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網の目状に広がる宇宙の大規模構造のガスは、約80億年間で3倍近くも温度が上昇している!?

2020年11月19日 | 宇宙 space
今回、東京大学の国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構が調べたのは、スニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果の影響を解析することで、宇宙の大規模構造の進化に伴うガスの温度変化でした。
すると、同構造中のガスの平均温度は、過去80億年の間に3倍程度上昇し、現在では約200万Kに達していることが分かったそうです。

密度ゆらぎと宇宙の大規模構造

誕生直後の宇宙には、量子力学的なゆらぎと、インフレーションによって生じた小さな密度のゆらぎが存在していたと考えられています。

さらに、この密度のゆらぎは、現在では“宇宙マイクロ波背景放射”にわずかに生じているゆらぎ(温度のゆらぎ)に対応しているようです。

標準的な理論では、この宇宙初期の小さな密度ゆらぎが種になって、周囲のダークマターやガスを引き寄せて銀河や銀河団が生まれ、網の目状に広がる宇宙の大規模構造を形成してきたとされています。

いまでは観測も進み、2019年にノーベル物理学賞を受賞したジェームズ・ピーブル博士らの説は有力なものとされています。

ただ、一方で宇宙の大規模構造の形成にはまだ多くの謎も残されていて、様々な手法を用いて過去から現在まで構造形成の進化の様子が調べられています。

宇宙の大規模構造の進化に伴って変化するガスの温度

今回、オハイオ州立大学の研究チームは、宇宙の大規模構造の進化に伴って、大規模構造中のガスの温度の平均値がどのようにして変化してきたのかを分析。
分析に用いられたのは、赤外線天文衛星“プランク”が取得した“宇宙マイクロ波背景放射”のデータと、“スローン・デジタル・スカイ・サーベイで得られた合計200万点に及ぶ天体の分光観測データでした。
“プランク”は、“宇宙マイクロ波背景放射”の高精度測定を目的としてヨーロッパ宇宙機関が打ち上げた赤外線天文衛星。
“スローン・デジタル・スカイ・サーベイ”は、アメリカ・ニューメキシコ州アパッチポイント天文台のスローン財団望遠鏡を使った3次元宇宙地図作成プロジェクト。

そして、これら二つの観測プロジェクトのデータを組み合わせて、スニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果を用いた解析を行っています。
宇宙の温度(上)と大規模構造(下)の時間進化を計算したコンピュータシミュレーション。時間は左から右へ流れ、一番右の図が現在の宇宙に対応。(Credit: D. Nelson / Illustris Collaboration)
宇宙の温度(上)と大規模構造(下)の時間進化を計算したコンピュータシミュレーション。時間は左から右へ流れ、一番右の図が現在の宇宙に対応。(Credit: D. Nelson / Illustris Collaboration)
スニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果とは、物理学者のラシード・スニヤエフとヤーコフ・セルドヴィッチによって理論的に初めて提唱された現象のこと。

この現象は、宇宙の大規模構造を“宇宙マイクロ波背景放射”の光子が通過する際、同構造内にガス状に存在する高温の電子によって散乱されることで生じます。

この散乱により、“宇宙マイクロ波背景放射”の光子は高温の電子からエネルギーを受け取り、この結果として宇宙の大規模構造を通過しない他の光子に比べて高いエネルギーを持つようになります。

この光子のエネルギー変化を分析することで、大規模構造中の高温電子ガスを可視化することが可能になるんですねー

また、スニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果の強さは高温電子ガスの熱的圧力に比例しています。
なので、スニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果の強さを分析することで、大規模構造中の高温電子ガスの温度を測定することができてしまいます。

解析の結果、これまで約80億年前(赤方偏移z=1)のガス中の電子の平均温度は約70万Kとされていたのが、3倍近い約200万Kにまで上昇していることが確認されます。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。

さらに、理論的なモデルと比較した結果、このガスの温度の進化は、宇宙の大規模構造の形式に伴う衝撃波による加熱で、ほぼ説明されることが示されました。
測定された宇宙の温度の進化を表すグラフ。横軸は、右端が現在で、左に行くほど現在から遡って、どのくらいの過去の宇宙であるかが示されている。データ点は測定値が示されていて、赤色で覆われた領域は物理モデルが示す範囲。青色の四角で囲われた領域は、ガスを加熱する宇宙の大規模構造の重力エネルギーの推定値が示されている。この値は現在測定されている宇宙の温度を説明できるとしている。(Credit: Chiang et al.)
測定された宇宙の温度の進化を表すグラフ。横軸は、右端が現在で、左に行くほど現在から遡って、どのくらいの過去の宇宙であるかが示されている。データ点は測定値が示されていて、赤色で覆われた領域は物理モデルが示す範囲。青色の四角で囲われた領域は、ガスを加熱する宇宙の大規模構造の重力エネルギーの推定値が示されている。この値は現在測定されている宇宙の温度を説明できるとしている。(Credit: Chiang et al.)
今回の研究で分かったのは、スニヤエフ・ゼルドヴィッチ効果が宇宙の大規模構造の形成に伴う、ガス温度の進化を調べる手法として使えること。
観測データの解析から具体的に示すことができました。

そして、この手法が今後の宇宙の大規模構造形成のより詳細な理解を深める助けとなり、精密宇宙論の理論的理解の貢献にもつながる道筋を拓いたことになります。


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野口宇宙飛行士を乗せた民間宇宙船“クルー・ドラゴン” トラブルを解決して国際宇宙ステーンに無事到着!

2020年11月18日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
スペースX社の有人宇宙船“クルー・ドラゴン”が、打ち上げと国際宇宙ステーションへのドッキングに成功しました。
打ち上げ後、トラブルが発生しミッションの継続が危ぶまれた場面もありましたが、問題は解決され日本の宇宙飛行士 野口さんらクルーは無事に国際宇宙ステーションに到着。
野口宇宙飛行士らは、すでに国際宇宙ステーションに滞在していた3人の宇宙飛行士とともに7人体制で、約半年間の長期滞在ミッションに挑むことになります。
“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ。(Credit: SpaceX)
“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ。(Credit: SpaceX)

スペースX社の有人宇宙船“クルー・ドラゴン”

“クルー・ドラゴン”はスペースX社が開発した有人宇宙船で、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送や、地球低軌道へ民間の観光客を運ぶことを目指しています。

NASAが2006年から進めてきた、国際宇宙ステーションへの物資補給と宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画。
スペースX社は、その最初期から計画にかかわり、無人の補給船“ドラゴン”による物資補給のミッションを担い続けてきました。

そして、無人補給線“ドラゴン”のノウハウをもとに開発されたのが有人宇宙船“クルー・ドラゴン”でした。

船内には通常4人(最大7人)が搭乗でき、国際宇宙ステーションへの飛行や単独での飛行、月軌道までの飛行能力を持っています。

船内はタッチパネルなどを多用した先進的なもので、カプセル部分は再使用が可能なためコストの低減が図られるなど、21世紀の宇宙船に相応しい性能を多数兼ね備えています。

無人試験飛行“Demo-1”から有人試験飛行“Demo-2”へ

昨年3月2日、スペースX社のファルコン9ロケットによって、無人試験機“クルー・ドラゴン Demo-1”の打ち上げに成功。
宇宙飛行を経て国際宇宙ステーションへのランデブー、ドッキング技術を実証したのち、3月8日に地球に帰還しています。

スペースX社では、その後もパラシュートの試験や、飛行中のロケットから宇宙船を緊急脱出させる試験などを実施。
そして、“Demo-1”に続き、今年5月31日に行われたのが初の有人試験飛行“Demo-2”でした。

この飛行で搭乗したのは、NASAのダグラス・ハーリー宇宙飛行士とロバート・ベンケン宇宙飛行士。
両宇宙飛行士によって“エンデバー”と名付けられたこの機体は、大きなトラブルも無く打ち上げから約19時間後に国際宇宙ステーションの“ハーモニー”モジュールへのドッキングに成功しています。

その後、“クルー・ドラゴン Demo-2”が国際宇宙ステーションから分離したのは8月2日のことでした。
3日3時頃には軌道離脱噴射を実施し大気圏へ再突入し、パラシュートを開き減速しながら降下。
フロリダ州ペンサコーラ沖のメキシコ湾に無事着水したのは、日本時間の8月3日3時48分でした。

“Demo-2”ミッションの成功は、スペースX社とNASAとの間の契約に基づく宇宙飛行士の商業輸送ミッションを行うために必要な、最後の大きなマイルストーンでした。

初の商業輸送ミッション“Crew-1”

今回の“Crew-1”ミッションは有人飛行として2回目ですが、試験ではなく初の宇宙飛行士の商業輸送ミッション。
地球と国際宇宙ステーション間の宇宙飛行士輸送のほか、国際宇宙ステーションでの係留中には、非常事態に備えた緊急脱出艇としての役割も果たすことになります。

“Crew-1”のミッション期間は約6か月の予定。
船長としてマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、パイロットとしてヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストとして野口聡一宇宙飛行士(JAXA)とジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)の4人が搭乗しています。
“Crew-1”ミッションのクルー。左から、ミッション・スペシャリストのジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)、パイロットのヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、船長のマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストの野口聡一宇宙飛行士(JAXA)。(Credit: SpaceX)
“Crew-1”ミッションのクルー。左から、ミッション・スペシャリストのジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)、パイロットのヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、船長のマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストの野口聡一宇宙飛行士(JAXA)。(Credit: SpaceX)
“クルー・ドラゴン Crew-1”を搭載したファルコン9ロケットは、日本時間の11月16日9時27分にフロリダ州のNASAケネディ宇宙センターの大39A発射施設から離昇。

ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約12分後に“クルー・ドラゴン”を分離。
“クルー・ドラゴン”を計画通りの軌道へ投入しています。

この後、“クルー・ドラゴン”では、いくつかの問題が発生。
通信系のトラブルは地上側が原因とされ、すぐに解決しています。

もう一つは、宇宙飛行士が乗っているクルー・カプセル部分の冷却システムに、圧力スパイク(急激な圧力上昇)が確認されるという問題。
この問題は、その後地上からの指令により機能を回復しています。

さらに問題は発生… 今度は姿勢制御や軌道変更に使うスラスターへ推進剤を送る配管部分でした。
この配管を保温するためのヒーターの4つのうち3つに、問題が発生していたんですねー

ヒーターの抵抗値が制限値を上回ったことで、コンピュータが自動的に機能を停止させていたためでした。

ただ、飛行規則で要求されているのは、4つのヒーターのうち少なくとも2つが正常に作動していること。
そう、このままではミッションは中断される可能性がありました。

その後、地上の運用チームの調査により原因を特定。
ソフトウェアに書き込まれていた制限値の設定が、過度に保守的過ぎたために起きた問題でした。

いったん3つのヒーターの電源を落とし、ソフトウェアを修正して抵抗値の制限を緩和した後、再起動を実施。
すると、4つのヒーターすべてが正常に作動するようになり、ミッション中断の危機を脱しています。

これらの問題が比較的早く解決したこと、“クルー・ドラゴン”が順調に飛行していたこともあり、ミッションに大きな影響はなかったようです。

その後、“クルー・ドラゴン”は国際宇宙ステーションに接近するため、2回に分けてスラスターを噴射。
徐々に接近を開始し、ドッキング直前には国際宇宙ステーションに相対速度を合わせて静止した状態になり、秒速10センチでポート“IDA-2”にドッキング。
接近からドッキングまでは、完全に自動制御で行われていました。
国際宇宙ステーションにドッキングした“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”。(Credit: NASA)
国際宇宙ステーションにドッキングした“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”。(Credit: NASA)
今回の“クルー・ドラゴン(カプセルのシリアル番号207)”に、クルーが名付けた名前は“レジリエンス(Resilience: 回復する力)”。
野口宇宙飛行士によると、「レジリエンスとは、困難な状況から立ち直ること、形が変わってしまったものを元通りにするといった意味。世界中がコロナ禍で困難な中、協力して社会を元に戻そう、元の生活を取り戻そうという願いを込めた。」そうです。

“クルー・ドラゴン”のカプセルは再使用されるので、今後もこのカプセルが飛行する際には“レジリエンス”と呼ばれ続けることになります。

今回、国際宇宙ステーションに到着した宇宙飛行士4人は、10月から滞在中の3人の宇宙飛行士とともに、第64次長期滞在クルーとして滞在。
各種宇宙実験や国際宇宙ステーションのメンテナンス作業などを行い、約6か月後には同じ“クルー・ドラゴン”で地球に帰還する計画になっています。

そして、来春以降に控えているのが2回目の運用ミッション“Crew-2”です。

“Crew-2”に選ばれているのは、船長にシェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA)、パイロットにメーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、そしてミッション・スペシャリストに星出彰彦宇宙飛行士(JAXA)とトマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)の4人。

この“Crew-2”では、“Demo-2”で使用されたカプセルが再使用され、打ち上げに使用するファルコン9ロケットの1段目も再使用機体が用いられる予定です。

現在、ボーイング社とNASAでは、もう一つの有人宇宙船“スターライナー”の開発が進められています。
12月には無人で実施される2回目の軌道飛行試験“OFT-2”、そして2021年6月には有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”を実施する予定です。

2年後には、地球と国際宇宙ステーションの間を往復する定期便として、“クルー・ドラゴン”と“スターライナー”の運用が始まっているかもしれませんよ。


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アンテナの改修で7か月ぶり… NASAが久しぶりに“ボイジャー2号”へコマンドを送信

2020年11月16日 | 宇宙 space
太陽圏を脱出して恒星間空間を航行しているNASAの惑星探査機“ボイジャー2号”。
実は、今年の3月中旬から“ボイジャー2号”へのコマンド送信は休止しているんですねー

それは、“ボイジャー2号”との通信に用いられる通信網“ディープ・スペース・ネットワーク(DSN)”のアンテナが改修作業を受けていたからでした。

“ディープ・スペース・ネットワーク(DSN)”はNASAジェット推進研究所が運用する通信網で、“ボイジャー1号”や“ボイジャー2号”との通信に用いられています。
改修作業を受けていたのは、この“ディープ・スペース・ネットワーク”を構成する通信アンテナの一つ“DSS 43(Deep Space Station 43)”でした。

“DSS 43”が建設されたのは、オーストラリアの“キャンベラ深宇宙通信施設”。
1972年12月に打ち上げられた“アポロ17号”の頃から使用されてきた、直径が70メートルもあるアンテナです。

ジェット推進研究所の発表によると、10月に“ボイジャー2号”へのコマンド送信に成功し、運用の再開は来年初めになるそうです。
改修作業を受けている“ディープ・スペース・ネットワーク”の通信アンテナ“DSS 43”。(Credit: CSIRO)
改修作業を受けている“ディープ・スペース・ネットワーク”の通信アンテナ“DSS 43”。(Credit: CSIRO)

人類史上2番目に太陽圏を出た人工物“ボイジャー2号”

1977年に打ち上げられた“ボイジャー2号”は、16日後に地球を出発した“ボイジャー1号”と同じく、その設計寿命5年のうちに木星と土星への接近探査を行っています。

その後の遠隔アップデートにより“ボイジャー2号”はさらに高性能化され、天王星や海王星への接近通過も実施。
4つの惑星探査“グランドツアー”を終えた“ボイジャー2号”は、寿命をはるかに超えて43年間も飛行し続けているんですねー

NASA史上最長の稼働期間記録を持つ探査機になった“ボイジャー2号”が飛行しているのは、地球から180億キロ以上も離れた場所。
“ボイジャー2号”が送信したデータが地球に届くまでには約16.5時間もかかるそうです。
“ボイジャー2号機”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“ボイジャー2号機”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)

180億キロも離れた“ボイジャー2号”と通信するアンテナ

“ディープ・スペース・ネットワーク”のアンテナが建設されたのは南半球のオーストラリアだけでありません。
北半球のアメリカ(ゴールドストーン)やスペイン(マドリード)にも建設されていて、“ボイジャー1号”とは北半球のアンテナを使って通信することができます。

一方、地球から見た位置関係の都合上、南半球のアンテナを使わないと“ボイジャー2号”と通信することができないんですねー

キャンベラにある通信アンテナの中で、地球から180億キロ以上も離れた“ボイジャー2号”にコマンドを送信できるのは、強力な送信機を備えていてサイズも大きな“DSS 43”だけでした。

ただ、“DSS 43”は3月から改修作業が始まってしまったので、“ボイジャー2号”へコマンドを送ることができなくなっていました。

ジェット推進研究所によると、今回“DSS 43”から“ボイジャー2号”へマンドが送信されたのは10月29日のこと。
“ボイジャー2号”からはコマンドを受信したことを示す信号が返ってきていて、コマンドも問題なく実行されたそうです。

“ボイジャー2号”との通信に成功した“DSS 43”の運用再開は2021年2月に予定されています。

なお、太陽圏を離脱した“ボイジャー2号”から送信されている星間空間の観測データは、キャンベラにある直径34メートルの通信アンテナ3基を同時に使用することで、“DSS 43”の改修作業中も受信し続けているそうです。


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彗星の氷はカプチーノの泡より柔らかい? 探査機“フィラエ”が彗星着陸に失敗して分かったこと

2020年11月14日 | 彗星探査 ロゼッタ/フィラエ
2014年にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸を行ったヨーロッパ宇宙機関の探査機“フィラエ”。
着陸時に機体の固定に失敗し、“フィラエ”は彗星表面で2回バウンドし飛ばされてしまうんですねー
今回発表されたのは、2回目にバウンドした場所を特定したこと。
その際に取得されたデータから、彗星の氷の内部がカプチーノの泡より柔らかいことが判明したそうです。

史上初めて彗星の周回軌道にのった探査機“ロゼッタ”

2004年3月2日、2つの探査機が彗星に向けてギアナ宇宙センターから旅立ちました。

名前は“ロゼッタ”と“フィラエ”、ヨーロッパ宇宙機関の彗星探査機(母船)と着陸機でした。
古代エジプト文字ヒエログリフの謎を解読する手掛かり、石板“ロゼッタストーン”にちなんで名付けられている。

“ロゼッタ”と“フィラエ”は10年を超える64億キロの航海を経て、2014年8月6日に目的地のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到達。
“ロゼッタ”は史上初めて彗星の周回軌道にのり、観測を始めることになります。

“ロゼッタ”の目的は、太陽系初期に生まれたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を探査することで、太古の氷とチリの塊である彗星の謎を解明することでした。

史上初めて彗星に着地した探査機“フィラエ”

そして2014年11月のこと。
“フィラエ”は母船の“ロゼッタ”から分離され、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星へ降下していきます。
人類は初めて彗星に探査機を着地させることに成功するんですねー

ただ、機体の固定に失敗した“フィラエ”は、バウンドして飛ばされることに…
“フィラエ”は着地点の正確な位置が分からず、行方不明になってしまいます。

どうやら“フィラエ”は、日が当らない岩陰に傾いて着地したようで、太陽光による発電が出来ない状態になっていました。
当初、“フィラエ”が目指していたのは、“アギルキアと名付けられた場所への着陸だった。

調査は、あらかじめ充電されていたバッテリーを使うことで開始し、当初予定されていた観測をほぼ完了。
ただ、着陸から約57時間後にバッテリー切れで“フィラエ”は活動を停止し、冬眠モードに入ってしまいます。
彗星着陸機“フィラエ”のイメージ図。2014年にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着地したが、その時どのような道程をたどったのかはこれまで謎だった。(Credit: ESA/ATG medialab)
彗星着陸機“フィラエ”のイメージ図。2014年にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着地したが、その時どのような道程をたどったのかはこれまで謎だった。(Credit: ESA/ATG medialab)

“ロゼッタ”が行方不明の“フィラエ”を発見

ところが、7か月後の6月13日のこと、“フィラエ”は再起動に成功。
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を周回している“ロゼッタ”を経由して、不安定ながらも通信が行えたんですねー

再起動が行えた理由は、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の太陽に近づく軌道にあったようです。
徐々に太陽に近づくにつれ、“フィラエ”に当たる太陽光の量も増えていきます。
太陽電池パネルによってバッテリーが再充電され、再起動が行えたようです。

でも、6月24日を最後に、また通信が途絶えることになります。
その後、散発的ながら信号が地表に届くことはあったものの、探査活動を再開するまでには至らず…
“フィラエ”は2016年7月28日には運用を断念されてしまいます。

着地以降、通信こそ“ロゼッタ”を経由し地球に届いたものの、当初予定していた地点から外れた場所に着地してしまった“フィラエ”の正確な着地点や、着地後の姿は不明のままでした。

ところが、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を周回していた“ロゼッタ”が9月2日に撮影した画像に、“フィラエ”が写っていたんですねー
彗星表面約2.7キロの高度から、“ロゼッタ”に搭載された“オシリス狭角カメラ”がとらえていたのは、3本脚のうちの2本を伸ばした“フィラエ”の機体でした。
彗星表面で2回バウンドした“フィラエ”は、最終的に“アビドス”と名付けられた場所に着地していた。

一方、およそ2年間にわたってチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を観測し、数多くのデータを地球に送り続けてくれた“ロゼッタ”は、9月に彗星への制御衝突を行いミッションを終了。
電力不足により搭載された科学実験機器を、効果的に機能させることが難しくなることが理由でした。

太陽に最接近した後の“チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星”は、再び6年半もの旅を始めることになります。
太陽から離れてしまうので、“ロゼッタ”は十分な電力を太陽光発電からは得られなくなるんですねー

“フィラエ”が2回目にバウンドした場所を発見

今回研究チームが特定に成功したのは、“フィラエ”が2回目にバウンドした場所でした。

“フィラエ”に搭載されたセンサーが示していたのは、2回目にバウンドした際に地面を掘っていたこと。
つまり、そこには彗星表面に隠されていた、太陽系ができたころの氷が露出している可能性が高く、その場所を見つけることは彗星の謎解明に重要になります。

この発見で重要になったのは、“ロゼッタ”の高分解能カメラの情報のほか、“フィラエ”に搭載された磁力計ブームの情報でした。

このブームは“フィラエ”本体から48センチほど突き出していて、その磁気データからブームが氷の中に突き刺さった際の時刻を推定することができたそうです。

また、着地時の“フィラエ”の加速度を推定することにも役立つほか、“ロゼッタ”の磁力計が同時に収集したデータと照らし合わせることで、“フィラエ”の姿勢を決定することもできました。

その結果、判明したのは“フィラエ”が2回目のタッチダウン地点で2分間近くも過ごしたこと。
その後、転がるように動き、少なくとも4回、機体の各所が彗星に接地していたようです。

“ロゼッタ”が撮影した画像からは、“フィラエ”の上面が氷の中に約25センチ沈んだ時にできた痕跡が、はっきりと確認できました。

さらに、“フィラエ”の磁力計ブームのデータから分かったのは、“フィラエ”がこの窪みを作るのに3秒かかったこと。
この“フィラエ”によって作られた窪みの形が、上から見たときに頭蓋骨を連想させたことから、この地域は“頭蓋骨上の尾根(skull top ridge)”と名付けられています。
“フィラエ”が2回目のバウンド時にどのような動きをしたのかを示した図。(Credit: ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA; Data: ESA/Rosetta/Philae/ROMAP; Analysis: O’Rourke et al (2020))
“フィラエ”が2回目のバウンド時にどのような動きをしたのかを示した図。(Credit: ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA; Data: ESA/Rosetta/Philae/ROMAP; Analysis: O’Rourke et al (2020))

彗星の氷の内部はカプチーノの泡より柔らかい

“フィラエ”が転がることで、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の氷を覆っていた炭素質のチリが削られました。

これにより露出したのは、彗星表面に隠されていた氷です。

この氷は、これまで太陽の放射線から守られていた、つまり宇宙風化を受けていない、彗星が形成された当時の氷と言えます。
“フィラエ”のバウンド前と後に“ロゼッタ”から撮影した画像を分析したところ、暗闇の中で輝く光点として現れていることも確認されています。
“フィラエ”が2回目のバウンド時、地面に降り積もったチリが飛ばされ、彗星が形成された当時の氷が露出。この露出部を“ロゼッタ”による観測では光点としてとらえている。(Credit: ESA/Rosetta/Philae/ROLIS/DLR; all other images: ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA; Analysis: O’Rourke et al (2020))
“フィラエ”が2回目のバウンド時、地面に降り積もったチリが飛ばされ、彗星が形成された当時の氷が露出。この露出部を“ロゼッタ”による観測では光点としてとらえている。(Credit: ESA/Rosetta/Philae/ROLIS/DLR; all other images: ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA; Analysis: O’Rourke et al (2020))
さらに、“フィラエ”のデータから、彗星の氷の内部の柔らかさについても測定することに成功しています。

岩塊(ボルダー)の中の氷の粒の間に、どれだけの空隙があるかという空隙率の推定は約75%。
この値は、以前に別の研究で推定された彗星全体の空隙率とも一致したそうです。

また、この値は地表から地下約1メートルまでだと、どこでも均質であることが示されています。
“頭蓋骨上の尾根”の岩塊では、約45億年前に形成された彗星の地表から約1メートル内部までの、平均的な状態を表しているようです。

“フィラエ”が転がり押し付けるという単純な行為によって分かったのは、何十億年も前からある古代の氷の混合物が非常に柔らかいこと。
カプチーノの泡や泡風呂の泡、海岸の波の上にある泡よりもフワフワしているようです。

このことは、“フィラエ”の着陸失敗を埋め合わせる以上のこと、彗星の性質について重要なことを教えてくれたといえます。

特に、彗星表面の強度を理解することは、将来の着陸ミッションにとって非常に重要なことになります。
将来の彗星探査機に必要になる、着陸装置の設計やサンプル回収機構の仕組みなどに、きっと活かされるはずです。


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将来の月面基地で資源として使えるかも… NASAが太陽に照らされた月の表面に水分子を発見!

2020年11月12日 | 月の探査
2022年11月15日更新

太陽に照らされた月の表面に水分子(H2O)を発見したことをNASAが発表しました。
これまで、月の表面に水素は見つかっていました。
でも、それが水分子なのか、それとも鉱物と結びついた形で存在する水酸基(OH)なのかは分からず…
分かっていたのは、月の極域にある永久影の中に水分子が存在する可能性があることでした。
今回の発見と合わせると、水分子が月の表面全体に分布している可能性が出てきたことになります。

月の極域には水の氷が存在している

月の水をめぐる研究には長~い歴史があります。
ただ、アポロ計画が行われた時代には、月は完全に乾燥した世界だと考えられていたんですねー

それは、月では太陽の光が当たる部分の温度が約120度にもなるからです。
水は蒸発するうえ、月には大気がほとんど無いので、その蒸発した水を保護することができず、すぐに宇宙空間へ拡散してしまいます。

でも、その後の探査により、月の極にある“永久影”の中に水が氷の状態で存在する可能性が浮上。
月は自転軸の傾きがとても小さいので、月の極域にあるクレーターの内部には、太陽の光が決して届くことのない領域が生じています。
これを永久影といい、温度は最高でもマイナス157度ほどにしかなりません。

なので、そこに彗星が落下するなどして水がもたらされれば、氷の状態で保存される可能性があります。

ただ、まだ確定には至っておらず、水分子なのか、あるいは水酸基なのかははっきりしていません。

仮に水が存在するとしても、その埋蔵量については計算によってまちまち… 本当のところよく分かっていないのが現状です。

空飛ぶ天文台で月を観測する

一方、月の表面の日当たりのいい場所では、これまでに水素が存在することが分かっていました。
でも、それが水分子の形で存在するのか、水酸基として存在するのかを明確に区別することができてません。

そこで研究チームは、NASAとドイツ航空宇宙センター“DLR”が運用する成層圏赤外線天文台“SOFIA”を使って観測を実施。
“SOFIA”は、ボーイング747型機に口径2.5メートルの赤外線望遠鏡を搭載し、高度約14キロの成層圏を飛びながら観測する「空飛ぶ天文台」として知られている。
【追記1】
2022年9月28日に“SOFIA”の最後の調査飛行が実施されました。
元ユナイテッド航空機の“SOFIA”の機齢は45年にものぼっていました。
ベースになっている747SPは、“ジャンボジェット”ことボーイング747シリーズの中で唯一となる胴体短縮型。
通常のタイプより約15メートル縮められた胴体は、航続距離の延長が目的でした。
この世代の旅客機としては、屈指のロングフライトが可能な機体だったようです。
“ジャンボジェット”シリーズで最もメジャーな747-400が製造されたのは、貨物型などを含めて700機ほど。
対して747SPの製造機数は45機、シリーズの中でも少数派のタイプで、NASAでも「稼働している数少ない一機」としていました。
NASAでは同機の退役理由を「運用コストと生産性が見合わなくなったため」としています。
“SOFIA”の退役により、激レア機747SPがまた1機姿を消すことになりました。
【追記2】
2022年9月に運用を終了した“SOFIA(機体記号:N747NA)”ですが、アメリカ・アリゾナ州ツーソンにあるピマ航空宇宙博物館で保存・展示することになりました。
ピマ航空宇宙博物館は、6つの格納庫、80エイカーの屋外展示場に、世界中から集められた425機以上の航空機が展示される、世界最大級の航空宇宙博物館です。
“SOFIA”は、現在保管されているカリフォルニア州パームデールのNASAアームストロング飛行研究センターから、ピマ航空宇宙博物館のあるアリゾナ州ツーソンへ、2022年12月13日に最終フライトを行います。
“SOFIA”の展示については、公開時期など改めて発表されるそうですよ。
NASAとドイツ航空宇宙センターが運用する成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA)
NASAとドイツ航空宇宙センターが運用する成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA)
物質は、その組成や構造によって、特定の波長の光を吸収したり放射したりする性質があります。
なので、その光を観測することで天体の組成を調べることができます。

特に赤外線の波長域を使えば、水をはじめ、可視光の波長域では見られない様々な物質を調べることができます。

でも地上だと、地球の大気に含まれる水蒸気や二酸化炭素の吸収や放射の影響を受けてしまいます。
なので、地上の天文台からは赤外線領域を精度良く観測することが原理的にできないんですねー

一方、衛星や探査機などに搭載して宇宙に望遠鏡を持って行くには、大きさや質量などに大きな制約があり、性能が限られてしまいます。

そこで、大気の薄い成層圏から、衛星に搭載が難しい大きな望遠鏡で観測できる“SOFIA”の登場になったわけです。

どのようにして水が作られ維持されているのか

本来、ブラックホールや星団、銀河などの観測に使われている“SOFIA”。
月の観測は2018年の試験観測が初めてのことでした。
水分子が見つかった月のクラヴィウス・クレーターの位置と、それを発見した成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA)
水分子が見つかった月のクラヴィウス・クレーターの位置と、それを発見した成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA)
観測が行われた場所は、月の南半球にあるクラヴィウス・クレーター。
すると、6.1μmの水分子に特有の波長を検出したんですねー

観測の結果、1m3の土の中に、100~412ppmの水分子が閉じ込められていることが分かりました。

では、水はどのようにして作られるのでしょうか?
空気のない過酷な月面で、どのようにして水が存在できるのでしょうか?
この発見は、新たな謎を投げかけることなりました。

厚い大気が無ければ、太陽の光を浴びた月面の水は宇宙空間に失われてしまうはず…
何かが水を発生させ、そして何かが水を閉じ込めているはずです。

水を発生させるシナリオとして、研究チームでは以下の可能性を挙げています。
水は月面に降り注ぐマイクロメテオライト(流星チリ)によって、少しずつ運ばれ堆積している。
太陽風が月面に水素を届け、月の土壌にある酸素を含む鉱物と化学反応を起こして水酸基を作り、さらにマイクロメテオライトの衝突による放射線が、その水酸基を水に変えている。

また、その水が月に貯蔵されているメカニズムとして挙げているのは以下の可能性です。
マイクロメテオライトの衝突で生じた熱によって、土壌中のガラスに閉じ込められた。
月の土の結晶の間に入り込み、そこに日差しが当たらなければ存在し続けることができる。

研究チームでは、今後も“SOFIA”使った観測を続けることを考えています。
太陽の光が当たる別の場所や、月の満ち欠けの間に水がどう動くのかをさらに観測することで、水がどのようにして生成され、貯蔵されるのかという謎を解き明かすそうです。
NASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したクラヴィウス・クレーター。(Credit: NASA, Moon Trek, USGS, and LRO)
NASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したクラヴィウス・クレーター。(Credit: NASA, Moon Trek, USGS, and LRO)

月の水は資源として利用できるのか

一方、月の水をめぐる問題は、科学的な点だけではありません。
有人月面基地の資源として利用できるかどうか、という点でも重要になっています。

水は人間が生きていく上で必要不可欠なものです。
さらに、電気分解して水素と酸素にすることで、酸素を生命維持に使ったり、水素と酸素をロケットの推進剤にすることもできます。

現在、運用中の国際宇宙ステーションでは、水は定期的に地球から持ち込むことでまかなっています。

では、月にも同じように水を輸送できるのでしょうか?

輸送には巨大なロケットが必要な上に、何度も運ぶ必要があり、莫大なコストがかかることになります。
なので、月で水が現地調達できるかどうかは、これからの有人月探査や、月面都市などが実現するかどうかのカギを握っているといえます。

もし、月の水を資源として利用することができれば、地球から運ぶ水の量を少なくできる上に、より多くの科学機器などを運ぶことができ、新たな科学的発見を可能にすることができます。

現在、NASAが進めている有人月探査計画“アルテミス”で予定されているのは、水が存在する可能性がある月の南極を探査すること。
もし、月の表面にも水が存在するなら、探査や月面基地の建設候補地が大きく増えることになります。

ただ、今回“SOFIA”がクラヴィウス・クレーターで見つけた1m3あたり100~412ppmという水の量は、地球のサハラ砂漠に含まれる量の100分の1ほど…
サッカーのピッチほどの広さに、300mlの飲料缶の中身があるようなものです。

また、研究チームが挙げているように、水がガラスや結晶の間に存在するのであれば、取り出して利用するのはやや難しくなります。

一方、近年では水を完全にリサイクルする技術も確立されつつあります。
なので、最初にある程度まとまった量を取り出すことができるなら、利用価値が生まれる見込みはあります。
NASAが国際協力で実現を目指している有人月探査計画“アルテミス”のイメージ図。現時点では、すでに水があるとされる月の南極を拠点に探査を行うことが検討されている。(Credit: NASA)
NASAが国際協力で実現を目指している有人月探査計画“アルテミス”のイメージ図。現時点では、すでに水があるとされる月の南極を拠点に探査を行うことが検討されている。(Credit: NASA)

氷を安定した状態に保つ“コールド・トラップ”というクレーター

今回の研究とは別に、理論モデルとNASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”のデータを用いた論文があります。

この論文で指摘しているのは、月の全域に現在予測されているよりも多くの“コールド・トラップ”と呼ばれるクレーターが存在する可能性です。
気温が常に氷点下になっている小さな影が“コールド・トラップ”。“コールド・トラップ”では、クレーター内に堆積した氷が上空の大気を冷却して冷たい空気の層を形成。この冷たい大気の層が遮蔽物のようになることで、クレーター内の氷を安定した状態に保っていると考えられている。太陽系初期の歴史が、このクレーター内に化石のように残されている可能性がある。
まだ“コールド・トラップ”の内部で水を直接検出したわけではありません。

なので、今後必要になるのは、クラヴィウス・クレーターや小さな“コールド・トラップ”などに探査機を送り、水の有無や埋蔵量についてより詳細かつ直接的に調べること。
また、その水や氷にアクセスできるか、取り出せるかといったことも調べる必要があります。

これらの結果が良好なものでない限り、資源としてあてにすることはできません。

すでにNASAでは、水を探すことを目的とした超小型探査機“ルナー・フラッシュライト”を2021年に、また同じく水を探す無人探査車“ヴァイパー”を2022年に打ち上げることを計画しています。

これらの探査により、月の水についてより多くのことが分かるのかもしれません。
そして、より多くの利用しやすい水の存在が明らかになるといいですね。


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