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レアアースの起源になると有力視されている中性子星の合体現象、実際にはどんな元素が作られているのか

2022年11月14日 | 宇宙 space
宇宙における金やプラチナ、レアアースなどの起源は天文学・宇宙物理学の長年の未解決問題になっています。
レアアースとは、ランタノイド元素(原子番号57~71番)とスカンジウム(Sc、原子番号21番)、イットリウム(Y、原子番号39番)の17元素の総称。希土類元素とも言う。工業的に重要で、例えばランタンやセリウムは光学レンズ、ガラス研磨剤、蛍光体などに用いられている。
このレアアースの起源になる天体として有力視されているものに中性子星の合体現象があります。
でも、そのような現象で実際にどのような元素が合成されるのでしょうか?
このことは、まだ明らかになっていないんですねー
中性子星は、質量の大きい恒星が進化した後に残る天体の一種。半径10キロメートル程度の大きさに地球の約50万倍の質量が詰まっていて、非常に密度が高い天体。
今回の研究では、中性子星合体からの光のスペクトルを解読するため、全ての重元素の性質を網羅するように調べ、国立天文台のスーパーコンピュータ“アテルイⅡ”を用いて詳細な数値シミュレーションを実施。
すると、ランタンとセリウムという一部のレアアースが、中性子星の合体で実際に観測された赤外線スペクトルの特徴を説明できることが分かってきました。
スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。元素が特定の波長の光を吸収すると、その波長での光の強度が弱まり、吸収線として観測される。
このことは、個々のレアアースが中性子星の合体で作られた初めての直接的な証拠。
宇宙における元素の起源の理解を大きく進めることになりそうです。
中性子星の合体と“キロノバ”のイメージ図。(Credit: 東北大学)
中性子星の合体と“キロノバ”のイメージ図。(Credit: 東北大学)

鉄よりも重い元素はどうやって作られる?

地球や生物を構成するすべての元素は、宇宙のどこかで作られたものです。

例えば、炭素や酸素などの元素は恒星の中心部で核融合反応によって合成されたことが分かっています。
でも、鉄より重い元素は恒星の中心部では生成されないんですねー

それは、鉄の核融合反応ではエネルギーが放出されず、鉄を生成するようになった恒星は自重を支えきれずに超新星爆発を起こしてしまうからです。

このため、鉄よりも重い元素は赤色巨星におけるs過程、超新星爆発、中性子星同心の合体といった様々なルートで合成されたと推定されています。
ただ、どの反応がどれくらいの割合で元素を生み出しているのかは、まだよく分かっていません。

重元素を作る中性子星の合体

宇宙には中性子ばかりでできた“中性子星”という天体が存在していて、二つの中性子星が対になっていると、重力波を放って合体することが知られています。
一般相対性理論によると、中性子星のような高密度な天体の周りでは時空(時間と空間)が歪んでいる。このような高密度な天体が運動することで、歪みが波として宇宙空間に伝播する。これを重力波という。
このような中性子星同士が衝突して合体すると、瞬間的に発生する高温高圧によって核反応が進行し、重い元素が生成されると考えられています。
この時、中性子星の一部が宇宙空間に吹き飛ばされ、可視光から赤外線にかけて輝く現象“キロノバ”が見られると考えられていました。

2017年8月には連星中性子星合体からの重力波“GW170817”に伴って“キロノバ”が観測され、中性子星合体で確かに重元素が合成されていることを確認。
でも、中性子星で合成された元素の種類や量は明らかになっていませんでした。
キロノバは、中性子星の連星または中性子星とブラックホールの連星が融合することによって発生すると考えられている爆発現象。白色矮星への質量降着による爆発で生じる新星(ノバ)の約1000倍の明るさに達することからキロノバと呼ばれる。超新星(スーパーノバ)と比べると10分の1から100分の1程度の明るさになる。中性子を多く持つ鉄より重い元素のほぼ半分を合成すると考えられている。

光のスペクトルを用いて重元素の種類を調べる

一般に、宇宙にある天体に含まれる元素の種類を調べるには、光のスペクトルを用います。

個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、スペクトルに見られる吸収線を調べることで、元素の種類を直接特定することができるんですねー

ただ、中性子星同士の合体では物質が光速の数パーセント以上という速度で宇宙空間へと放出されていくので、光のドップラー効果で波長がズレてしまい、元素の特定は非常に困難になります。
光を放つ天体が高速で遠ざかっていくと、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移と言う。また、近づいてくる天体からの光のスペクトルが、波長の短い方(色で言えば青い色)にズレる現象を青方偏移という。天体の運動速度が速いほど観測波長の変化(ズレ)が大きくなる。このことを光のドップラー効果と言う。
温度が5700℃、速度が光速の16%と仮定したとき、観測できる可能性のある計算上のスペクトルデータ(青線)。データには吸収されたことを示す凹みがいくつかの部分にあり、矢印はカルシウム(青)、ストロンチウム(赤)、ランタン(ピンク)、セリウム(黄)を示している。(Credit: Domoto, et.al.)
温度が5700℃、速度が光速の16%と仮定したとき、観測できる可能性のある計算上のスペクトルデータ(青線)。データには吸収されたことを示す凹みがいくつかの部分にあり、矢印はカルシウム(青)、ストロンチウム(赤)、ランタン(ピンク)、セリウム(黄)を示している。(Credit: Domoto, et.al.)
また、重い元素はこの宇宙に少ないので、重い元素のスペクトルがどのような性質を持っているのかも正確には明らかになっていません。
このため、光のドップラー効果によって生じたスペクトルデータのズレを補正しようにも、どのように解釈すればよいのか分からないケースも多数あります。

そのうえ、重い元素は絶対量が少なくても、その種類はきわめて多様であると予測されています。
元素それぞれのスペクトルデータは重なってしまうため、どの値がどの元素を示すのかが分からなくなってしまうことも…
このことも解析を難しくさせている理由になっています。

中性子星合体“GW170817”に伴って観測された“キロノバ”では詳細なスペクトルが得られていて、可視光域では、これまでにストロンチウム(Sr、原子番号38番)の兆候が報告されています。
でも、赤外線領域には解読できない吸収線の特徴が残されていました。

そこで、東北大学や核融合科学研究所、東京大学、マックスプランク研究所の研究者からなるグループが行ったのは、“キロノバ”のスペクトルを解読するため、すべての重元素がどの波長にどのような吸収線を作るかを網羅するような調査でした。

そして、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”を用いて詳細な数値シミュレーションを行い“キロノバ”のスペクトルを計算。
その結果、ランタン(La、原子番号57番)とセリウム(Ce、原子番号58番)という一部のレアアースが“キロノバ”の赤外線スペクトルに吸収線を作ること。
さらに、中性子星合体“GW170817”のスペクトルに見えていた吸収線の特徴がそれらのレアアースによって見事に説明できることが分かりました。

これにより、実際に中性子星合体でランタンとセリウムというレアアースが合成されたことが初めて直接特定されたことになりました。
連星中性子星合体からの重力波“GW170817”で観測された“キロノバ”のスペクトル(灰色)と本研究で得られたスペクトル(青色)。左の数字は中性子星合体発生後の日数を表す。破線で吸収線の特徴を、同じ色でそれらの特徴を作る元素名を示している。スペクトルは見やすいように縦軸方向にズラしてある。観測スペクトルの1400ナノメートル付近、1800~1900ナノメートル付近は地球大気の影響を受けている。(Credit: Domoto et al.)
連星中性子星合体からの重力波“GW170817”で観測された“キロノバ”のスペクトル(灰色)と本研究で得られたスペクトル(青色)。左の数字は中性子星合体発生後の日数を表す。破線で吸収線の特徴を、同じ色でそれらの特徴を作る元素名を示している。スペクトルは見やすいように縦軸方向にズラしてある。観測スペクトルの1400ナノメートル付近、1800~1900ナノメートル付近は地球大気の影響を受けている。(Credit: Domoto et al.)

国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ

本研究の数値シミュレーションには、国立天文台のスーパーコンピュータ“アテルイⅡ”が使用されました。

理論演算値は3.087ペタフトップスで、天文学の数値計算専用機としては世界最速です。
1ペタは10の15乗、フロップスはコンピュータが1秒間に処理可能な演算回数を示す単位。
岩手県奥州にある国立天文台水沢キャンパスに設置されていて、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名。
「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んでほしい」という願いが込められています。

本研究では、“アテルイⅡ”の約400コアを用いて、“キロノバ”のスペクトルの細かい特徴を高速にシミュレーションしています。
国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”(Credit: 国立天文台)
国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”(Credit: 国立天文台)
今回の結果は、私たちが宇宙の重元素合成の証拠を“キロノバ”のスペクトルから直接得られることを示しています。
これは、他の“キロノバ”の観測データにも適用できる可能性があります。

そこで期待されるのは、重力波の観測が進むことで、より多くの中性子星の合体が観測されること。
さらに、今回の研究で確立した手法を用いることで、検出できなかったアクチノイドなど、より多数の元素の発見につながる可能性もあります。
宇宙における重元素の起源の理解が、大きく進むことが期待されますね。


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地球から一番近いブラックホールを発見! 太陽のような恒星と互いの周りを回る連星系だった

2022年11月11日 | ブラックホール
位置天文衛星“ガイア”による観測で、地球から1560光年の距離にブラックホールが見つかりました。
現在知られているブラックホールの中で、最も私たちに近いものになるようです。

約1560光年先にあるブラックホール

アメリカ・ハーバード・スミソニアン天体物理学センター及びドイツ・マックス・プランク天文学研究所の研究チームが見つけたもの。
それは、すでに知られているブラックホールの中で地球に最も近いブラックホールでした。

このブラックホールは、これまでと異なる新しい手法を用いて発見されもの。
へびつかい座の方向約1560光年の距離に位置しています。

これまでで、最も近いとされていたブラックホールは約3000光年先なので、その距離を半分程度縮めたことになります。

地球に近いブラックホールの発見としては、2020年に発表のあった約1000光年先のブラックホールがありましたが、その後に否定されています。
今回見つかったブラックホール“ガイアBH1”のイメージ図。重力レンズ効果で周囲の光を歪めているが、地球から観測できるような光は発していない。(Credit: T. Müller (MPIA), PanSTARRS DR1 (K. C. Chambers et al. 2016), ESA/Gaia/DPAC(CC BY-SA 3.0 IGO)
今回見つかったブラックホール“ガイアBH1”のイメージ図。重力レンズ効果で周囲の光を歪めているが、地球から観測できるような光は発していない。(Credit: T. Müller (MPIA), PanSTARRS DR1 (K. C. Chambers et al. 2016), ESA/Gaia/DPAC(CC BY-SA 3.0 IGO)

恒星とブラックホールの連星を探してみる

今回、研究チームが探したのは、太陽のような恒星とブラックホールが互いの周りを回る連星系。
このために、位置天文衛星“ガイア”のデータを調べています。

“ガイア”はヨーロッパ宇宙機関が運用する衛星で、天体の位置や運動について調査する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。
天の川銀河に属する莫大な数の恒星の位置と速度を、きわめて精密に測定・記録しています。
“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡。測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)であり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度。
その“ガイア”のデータを調べてみると、時間とともに星の位置がブレている事例が約17万件ありました。
このようなブレは連星が回ることで生じている可能性があるんですねー

この約17万件の事例から、恒星が見えざる天体に振り回されているように見える事例を探します。
すると、該当する候補が6つ残りました。

次に6つの候補に対して、他の観測データも合わせて分析。
“ガイアBH1”と名付けた天体だけは、ブラックホール連星の可能性が高いと判断しています。

さらに、地上の大型望遠鏡を動員して追観測を実施し、最終的にブラックホール抜きでは観測結果が説明できないとの結論に達したそうです。

天の川銀河には、恒星質量ブラックホールが、およそ1億個も存在すると推定されていますが、現在まで発見された数はそれに比べ極わずかです。
恒星質量ブラックホールは、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つブラックホール。宇宙に多数存在している。
すでに知られているブラックホールのほとんどは、近くにある天体からガスを大量に取り込み、そのガスが高温になって発するX線などをとらえることで見つかってきました。

“ガイアBH1”のように、周囲の天体を振り回す以外の活動を示さないブラックホールは、数多く潜んでいるのかもしれません。
天の川銀河を背景にした“ガイアBH1”の位置。3つの拡大パネルは左から順に、“ガイアBH1”の伴星の実写画像(視野45秒角)、“ガイアBH1”の周りを回る伴星の軌道のイラスト(視野6ミリ秒角)、“ガイアBH1”のイメージ図(視野4ナノ秒角)。(Credit: T. Müller (MPIA), PanSTARRS DR1 (K. C. Chambers et al. 2016), ESA/Gaia/DPAC(CC BY-SA 3.0 IGO)
天の川銀河を背景にした“ガイアBH1”の位置。3つの拡大パネルは左から順に、“ガイアBH1”の伴星の実写画像(視野45秒角)、“ガイアBH1”の周りを回る伴星の軌道のイラスト(視野6ミリ秒角)、“ガイアBH1”のイメージ図(視野4ナノ秒角)。(Credit: T. Müller (MPIA), PanSTARRS DR1 (K. C. Chambers et al. 2016), ESA/Gaia/DPAC(CC BY-SA 3.0 IGO)

ブラックホール連星はどうやって進化したのか

今回発見したブラックホールとともに新たな謎も見つかっています。

今回の観測結果によれば、“ガイアBH1”の質量は太陽の10倍で、その周りを太陽に似た伴星が185.6日周期で公転しています。

ブラックホールになる前の恒星は、少なくとも太陽の20倍以上の質量を持っていたとされ、その寿命は数百万年しかなかったはずです。

仮に現在見えている伴星も同時に生まれていたのだとすれば、太陽のように一人前の恒星に成長する前に、すぐ近くで超巨星になった主星に飲み込まれていたことでしょう。

生き残ったとしても、現状よりずっとブラックホールに近い軌道へ引きずり込まれていたはずです。

この謎を説明するために、“ガイアBH1”系の進化についてはかなり特殊なシナリオが提案されています。

例えば、2つの星の距離はもともとずっと遠かったが、別の星との遭遇によって軌道が変わったという可能性があります。

また、実はブラックホールが2つあり、伴星の軌道に比べはるかに近い距離で互いの周りを回っているとも考えられます。
大質量星が2つあれば、お互いが超巨星になるのを抑制しつつブラックホールに進化することができるからです。

将来のさらなる観測によって、これらのシナリオの可否を検討できればいいですね。


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51分という短い周期でお互いの周りを回る連星を発見

2022年11月07日 | 宇宙 space
連星のうち、2つの星の距離が太陽半径の数百倍より近いものを“近接連星”と言います。

“近接連星”では、2つの星がこれほど接近しているので、星が膨張したときに質量のやり取りが起こって、単独星とは全く違う進化をするんですねー

今回見つかったのは、通常の恒星と白色矮星の近接連星である“激変星”としては、最も短い51分でお互いの周りをまわる連星でした。

今後、白色矮星は恒星のガスをはぎ取り続け、両者の距離はさらに縮まっていくようです。

お互いの周りを短い周期で回る連星

ヘルクレス座の方向約3000光年彼方にある“ZTF J1813+4251”は、質量が太陽の1割しかない恒星と、燃え尽きた星の中心核が残った白色矮星からなる連星です。

両者の距離は非常に近く、恒星から白色矮星へとガスが流れ込んでいます。

このような天体は“激変星”と呼ばれますが、“ZTF J1813+4251”の2つの天体の距離はこれまでに知られているどの“激変星”よりも短いもの。
51分という周期でお互いの周りを回っていました。
激変星は変光星の大きな分類の一つで、激変変光星や激変方変光星ともいう。短期間(長くても数日)に極度に増光し、その後穏やかに減光する。それを1度きり起こすか、不規則な周期で繰り返す。変光現象として、白色矮星表面で降り積もったガスが起こす水素の熱核暴走反応による新星、降着円盤の物理状態の変化により大きな光度変化を起こす矮新星などがある。超新星以外は白色矮星を含む近接連星系であり、Ia型超新星も中性子星を含む近接連星系である。多くの場合は降着円盤が変光に関わっている。

“激変星”のイメージ図。左の恒星と右の白色矮星が極めて短い周期でお互いの周りを回り、白色矮星へとガスが流れ込んでいる。(Credit: M.Weiss/Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian)
“激変星”のイメージ図。左の恒星と右の白色矮星が極めて短い周期でお互いの周りを回り、白色矮星へとガスが流れ込んでいる。(Credit: M.Weiss/Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian)

突発天体掃策プロジェクト

“ZTF J1813+4251”は、アメリカ・マサチューセッツ工科大学の研究チームが、アメリカ・パロマ天文台の突発天体掃策プロジェクト“ZTF:Zwicky Transient Facility”のデータから見つけ出した天体でした。

ZTFプロジェクトでは、10億個以上の星をそれぞれ1000枚以上撮影して、日、月、年単位で変化する明るさを記録しています。

研究チームは、その膨大なデータの中からアルゴリズムを使って、1時間以下の周期で点滅しているように見える星を約100万個選出。
そこから注目に値する信号を目視で探し、見つけたのが“ZTF J1813+4251”でした。

続いて行われた“ZTF J1813+4251”の観測で、連星がお互いを隠すことによる明るさの変化がはっきりととらえられ、それぞれの星の質量や半径、公転周期が正確に測定されています。

コンパクトな星で構成されている連星

もし、連星系の星が太陽のような天体であれば、軌道周期が8時間よりも短くなることはありません。

では、51分という極端に短い周期は何を意味しているのでしょうか?

それは、連星を構成する星が、どちらもコンパクトだということなんですねー

白色矮星の方は、質量が太陽の約半分で直径は100分の1と高密度。
ただ、これは白色矮星として普通のことになります。

一方で恒星の方は、質量も直径も太陽の10分の1で、密度は太陽の100倍もありました。

太陽のように核融合を行っている恒星が、これだけ高密度になるということは、その大部分が水素より重いヘリウムに置き換わっていることを示唆しています。

“激変星”では、昔から提唱されていることがあります。
それは、白色矮星が相手の恒星の外層に含まれる水素をはぎ取ってしまい、恒星の中心で生成されていたヘリウムが残されるということ。

研究チームのシミュレーションからは、“ZTF J1813+4251”の恒星では今後水素が完全に失われ、ヘリウムを多く含む高密度のコアが残ると考えられています。

そして、7000万年後には2つの星はさらに接近し、軌道周期はわずか18分に…
ただ、恒星は赤色巨星として膨張していき、連星はお互いに離れていくと予想されているようです。


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堆積岩からの有機物、天体衝突による地震を検出など 火星で探査を続ける“パーサビアランス”や“インサイト”の成果

2022年11月05日 | 火星の探査
現在NASAが火星で運用中の探査車“パーサビアランス”と探査機“インサイト”の成果が発表されました。
数十億年前の湖底で作られた堆積岩から有機化合物を検出した“パーサビアランス”。
“インサイト”は小天体の衝突による地震波を記録していたようです。

火星の泥岩から大量の有機分子を発見

2021年2月に火星に着陸したNASAの探査車“パーサビアランス”は、かつて湖が存在したとされるジェゼロ・クレーター内で探査を続けています。

35億年前に形成された三角州(川と湖の合流地点)で4つのサンプルを取得するなど、これまでに興味深い岩のサンプルを12個採取しています。

三角州の中でも、“ワイルドキャット・リッジ(Wildcat Ridge:山猫の尾根)”という愛称が付けられた幅約1メートルの岩から7月20日に削り取られたサンプルは特に興味深いものでした。

“ワイルドキャット・リッジ”は、何十億年も前に塩水湖の底で泥や細かい砂が沈殿してできた堆積岩とみられ、得られたサンプルには硫酸塩鉱物と有機化合物が含まれていました。

どちらも、塩水湖にかつて生息していた生命の活動で形成された可能性もある物質でした。
“ワイルドキャット・リッジ”の表面に露出している部分。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)
“ワイルドキャット・リッジ”の表面に露出している部分。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)
これまでの火星探査では、2014年に探査車“キュリオシティ”が岩石中に有機分子を検出しているほか、“パーサビアランス”は以前にもジェゼロ・クレーターで有機物を検出したことがありました。

でも、これまでと違っていたのは、今回の発見がかつて生命に適した環境だったと考えられる場所であったことでした。

また、検出された有機物の量は、これまでの“パーサビアランス”のミッションの中では最も多いものでした。
“パーサビアランス”によるジェゼロ・クレーター内にあるデルタ地形の探査を紹介する動画(Perseverance Explores the Jezero Crater Delta)。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)

火星上で小天体による地震波を初検出

2018年11月に火星に着陸したNASAの探査機“インサイト”の地震計が、小天体衝突に伴う地震波を2020年~2021年に計4回記録していることが分かりました。

衝突時の音も録音されていて、火星で小天体による振動が検出されたのは初めてのことでした。

2021年9月5日の録音では、大気圏突入、天体の分裂、そして衝突に伴う3つの音を聞くことが出来ました。

小天体は少なくとも3つの破片に分かれたようで、その後NASAの探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影した画像で3つの衝突痕が確認されています。
“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影した2021年9月5日の流星体衝突で形成されたクレーター。青は衝突で飛び散ったチリや土を強調表示させた部分。(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)
“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影した2021年9月5日の流星体衝突で形成されたクレーター。青は衝突で飛び散ったチリや土を強調表示させた部分。(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)
他にも2020年5月27日、2021年2月18日、2021年8月31日に、それぞれ小天体が衝突したことが“インサイト”の記録から判明しています。

一方で研究者たちは、むしろ検出された衝突が予想より少ないことを疑問に思っています。

火星は飛来物の豊富な供給源たる小惑星帯に隣接しています。

おまけに大気の厚さは地球の1%しかないので、突入した流星体の多くは燃え尽きることなく通過できるはずです。

“インサイト”の地震計が検知した地質活動に伴う地震は1300回を超えています。

その中にはマグニチュード5を超える地震(火震)もありました。

それに対し、4度の天体衝突に伴う地震はマグニチュード2にも満たないものでした。

“インサイト”の研究チームでは、風の音などに遮られた衝突の振動が他にもあると考え、4年近い過去の観測データからさらなる天体衝突の信号が見つかると期待しています。
2020年5月27日、2021年2月18日、2021年8月31日に、それぞれ流星体が衝突して形成された痕跡。(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)
2020年5月27日、2021年2月18日、2021年8月31日に、それぞれ流星体が衝突して形成された痕跡。(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)


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ビッグバン後の宇宙で誕生した第一世代の恒星が残した痕跡を見つけたのかも

2022年11月02日 | 宇宙 space
131億光年の彼方に位置するクエーサーの元素を調べてみると、太陽の300倍近い質量を持つ宇宙第一世代の星が超新星爆発で作りだしたと推定されるような特徴が見られたそうです。

ビッグバン後の宇宙で最初に誕生した恒星

ビッグバンから1億年後、宇宙の年齢が現在の1%にも満たない頃に、最初の恒星が誕生したと考えられています。

これら“第一世代星(種族IIIの星)”は、ほぼ水素とヘリウムだけで出来ているはずです。
でも、その特徴を示す天体は、いまだ見つかっていません。

天文学では水素とヘリウムよりも重い元素のことを重元素と呼び、重元素の量が少ないと重い星が生まれやすくなります。

ガス雲が重力収縮して新たな星になるためには、ガス雲が冷える必要があるのですが、重元素が少ないガスは冷えにくいんですねー

このため、より大きなガスの塊でないと圧力に打ち勝って重力収縮が進まないからです。

こうして誕生した大質量星は、わずか数千年で超新星爆発を起こして一生を終えることになります。

なので、第一世代星の質量は極めて大きく、すぐに超新星爆発を起こして重元素をまき散らしたと予想されています。
第一世代星の超新星爆発で合成された元素が撒き散らされる様子(イメージ図)。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)
第一世代星の超新星爆発で合成された元素が撒き散らされる様子(イメージ図)。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)

第一世代星が残した元素を探す

今回の研究では、遠方(初期宇宙)に位置する天体のスペクトルを分析して元素の割合を調べる手法を、東京大学のチームが開発。
それにより、第一世代星が残した元素を探しています。

この手法を、現在知られているクエーサーの中で2番目に遠い131億光年(赤方偏移7.54)の距離に位置するうしかい座の“ULAS J1342+0928”に適用。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
すると、大質量の第一世代の超新星爆発に由来すると考えられる比率の元素が見つかりました。
クエーサーとその周囲(イメージ図)。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)
クエーサーとその周囲(イメージ図)。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)
クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体で、遠方にあるにもかかわらず明るく見えています。

その光は、クエーサーを取り巻く物質など様々な要因によって決まりますが、研究チームでは他の要因を除外して元素の量を調べる手法を確立していました。

今回の観測では、アメリカ・ハワイにある口径8.1メートルのジェミニ北望遠鏡で“ULAS J1342+0928”のスペクトルを調査。
鉄に対するマグネシウムの割合が極めて小さく、太陽の10分の1しかないことを突き止めています。

研究チームでは、このような組成は太陽の150~300倍の質量を持つ第一世代星の超新星爆発でなければ説明できないと考えています。

これほど重い恒星は、対不安定型超新星爆発を起こすと考えられていますが、実際に観測されたことはありませんでした。

天の川銀河のハローの中に第一世代星が残した元素をたどる試みは以前から行われて、少なくとも1つの星で不確定ながら同定された例がありました。

それに対して、今回の発見は対不安定型超新星の最も明確なサインだと研究チームは考えています。

本当に第一世代星の痕跡を見つけたのであれば、宇宙における物質がどのようにして、私たちを含む現在の形へ進化したのかを理解する上で役立つ成果になるはずです。

ただし、今回の解釈を厳密に検証するために、他の天体が同様の特徴を持つかどうかを確認するために観測を重ねる必要があります。

大質量星の第一世代星は絶えて久しいのですが、それらが残した化学的痕跡は長く残り、私たちにとって比較的身近なところに今も残されている可能性があります。

今回の研究により、何を探せばいいのかの道筋は示されました。

宇宙の極初期の時代に、いま私たちがいる付近でも第一世代星の超新星爆発が起こったはず…
そうであれば、きっと証拠は見つかりますね。


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