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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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地球に比べて密度が低い“ケプラー138c”と“ケプラー138d”は、体積の大部分が水で構成された海洋惑星かもしれない

2023年01月20日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
恒星“ケプラー138”を公転する2つの系外惑星が、厚い水の層に覆われている可能性があるようです。
この2つの系外惑星は“ケプラー138”に近すぎるので表面の水は蒸発、高圧の深層では液体になっているのかもしれません。
私たちが知る地球の海とは全く違う環境のようです。

体積の大部分が水で構成された惑星は存在するのか

地球はよく「水の惑星」と呼ばれます。
それは、太陽系の他の惑星と比べると、地球は広大な海という際立った特徴を持っているからです。

でも、水が地球全体の体積に占める割合は0.1%余り。
しかも、海の深さは平均で4キロ弱、一番深いところで10キロしかありません。

それでは宇宙のどこかに、もっと多くの水をたたえる惑星は存在しているのでしょうか?

太陽系外の惑星に注目する研究者たちが予測しているのは、体積の大部分が水で、深さ数百~数千キロの海に覆われた“海洋惑星(Water World, Ocean World)”の存在です。

こと座の方向約218光年彼方に位置する太陽より小さな恒星“ケプラー138”。
この恒星を公転する2つの惑星“ケプラー138c”と“ケプラー138d”は、まさにそうした海洋惑星かもしれません。
赤色矮星“ケプラー138”を公転する3つの惑星(イメージ図)。右手前の“ケプラー138d”と恒星の左下に描かれた“ケプラー138c”は海洋惑星の候補。中心星を通過するシルエットは“ケプラー138b”。(Credit: NASA, ESA, and Leah Hustak (STScI))
赤色矮星“ケプラー138”を公転する3つの惑星(イメージ図)。右手前の“ケプラー138d”と恒星の左下に描かれた“ケプラー138c”は海洋惑星の候補。中心星を通過するシルエットは“ケプラー138b”。(Credit: NASA, ESA, and Leah Hustak (STScI))
今回の研究では、NASAのハッブル宇宙望遠鏡と赤外線天文衛星“スピッツァー”で2つの惑星を観測し、それぞれの質量と体積を計算。
すると、“ケプラー138c”と“ケプラー138d”の質量はともに地球の約2倍であるのに対し、体積は3倍以上であることが分かりました。
 今回の研究を進めているのは、カナダ・モントリオール大学のCaroline Piauletさんたちの研究チームです。
つまり、岩石惑星である地球と比べて、“ケプラー138c”と“ケプラー138d”は平均密度が低いことになります。

この平均密度が低いことを説明するには、岩石の一部をもう少し軽い物質で置き換えればいいことになります。
そう、この軽い物質として一番有力なのが水になるんですねー
 “ケプラー138”または“KOI-314”は、地球から見て“こと座”の方向約219光年彼方に位置する赤色矮星。2022年12月時点で、周囲に3つの系外惑星が存在していることが知られていて、さらに低質量の惑星候補の存在が示されている。

中心星に近すぎる海洋惑星

実は、もっと小さなものにも注目すれば、こうした天体は太陽系にも存在しています。

それは、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスなど、氷衛星と呼ばれる天体。
いずれの衛星も地球より密度が低く、岩石の中心核が厚い氷の層で覆われた構造をしていると考えられています。

大雑把に言えば、このような氷衛星をそのまま大きくして、中心星に近づければ、海洋惑星が出来上がります。

これまで私たちは、地球より少し大きな惑星は、金属と岩でできた球体だと考えていました。
それは、地球をそのまま大きくしたような天体なので“スーパーアース”と呼んできました。

ところが、今回の“ケプラー138c”と“ケプラー138d”は、スーパーアースとは性質が大きく異なり、体積のかなりの割合がおそらく水で構成されているようです。

このことは、天文学者たちが長きにわたって予測してきた海洋惑星というタイプの惑星が実在する。
っという、最も有力な証拠になるのかもしれません。

ただ、海洋惑星といっても、“ケプラー138c”と“ケプラー138d”の表面は、私たちが知る海とは全く違うはずです。

その理由は、どちらの惑星も中心星“ケプラー138”に近すぎて、温度が水の沸点を超えてしまうからです。

そのため、表面は厚い水蒸気の層で覆われていて、高い圧力がかかる深層の水は液体、または高温高圧下で気体と液体両方の性質を示す超臨界流体になっていると考えられます。
地球と“ケプラー138d”の内部。“ケプラー138d”には体積の50%以上を占める水の層があり、その深さは約2000キロに及ぶかもしれない。(Credit: Benoit Gougeon (University of Montreal)
地球と“ケプラー138d”の内部。“ケプラー138d”には体積の50%以上を占める水の層があり、その深さは約2000キロに及ぶかもしれない。(Credit: Benoit Gougeon (University of Montreal)
なので、“ケプラー138c”も“ケプラー138d”も海洋惑星かもしれませんが、その海に生命が存在できる可能性は低そうです。

その一方で、今回の研究では“ケプラー138”に生命の居場所が残っている可能性も示しています。

それは、4つ目の惑星“ケプラー138e”の発見にありました。

この惑星について得られているデータは少なく、分かっているのは比較的小さく、他の3つの惑星よりも中心星から遠く、38日かけて中心星を公転していること。

中心星の温度を考慮すると、この距離なら表面に液体の水が存在できるはずです。
もしかすると、“ケプラー138e”こそ、地球と同じ意味で「水の惑星」になっているのかもしれません。
今回の研究成果の紹介動画“Two Exoplanets May Be Water Worlds”(Credit: NASA Goddard Space Flight Center, Lead Producer: Paul Morris)


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赤色矮星を回るハビタブル惑星に朗報! 恒星に近くても大気を保持するメカニズムは存在するかもしれない

2023年01月18日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
今回の研究で用いられているのは、強い紫外線環境下における地球類似惑星を想定した大気シミュレーション。
このシミュレーションを検討することにより、強い紫外線環境では原子輝線放射冷却が重要な冷却過程になることを明らかにしています。
 今回の研究を進めているのは、立教大学理学研究科の中山陽史特任准教授を中心とする研究グループです。
その結果、示されたのは、地球のような惑星は強い紫外線環境でも、数十億年にわたって大気の保持が可能であることでした。

この研究の成果は、地球を含む地球型惑星の大気保持と温暖環境の保持に対して重要な示唆となるもの。
地球のようなハビタブル惑星の存在可能性の理解につながるものになるはずです。

太陽よりも表面温度が低く暗い恒星を公転する惑星

1995年の初検出以降、太陽以外の星を周回する惑星“系外惑星”は、すでに5000個以上検出されていて、多くの大規模観測計画が推進・立案されるなど、活発な研究分野になっています。

見つかっている系外惑星の中には、地球によく似た特性を持つ可能性がある惑星“ハビタブル惑星”も報告されています。
そういった惑星が地球のような温暖環境を保持し、生命を宿しうる惑星なのかは、人類にとって大きな謎のひとつになっているんですねー

ただ、温暖環境の保持に対して重要になる惑星大気は、恒星から届くX線と極端紫外線で構成される短波長(
 大気散逸とは、XUVの吸収によって高温化された高層大気が惑星重力による束縛から抜け出し、惑星外に散逸してしまうこと。現在の地球においては、軽いH(水素)原子やHe(ヘリウム)原子のみが大気散逸を引き起こしているが、強いXUV環境であれば地球類似惑星の大気主成分であるN(窒素)原子、O(酸素)原子の大気散逸が引き起こされ、大気の消失をもたらす。
特に、将来的な観測対象として期待されている、太陽系の近傍に多数存在する“赤色矮星”または“M型星”と呼ばれる、太陽よりも質量が小さく低温の星“低温度星”を公転する地球型惑星です。

でも、このような惑星は、数十億年といった長期間にわたって中心星からの強いXUV照射を受け続けることが示唆されているんですねー

赤色矮星は表面温度が低く光度も暗いので、“ハビタブルゾーン”は主星(恒星)から近くなってしまいます。
 “ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
惑星は強いXUV照射を受けてしまうことになり、地球のような温暖な環境を保持することは、理論的に難しいと考えられてきました。
低温度星で見つかった系外惑星“Kepler-1649c”のイメージ図。液体の水が存在する条件は満たしているが、大気の存在については否定的な声もある。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)
低温度星で見つかった系外惑星“Kepler-1649c”のイメージ図。液体の水が存在する条件は満たしているが、大気の存在については否定的な声もある。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)

加熱された大気を冷却するメカニズム

そこで今回の研究では、地球類似型惑星を想定した大気シミュレーションを用いて、強いXUV照射による影響を調査。
すると、強いXUV照射によって加熱された上層大気では、原子輝線放射冷却が重要な冷却過程になる事が明らかになります。(図1)
 原子輝線冷却とは、原子・イオンの周りを回転する電子のエネルギー状態の遷移に伴う放射過程。電子が持つエネルギー準位は原始・イオン種毎に固有であり、そのエネルギー分布は他気体種との衝突に伴う衝突遷移と、光子の吸収と放射を伴う放射遷移によって決定される。光を放出して低エネルギー状態に遷移する放射遷移は、大気中から宇宙空間にエネルギーを放射、つまり大気を冷却する役割を持つ。
原子輝線放射冷却は温度が上がるほど効率的に働くので、大気の高温化が抑制されます。
その結果、高い熱エネルギーを持つ大気粒子が惑星重力を振り切って脱出する大気散逸が抑制されることが確かめられました。

これまでの研究で考えられてきたのは、大気で吸収されたエネルギーの大部分が大気散逸に用いられること。
これに対して、今回の研究で推定されたのは、大気散逸率が10000分の1程度になることでした。

結果として、地球大気と同量の1bar大気の散逸時間は、強いXUV環境でも20億年程度と地質学的な時間スケールまで伸びうることが明らかになります。(図2)

このような強いXUV環境は、初期地球や低温度星を公転する系外惑星に相当し、そのような惑星でも長期的な大気の保持が可能だということが予測されます。

今回の研究成果は、初期地球における温暖環境の保持や、地球以外の温暖な環境を持つハビタブル惑星が存在する可能性に対して重要な示唆となりました。
今後の理論的・観測的な展開が期待されますね。
図1.1~5倍の現在の地球のXUVフラックスFXUVを仮定した場合に推定された温度構造。実線が原子輝線冷却を考慮した場合の計算結果。点線は原子輝線放射冷却を考慮していないこれまでの研究を模擬した計算結果。(Credit: 立教大学リリース)
図1.1~5倍の現在の地球のXUVフラックスFXUVを仮定した場合に推定された温度構造。実線が原子輝線冷却を考慮した場合の計算結果。点線は原子輝線放射冷却を考慮していないこれまでの研究を模擬した計算結果。(Credit: 立教大学リリース)
図2.異なるXUV強度における1bar大気の散逸時間。(Credit: 立教大学リリース)
図2.異なるXUV強度における1bar大気の散逸時間。(Credit: 立教大学リリース)


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超大質量ブラックホールの成長は宇宙誕生から数十億年の間が最も活発だった!? 機械学習が導き出した成長のメカニズム

2023年01月15日 | ブラックホール
銀河の中心にある超大質量ブラックホールの成長と、銀河本体の成長とは、どのように関係しているのでしょうか?
今回、機械学習を用いた研究によって、その深いつながりが導き出されたんですねー
この研究は、数十年来の仮説を裏付けるものになるようですよ。
今回の研究の概念図。機械学習により、ブラックホールと本体の銀河の組み合わせを多数テストし、その中から実際の観測と最もよく一致する組み合わせを選んでいる。(Credit: H. Zhang, M. Wielgus et al., ESA/Hubble & NASA, A. Bellini)
今回の研究の概念図。機械学習により、ブラックホールと本体の銀河の組み合わせを多数テストし、その中から実際の観測と最もよく一致する組み合わせを選んでいる。(Credit: H. Zhang, M. Wielgus et al., ESA/Hubble & NASA, A. Bellini)

機械学習でブラックホールの成長を予測する

ほぼすべての銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在すると考えられていて、その質量は太陽の数100万倍から数10億倍にも及びます。

このような超大質量ブラックホールは、どのようにして早く成長してきたのでしょうか?
また、そもそも、どのように作られるのでしょうか?
天文学者は長年この謎に取り組んできました。

今回、アリゾナ大学や国立天文台の研究者を中心とする国際チームは、機械学習を用いて、この謎の解明に挑んでいるんですねー

まず、超大質量ブラックホールが時間とともに、どのように成長するかを予測するための機械学習の基盤を構築。
それを用いて多数の成長法則を提案しています。

次に、それらの法則を使って、一つの仮想宇宙で難十億個ものブラックホールの成長をコンピュータで再現。
最後に、仮想宇宙を「観測」して、実際の宇宙で観測されるブラックホールと特徴が一致するかどうかをテストしています。

何百万もの法則をテストした後、既存の観測結果を最もよく説明できる法則を選出。
その結果、分かってきたのは、超大質量ブラックホールの成長が、宇宙誕生から数十億年の間が最も活発で、以降は大変ゆっくりと進むことでした。

一方で以前から知られていたこともあります。
それは、銀河は新たな星を形成する速度が、宇宙誕生から数十億年でピークに達した後、時間とともに減少して、やがて星形成が停止するという振る舞いを示してきたことです。

今回の研究では、銀河の中心にある超大質量ブラックホールも、銀河本体と同じ時期に成長し、その後に成長が止まることを示すことが出来ました。

このことは、数十年来あった、銀河におけるブラックホールの成長に関する仮説を裏付けるものです。

ただ、この結果が、さらなる疑問を投げかけることになるんですねー

ブラックホールの大きさは、銀河本体に対して大変小さいものです。
ブラックホールが銀河と同じ時期に成長するためには、スケールが大きく異なるガスの流れを同期させる必要があります。

ブラックホールと銀河が、どのようにしてそのバランスを保っているのか、今後の研究による解明が待たれますね。


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天体の合体現象だと短いはず… なのに、見つかったのは超新星爆発のような継続時間の長いガンマ線バーストだった

2023年01月13日 | 宇宙 space
天体の合体現象で発生するガンマ線バーストは継続時間が短いはず。
なのに、超新星爆発を起こすことで発生するガンマ線バーストのように、継続時間の長いガンマ線バーストが見つかったんですねー
これまで、大きく2つのタイプがあると考えられていたガンマ線バーストですが、この分類とは合わない奇妙なものもあるようです。

突発的なガンマ線の増光現象

ガンマ線バーストは、遠くの宇宙で発生する突発的なガンマ線の増光現象です。
 ガンマ線バーストは、0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象。1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象。
これまでの観測から考えられていたのは、ガンマ線バーストには大きく2つのタイプがあること。
1つは、重い星が超新星爆発を起こすことで発生し、継続時間が2~数分という長いバースト“ロングガンマ線バースト”。
もう1つは、中性子星同士や中性子星とブラックホールの合体で発生する、継続時間が2秒未満の短いバースト“ショートガンマ線バースト”です。

2021年12月11日、うしかい座の方向で検出されたのは、継続時間が約50秒のロングガンマ線バーストでした。

その残光は各地の望遠鏡で観測されていました。
ただ、それは普通のロングガンマ線バーストの残光よりはるかに暗く、短い時間で減光していったんですねー

このような残光の特徴は、むしろショートガンマ線バーストの特徴に一致することに…

そこで、この現象に対する研究成果が、4つの研究チームによる5編の論文として同時公開されます。
どれも、“GRB 211211A”は中性子星の合体で発生したロングガンマ線バーストという、かつてない「変わり種」のガンマ線バーストだとするものでした。
(左)ハワイのジェミニ北望遠鏡がとらえた“GRB211211A”の残光と母銀河“DSS J140910.47+275320.8”。(右)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた残光。(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/M. Zamani; NASA/ESA)
(左)ハワイのジェミニ北望遠鏡がとらえた“GRB211211A”の残光と母銀河“DSS J140910.47+275320.8”。(右)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた残光。(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/M. Zamani; NASA/ESA)

起源は中性子星同士の合体で起こるキロノバ

“GRB 211211A”のガンマ線検出から数分後には、可視光線や紫外線、X線により対応天体の位置を同定。
このガンマ線バーストが発生しのは、うしかい座の方向約11億光年彼方に位置する“SDSS J140910.47+275320.8”という銀河だということが分かっています。

これまで、ほとんどのガンマ線バーストは、60億光年以上離れた遠方の銀河で発生していました。
でも、“GRB 211211A”の母銀河はかなり近かったので残光が明るく、詳細な観測データが得られています。

この観測データから、アメリカ・ノースウェスタン大学のJillian Rastinejadさんたちは、“GRB 211211A”の残光が可視光線よりも近赤外線でより明るいことを発見。
これは、中性子星同士の合体で起こる“キロノバ”と同じ特徴でした。
 “キロノバ”は、中性子星の連星または中性子星とブラックホールの連星が融合することによって発生すると考えられている爆発現象。白色矮星への質量降着による爆発で生じる新星(ノバ)の約1000倍の明るさに達することからキロノバと呼ばれる。超新星(スーパーノバ)と比べると10分の1から100分の1程度の明るさになる。中性子を多く持つ鉄より重い元素のほぼ半分を合成すると考えられている。
“キロノバ”では大量の重元素のチリが放出されるので、可視光線はチリにさえぎられてしまいます。
でも、赤外線はチリを透過できるので、そのまま地球に届くんですねー

この特徴から“GRB211211A”は“キロノバ”が起源だと、Rastinejadさんたちは結論付けています。

また、イタリア・ローマ・トル・ベルガータ大学のEleonora Trojaさんたちも、独立した残光の観測から、このガンマ線バーストは“キロノバ”が起源ではないかと推定しています。

いろいろある発生のメカニズム

“キロノバ”がショートガンマ線バーストではなく、ロングガンマ線バーストに関連していることが示唆された観測例は、今回の“GRB211211A”が初めてのことでした。

ただ、“GRB211211A”が発生した母銀河は若くて星形成が活発な銀河。
なので、タイプとして近いのは、ロングガンマ線バーストの起源とされる大質量星の超新星爆発がよく起こる銀河になります。
“キロノバ”がよく発生する、星形成が衰えて老齢の星が多い銀河とは対照的なんですねー
中性子星の衝突で引き起こされるキロノバのイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)
中性子星の衝突で引き起こされるキロノバのイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)
さらに、“GRB211211A”では、ガンマ線バーストの発生から約16分後に、エネルギーが数GeVという別のガンマ線放射が5時間以上も続いたことが分かっています。

そこで、イタリア・グランサッソ科学研究所のAlessio Meiさんたちは、このガンマ線放射が“キロノバ”から放射された光が「種」になったのかもしれないと考えます。

ただ、天体の合体現象の残光で、こうした高エネルギーのガンマ線が過剰に検出されたのは、これが初めてでした。

このガンマ線は、“キロノバ”から出た可視光線とジェットの中の電子が衝突して発生した可能性があります。
ジェットは、元々のガンマ線バーストのジェットが弱まったものかもしれないし、中性子星の合体でできたブラックホールやマグネターから新たに発生したものかもしれません。

Jillian Rastinejadさんの研究チームのメンバーでもあるイギリス・バーミンガム大学のBenjamin Gompertzさんたちは、高エネルギーガンマ線のスペクトル観測から、このガンマ線が光速に近い電子から発生する“シンクロトロン放射”であることを突き止めています。

Gompertzさんたちが考えているのは、中性子星の合体でできた“原始マグネター”の磁場によって電子が加速され、高エネルギーのガンマ線が発生したというメカニズムです。

一方、南京大学のBin-Bin Zhangさんたちは、このいくつもの奇妙な特徴を持つ“GRB211211A”の正体について、白色矮星と中性子星の連星が合体して“キロノバ”になり、合体後には“マグネター”ができたと考えると全ての特徴を説明できるとしています。
2つの中性子星が合体する様子を描いたイラスト。高速の粒子ジェットが噴出するとともに、周囲では合体の残骸物質の雲ができる。(Credit: A. Simonnet (Sonoma State University) and NASA’s Goddard Space Flight Center)
2つの中性子星が合体する様子を描いたイラスト。高速の粒子ジェットが噴出するとともに、周囲では合体の残骸物質の雲ができる。(Credit: A. Simonnet (Sonoma State University) and NASA’s Goddard Space Flight Center)
過去20年以上にわたるガンマ線バーストの研究から、大質量星からロングガンマ線バーストが起こり、中性子星合体からショートガンマ線バーストが起こるという、バーストの継続時間と起源天体を直接対応付けるきれいな結論が導かれていました。

でも、自然はこのような理論よりもずっと複雑であることが今回の研究で分かったわけですね。
ガンマ線バースト“GRB211211A”の紹介動画“NASA's Fermi, Swift Capture Revolutionary Gamma-Ray Burst”。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)


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初期宇宙に見つかった“赤い渦巻銀河”は、いつ、どのように生まれたのか?

2023年01月11日 | 銀河・銀河団
地球が属する天の川銀河は渦巻構造をもつ“渦巻銀河”の仲間です。
では、この渦巻銀河は、いつ、どのように生まれ、形作られたのでしょうか?
このことについては、望遠鏡の感度や空間分解能の限界から、これまでよく分かっていませんでした。

なので、今回の研究では、NASAが2022年から運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のデータを元に分析。
すると、80億年から100億年前の宇宙に、これまで見られなかった赤い渦巻銀河を初めて発見したんですねー

今回のパイロット調査を元に、さらに詳しく渦巻銀河形成についての分析を進めることができれば…
いまだ謎が多い銀河の成り立ちに関して、さらに新たな知見が加わりそうです。

初期の宇宙に見つけた赤い渦巻銀河

今回の研究で見つけたのは、これまで確認されていなかった特異な“赤い渦巻銀河”。
さらに、その銀河が80億年から100億年前という初期の宇宙に存在することを明らかにしています。
今回の研究を進めているのは、早稲田大学理工学術院総合研究所の次席研究員・国立天文台アルマプロジェクト特任研究員の札本 佳伸(ふだもと よしのぶ)と同大理工学術院の教授の井上 昭雄(いのうえ あきお)および同大理工学術院総合研究所の次席研究員・国立天文台アルマプロジェクト特任研究員の菅原 悠馬(すがはら ゆうま)の研究グループです。
この研究の成果は、2022年からNASAで運用が開始されたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のデータを元にしたものとしては、国内の研究機関から初めて出版される論文になるそうです。
図1.渦巻銀河の例“M74”(出典NASA)。渦巻構造中に見える赤い領域は活発な星形成活動を行っている領域。私たちの住む地球が属する天の川銀河も、このような構造を持っていると考えられていて、近傍の宇宙には比較的数多く存在する銀河である。(Credit: 早稲田大学リリース)
図1.渦巻銀河の例“M74”(出典NASA)。渦巻構造中に見える赤い領域は活発な星形成活動を行っている領域。私たちの住む地球が属する天の川銀河も、このような構造を持っていると考えられていて、近傍の宇宙には比較的数多く存在する銀河である。(Credit: 早稲田大学リリース)

渦巻銀河はいつ、どのように生まれたのか?

エドウィン・ハッブルによる銀河の分類法“ハッブル分類”にも見られるように、現在の宇宙には楕円銀河や渦巻銀河など、見た目から分かり易い形を持った銀河が多く存在しています。

なかでも渦巻銀河は、銀河中心に“バルジ”と呼ばれる楕円体の構造を持ち、特徴的な渦巻状の腕“渦状腕(かじょうわん)”を持つ、美しい円盤銀河です。(図1)

現在の宇宙にある渦巻銀河の多くは、比較的活発な星形成活動を行っていて、私たちの住む天の川銀河もその一つになります。

このような渦巻構造を持つ銀河がいつ、どのように生まれ、どれほど過去の宇宙に存在するのでしょうか?
このことは、これまでの研究では分かっていませんでした。

特に、80億年以上前の初期宇宙では、NASAのハッブル宇宙望遠鏡などによる観測の結果から、不規則な形態を持つ銀河が多いことが知られ、渦巻銀河はほとんど発見されてきませんでした。

このことから考えられるのは、渦状腕など銀河の形が整うためには、銀河が生まれてから長い時間が必要なこと。
そう、もっと時代が下った、現在に近い時代の宇宙にしか存在しないのかもしれません。

また、近年のすばる望遠鏡による大規模な探査によって明らかになったこともあります。

それは、現在の宇宙にある渦巻銀河の98%は比較的活発な星形成活動を行っていて、星形成活動が止まってしまった“年老いた”渦巻銀河は2%程度しか存在しないことでした。
年老いた銀河は、パッシブな銀河とも呼ばれる。星形成活動がほとんどなく、その内部に存在する星は形成されてから比較的長い時間が経っているため年老いている。星形成活動に必要なガスが存在しない、赤い色を持つなどの特徴がある。
年老いた渦巻き銀河の数が少ないということは、現在の宇宙だけの特徴なのでしょうか?
それとも、過去の時代の宇宙にある銀河を見れば、現在とは異なる様子が見られるのでしょうか?
この疑問に対しては、これまでの望遠鏡の感度や空間分解能の制限から、まだ答えを得られていません。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が明らかにしてくれること

今回、研究チームが注目したのは、2022年から運用を開始したNASAのジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が、世界に向けて初公開したデータ。
特に、これまでの観測ではとらえていなかった特異な銀河“赤い渦巻銀河”でした。

これらの“赤い渦巻銀河”は、すでにハッブル宇宙望遠鏡や赤外線天文衛星“スピッツァー”による観測でも検出はされていました。
でも、空間分解能や感度の制限から、その詳細な形態や性質については知られていなかったんですねー

今回、スピッツァーより10倍の空間分解能、50倍の高感度を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の革新的な性能により、その詳細な形態が初めて明らかになりました。(図2)
図2.この研究で詳細を調査した“赤い渦巻銀河”の代表例“RS13”と“RS14”の画像。上段がこれまでの赤外線天文衛星“スピッツァー”による観測データ(約4ミクロンの赤外線単波長データを使用)。下段が今回ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって同じ銀河に対して得られたデータ(約1ミクロンから4ミクロンの赤外線波長データを用いて作られた疑似画像)。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の極めて優れた分解能と感度によって“RS13”と“RS14”ともに渦巻き構造を持っていることが初めて明らかになり、さらに“赤い渦巻銀河”というこれまで知られていなかった銀河種族の存在が明らかになった。(Credit: 早稲田大学リリース)
図2.この研究で詳細を調査した“赤い渦巻銀河”の代表例“RS13”と“RS14”の画像。上段がこれまでの赤外線天文衛星“スピッツァー”による観測データ(約4ミクロンの赤外線単波長データを使用)。下段が今回ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって同じ銀河に対して得られたデータ(約1ミクロンから4ミクロンの赤外線波長データを用いて作られた疑似画像)。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の極めて優れた分解能と感度によって“RS13”と“RS14”ともに渦巻き構造を持っていることが初めて明らかになり、さらに“赤い渦巻銀河”というこれまで知られていなかった銀河種族の存在が明らかになった。(Credit: 早稲田大学リリース)
今回の研究は、この“赤い渦巻銀河”がどのような性質をも持つのかを調べるパイロット調査。
最も赤い色を持つ2つの銀河“RS13”と“RS14”について、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡から得られた測光データや分光データを元に分析を実施しています。

すると、これらの“赤い渦巻銀河”が、80億年から100億年程度過去の、初期宇宙に存在する銀河であることが分かります。
さらに、“RS14”は星形成を行っていない、“年老いた”銀河であることも明らかになりました。

年老いた渦巻き銀河は、現在の宇宙では極めて珍しいもの。
なんですが、今回のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の初期観測データという、ほんの小さな領域の観測から発見されています。

このことが示唆しているのは、年老いた渦巻き銀河が遠方宇宙ではこれまで考えられてきたよりも多く存在する可能性でした。

一方で、初期宇宙に存在する赤い渦巻銀河や年老いた渦巻銀河は、どのようにして形成されてきたのか、といった疑問が新たに生じる結果になりました。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が初めて公開した画像の中に見られた特徴的な銀河“赤い渦巻銀河”について、パイロット調査が行われました。

これにより、初期宇宙においても渦巻銀河は多数存在し、またその中には年老いた渦巻き銀河といった、近傍宇宙では極めて珍しい銀河も存在することが初めて示されました。

これらの発見から、渦巻銀河形成の歴史や、ひいては宇宙の歴史全体の中で銀河の形態がどのように変化してきたのかについての研究に、新たな視点を与えることができたのかもしれません。

今後、さらに多数の赤い渦巻銀河について調査を行い、過去の宇宙に存在する渦巻銀河や年老いた渦巻銀河に対する研究を進めていけば、いまだ謎多き銀河の成り立ちに関して、新たな知見を加えることができるはずです。


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