発な星形成が起こっている銀河では、寿命の短い大質量星がたくさん生まれ、それらが超新星爆発を起こして一生を終えるというサイクルが繰り返されています。
このため、終末期の星や超新星爆発から放出されたチリが銀河の中に大量に含まれています。

このような銀河では、星から出た光はチリに吸収され、暖められたチリから赤外線として再放出されるので、中間赤外線や遠赤外線と呼ばれる波長の長い赤外線でなければ銀河自体が「見えない」場合があります。

さらに、こうした銀河が初期宇宙に存在していると、宇宙膨張によって光の波長が引き伸ばされるので、さらに波長の長い電磁波でないと見えない可能性があります。
  膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。

そのため、星形成の盛んな銀河を遠い過去の宇宙で見つけるためには、電波望遠鏡を使い、赤外線よりさらに波長の長いサブミリ波で観測する必要があるんですねー


110億年前の星形成が活発な銀河を発見

今回の研究で東京大学・国立天文台の研究チームが注目したのは、ハッブル宇宙望遠鏡が“CANDELS”というサーベイ観測プロジェクトで撮影した領域。

“CANDELS”は2010年から2013年にかけて行われた観測プロジェクト。
延べ4か月もの撮影時間を費やしたハッブル宇宙望遠鏡史上最大の観測プロジェクトでした。

研究チームは“CANDELS”の撮影領域の中から、ハッブル宇宙望遠鏡の画像に写っておらず、NASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”の画像には映っている正体不明の天体を63個選び出し、アルマ望遠鏡で詳細な観測行います。

すると、63個の天体のうち39個でサブミリ波が検出されたんですねー

観測データから、この39個はいずれも星形成が活発に行われている巨大銀河で、約110億年前より昔の初期宇宙に存在することが明らかになります。
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今回観測された領域。左がハッブル宇宙望遠鏡による画像で、1から4までの位置に今回新たに見つかった巨大星形成銀河がある。右がアルマ望遠鏡で撮影された、それぞれの銀河のサブミリ波画像。
今回見つかった巨大星形成銀河の質量は太陽の数百億~1000億倍で、天の川銀河とほぼ同じかやや小さい程度。
でも、110億年前より昔の宇宙では巨大な銀河といえます。

また、これらの銀河で起こっている星形成のスピードは、天の川銀河の100倍に達していました。
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今回見つかった初期宇宙の巨大銀河のイメージ図(図中の4つの大きな銀河)。
大量のチリを含み、銀河の内部では爆発的に星が生み出されている。
やがては巨大楕円銀河に進化すると考えられている。


初期銀河の巨大銀河は、現在の宇宙に存在する巨大楕円銀河の祖先かも

今回見つかった巨大星形成銀河の数と観測領域の広さから計算して分かったのは、こうした銀河は天球上で1平方度(満月約5個分)あたりに約530個も存在すること。

過去には、今回の銀河よりさらに10倍も星形成率が高い“モンスター銀河”も発見されています。
でも、今回の銀河の個数密度はこうした“モンスター銀河”より100倍も高いんですねー

このことから考えられるのは、宇宙誕生から20~30億年後の時代に存在する巨大星形成銀河のほとんどは、実は可視光線や近赤外線では見えていないということ。

研究チームでは、今回見つかった初期宇宙の巨大銀河は、現在の宇宙に存在する巨大楕円銀河の祖先ではないかと推定しています。

巨大楕円銀河は銀河団の中心に存在していて、その質量は太陽の数兆倍にも及びます。

こうした巨大銀河が110億年前より昔の宇宙にこれほどたくさん存在するという事実は、これまでの銀河形成や銀河進化の理論では全く予想されていなかったこと。

現在広く受け入れられている、ダークマター(暗黒物質)によって宇宙の構造が形成されるというモデルでは、ビッグバンから20~30億年しかたっていない時代にこれほど多くの巨大天体を作ることはできません。

今回のアルマ望遠鏡の成果は、宇宙や銀河の進化に関する私たちの理解に対する挑戦状といえます。

銀河の進化を包括的に理解することに欠かせないのが、巨大楕円銀河の成り立ちを考えること。

アルマ望遠鏡での更なる詳細観測に、近い将来に打ち上げが予定されている“ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡”や赤外線天文衛星“SPICA”が加われば、この謎を解くヒントが得られるかもしれませんね。


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宇宙の3次元地図作成に活躍! 期待の“DESHIMA”は日本とオランダ共同開発の電波受信器

2019年08月18日 | 宇宙 space
日本とオランダが共同開発した電波受信器“DESHIMA”が南米チリにあるアステ望遠鏡に搭載されました。

この装置は、非常に広い周波数帯域の電波を一度に受信しながら分光を行うことを可能にするもの。
銀河の距離測定など多様な電波観測を実現することが期待されています。


赤方偏移による距離の測定

銀河の距離を元に作られる宇宙の3次元地図は、宇宙の成り立ちや銀河の進化を探る重要な手掛かりになります。

その際、電磁波の波長の伸びである“赤方偏移”を調べることが、銀河までの距離を測定する方法の一つになるんですねー

膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまいます。
この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになります。

元の周波数とのズレは遠くの天体ほど大きくなるので、ズレた量が分かれば距離が計算できるというわけです。

ただ、1つの分子・原子からの特定の電磁波を観測しただけでは、元の周波数が何であったかが分からないので、ズレの量を決めることはできません。

なので、“赤方偏移”の測定には複数の分子や原子からの電磁波をとらえる必要があります。

さらに重要なのが、幅広い周波数帯域の電波を観測すること。
でも、これまでの受信機は一度に観測できる周波数帯域が狭いので、少しずつ周波数を変えながら観測を繰り返す必要があり、完了までに長い時間が必要でした。


宇宙の3次元地図作成に向けて

今回、最先端の超電導技術を駆使して開発されたのは受信機“DESHIMA(Deep Spectroscopic Hight-redshift Mapper)”。

開発は、東京大学や国立天文台など日本の研究チーム、オランダのデルフト工科大学とオランダ宇宙研究所の共同で進められ、南米チリのアタカマ高地ある国立天文台アステ望遠鏡に搭載されました。
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アステ望遠鏡(アタカマサブミリ波望遠鏡実験)。
南米チリ北部、アタカマ砂漠の標高4860メートルの高地パンパ・ラ・ボラに設置された直径10メートルのサブミリ波望遠鏡。
“DESHIMA”は、電波を波長ごとに分ける“フィルターバンク”と、電波を超高感度で受信する“MKID(Microwave Kinetic Inductance Detectors)”という2つの技術を組み合わせた世界初の観測装置。一度に幅広い周波数帯の電波を分光観測することが出来ます。
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アステ望遠鏡に搭載された“DASHIMA”が入った円筒形の真空冷凍容器と開発チーム。
名称は江戸時代にオランダと日本の交流の窓口であった長崎県の出島にもちなんでいる。
2017年10月から行われた“DASHIMA”の試験観測では、地球から約2.9億光年彼方に位置するくじら座の相互作用銀河“VV 114”がターゲットにされ、周波数339GHzに一酸化炭素分子が放つ電波が検出されます。

この銀河は過去の観測で“赤方偏移”が測定されていました。
今回、同じ周波数に電波が検出されたことで、“DASHIMA”の技術が実際に天体までの距離測定に使えることが実証されることになります。
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活動銀河“VV 114”のスペクトル。一酸化炭素が出す電波は元々345GHz。
でも宇宙膨張による赤方偏移により観測される周波数は339GHzにズレているので、
そのズレから銀河までの距離を求めることが出来る。
さらに、オリオン座大星雲の観測も行われ、一酸化炭素(CO)、ホルミルイオン(HCO+)、シアン化水素(HCN)からの電波を一度に検出することに成功。

空域をスキャンすることで、大きく広がっている星雲内の分子分布も同時に描き出すことができ、“DASHIMA”の広帯域分光能力が実証されます。
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オリオン座大星雲周辺の一酸化炭素(CO)、シアン化水素(HCN)、ホルミルイオン(HCO+)の分布。
可視光線で見えるオリオン座大星雲は中央下部にある。3つの分子がいずれも強く電波を放出。
特に一酸化炭素が星雲から南北に大きく広がっていることが分かる。
今後、開発チームが検討しているのは、感度の向上や周波数帯の拡大に加え、現在の1画素から16画素の電波分光撮像カメラに拡張すること。

これが実現すれば、宇宙の3次元地図をより効率的に作成できるんだとか。
宇宙初期の銀河で星がどのように作られていたのか? 銀河がどのように成長してきたのか? っといった謎を解明する上で大きな情報をもたらしてくれそうですよ。


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特定のタイプの惑星を探す“TESS”だから発見できた! 31光年彼方の巨大地球型惑星“スーパーアース”

2019年08月16日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
探査衛星“TESS”などの観測により、地球から31光年という近距離に3つの惑星を持つ惑星系が発見されたんですねー
いずれも地球の数倍程度の大きさとみられていて、岩石質で大気があれば液体の水も存在する可能性があるそうです。


恒星の近くを回る地球より大きな惑星

今回観測の対象になったのは、うみへび座の方向約31光年の彼方に位置する11等級のM型矮星“GJ 357”。
太陽に比べて質量が3分の1と軽く、表面温度は約3500K(摂氏3200度)ほどなので恒星として低温な部類になります。

今年の2月にNASAの系外惑星探査衛星“TESS”によるトランジット観測から、“GJ 357”を3.9日周期で回る惑星“GJ 375 b”の存在が明らかになります。
  地球から見て、惑星が恒星の手前を通過(トランジット)するときに見られる
  わずかな減光から、惑星の存在を知る観測方法。


“GJ 357 b”の大きさは地球の約1.2倍ほど。
太陽から水星間の10分の1未満という主星に非常に近い軌道を回っていて、その平衡温度は摂氏約254度と見積もられています。
  平衡温度は、惑星があたかも主星によってのみ加熱されているかのように単純に考えた理論的な温度。大気の有無は関係ない。

これまでに発見されている系外惑星のうち、トランジットを起こす惑星としては3番目に地球に近い“GJ 357 b”。

“ホットアース”のような特徴を持っているので、生命には適さないはずです。
ただ、大気組成の観測対象として最適な岩石惑星のうちの一つとして注目に値するんですねー


追加観測で発見された系外惑星

スペイン・カナリア天体物理研究所のグループが、“GJ 357 b”の存在を確認するための追加観測で、“GJ 357”の周りにさらに2つの惑星を発見します。

これら3つのうち特に興味深いのが、もっとも外側を回る“GJ 357 d”。
“GJ 357 d”の質量は地球の約6倍で、サイズは不明ながら地球の1~2倍程度と考えられていて、太陽から地球までの約5分の1の距離を55.7日周期で公転しています。
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“GJ 357 b”のイメージ図
“GJ 357 d”は“ハビタブルゾーン”に位置していて、火星が太陽から受けるのとほぼ同じ量のエネルギーを受けています。
  “ハビタブルゾーン”とは、恒星からの距離が程良く惑星の表面に液体の水が存在できる領域。
  この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。


もし惑星に大気があれば、可能性として出てくるのが液体の水の存在。
ただ、大気がない場合の平衡温度は摂氏マイナス53度… 住みやすいというよりは凍てついた環境といった方がよさそうです。

もう一つの惑星“GJ 357 c”はトランジットでは観測されていませんが、複数の地上望遠鏡による長年の観測データを用いてドップラーシフトという検出法で発見されています。
  ドップラーシフトは、主星の周りを公転している惑星の重力で、
  主星が引っ張られることによる“ゆらぎ”を光の波長の変化から読み取ることで、
  惑星の存在を検出する。


“GJ 357 c”の質量は地球の3.4倍以上。
軌道は他の2つの惑星の間にあって主星を9.1日周期で公転。平衡温度は摂氏約127度です。
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図で表した“GJ 357”系。
“GJ 357 d”は青で示したハビタブルゾーンの外端辺りに位置している。


特定のタイプの惑星を探す探査衛星

これまでに発見されている系外惑星の数は4000個を超えていて、その中には地球によく似た岩石惑星や“ハビタブルゾーン”内にある惑星も多数含まれています。

特に系外惑星探査衛星“ケプラー”は2009年の打ち上げ以降に2600個以上の系外惑星を発見してきました。

ただ、星空のほぼ一角のみを見つめ続けた“ケプラー”と違い、“TESS”が観測の対象とするのは全天。
地球の周りを周回しながら、4台のカメラを使って特定の恒星群を最低27日間ずつ観測し、全天の85%を網羅するんですねー
  観測は最初の1年は南の空、翌年には北の空に移る。

“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星になります。

調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星。
こうした恒星の周りを回る、液体の水が存在できる暑すぎず寒すぎない惑星は、主星から非常に近い軌道を回っているはずです。

これまでに行われた数多くの観測からは見つかっていなかった“GJ 357”を回る3つの惑星。
今回、偶然見つかったのではなく、特定のタイプの惑星を探す“TESS”だからできたんですね。
“GJ 357”系での惑星発見の紹介動画。


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これまでの説より1億年も早い? 月が冷えて固まり始めたのは太陽系の誕生から5000万年後だった

2019年08月14日 | 月の探査
アポロ計画で採取された月のサンプルの組成分析から分かってきたこと。
それは、月の形成時期が45億1000万年前だということでした。
これまでの説よりも1億年も古い時期に月は誕生したようです。


太陽系初期の歴史や地球と月の形成に関する情報源

今から50年前の1969年7月21日(日本時間)、アポロ11号が月面着陸を果たし、人類は初めて月にその一歩を印しました。

宇宙飛行士アームストロングとオルドリンは数時間の月面滞在の間に21.55キロのサンプルを集め、そのサンプルを地球へ持ち帰ってきます 。

その後、17号まで続いたアポロ計画で地球へ持ち帰られた月のサンプルは合計380キロ以上。
そのサンプルは50年たった今でも、太陽系初期の歴史や地球、月の形成に関する研究の情報源になっているんですねー
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アポロ12号によって持ち替えられた月のサンプルの一部。


月を形成する元になった巨大衝突

今回の研究を進めているのはドイツ・ケルン大学のチーム。
月のサンプルの分析から形成された年代を探っています。

月は巨大衝突“ジャイアントインパクト”と呼ばれる天体衝突で作られたとする説が有力です。
  天体の衝突で地球はほぼ蒸発… そして月ができたようです。
    

この説によれば、火星サイズの天体“テイア”が形成初期の地球に衝突し、飛び散った物質が重力によって集積して月ができたと考えられています。

誕生したばかりの月は表面のほとんどが解けていて、マグマの海に覆われた状態でしたが、冷えるにつれて様々な種類の岩石になっていきます。
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巨大衝突“ジャイアントインパクト”のイメージ図。


月が冷えて固まり始めたのは太陽系の誕生から5000万年後だった

研究チームが調べたのは、月のサンプルに含まれる希少元素であるハフニウム、ウラン、タングステンの関係から、月面の黒い領域を構成する玄武岩を生成するもとになったマグマの融解の様子でした。

特にハフニウムとタングステンについて、サンプルの情報と実験室での情報とを合わせて分かってきたのは、月は太陽系の誕生から5000万年後には冷えて固まり始めたこと。

これまでの研究では、月が形成されたのは今から約44億年1000万年前であり、太陽系形成(すなわち地球の形成)から約1億5000万年後と見積もられていました。

でも、今回の研究では、それを1億年もさかのぼり、月は約45億1000万年前に誕生したと結論付けているんですねー

月の年齢を決定することは、月がどのように形成されたのかだけでなく、地球の形成年代や太陽系形成初期に地球がどのように進化してきたのかを知る上で重要なことになります。

人類が月という地球以外の世界への第一歩を刻んでからちょうど50年。
この節目に、地球に持ち帰られたサンプルによって、月の進化に関する新しい情報がもたらされました。

地球の形成後、最後に起こった惑星規模の大きな現象は月の形成です。
今回の研究結果が正しく、月が約45億1000万年前に誕生したのなら、地球の年齢が最低何歳なのかも分かってくるはずですよ。


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新たな種族の天体を大量に発見! 未発見の物質“ミッシング・バリオン”の可能性もあるようです。

2019年08月12日 | 宇宙 space
ハッブル宇宙望遠鏡でとらえた画像を用いて“宇宙の明るさ”のゆらぎを解析したところ、これまでゴミだと思われていた光の点が、新たな種族の天体であることが明らかになったんですねー
この天体の正体は現時点では不明なんですが、これまでの観測では把握できなかった“ミッシング・バリオン”の可能性もあるようです。


宇宙には未知の光源が存在している?

これまでに赤外線天文衛星“IRTS”や“あかり”による近赤外線領域の観測から、宇宙の“明るさ”や、その“ゆらぎ”が既知の天体から予想されるものより大きいことが分かっています。

また、可視光線でも空が予想より明るいことが確認されているので、宇宙には“未知の光源”が存在することが予想されています。

そこで、“未知の光源”を探すためJAXA宇宙科学研究所のチームが試みたのは、ハッブル・エクストリーム・フィールド”の画像の空間構造を解析し、新たな情報を引き出すことでした。
  ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した現時点で人類が手にしている最も暗い天体まで写っている画像。
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(左)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた元画像、(右)33等級より明るい銀河など多数の天体をマスクし、宇宙の明るさを強調して、宇宙の明るさの空間構造(ゆらぎ)を浮かび上がらせたもの。
解析の結果明らかになったのは、画像に写っている、これまではゴミだと思われていた暗く小さな光の点が、実は以下のような特徴を持つ天体として数多く存在すること。

 ・点源と区別できない、直径30光年以下の大変小さな天体。
 ・大変暗い天体(見た目の等級が30等級より暗い)。
  天の川銀河内にある最も暗い恒星よりも暗いので、恒星ではないと考えられる。
 ・別のガンマ線観測の結果を考慮すると、約13億年前に急に明るくなり、
  その後、数億年以内に暗くなったと見られる。
 ・質量・光度はそれぞれ太陽の約300倍、1,000倍と推定される。
 ・最大に見積もると、全天で1,000兆個ほど存在する天体である。

こうした特徴から研究チームは、これらが新たな種族の天体である可能性があると結論付け、“フェイント・コンパクト・オブジェクト”と名付けています。

“フェイント・コンパクト・オブジェクト”の正体は現時点では不明ですが、小さめのブラックホールに物質が落ち込むときに光り輝く“ミニ・クエーサー”などが候補として考えられています。
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“フェイント・コンパクト・オブジェクト”が存在する宇宙空間の一部を描いたイラスト。
“フェイント・コンパクト・オブジェクト”は13億年前に急に明るくなり、数億年以内に暗くなった。


未発見の物質“ミッシング・バリオン”

今回発見された“フェイント・コンパクト・オブジェクト”は、“ミッシング・バリオン”と呼ばれる未発見の物質の正体なのかもしれません。

宇宙は正体不明の“ダークマター”と“ダークエネルギー”に満たされていて、身近な物質である“バリオン(原子や分子などで構成された普通の物質)”は、宇宙の中にわずか5%程度しか存在しないことが分かっています。

その“バリオン”も、星や銀河、星間ガスなどとして観測されている量はおよそ半分で、残り半分はまだ見つかっていません。
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“ミッシング・バリオン”の説明図
もし、“フェイント・コンパクト・オブジェクト”が理論予想よりも宇宙が明るいことを説明できるものだとすれば、“フェイント・コンパクト・オブジェクト”は宇宙に大量に存在し、“ミッシング・バリオン”の正体でもある可能性が出てきます。

研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡の18倍の感度で宇宙の明るさを測定できるロケット実験“CIBER-2”や、惑星探査機に搭載した望遠鏡で木星軌道から宇宙の明るさを測定する“EXZIT”など、より詳細に宇宙の明るさを測定する計画を進めています。

この計画により、“フェイント・コンパクト・オブジェクト”の正体や“ミッシング・バリオン”問題が解明されるのかもしれませんね。


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