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遠く離れた場所にある複数の電波望遠鏡が協力! 高解像度で解き明かすクエーサーから噴き出したジェットの姿

2022年12月15日 | ブラックホール
今回、国際研究チームは、地球上に点在する電波望遠鏡を組み合わせて同時に観測を行う超長基線電波干渉“VLBI”技術を用いて、極めて明るい電波源“3C 273”から噴き出すジェットの最深部の構造をとらえることに成功したんですねー

歴史上初めて発見されたクエーサが“3C 273”です。
その中心部から噴き出すジェットは過去数十年に渡って精力的に研究されてきました。

今回、研究チームが実施したのは、この“3C 273”に対する様々な周波数帯での国際的なVLBI観測でした。
これまで詳しく観測されていなかった最深部から、母銀河を超える先端部に至るまでの様々な空間スケールに渡ってジェットの「形状」を詳しく調べています。

その結果、クエーサーのジェットが絞り込まれている様子が初めてとらえられ、その絞り込みがブラックホールの重力が支配する領域を超えるほど遠方にまで及んでいることを発見しました。

このことは、中心部の活動性が高いクエーサーにおけるジェットの絞り込みの様子を明確に示した初めての成果になるようです。
遠く離れた場所にある複数の電波望遠鏡が協力して同時に観測を行うと、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能を得ることができる。このように複数の電波望遠鏡の観測データを合成して、一つの観測データとして扱う手法を“VLBI(Very Long Baseline Interferometry : 超長基線電波干渉計)”という。

極めて明るく輝く天体

ほぼすべての銀河の中心には、太陽の数100万倍から数10億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在しています。

超大質量ブラックホールには様々な活動性を示すものがあります。
中でも“クエーサー”は、ブラックホールの強い重力によって大量のガスが落ち込むことで極めて明るく輝く天体です。
クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込むことで生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体。遠方にあるにもかかわらず明るく見える。
今回の研究で観測しているのは、おとめ座の方向に位置する人類が初めて発見したクエーサー“3C 273”。
これにより、クエーサーの最深部にあるプラズマジェットの様子を明らかにしています。

活動的な超大質量ブラックホールからは、しばしば“ジェット”と呼ばれる強力なプラズマ流が噴出します。
ジェットのプラズマ流は非常に細く絞られ、その速度はほぼ光速にまで達しています。

ジェットは過去数10年に渡って精力的に研究されてきましたが、その形成過程は未だに謎に包まれています。

ジェットはそのプラズマ流が細く絞られることによって、しばしば母銀河の外側にまで到達し、銀河の進化や周辺環境にまで大きな影響を与えていると考えられています。

でも、このジェットがどのようにして、またどこで細く絞られているのでしょうか?
その様子は未だ完全には分かっていないんですねー

クエーサーから噴出するジェット

今回の新たな観測では、クエーサーから噴出するジェットが細く絞られている最深部の領域が初めて明らかになっています。

この画期的な観測が実現できたのは、国際ミリ波VLBI観測網“GMVA”とチリのアタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡“ALMA”を組み合わせた“GMVA+ALMA”と呼ばれる国際的な電波観測網のおかげでした。

研究チームは、“3C 273”のジェット全体の形状を測定するために、欧米の高感度VLBI観測網“HSA”による多波長観測も実施。
ジェットを異なる空間スケールで撮影しています。
今回の研究で明らかになったクエーサー“3C 273”から噴き出すジェットの姿。図中左側の電波の画像は、今回の研究で初めて明らかになった根元から数光年にわたって伸びるジェットの最深部の姿をとらえている。右側のハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像では、“3C 273”から噴出する強力なジェットが母銀河を超えて数10万光年以上の彼方へ到達している様子が見られる。光の観測に加えて、複数の波長の電波画像を用いることで、様々な空間スケールに渡ってジェットの「形状」を詳しく調べることが可能になる。観測は2017年に行われ、南米チリのアルマ望遠鏡が初めて参加した国際ミリ波VLBI観測網“GMVA”と欧米の高感度VLBI観測網“HSA”が用いられた。(Credit: Hiroki Okino and Kazunori Akiyama; GMVA+ALMA and HSA images: Okino et al.; HST Image: ESA/Hubble & NASA.)
今回の研究で明らかになったクエーサー“3C 273”から噴き出すジェットの姿。図中左側の電波の画像は、今回の研究で初めて明らかになった根元から数光年にわたって伸びるジェットの最深部の姿をとらえている。右側のハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像では、“3C 273”から噴出する強力なジェットが母銀河を超えて数10万光年以上の彼方へ到達している様子が見られる。光の観測に加えて、複数の波長の電波画像を用いることで、様々な空間スケールに渡ってジェットの「形状」を詳しく調べることが可能になる。観測は2017年に行われ、南米チリのアルマ望遠鏡が初めて参加した国際ミリ波VLBI観測網“GMVA”と欧米の高感度VLBI観測網“HSA”が用いられた。(Credit: Hiroki Okino and Kazunori Akiyama; GMVA+ALMA and HSA images: Okino et al.; HST Image: ESA/Hubble & NASA.)

“3C 273”はクエーサーから噴出するジェットを研究する上で、近傍に位置する最も理想的な天体でした。
でも、このような近傍のクエーサーであっても、強力なプラズマ流が形作られる中心部の構造を、これまで詳しく見ることはできませんでした。

今回撮影された“3C 273”の画像では、クエーサーから噴出するジェットの最も内側の領域が初めてとらえられました。

さらに、研究チームが見つけたのは、噴出するプラズマ流の開口角が中心から広範囲にわたって徐々に狭まっていき、細く絞られていくこと。
これにより、ジェットの絞り込みが起きている領域は、中心の超大質量ブラックホールの重力が影響する領域を超えるはるか遠方まで続いていることが明らかになりました。

非常に活動的なクエーサーにおいて、ジェットの強力なプラズマ流が広範囲にわたって徐々に絞り込まれていたことはとても興味深いことでした。

このようなジェットの絞り込みの様子は、近傍のより暗く活動度の低い超大質量ブラックホールで、これまで発見されてきました。

なぜ、活動性の全く異なる超大質量ブラックホールで、同じようにジェットが絞り込まれるのでしょうか?
このことは、今回の観測で新たに浮かび上がった謎になっています。

ミリ波帯のVLBI観測

今回、新たに得られた“3C 273”ジェットの極めて高解像度の画像は、アルマ望遠鏡が観測に参加したことによりもたらされたものです。

国際ミリ波VLBI観測網とアルマ望遠鏡が、超長基線電波干渉“VLBI”技術を用いて大陸間をまたいで組み合わされたことで、極めて高い感度と空間分解能を実現し、遠方に位置する天体の詳細な情報を得ることができました。

このアルマ望遠鏡を用いたVLBI観測を実現させたのが“ALMA Phasing Project (APP)”と呼ばれる国際プロジェクトでした。
マサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所が主導し、国立天文台も大きく貢献したAPPプロジェクトによって、アルマ望遠鏡をミリ波帯で世界最高感度を持つVLBI観測局にするための観測機器およびソフトウェアが開発されています。

アルマ望遠鏡がミリ波帯のVLBI観測に参加することで、観測網全体の分解能と感度を大幅に向上させることが可能になります。
これにより、ブラックホールの科学研究に革新的な進展をもたらしました。

この技術によって超大質量ブラックホールを初めて撮影することに成功し、さらに今ではブラックホールがどのようにジェットを発生させているのか、その極めて詳細な様子を観測できるようになりました。

今回の研究成果は、様々な超大質量ブラックホールから噴出するジェットの絞り込み過程の解明に向けて、新たな扉を開いたと言えます。
さらに、今後の高い周波数帯での観測により可能になってくるのが、遠方のクエーサーや他の超大質量ブラックホールの詳細な構造を調べることです。

超大質量ブラックホールから噴き出すジェットの発見から100年以上が経ちました。
でも、その形成メカニズムはいまだに解明されていないんですねー

国際ミリ波VLBI観測網“GMVA”とアルマ望遠鏡“ALMA”による今回の観測で、形成メカニズムの理解は進展しました。
将来さらに高い解像度で観測することで、これまで以上に深い理解を目指すそうですよ。

使用したVLBI観測網
今回の観測で使用されたVLBI観測網青色の点は、初めてチリのアルマ望遠鏡が参加した国際ミリ波VLBI観測網“GMVA:Global Millimeter VLBI Array”の観測に参加した望遠鏡、黄色の点は欧米の高感度VLBI観測網“HSA:Hight Sensitivity Array”の観測に参加した望遠鏡を示している。各色の線は、それぞれの観測網の参加望遠鏡を結ぶネットワークを可視化したもので、“GMVA”と“HSA”双方に用いられたネットワークは緑色で示されている。(Credit: Kazunori Akiyama)
今回の観測で使用されたVLBI観測網
青色の点は、初めてチリのアルマ望遠鏡が参加した国際ミリ波VLBI観測網“GMVA:Global Millimeter VLBI Array”の観測に参加した望遠鏡、黄色の点は欧米の高感度VLBI観測網“HSA:Hight Sensitivity Array”の観測に参加した望遠鏡を示している。各色の線は、それぞれの観測網の参加望遠鏡を結ぶネットワークを可視化したもので、“GMVA”と“HSA”双方に用いられたネットワークは緑色で示されている。(Credit: Kazunori Akiyama)

国際ミリ波VLBI観測網“GMVA”
国際ミリ波VLBI観測網“GMVA”の観測で使用した望遠鏡。“GMVA”は波長3ミリ帯の国際的なVLBI観測網。2017年4月に行われた本観測では、アメリカ8か所の“VLBA:Very Long Baseline Array”のアンテナ、Effelsberg 100m電波望遠鏡、IRAM 30m望遠鏡、オンサラ宇宙天文台の20m望遠鏡、Yebes天文台の40m電波望遠鏡が参加し、そして初めてチリのアルマ望遠鏡が参加した。(Credit: Kazunori Akiyama)
国際ミリ波VLBI観測網“GMVA”の観測で使用した望遠鏡。“GMVA”は波長3ミリ帯の国際的なVLBI観測網。2017年4月に行われた本観測では、アメリカ8か所の“VLBA:Very Long Baseline Array”のアンテナ、Effelsberg 100m電波望遠鏡、IRAM 30m望遠鏡、オンサラ宇宙天文台の20m望遠鏡、Yebes天文台の40m電波望遠鏡が参加し、そして初めてチリのアルマ望遠鏡が参加した。(Credit: Kazunori Akiyama)


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見ごろはいつ? 活動は? 月明りの影響は? 2022年の“ふたご座流星群”

2022年12月12日 | 流星群/彗星を見よう
今年もあとわずか、三大流星群のひとつ“ふたご座流星群”の時期が近づいてきました。

“ふたご座流星群”は、1月の“しぶんぎ座流星群”や8月の“ペルセウス座流星群”と並び、活動が安定していて流れ星が多いのが特徴です。

今年の極大は12月14日の午後10時頃。
この時間帯に最も活発に流星が流れると予想されています。
極大とは、流星群の活動が最も活発になること。ある場所で見える流星の数には、流星群自体の活動の活発さだけでなく、その場所での放射点の高度や月明かりなども影響する。そのため、極大の日時と、それぞれの場所で多くの流星が見える日時とは、必ずしも一致しない。
ただ、極大予想の14日22時ごろはちょうど月の出のタイミング。
15日の明け方まで、ずっと月明かりの影響を受けることになるんですねー
狙い目は12月14日の空が暗くなってから、東の空から月が出てくるタイミングまで(午後10時頃)。
狙い目は12月14日の空が暗くなってから、東の空から月が出てくるタイミングまで(午後10時頃)。

なので狙い目は、14日の空が暗くなってから月の出まで。
この時間だと暗い空の下で観察することができるので、見晴らしの良いところで1時間当たり20~25個程度の流れ星を見ることができそうです。

22時以降になってしまうと、月明かりの影響を受けることになってしまいます。
暗い流れ星は見えなくなってしまうので、目にできる数は減ってしまうことに…
一晩を通じて、見晴らしの良いところで1時間当たり15~20個程度の流れ星が見えると予想されています。

流星は放射点の方向だけに現れるのではなく、空全体に現れます。
“ふたご座流星群”の“放射点”はふたご座の2等星カストルの近く。
いつ、どこに出現するかは分からないので、なるべく空の広い範囲を見渡すようにしましょう。

月が昇ってきた後の時間帯には、月から離れた方向を広く見渡すと流れ星が見える確率が高くなりますよ。
放射点とは、流星群の流れ星が、そこから放射状に出現するように見える点。流れ星の数は、放射点の高度が高いほど多くなり、逆に低いほど少なくなる。

“ふたご座流星群”の母天体は彗星ではなく小惑星“フェートン”

チリを放出して流星群の原因を作っている天体を母天体といいます。

この母天体の軌道と地球の軌道が交差していると流星群が出現することになります。

そう、地球が母天体の通り道を毎年同じ時期に通過する際に、通り道に残されたチリが地球の大気に飛び込んでくるんですねー
チリは上空100キロ前後で発光、これが流星群です。

母天体の多くは彗星なんですが、“ふたご座流星群”の場合は約1.4年周期で太陽系を巡っている小惑星“フェートン”になります。

一般的に小惑星は彗星のように尾をたなびかせチリを放出することはなく、“フェートン”も現在は活動を停止していると考えられています。
2017年のレーダーによる観測では、“フェートン”のおおよその形や自転周期求められた。さらに、2019年には、“フェートン”が恒星の光を遮る掩蔽が観測され、その直径や形を詳しく探ることができた。
チリが多く集まっていれば流れ星の数も増えます。
ただ、“ふたご座流星群”の場合に考えられるのは、チリが“フェートン”の軌道上の一部に遍在しているのではなく、軌道全体に広がって分布していること。

チリも“フェートン”と同じ軌道を運動しているので、地球は毎年のように多くのチリとぶつかることになります。
なので、“ふたご座流星群”の流れ星は“フェートン”の位置に関わらず毎年多く見られるわけです。


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金やプラチナなど貴金属の元素を含む星は、100億年以上前に天の川銀河の元になった小さい銀河で生まれていた

2022年12月09日 | 銀河・銀河団
宇宙が誕生した138億年前
そして、その数億年後から形成されてきたと考えられている天の川銀河。
でも、誕生から形成の過程は謎に満ちていて、今でも解明されていないことがたくさんあるんですねー

今回の研究では、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”を用いて、天の川銀河ができる様子を世界最高解像度でシミュレーションすることに成功。
その結果、金や、プラチナなど鉄より重い貴金属の元素を多く含む星は、100億年以上前、天の川銀河の元になった小さい銀河で形成されたことを明らかにしています。

また、本シミュレーションで形成された星の元素量、運動は天の川銀河の星の観測と一致。
今後、国立天文台のすばる望遠鏡などでの観測が進むと、貴金属に富んだ星を指標として、長年の謎であった100億年以上前の天の川銀河形成史を辿れるようになるようです。
今回の研究で行われた天の川銀河形成シミュレーションによる星とガスの分布。黄色で描かれているのが星、水色で描かれた粒子がガスを表す。(Credit: 平居悠)
今回の研究で行われた天の川銀河形成シミュレーションによる星とガスの分布。黄色で描かれているのが星、水色で描かれた粒子がガスを表す。(Credit: 平居悠)

星の元素組成には銀河の歴史が刻まれている

私たちが暮らす地球、そして太陽系を含む大きな星の集まりが天の川銀河です。

その天の川銀河は、どのように形成されたのでしょうか?
このことを明らかにすることは、天文学における長年の課題になっています。

私たちの身の回りのほとんどの元素は星の中で合成されていますが、その星の元素組成から、天の川銀河の形成を理解する手掛かりを得ることができます。

星がその一生を終える際、元素はその星の周辺に撒き散らされ、次世代の星に引き継がれていきます。

つまり、星の元素組成には、その星が形成されるまでの銀河の歴史が刻まれていることになります。

鉄より重い貴金属元素に富んだ星

国立天文台のすばる望遠鏡などの観測から、天の川銀河には鉄より重い元素(金やプラチナなどの貴金属)と、鉄との比が太陽の5倍以上の星がいくつもあることが確認されています。
すばる望遠鏡は、国立天文台がハワイのマウナケア山頂で運用する口径8.2メートルの光学赤外線望遠鏡。今回の研究では、すばる望遠鏡に搭載された高分散分光器(HDS : High Dispersion Spectrograph)によって観測された恒星の分光データを用いている。
さらに、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”は、これらの星の多くは太陽とは異なる軌道を持つことを明らかにしてくれました。
“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡。測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)であり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度。
こうした特徴は、鉄より重い元素に富んだ星々が、天の川銀河の形成史を強く反映して形成された可能性を示唆しています。

でも、これらの星が銀河の歴史の中で、いつ、どのように形成されたのかは明らかになっていませんでした。

そこで、今回の研究では、天の川銀河が形成される様子を138億年前の宇宙誕生から現在までシミュレーション。
国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”が用いられました。

その結果、明らかになったのは、鉄より重い貴金属元素に富んだ星の多くは、100億年以上前、天の川銀河の元になった小さい銀河で形成されたことでした。

天の川銀河の元になった小さい銀河

今回の研究では、世界最高解像度の天の川銀河シミュレーションを実施することに成功しています。

このシミュレーションでは、宇宙初期の密度のムラからダークマターとガスが重力によって集まり、その中で星が形成されていく様子を計算しました。
“ダークマター”は、銀河の性質を説明するために考案された仮設上の物質で、宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めていると考えられている。銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光を放射しない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まり。
この計算は、研究チームが独自に開発した数値計算コードと“アテルイⅡ”を用いることで、これまでより10倍程度高い解像度を実現。
これにより、これまで分解できなかった天の川銀河の元になった小さい銀河を空間的に分解し、その中で星が生まれる様子を探ることができるようになりました。
今回の研究のテストシミュレーションの映像(100分の1の解像度で計算したもの)。黄色く輝くのが星、淡く雲のように広がって描かれているものがガスを表す。シミュレーション:斎藤貴之(神戸大学/東京工業大学 ELSI)、可視化: 武田隆顕(VASA Entertainment Co. Ltd.)。(Credit: 斎藤貴之、武田隆顕)

シミュレーションでは、鉄よりも重い元素に富んだ星が「いつ・どこで・どのように」形成されたのかを解析しています。

星が形成された時期を調べて分かったのは、鉄より重い元素に富んだ9割以上の星が、宇宙誕生から40億年以内に形成されたこと(図2)。
シミュレーションでは、これらの星々の多くは、まだ形成途中の小さい銀河で誕生していました。

こうした小さい銀河では、ガスの量が少ないので、一度の貴金属合成現象でも銀河全体の鉄よりも重い元素の割合が高くなります。

そのような環境で星が生まれると、その星に引き継がれる鉄よりも重い元素の量も高くなるわけです。
図2:シミュレーションから得られた鉄の量と星が生まれた時刻の関係。赤点が鉄より重い元素に富んだ星。黄色、緑色、青色のカラーグラデーションは全ての星。(Credit: Hirai et al.)
図2:シミュレーションから得られた鉄の量と星が生まれた時刻の関係。赤点が鉄より重い元素に富んだ星。黄色、緑色、青色のカラーグラデーションは全ての星。(Credit: Hirai et al.)

100億年以上前の天の川銀河形成史

さらに、すばる望遠鏡などで観測した天の川銀河の星の貴金属量と、シミュレーションで予測された貴金属元素のひとつであるユーロピウム(Eu)の量を比較。
すると、よく似た分布をしていることが示されました(図3)。

この結果は、天の川銀河に見られる鉄よりも重い元素に富む星の多くは、100億歳以上の年齢を持ち、宇宙初期の天の川銀河の形成史を今に伝える星々であることを意味しています。

今回の研究では、2017年に重力波が検出された連星中性子星合体から放出される貴金属量を仮定することで、天の川銀河の鉄よりも重い元素量を図3のように矛盾なく説明できています。
図3:ユーロピウムと鉄の比の分布。オレンジ色、青色はそれぞれ天の川銀河の観測とシミュレーションによる結果。鉄よりも重い元素の代表例として観測例の多いユーロピウムで比較。(Credit: Hirai et al.)
図3:ユーロピウムと鉄の比の分布。オレンジ色、青色はそれぞれ天の川銀河の観測とシミュレーションによる結果。鉄よりも重い元素の代表例として観測例の多いユーロピウムで比較。(Credit: Hirai et al.)

今回の研究成果は、鉄よりも重い元素に富んだ星々の起源を、世界最高解像度の天の川銀河形成シミュレーションで明らかにできたことです。

この成果により、鉄よりも重い元素に富んだ星々を指標として、これまで謎であった100億年以上前の天の川銀河形成史を探ることが可能になりました。

これにより期待されるのが、宇宙全体から私たちを形作る元素のスケールまで、分野の垣根を超えた研究が展開されること。

こうした研究が、「私たちはどこから来たのか?」という問いへの手掛かりを与えてくれるのかもしれません。

今後は、理化学研究所のスーパーコンピュータ“富岳”によるシミュレーションや、すばる望遠鏡などによる観測を駆使して、138億年に渡る天の川銀河形成史解明に挑むそうです。


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X線天文衛星のアーカイブデータから、銀河中心ブラックホール近傍の現実的な物理モデルを構築

2022年12月06日 | ブラックホール
銀河の中には、その中心で激しい活動を起こしているものがあり、このような天体を“活動銀河核”と呼びます。

その中心には、太陽質量の数百万~数十億倍もの超大質量ブラックホールが存在し、その周りではいろいろな現象が起きているんですねー

この活動銀河核の中心ブラックホール周辺で群を抜いているのがX線放射なので、この場所の物理環境を解き明かすにはX線の観測が不可欠になります。
そこで、今回の研究で用いているのは、“NGC 5548”という活動銀河核について、3つのX線天文衛星で得られた広帯域X線スペクトルでした。

先行研究では、複雑なモデルで説明していた“NGC 5548”のX線スペクトル変動ですが、物理的に相関し得ないパラメータ同士に相関が出るなどの問題がありました。

この相関は、必要以上のパラメータを含んだモデル設定による“パラメータ縮退”と考えた研究チームは、よりシンプルなモデル構築を試みています。

結果として、二重構造を持った塊状の物体が視線上を横切っているというシンプルなモデルで、一見複雑なX線スペクトル変動を説明することに成功したそうです。

ブラックホール近傍の環境

銀河の中心で明るく光る領域を活動銀河核と呼びます。
その中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込むことで生み出される莫大なエネルギーがX線に変換され、銀河全体よりも明るく輝いています。
超大質量ブラックホールは、太陽の10万倍から10億倍もの質量を持つブラックホール。ほぼ全ての銀河の中心には、このような大きなブラックホールが存在すると考えられている。
ブラックホールの周りの環境を仮定しシミュレーションすることで、どのようなX線スペクトルが得られるかを理論的に予想できます。
X線スペクトルとは、エネルギーごとのX線強度分布のこと。
このようにして得られたモデルスペクトルと観測で得られたスペクトルを比較し、両者が適合するようなモデルパラメータを最適化することで、X線を放射しているブラックホール近傍の環境を制限することが可能になります。

これは天文学会で最も標準的な解析手法の一つですが、最適化に用いる物理モデルを決定するのは各研究者の自由になります。
なので、異なった物理モデルで同じ観測スペクトルを説明できてしまうことが多々あったりするんですねー

活動銀河核の中心ブラックホール周辺には降着円盤、コロナ、複数の吸収体が存在することが分かっています。
活動銀河核とは、銀河の中心部の非常に狭い領域から、銀河全体の明るさに匹敵するかそれを超えるほど莫大な電磁波を放射している天体現象。銀河中心に存在する超大質量ブラックホールに物質が落下することによって解放される重力エネルギーが、巨大な放射のエネルギー源とされている。超大質量ブラックホール近傍の高温ガスからはX線が、その周囲に形成されるガス円盤(降着円盤)からは紫外線や可視光線が、さらにそれらを取り巻くように分布する“ダストトーラス”からは赤外線が放射される。

ブラックホールに落下する物質は角運動量を持つため、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。

コロナは中心ブラックホール近傍に存在するX線放射源のこと。正体は高温プラズマであり、低エネルギーの紫外線・X線と相互作用することで高エネルギーのX線を放射すると考えられている。
一方で数多く提唱されているモデルは、コロナと吸収体の幾何構造や力学状態についてです。

どのモデルも観測スペクトルの説明は可能なので、モデルの良し悪しを判断するには観測スペクトルとの適合以外の切り口が必要になります。

今回の研究で用いているのは、“NGC 5548”という活動銀河核について、3つのX線天文衛星で取得したアーカイブデータでした。
衛星の過去観測データはアーカイブ化され、世界中の研究者が自由に使用できるようになっている。自由に使用できるようになるタイミングは衛星ごとにそれぞれで、観測後数か月から数年程度は観測提案者が占有してデータを使用できることが多い。
ある先行研究が報告しているのは、2年間にわたるX線スペクトル変化に対し、二層の独立な部分吸収体を仮定したモデルを適用し、コロナから放射されたベキ型スペクトルの光子指数と片方の部分吸収体による部分吸収率との間に相関があるとことです。
部分吸収体とは、X線を部分的に遮蔽する粒粒上の吸収体。吸収体がX線を遮蔽する割合を部分吸収率という。
光子指数とは、ベキ型のX線スペクトルの形を特徴づける定数。
でも、X線放射機構自体に由来する光子指数とコロナから遠く離れた吸収体が、放射源を隠す割合が相関するのは物理的に不自然なんですねー
今回の研究により提案したモデルの概略図。ブラックホールの周囲を取り巻くコロナからX線が放射され(青線P)、視線上の複数の吸収体W1、W2、W3により吸収を受けたX線が観測される。このうちW1、W2は二重の内部構造を持ったガス塊であり、X線を部分的に吸収する。部分吸収率が時間変化することにより、観測されるX線スペクトル変動の大半が説明できる。(Credit: Midooka et al., 2022, Fig.3を改変)
今回の研究により提案したモデルの概略図。ブラックホールの周囲を取り巻くコロナからX線が放射され(青線P)、視線上の複数の吸収体W1、W2、W3により吸収を受けたX線が観測される。このうちW1、W2は二重の内部構造を持ったガス塊であり、X線を部分的に吸収する。部分吸収率が時間変化することにより、観測されるX線スペクトル変動の大半が説明できる。(Credit: Midooka et al., 2022, Fig.3を改変)

そこで、研究チームが考えたのは、この相関は必要以上のパラメータを含んだモデル設定による“パラメータ縮退”であること。
なので、よりシンプルなスペクトルモデルの構築を試みることになります。
(上図は研究チームが提案したモデルの概略図)

結果として、二重構造を持った塊状の物体(図1のW1とW2)が視線上を部分的に遮り、X線源を覆う割合が変化しているというシンプルなモデルで、不自然なパラメータ相関無しに、16年間のX線スペクトル変動を説明することに成功しています。

今回の研究では、スペクトル解析で閉じることなく得られた物理パラメータの正当性を吟味することで、超大質量ブラックホール近傍環境のより現実的な物理モデルを構築することに成功しました。

今後、予定されているのはXRISM衛星により超精密分光データが得られること。
XRISM衛星は、NASAやヨーロッパ宇宙機関の協力のもと開始されたJAXA宇宙科学研究所の7番目のX線天文衛星計画。
XRISM衛星で得られたデータに対して、今回の研究で提案したモデルを適用することで、現在私たちが抱いている物理描像の整合性を確認し、より現実に即した物理環境の理解につながると期待されています。

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火星で観測された史上最大の天体衝突! 隕石の衝突が作り出す火震を観測

2022年12月03日 | 火星の探査
NASAにとって火星への着陸に成功した8機目の探査機“インサイト”。
その“インサイト”が2021年12月24日に天体の衝突に伴う地震を検出したんですねー
この時作られたクレーターは、形成の瞬間を人類が記録できたものとしては太陽系で最大のもののようです。

火星の地質調査を行う探査機

NASAの低予算プログラム“ディスカバリー”の候補に挙がっていた、3つの計画から選ばれたのがインサイト計画でした。

選ばれた理由は、スケジュールがずれ込む可能性や、予算の上限を超える可能性が低かったこと。
ただ、搭載機器の“地震計”に問題が発生し打ち上げは延期に…
“地震計”の改良や、完成している探査機本体や機器の保管などに更に予算が必要になってしまいます。

それでも2018年5月に火星探査機“インサイト”は打ち上げに成功。
2018年11月には、火星の赤道付近にあるエリシウム平原地域の“ホームステッド”と呼ばれる浅いクレーターに着陸し、観測を続けてきました。

隕石の衝突が作り出す火星の地震

“インサイト”は2022年10月27日時点で1318回の火星における地震“火震”を検出しています。

その中には隕石の衝突に伴う火震もあったのですが、マグニチュード2以下と弱いものでした。

でも、2021年12月24日に記録された火震はマグニチュード4という、“インサイト”がこれまでにとらえたものとしては最大規模のもの。
この大きな火震が隕石の衝突によるものだったことは、NASAの火星探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”が上空からとらえた画像などから今年の2月11日に判明しています。

衝突でチリが飛び散る様子が検出されたほか、震源地と推定される付近に大きなクレーターが形成されていました。
2021年12月24日にあった隕石の衝突でクレーターができる前(左)と後(右)の白黒画像。探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”の高解像度カメラが撮影。(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)
2021年12月24日にあった隕石の衝突でクレーターができる前(左)と後(右)の白黒画像。探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”の高解像度カメラが撮影。(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

隕石の衝突で出来た直径150メートルのクレーター。周囲に白い氷が飛び散っている。探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”の高解像度カメラが撮影。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ University of Arizona)
隕石の衝突で出来た直径150メートルのクレーター。周囲に白い氷が飛び散っている。探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”の高解像度カメラが撮影。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ University of Arizona)

衝突した隕石の推定サイズは直径が5~12メートルほど。
地球の大気圏であれば燃え尽きるほど小さな隕石でした。

でも、気圧が地球の1%しかない火星の大気は通り抜けてしまい地表に到達。
幅約150メートル・深さ約21メートルのクレーターを形成したんですねー

衝突の瞬間を人類がとらえて記録することのできたクレーターとしては、これ以上大きなものは太陽系に存在していません。

また、衝突で噴出した物質の一部は、37キロ先にまで吹き飛ばされていたことも分かってきました。

画期的なのは、衝突の大きさだけではありませんでした。

衝突地点はアマゾニス平原(Amazonis Planitia)と呼ばれる領域の北緯35度付近。
ここは極冠から遠く、火星の赤道にこれほど近い領域で、地下に氷が見つかったのは初めてのことでした。

この辺りは、火星の中では比較的温暖で宇宙飛行士にとっても活動しやすい場所なので、必要不可欠な資源である水が見つかったというのは、将来の有人探査にとって福音と言えます。

“インサイト”のソーラーパネルにはチリが降り積もり続けていて、ここ数か月間で電力が大幅に低下しています。
今後6週間以内に装置への給電は絶たれる見込みで、その時に“インサイト”は役目を終えることなりそうです。
衝突で出来たクレーターのアニメーション動画“Flyover of Mars Impact Using HiRISE Data (Animation)”(Credit: JPLraw)

隕石の衝突時に“インサイト”が記録した地震を音声に変換し、波形と共に再生する動画。(Credit: JPLraw)


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