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なぜ分子雲の量の割に作られている星の数は少ないのか? それは何かが高密度ガスの形成を阻害しているから

2019年08月10日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
天の川銀河の大規模分子雲サーベイプロジェクト“FUGIN”の観測データから、星の生産現場となる高密度ガスの量が、低密度ガスに比べて非常に少ないことが明らかになりました。

なぜ、高密度ガスの量は少ないのでしょうか?
低密度ガスが自身の重力に任せて自由に高密度ガスを作った場合、分子雲の大部分が高密度ガスで満たされてしまうはずです。

そうならないのは、高密度ガスの形成を阻害している何かかがあるから…
それにより生まれてくる星の数が少なくなっているそうです。


銀河を漂う冷たいガス“分子雲”

銀河に含まれる数百億~数千億もの星々は、銀河を漂う“分子雲”と呼ばれる冷たいガスから生まれます。

分子雲には、ガスが薄い部分“低密度ガス”とガスが濃い部分“高密度ガス”があり、低密度ガスの中で高密度ガスが作られ、さらにその高密度ガスの中から星が作られていきます。

様々な銀河の観測から分かってきたのは、銀河に分布する分子雲の総量に比べて作られている星が少ないこと。
簡単な計算モデルから予想される数の1000分の1しか誕生していないようです。

もちろん、高密度ガスにおける星の誕生過程の理解については様々な研究によって進んでいます。
でも、分子雲で作られる星の数が予測よりも少ないという問題の解決には至らず…

そもそも、高密度ガスがどのようにして作られるのか、分子雲の中に高密度ガスはどれくらいあるのかという根本的なことも、まだよく分かっていないんですねー


なぜ、分子雲の量の割に作られている星の数が少ないのか

今回、こうした分子雲の問題解明を目指して研究を進めたのは国立天文台のグループ。
野辺山45メートル電波望遠鏡で2014年から2017年に実施された天の川の分子雲サーベイプロジェクト“FUGIN”の観測データを解析し、2万光年にわたる範囲の低密度ガスと高密度ガスの量を精密に測定しています。

低密度ガスと高密度ガスはサイズが大きく異なり、高密度ガスは低密度ガスの広がりの100分の1から1000分の1くらいしかありません。

そのため、これまでの観測で問題になっていたのが、高密度ガスをとらえる高い空間分解能と、低密度ガス全体をカバーする広い観測範囲を両立すること。

この問題を解決したのが、天の川銀河の電波地図作りを目指してきたプロジェクト“FIGIN”でした。
このプロジェクトにより、世界で初めて低密度ガスと高密度ガスの広域かつ詳細な分布が描き出され、分子雲の全貌が明らかになります。
○○○
プロジェクト“FUGIN”で得られた天の川の分子雲の分布。
(上)分子雲の3色電波画像(赤が12C0、緑が13C0、青がC180の分子からの電波強度)、
(下)低密度ガス(左)と高密度ガス(右)の電波強度画像。
低密度ガスは12C0で、高密度ガスはC180で検出される。
低密度ガスに比べて高密度ガスがごく一部でのみ検出されていることが分かる。
研究の結果分かってきたのは、2万光年の範囲に含まれる低密度ガスの総質量が太陽1億個分であるのに対し、高密度ガスはその3%に当たる太陽300万個分しかないこと。

そう、分子雲の大部分が低密度ガスであり、高密度ガスはほんのわずかしか存在していないんですねー

さらに分かってきたのが、天の川銀河の渦状腕では高密度ガスが質量比およそ5%とやや多く、腕の間の空間や棒状構造では質量比0.5%以下と少なくなることでした。

低密度ガスが自身の重力に任せて自由に高密度ガスを作った場合、予測では分子雲の大部分が高密度ガスで満たされてしまい、低密度ガスがほとんど無くなってしまうことになります。

でも、現実はその逆… 高密度ガスはほとんど作られていません。

そこで考えられるのが、何か高密度ガスの形成を阻害しているものがあり、それにより生まれる星の数も減ってしまっているということ。
阻害している何かが分かれば、分子雲の量の割に作られている星の数が少ないという問題も解決するはずです。

今後、銀河の様々な場所での低密度ガスと高密度ガスの量や状態をさらに詳しく調べていけば、高密度ガス雲の形成を阻害する要因が突き止められ、高密度ガス形成と星形成にかかわる謎の解明が進む っといいですね。


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2019年08月05日 | 地球の観測
知ってました? 磁気嵐が発生すると地球の極域から宇宙空間に大気が流出していること。
この流出現象では大気の流出量が多くなるタイミングがあるんですねー
それは、コロナ質量放出に由来するタイプの磁気嵐のとき。レーダー観測から明らかになったようです。


太陽風の影響で大気が宇宙空間に流出している

太陽が放出するプラズマは“太陽風”と呼ばれ、地球に到達するとオーロラを発生させる要因になっています。

また、地球に到達した太陽風の影響により、地球の極域の上空で大気中のイオン化した酸素原子などが宇宙空間へ流出することがあります。

これまでの研究から分かっているのは、特にオーロラ爆発が起こると、同時に大量のイオンが超高層大気中から上昇すること。

太陽から大量かつ高速のプラズマがやってくると、しばしば地球の磁場が乱れる“磁気嵐”が発生します。
この磁気嵐が起こるときには、オーロラ爆発が頻繁に発生するので、極域でのイオンの上昇流も頻繁に起こっていると考えられているんですねー

でも、その時間変化や上昇流量についての観測は十分でなく、磁気嵐との関係も不明のままでした。


極域のはるか上空で夜に起こっていること

今回、国立極地研究所のチームが解析したのは磁気嵐と上昇流の関係について。
研究には“EISCAT(欧州非干渉散乱)レーダー”の超高層大気観測データが用いられました。
  ノルウェーに設置されている“EISCAT(欧州非干渉散乱)レーダー”は、
  日本など6カ国が共同運用しいている。

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EISCATスバールバルレーダー
ノルウェーのトロムソ(北緯69度)と、スバールバル諸島ロングイヤービン(北緯78度)の2箇所の観測データから、過去20年間(1996年~2015年)に磁気嵐が起こっていたときの高度400~500キロでの観測データを取り出し、磁気嵐時の上昇流の特徴(大気イオンの上昇流量や上昇速度)を調査。

その際、磁気嵐を引き起こす要因を、高速の太陽風が先行する低速太陽風に追いつく現象(共回転相互作用領域:CIR)であった時と、太陽フレアに伴う突発的な太陽の爆発現象(コロナ質量放出:CME)であった時の2種類を区別して調べています。

その結果、トロムソでは発生初日に夜間のイオン上昇流量が激増し、コロナ質量放出起源の磁気嵐での流量は共回転相互作用領域起源の場合の4倍になることが分かります。

一方、スバールバルでは昼にイオン上昇流量が増加し、コロナ質量放出起源と共回転相互作用領域起源で流量の差はみられませんでした。
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ノルウェーのトロムソ(北緯69度、次期緯度66度)とスバールバル(北緯78度、次期緯度75度)で観測されたイオン上昇流量の日変化。
4つの時間帯を色分け(MLT:時期地方時。自転軸から約11度傾いている磁軸を使って定義した地方時)。
緯度の低いトロムソではコロナ質量放出発生時に夜側で、緯度の高いスバールバルではコロナ質量放出または共回転相互作用領域発生時に昼側で、イオンの上昇する流量が顕著に増えていることがわかる。
また、夜間のイオン速度増加が起こっているときには、超高層大気中の電子とイオンの温度が共に上昇することも分かります。

このことが示唆しているのは、極域のはるか上空で、エネルギーの低い電子の下降と、電場の増大の両方が夜間に起こっていること。

さらに、コロナ質量放出発生時にトロムソで見られたイオンの上昇流量の増大は、多量の下降粒子に伴って超高層大気中のイオンの密度が増えることに起因することも分かります。
○○○
共回転相互作用領域とコロナ質量放出起源の磁気嵐の発生初日における極域イオン上昇流の特徴をまとめたイラスト。
赤点線と青点線は観測所の位置(一自転中の通り道)を示している。
このような地球大気の流出に関する基本的な性質や機構の理解は、火星や金星などの他の惑星大気が太陽風の変化に対してどのように反応するかをシミュレーションなどによって理解する研究にも貢献すると期待されています。

研究チームは今後、異なる高度での特徴を明らかにし、より低高度での調査から、重い分子イオンがいつどこで上昇しているのかを調べるそうです。


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赤色矮星を巡る系外惑星が注目されているけど、大気を維持するメカニズムなどがない限り地球外生命の生存は難しいようです。

2019年08月03日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
恒星表面で発生するフレアが惑星に及ぼす影響が、モデルに基づいて定量的に評価されました。
惑星の大気や磁場により影響は大いに異なり、太陽系から最も近いプロキシマケンタウリの惑星は厳しい環境にあるようです。


太陽よりも表面温度が低く暗い恒星

これまでに発見されている系外惑星の数は4000個を超えていて、その中には“ハビタブルゾーン”内にある惑星も多数含まれています。

“ハビタブルゾーン”とは、恒星からの距離が程良く惑星の表面に液体の水が存在できる領域で、この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられているんですねー

この“ハビタブルゾーン”にある惑星が多く発見されているのが、太陽よりも表面温度が低く光度も暗い“赤色矮星”と呼ばれるタイプの恒星の周囲です。

“赤色矮星”は太陽と比べると、はるかにゆっくりと明るくなっていくので、生命が芽吹くのに必要な時間が更にあると考えられています。

ただ、赤色矮星は表面温度が低く光度も暗いので、“ハビタブルゾーン”は中心星から近くなってしまいます。
赤色矮星ではフレアと呼ばれる恒星表面の爆発現象を頻繁に起こす傾向があるので、その影響が惑星の居住可能性を左右することに…

でも、フレアの発生頻度、惑星の大気や磁場の環境などを考慮した居住可能性の定量的な評価は、これまでされてきませんでした。
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フレアを起こした恒星(左)と惑星のイメージ図。
今回、居住可能な惑星にフレアがどのような影響を及ぼすのかを京都大学の研究チームが調査。
NASAの系外惑星探査衛星“ケプラー”の観測データに基づいたフレアの発生頻度や規模、惑星の大きさや軌道分布の情報と、惑星大気の組成や厚みなどを考慮したモデルなどを元にしています。

その結果分かったのが、地球程度の濃い大気が存在する惑星であれば、地表の放射線の強度は地球型生命に影響を及ぼすほどにはならないこと。

さらに、地球のような磁場があれば、その影響はさらに小さくなるようです。


中心星から近いと地球程度の濃い大気と磁場が必要

一方、同じ計算から分かったのが、中心星から近い惑星は恒星から受ける紫外線が強く、宇宙空間に散逸する大気の量が地球の70倍以上も大きくなることでした。
  中心星から近いものとして、
  太陽系に最も近い4光年彼方の赤色矮星“プロキシマケンタウリ”を巡る系外惑星や、
  太陽系から39光年と比較的近い赤色矮星“トラピスト1”の系外惑星の1つがある。


こうした環境では磁場も弱いと考えられていて、結果的に高エネルギー宇宙放射線が惑星表面に直接到達してしまうことに…
結果、毎年1回発生する規模のフレアでも致命的な影響を受ける可能性があるそうです。

これらの惑星系は太陽系から近いので、最近特に注目されているんですねー
でも、大気を維持するメカニズムなどがない限り、生命が居住可能だと評価することは難しいようです。

今回の研究では、赤色矮星ではない太陽型恒星でも稀に起こる、規模の大きな“スーパーフレア”の影響についても評価を行っています。

これまでに太陽で観測された最大規模のスーパーフレアが起こった場合、大気が極めて薄く磁場を持たない火星の場合は、地球と比べて1000~100万倍もの放射線強度になる可能性も確かめられました。
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研究チームは今後、より多くの系外惑星系にモデルを適用して、どの系外惑星が生命を育む可能性が高いかの評価を継続していきます。

また、太陽系内の惑星にも同じモデルを用いて、月や火星における人間活動へ宇宙放射線が及ぼす影響も調べる予定です。


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なぜ、天王星や海王星には地球の数十倍も強い磁場があるの?

2019年08月01日 | 太陽系・小惑星
水を主成分とする試料をレーザーで圧縮する実験で、水が光を強く反射する金属状態になることが確かめられました。
地球の数十倍も強い磁場がある天王星や海王星。
その磁場の源が“金属の水”に流れる電流であることを示す結果になるそうです。

なぜ水を主成分とする氷惑星に強い磁場が存在するのか?

巨大氷惑星に分類される天王星と海王星は水を主成分とする惑星で、そこに少量の炭素と窒素を含む分子(メタンやアンモニア)が混じっていると考えられています。
“ボイジャー2号”が撮影した天王星(左)と海王星(右)。大きさは地球の約4倍、質量は天王星が約15倍、海王星が約17倍ある。中央に地球があるのは大きさの比較のため。
“ボイジャー2号”が撮影した天王星(左)と海王星(右)。
大きさは地球の約4倍、質量は天王星が約15倍、海王星が約17倍ある。
中央に地球があるのは大きさの比較のため。
1980年代に天王星と海王星に相次いで到達したNASAの“ボイジャー2号”によって明らかになったのが、これらの氷惑星の内部から地球の数十倍の強さの磁場が発生していることでした。

このような強い磁場が作られるのに必要なのは、氷惑星の内部に強い電流が流れ続けること。
でも、水は電気をあまり通さない物質… 惑星内部に強い電流が流れると考えるには無理があります。
なので、氷惑星の磁場の存在は長年の謎でした。

高温高圧の状態を再現すると水が金属状態になった

今回研究を行ったのは、フランスの教育研究機関“エコール・ポリテクニーク”と岡山大学惑星物質研究所の研究グループ。
巨大氷惑星の磁場の起源を明らかにするため、高強度レーザー施設を用いて実験を行っています。
今回の実験に利用された2つの大型レーザー施設。(左)エコール・ポリテクニークの“LULI 2000”と、(右)大阪大学の“激光XII号”。
今回の実験に利用された2つの大型レーザー施設。
(左)エコール・ポリテクニークの“LULI 2000”と、(右)大阪大学の“激光XII号”。
実験で準備したのは、惑星模擬溶液の試料として、純粋な水、炭素成分を少し含む水溶液、炭素と窒素成分を少し含む水溶液の3種類。

これらの試料を容器に封入し、そこに高強度レーザーを照射するというレーザーショック圧縮手法によって、通常では極めて実現しにくい高温高圧の状態を作り出し、約300万気圧という惑星内部の実際の圧力を再現しています。

ただ、この手法によって作り出される巨大な圧力を維持できるのは、1億分の1秒ほどという非常に短い時間。
そこで研究グループでは、一瞬の間に物質の性質を詳しく調べる方法を開発し、水溶液の圧力、密度、温度及び反射率などの性質をまとめて計測しています。

実験の結果、3種類の水溶液はいずれも、光を強く反射する状態へと一瞬のうちに変化することが分かります。
このことが示しているのは、調べている物質が金属状態になったことでした。

また、試料の水溶液が炭素を含む場合、純粋な水と比べて光の反射率が顕著に高くなることも分かりました。
炭素を含む混合液体からの光の反射率のグラフ。赤外線(1064nm)と可視光線(532nm)のいずれでも、純粋な水に比べて顕著に反射率が高い。
炭素を含む混合液体からの光の反射率のグラフ。
赤外線(1064nm)と可視光線(532nm)のいずれでも、
純粋な水に比べて顕著に反射率が高い。
今回の研究成果により分かったことは、天王星や海王星内部にある磁場の源が“金属の水(金属的な流体)”に流れる電流だということ。
そこに含まれるメタンが分解してできた炭素イオンが、水の性質に影響を与えているようですよ。


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