宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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もうひとつのアメリカ有人宇宙船“スターライナー”、有人飛行試験の実施は2021年6月を予定!

2020年09月12日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
アメリカの有人宇宙船というと民間宇宙企業のスペースX社が開発した“クルードラゴン”注目されがちですが、実は開発されている宇宙船はもうひとつあります。

それが、ボーイング社の新型宇宙船“スターライナー”です。
機体はスペースシャトルのような翼は持たず、アポロ宇宙船やスペースX社の“クルードラゴン”と同じカプセル型の宇宙船 。

NASAとボーイングは8月下旬、この“スターライナー”の有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”を2021年6月に実施する予定だと明らかにしました。

“スターライナー”と“クルードラゴン”は、どちらもNASAの「民間企業による有人宇宙船の実用化を支援」計画のもとで開発された有人宇宙船です。

スペースX社は“クルードラゴン”の有人飛行試験“Demo-2”を今年の8月3日に終えていて、早くて今年の10月23日に最初の実運用ミッション“Crew-1”の実施を予定しています。

一方でボーイング社は、2019年12月に“スターライナー”の無人での軌道飛行試験“OFT(Orbital Flight Test)”を実施。
でも、当初予定していた軌道に入ることができず、機体は国際宇宙ステーションへのドッキングを断念して地球に帰還しています。

現在、ボーイング社とNASAでは無人で実施される2回目の軌道飛行試験“OFT-2”に向けた準備が進められています。
2回目の軌道飛行試験“OFT-2”で使われる“スターライナー”のクルーモジュール。(Credit: Boeing)
2回目の軌道飛行試験“OFT-2”で使われる“スターライナー”のクルーモジュール。(Credit: Boeing)
“OTF-2”の実施は“OTF”から1年後になる今年の12月に予定されています。
現在、ボーイング社では“OTF”のトラブルを受けて作成された改善勧告への対処を実施中。
NASAとボーイング社が共同で調査を実施し作成された改善勧告は80項目、このうちおよそ75%がすでに対策を終えています。

“CFT”は、この“OFT-2”の成功を受けて実施される飛行試験で、ボーイング社(元NASA)のクリストファー・ファーガソン宇宙飛行士、NASAのマイケル・フィンク宇宙飛行士及びニコール・マン宇宙飛行士の3名が搭乗する予定です。
有人飛行試験“CFT”で“スターライナー”に登場する3名の宇宙飛行士。左からマン飛行士、フィンク飛行士、ファーガソン飛行士。(Credit: Boeing)
有人飛行試験“CFT”で“スターライナー”に登場する3名の宇宙飛行士。左からマン飛行士、フィンク飛行士、ファーガソン飛行士。(Credit: Boeing)
ファーガソン飛行士は、2011年に実施されたスペースシャトル最後のミッションSTS-135でのコマンダー(船長)。
フィンク飛行士は、ひとつ前のSTS-134でミッションスペシャリストを務めています。
そして、マン飛行士は“CFT”が初の宇宙飛行になります。

来年6月に実施予定の“CFT”が成功すれば、半年後の2021年12月には“スターライナー”による最初の運用ミッション“Starliner-1”が予定されているそうですよ。


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謎多い中間質量ブラックホールの誕生をとらえたのかも!? 総質量が観測史上最大のブラックホール同士の合体を重力波で検出。

2020年09月11日 | ブラックホール
極めて大きなエネルギーを伴う、ブラックホール連星の合体による重力波が検出されました。
合体後の質量は太陽の142倍。これまでに重力波現象が検出されたブラックホールの中では飛び抜けて大きなもの。
この現象は、謎が多い“中間質量ブラックホール”の誕生をとらえたものかもしれません。


ブラックホールの総質量が観測史上最大の合体

2019年5月21日、ブラックホール同士の合体による重力波現象“GW190521”をとらえました。
重力波を検出したのは、アメリカの2台の重力波検出器“Advanced LIGO”と欧州重力波観測所の重力波検出器“Advanced Virgo”。

検出された重力波の持続時間は、過去に観測されたどのブラックホール合体による重力波よりも短い約0.1秒。
ピークの周波数は約60Hzと非常に低いものでした。

これら二つの特徴が示しているのは、“GW190521”で合体したブラックホールの総質量が観測史上最大だということでした。

研究によると、合体前のブラックホール連星は質量がそれぞれ太陽の約85倍と約66倍。
この合体により太陽約8個分の質量が重力波のエネルギーに変換され、太陽質量の約142倍ものブラックホールが形成されたとみられています。

この142倍という値は、これまでに重力波現象が検出されたブラックホールの中では飛び抜けて大きなものです。
それどころか、合体前のブラックホールのうち小さい方の約66倍という数字でさえ、過去に検出された合体後のブラックホールのほとんどを超えていました。
これまでにLIGOとVirgoが観測したブラックホール連星の質量を“GW190521”(一番右)と比較したグラフ。黒い四角が合体前のブラックホールの質量、赤い三角は合体後のブラックホールの質量を示している。縦方向の線は予想される質量の誤差範囲(単位はM⊙は太陽質量)。(Credit: LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration, 2020)
これまでにLIGOとVirgoが観測したブラックホール連星の質量を“GW190521”(一番右)と比較したグラフ。黒い四角が合体前のブラックホールの質量、赤い三角は合体後のブラックホールの質量を示している。縦方向の線は予想される質量の誤差範囲(単位はM⊙は太陽質量)。(Credit: LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration, 2020)


確実な発見例がほとんどない“中間質量ブラックホール”

“GW190521”のブラックホールの異常なまでに大きな質量は、単に観測記録を塗り替えたという以上の意味を持っていました。

多くの銀河の中心部には、太陽質量の数十万倍~数十億倍もの“超大質量ブラックホール”があることが知られています。
太陽系が属している天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*”が存在している。
また、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量意を持つ“恒星質量ブラックホール”も宇宙には多数存在しています。

一方で、存在は予測されているのですが、確実な発見例がほとんど無いブラックホールもあります。
それが、太陽質量の100倍~10万倍という“中間質量ブラックホール”です。

超大質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールが合体してできるとも考えられています。
なので、この2つのブラックホールの中間くらいの質量を持つ“中間質量ブラックホール”もあるはずなんですねー

合体後に形成された太陽質量142倍のブラックホールは、まさにこの“中間質量ブラックホール”に該当する点で貴重な存在と言えます。
太陽質量の約85倍と約66倍の質量を持つブラックホール同士の合体で重力波現象“GW190521”が発生する様子(イメージ図)。合体前のブラックホールも、それぞれさらに小さいブラックホール同心の合体により形成された可能性が考えられている。(Credit: LIGO/Caltech/MIT/R. Hurt (IPAC))
太陽質量の約85倍と約66倍の質量を持つブラックホール同士の合体で重力波現象“GW190521”が発生する様子(イメージ図)。合体前のブラックホールも、それぞれさらに小さいブラックホール同心の合体により形成された可能性が考えられている。(Credit: LIGO/Caltech/MIT/R. Hurt (IPAC))


合体前のブラックホールも合体により形成されていた

さらに、興味深いのは“GW190521”の合体前のブラックホールです。

太陽の65倍の質量を持つブラックホールだと、太陽質量の130倍の恒星が超新星爆発を起こすことで形成されることになります。

でも、これ以上元の恒星の質量が大きくなると、“電子対生成”というプロセスにより崩壊の勢いが強くなりすぎて、電子対生成型超新星(または対不安定型超新星)という爆発が起こり、後に何も残らないことになります。

恒星の質量がさらに大きくなり太陽の200倍を超えると、別の過程により太陽質量の120倍以上のブラックホールを形成するようになります。

なので、これらの中間である太陽質量の65~120倍のブラックホールは、直接超新星爆発で作ることはできないんですねー
合体前のブラックホールの質量が太陽の85倍というのは、まさにこの空白地帯に収まるというわけです。

つまり、“GW190521”で合体する前のブラックホールそれ自体が、より小さなブラックホール同士の合体で誕生した可能性があるということです。

このような多重合体の実現に必要なのは、星が密集した星団や活動銀河の円盤などといった多数のブラックホールが集まるような環境です。

今回の発見は、そうした合体を繰り返すことで“中間質量ブラックホール”が生成されること、さらには“超大質量ブラックホール”にも成長している可能性を示唆するもので、ブラックホールの形成や進化を理解する上で大きな意味を持つことになります。
大質量のブラックホール連星の合体で重力波が発生する様子。(Credit: D. Ferguson, K. Jani, D. Shoemaker, P. Laguna, Georgia Tech, MAYA Collaboration)


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誕生間もない惑星の公転面は傾いていない? すばる望遠鏡が若い系外惑星の公転軸の観測に成功。

2020年09月09日 | 宇宙 space
最近発見された二つの若い惑星系を、すばる望遠鏡の新赤外線分光器“IRD”を用いて観測してみると、惑星の公転軸と恒星の自転軸がほぼ揃っていることが分かりました。
誕生から2000万年ほどの若い惑星系で公転面の情報が得られたのは史上初のこと。
惑星系の進化の解明にとって非常に重要なことになるようです。
太陽以外の恒星を回る若い惑星系のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
太陽以外の恒星を回る若い惑星系のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター)


恒星の表面活動と惑星探査

太陽以外の恒星を回る惑星“系外惑星”の多くは、主に誕生してから10億年以上たった(太陽のような)壮年期の恒星の周囲で行われてきました。

それは、壮年期の恒星は若い恒星と異なり、フレアや黒点などの表面活動が少ないので惑星の探索が行い易いから。
でも、観測手法が向上してくると、誕生後間もない表面活動が活発な若い恒星の周囲でも、惑星の発見は相次ぐことになります。


より若い惑星系の観測が必要

一般に惑星は、時間とともに軌道や大気成分などが変化していくことが知られています。

なので、若い惑星には、系内のどの位置で誕生し、どのような大気を獲得したかなど、惑星の形成にかかわる原始的な情報をまだ保持していると考えられます。

そう、若い惑星は、惑星系の起源を探る上で重要な観測対象になるということです。

特に、重要なのが惑星の公転面の傾き、つまり恒星の自転軸に対する惑星の公転軸の角度です。
それは、この傾きが惑星同士の重力的な相互作用や、恒星との潮汐相互作用によって時間とともに変化することが理論から示唆されているからです。

これまで惑星の公転面の傾きが調査された惑星系は100個以上存在しています。

でも、その大半が10億年以上の年齢… そう、壮年期に入った恒星の惑星系を対象とした観測。
惑星が、どのような軌道で誕生したのかを探るのに必要なのは、より若い惑星系を観測することでした。


公転面が観測された最も若い惑星

今回の研究で着目しているのは、発見されて間もない若い惑星系を持つ二つの恒星“けんびきょう座AU星”と“K2-25”。
“けんびきょう座AU星”は“がか座β星運動星団(年齢約2300万年)”、“K2-25”は“ヒアデス星団(年齢約6億年)”という、どちらも若い星団に属しています。

そして、トランジット法によって確認されたのは、二つの恒星には海王星サイズの惑星が公転していることでした。
トランジット法では、地球から見て惑星が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る。

この二つの若い恒星は、表面温度が低いので可視光線では暗く観測が難しいのですが、赤外線では明るく観測しやすくなります。
さらに、赤外線での観測は若い恒星の表面活動の影響を受けにくくなるというメリットもあります。

そこで観測には、すばる望遠鏡に搭載された新型の赤外線分光器“IRD”が用いられることになります。
赤外線分光器“IRD(InfraRed Doppler:赤外線ドップラー装置)”は、すばる望遠鏡に搭載された太陽系外惑星探査のための観測装置。

惑星が恒星の手前を通過する間に、恒星のスペクトル中を惑星の影がどのように動いていくかを、ドップラー効果を用いて調べるドップラーシャドウという手法があります。
ドップラーシャドウとは、恒星スペクトルの吸収線の中に惑星の“影”を見る手法。吸収線は恒星の自転によるドップラー効果で広がっているが、トランジット中に惑星が恒星面を部分的に隠すことで吸収線にもその影が現れることになる。この影の時間変化を詳しく調べることで、惑星公転面の傾きを調べることができる。

この手法による解析で確認されたのは、どちらの惑星もその公転軸が恒星の自転軸とよく揃っていること。
その結果、年齢が2000万年ほどの“けんびきょう座AU星”の惑星は、公転面が観測された最も若い惑星になっています。
特に、若い恒星の年齢を決めることは難しいが、ここでは恒星が属している星団の年齢を、惑星系の年齢の上限と見なしている。


誕生直後の惑星の公転面は傾いていない?

若い惑星系で惑星の公転面が傾いていないということは、これまでの観測結果を解釈するうえでも重要な意味を持つことになります。

太陽系では、水星だけ他の7つの惑星と比べて公転面に傾きがありますが、ほぼ公転面は傾いていないといっても差し支えないレベルです。
ただ、これまでに惑星の公転面の傾きが測定された惑星系の約3分の1では、惑星の公転面が大きく傾いていました。
惑星系の模式図。(a)は恒星の自転軸(赤の太線)と、惑星の公転軸(緑の線)が揃っている場合。(b)は惑星の公転軸が恒星の自転軸に対して傾いている場合。惑星系の進化論では、惑星同士の重力的な相互作用や恒星との潮汐作用によって、(b)のような公転面の傾いた状態に至ると予想されている。惑星の年齢と公転面の傾きの関係を観測により明らかにすることは、惑星系の進化を探る上で重要な課題になっている。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
惑星系の模式図。(a)は恒星の自転軸(赤の太線)と、惑星の公転軸(緑の線)が揃っている場合。(b)は惑星の公転軸が恒星の自転軸に対して傾いている場合。惑星系の進化論では、惑星同士の重力的な相互作用や恒星との潮汐作用によって、(b)のような公転面の傾いた状態に至ると予想されている。惑星の年齢と公転面の傾きの関係を観測により明らかにすることは、惑星系の進化を探る上で重要な課題になっている。(Credit: アストロバイオロジーセンター)

そのため、研究者の間では、公転面がいつ、どのようにして傾いたのかについて議論が続いています。

それでは、二つの惑星の公転面が傾いていないという今回の観測結果は、何を意味して言うのでしょうか。
それは、惑星は誕生直後から公転面が傾いているのではなく、一部の惑星系で誕生後しばらく経ってから傾いたということです。

でも、若い三連星“オリオン座GW星”の観測結果では、三連星の公転面から大きく傾いた原始惑星系円盤が発見されていて、生まれたときから公転面が傾いている惑星も存在する可能性はありそうです。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

若い惑星系において、惑星の公転面の観測例は少ない状況です。
研究チームは、今後さらに多くの若い惑星系で同様の観測を行い、惑星の公転面が傾いた原因や時期などを明らかにしていくようです。


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若い3連星“オリオン座GW星”を取り巻く原始惑星系円盤。ここにあるリングの傾きは惑星の存在を示している?

2020年09月05日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
アルマ望遠鏡による観測で、若い3連星“オリオン座GW星”の周囲に3連のチリのリングが存在していることが明らかになりました。

最も外側のリングの半径はおよそ340天文単位もあり、原始惑星系円盤の中で発見されたリングとしては観測史上最大のもの。
それぞれのリングには、巨大惑星の種になるのに十分な量のチリが含まれていることも分かりました。

さらに明らかになったのが、中心の3連星の軌道面と3本のリングは同一平面上に無く、特に最も内側のリングが大きく傾いていること。
3連星の重力だけでは傾いたリングを作ることはできないはず… なので、リングの間に惑星などの天体がすでに存在している可能性があるようです。

これまで、3連星の周りで惑星は一つも発見されていませんでした。
“オリオン座GW星”を詳しく調べることで、3連星の周りでの惑星形成について理解が進むのかもしれません。
アルマ望遠鏡が観測した若い星“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤。3本のリング状構造がはっきりと映し出されている。最も内側のリングはほぼ円形に、外側の2本のリングは縦に伸びた楕円に見えている。リングが実際には円形に近いと仮定すると、内側のリングはほぼ正面から、外側の2本のリングはやや斜めの角度から見ていると考えられ、リングの傾きが異なることが分かる。この画像には映っていないが中心に若い3連星がある。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Bi et al., NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
アルマ望遠鏡が観測した若い星“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤。3本のリング状構造がはっきりと映し出されている。最も内側のリングはほぼ円形に、外側の2本のリングは縦に伸びた楕円に見えている。リングが実際には円形に近いと仮定すると、内側のリングはほぼ正面から、外側の2本のリングはやや斜めの角度から見ていると考えられ、リングの傾きが異なることが分かる。この画像には映っていないが中心に若い3連星がある。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Bi et al., NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)


まだ見つかっていない3連星の周囲を回る惑星

天の川銀河にある恒星の約半数は、2個以上の星が互いを回り合う“連星系”として生まれることが知られていて、これまでに見つかっている4000個以上の太陽系外惑星でも、2個以上の太陽を持つものはいくつも存在しています。

でも、3連星の周囲を回る惑星は、まだ発見されていないんですねー
なぜ、3連星の周りでは惑星が見つからないのでしょうか?

3連星以上(多重星系)になると、恒星による重力の影響が複雑になってしまいます。
惑星は、お互いの周りを公転する連星に引き込まれて消滅したり、外にはじき出される可能性も高くなります。
惑星が多重星系の中で生き残るためには、軌道や複雑な環境など、一定の要件を満たす必要があると考えられます。

若い星を取り巻くチリとガスの円盤“原始惑星系円盤”の中で惑星は作られます。
なので、連星系の周りの原始惑星系円盤を調べることで、連星系周囲での惑星の形成について理解することができるはずです。


原始惑星系円盤の中に発見された観測史上最大のリング

地球から約1300光年彼方に位置する“オリオン座GW星”は、1天文単位の間隔で互いを回り合うA星とB星、そこから8天文単位離れた場所を回るC星からなる3連星です。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当し、太陽~海王星間の距離は約30天文単位。

今回の研究では、この“オリオン座GW星”をカナダ・ビクトリア大学と工学院大学のチームが、アルマ望遠鏡を用いて観測。
これまでの観測で知られていた、3つの星を取り巻く大きな原始惑星系円盤の構造を調べるためでした。

観測の結果、“オリオン座GW星”を取り巻く原始惑星系円盤は3本のリングでできていることが分かります。
リングの半径は、内側から46天文単位、188天文単位、338天文単位。
太陽系の惑星で最も外側を公転する海王星の軌道半径が30天文単位なので、これと比べると“オリオン座GW星”の原始惑星系円盤が星からいかに遠い場所にあるかが分かります。

これまで数多くの原始惑星系円盤にリング構造が見つかってきました。
でも、“オリオン座GW星”の最も外側のリングは、これまで発見された中でも最も巨大なリングとなりました。


原始惑星系円盤にあるリングの傾きは惑星の存在を示している

それぞれのリングの電波強度から研究チームが導き出したのは、リングに含まれるチリの質量。
その質量は、内側のリングから順にそれぞれ地球質量の75倍、170倍、245倍と見積もられています。
これは、巨大惑星の種を“オリオン座GW星”の周囲に作るのに十分な量といえます。

3本のリングをさらに詳しく分析してみて分かったのは、中心の3連星の軌道面と比べてリングが3本とも大きく傾いていること。
特に、最も内側のリングは他の2本のリングとは大きく異なった傾きを持っていました。
アルマ望遠鏡で同時に観測した円盤内のガスのデータでも、円盤の内側がねじれていることが確認されています。
今回の研究で明らかになった、“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤の構造。中心に3連星があり、その周りを3本のリング状にチリが分布している。最も内側のリングは他のリングに比べて大きく傾いている。リングの間に分布する低密度のチリは薄い色で示されている。(Credit: Kraus et al., 2020; NRAO/AUI/NSF)
今回の研究で明らかになった、“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤の構造。中心に3連星があり、その周りを3本のリング状にチリが分布している。最も内側のリングは他のリングに比べて大きく傾いている。リングの間に分布する低密度のチリは薄い色で示されている。(Credit: Kraus et al., 2020; NRAO/AUI/NSF)
研究チームは、3連星が原始惑星系円盤にどのような重力的影響を与えるかを調べるためシミュレーションを実施。
その結果、3連星の重力だけでは、内側のリングの大きな傾きを再現することができませんでした。

そこで、考えられるのが原始惑星系円盤内に惑星が存在している可能性です。
惑星によって円盤に隙間が作られ、内側のリングと外側のリングが作られたと考えることができます。

長く議論されてきた「連星の周囲で惑星形成はどのように起こるのか?」っという問題ですが、今回の観測によって、3連星というより複雑な系における惑星形成を、観測に基づいて調べる道筋が見えてきたことになります。

今回の研究とは別に、イギリス・エクセター大学の研究チームも“オリオン座GW星”を調べています。

観測に用いられたのは、アルマ望遠鏡とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLT。
近赤外線の観測では、最も内側のリングの影が外側に伸びていることを初めて見つけています。
これは、内側のリングが大きく傾いていることを裏付ける結果と言えます。
アルマ望遠鏡と超大型望遠鏡VLTで観測した“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤。アルマ望遠鏡が観測したチリの分布を青色、VLTが観測した近赤外線をオレンジ色で示している。中心から左下と上の方向に黒い筋が伸びていて、これが内側のリングの影だと考えられている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), ESO/Exeter/Kraus et al.)
アルマ望遠鏡と超大型望遠鏡VLTで観測した“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤。アルマ望遠鏡が観測したチリの分布を青色、VLTが観測した近赤外線をオレンジ色で示している。中心から左下と上の方向に黒い筋が伸びていて、これが内側のリングの影だと考えられている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), ESO/Exeter/Kraus et al.)
リングの形状に関するシミュレーション研究は、エクセター大学の研究チームも実施しています。
こちらは、大きく傾いたリングが3連星の重力だけでも作られるとしています。

リングの成因について、両研究チームは異なる説を提唱していて、まだ決着はついていません。
いずれにせよ、“オリオン座GW星”は連星の周りの複雑な環境下における惑星形成を理解するための、重要なサンプルと言えます。


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なぜ、ほうおう座銀河団では大量のガスが冷えているのに、ブラックホールのジェットが存在しているのか?

2020年09月04日 | 銀河・銀河団
地球から約59億光年彼方に位置する年老いて冷えてしまった“ほうおう座銀河団”。
この銀河団の中心にある巨大銀河に、若いブラックホールのジェットが発見されました。
ジェットが噴き出すと、そのエネルギーにより銀河団中心部のガスは温められるはず…
でも、“ほうおう座銀河団”の中心部では大量のガスが例外的に冷えていたんですねー
この発見は、銀河団の冷却と過熱についてのこれまでの理解を覆すもの。
さらなる謎をもたらした新たな知見になるようです。
ほうおう座銀河団の中心にある銀河から噴き出すジェットのイメージ図。(Credit: 国立天文台)
ほうおう座銀河団の中心にある銀河から噴き出すジェットのイメージ図。(Credit: 国立天文台)


銀河団の冷却と加熱

銀河団はダークマターの強い重力によって、数十個から数千個の銀河が集まって形作られたと考えられています。

また、ダークマターは銀河団内に銀河だけでなく、1千万度を超えるような高温のガスも大量に閉じ込めていて、強いX線を放射しています。

X線が放射されると、ガスからは次第に熱が失われていきます。
その結果、圧力が低下して均衡を保てなくなると、ガスはダークマターの重力でさらに中心部に落ち込むことに。
中心部にガスが集まるとX線の放射がより強まり、ガスの熱が失われるということが繰り返されていきます。

こうして、冷えたガスが中心の銀河に降り積もると何が起こるのでしょうか?
星は冷えたガスから形成されるので、大量の星の形成“スターバースト”が発生すると考えられています。

ところが、天の川銀河近傍にある銀河団では、大量の冷えたガスと“スターバースト”現象は見つかっていません。

それは、銀河団中心に位置する銀河に超大質量ブラックホールが存在しているから。
ブラックホールからジェットが噴き出してエネルギーを供給し、ガスが冷えないようにしているんですねー


爆発的に星が形成されている巨大銀河

今回の研究で着目しているのは、地球から約59億光年彼方に位置する年老いて冷えてしまった“ほうおう座銀河団”。
理由は、“ほうおう座銀河団”が天の川銀河の近傍銀河団と、状況が大きく異なっていたからです。

その“ほうおう座銀河団”の中心には、通常の1000倍という速さで爆発的に星が形成されている巨大銀河存在しています。

アルマ望遠鏡を用いたこれまでの観測からも、“ほうおう座銀河団”の中心部では、例外的に大量のガスが冷えていることが分かっていました。
この冷えた大量のガスが、巨大銀河に見られる爆発的な星形成の種になっているようです。

一方、その巨大銀河の中心にも超大質量ブラックホールが確認されています。
しかも、毎年太陽60個分の質量を取り込んで急成長しているという超大物なんですねー

では、このブラックホールにジェットは存在していないのでしょうか?

これだけの質量を取り込んでいるので、天の川銀河近傍の銀河団の銀河のようにジェットを噴き出しているはずです。
でも、これまでの観測では解像度や感度が足りず、ジェットの存在は確認されていませんでした。


ガスは冷えているのにジェットが存在している

そこで研究チームが着想を得たのは、水沢VLBI観測所で行っている比較的高い周波数によるジェットの観測。
これまで用いられていたジェット全体像の観測のための周波数よりも、さらに高い周波数の電波を長時間にわたって観測するという手法を用いています。

選ばれたのは、より長い観測時間を得られる南半球の電波干渉計“オーストラリア・コンパクトアレイ(ATCA)”。
その結果、“ほうおう座銀河団”の中心部の高感度・高解像度のデータの取得に成功し、中心部の銀河から噴き出すジェットを確認することができました。
ほうおう座銀河団の中心で観測された電波ジェット。グラフの縦横軸は天体の天球上での座標、色は電波強度を示している。銀河団の中心(C1)から両方向に電波の放射が観測された。(Credit: Akahori et al.)
ほうおう座銀河団の中心で観測された電波ジェット。グラフの縦横軸は天体の天球上での座標、色は電波強度を示している。銀河団の中心(C1)から両方向に電波の放射が観測された。(Credit: Akahori et al.)
観測されたジェットの画像にある“C1”が、今回ターゲットになった銀河団中心部の銀河。
左右とも同じ領域で観測された画像で、電波の強度を色として示しています。

左の画像は“C1”の強度分布が分かるように示されたもの。
右画像は、右上と左下の両方向に伸びたジェットからの電波強度が分かるように、コントラストが調整されています。

さらに、今回の観測により判明したのは、時代が異なると考えられる2組のジェットが噴き出していたこと。
右画像の四角点線で囲まれた“C5”と“C6”のペアが、以前に噴出したもので中心より遠方に位置しています。
最近のものが楕円点線で囲まれた“C3”と“C4”のペア。
より中心部に近い位置にあり、銀河団に比べてとても若く、誕生から数百万年と推定されています。

銀河団の中心部で大量のガスが冷えているにもかかわらず、ジェットの存在が確かめられたということは、これまでの理解とは異なり、ジェットがガスの冷却を止めることができていないことを示しています。

その理由として、今回観測された最近のジェットは噴き出したばかりのため、ガスの過熱が十分に進んでいないことが考えられています。

“ほうおう座銀河団”は英語でいうと“Phoenix galaxy cluster”、つまり不死鳥のことなんですねー
不死鳥の伝説の通り、年老いて冷えてしまった“ほうおう座銀河団”は蘇るのでしょか?

この謎を解くには、銀河団の冷却と過熱を理解する必要があります。

そこで、研究チームが期待しているのは、これから建設が始まる超大型電波望遠鏡“SKA”を用いて、さらに高感度かつ高解像度でこの天体を観測すること。
超大型電波望遠鏡“SKA(Square Kilometre Array)”は、最終的に1平方キロメートルの集光面積を持つ、世界最大の電波望遠鏡を建設する国際的なプロジェクト。ハッブル宇宙望遠鏡をはるかに上回る画像分解能や、膨大な視野を撮像する能力を持つことになる。

より詳しい観測で、天の川銀河近傍の銀河団との違いがなぜ生じているのかを解明できるといいですね。


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