宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

NASAとの協力拡大で火星探査車を2028年に打ち上げへ! ロシアによるウクライナ侵攻で中止になっていたエクソマーズ2022

2024年05月25日 | 火星の探査
2024年5月16日のこと。
ヨーロッパ宇宙機関とNASAは、ヨーロッパ宇宙機関の火星探査計画“エクソマーズ(ExoMars)”における、火星探査車“ロザリンド・フランクリン(Rosalind Franklin)”のミッションに関する覚書に署名したことを発表しました。
○○○
図1.火星表面で探査を行うヨーロッパ宇宙機関の火星探査車“ロザリンド・フランクリン”のイメージ図。(Credit: ESA/Mlabspace)
“ロザリンド・フランクリン”は、かつて火星に存在していた、あるいは今でも存在するかもしれない、生命や生命の痕跡の探索を目的として開発された探査車です。

放射線や厳しい温度環境から保護されているとみられる地下2メートルからサンプルを採取するためのドリルをはじめ、ラマン分光装置、赤外線ハイパースペクトルカメラ、有機分子分析装置などが搭載されています。
マリネリス渓谷の北東に位置するオクシア平原に着陸する予定です。

これまで、ヨーロッパ宇宙機関およびロシアの国営宇宙企業ロスコスモスの共同計画として、“エクソマーズ”は進められてきました。
その“エクソマーズ”の2回目のミッション“エクソマーズ2022(ExoMars 2022)”として、“ロザリンド・フランクリン”はロシアの着陸機“カザチョク(Kazachok)”に搭載され、2022年9月に打ち上げられる予定でした。

でも、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて打ち上げは中止。
ヨーロッパ宇宙機関では、“ロザリンド・フランクリン”を火星へ送り込むための代替案を検討していました。

今回、ヨーロッパ宇宙機関とNASAが合意したのは、“ロザリンド・フランクリン”のミッションにおけるヨーロッパ宇宙機関とNASAの取り組みを拡大する協定です。

この合意によりNASAは、“ロザリンド・フランクリン”の打ち上げサービス、着陸に必要となる推力可変機能を備えたロケットエンジン、それにアメリカ合衆国エネルギー省との協力の下で放射性同位体を用いたヒーターを、ヨーロッパ宇宙機関へ提供します。

ヨーロッパ宇宙機関は、“カザチョク”に代わる着陸機を調達するために、ヨーロッパの民間宇宙企業タレス・アレニア・スペース(Thales Alenia Space)と契約を締結。
NASAが提供するロケットエンジンやヒーターは、この着陸機(開発中)に搭載されることになります。

また、“ロザリンド・フランクリン”を搭載した着陸機を火星へ送るための打ち上げサービスプロパイダーは、NASAがアメリカで調達することになります。

もともと、“エクソマーズ”はヨーロッパ宇宙機関とNASAが共同で取り組む予定でした。
その後、NASAが脱退しロシアとの共同体制で進められてきたという経緯があります。

ヨーロッパ宇宙機関とNASAの協力が拡大したことで、火星に向けて一歩前進した“ロザリンド・フランクリン”は、2028年10月~12月の期間にアメリカから打ち上げらる予定です。


こちらの記事もどうぞ


最も遠方の宇宙に合体しつつある超大質量ブラックホールを検出! 超大質量ブラックホールは最初期の頃から銀河の進化と関係していた

2024年05月24日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
国際的な天文学者チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、宇宙誕生7億4000万年後の宇宙で2つの銀河と、その中心に位置する超大質量ブラックホール(※1)が合体しつつあることを発見しました。

この発見は、これまでに検出されたブラックホール同士の合体として最も遠いもので、宇宙の初期に検出された初めての例になります。
※1.超大質量ブラックホールは、太陽の数十万~数十億倍以上もの質量を持つブラックホール。ほぼ全ての銀河の中心には、このような大きなブラックホールが存在すると考えられている。


ブラックホールの急成長

“ZS7”と呼ばれる合体しつつある銀河のペアに存在るブラックホールの質量は、どちらも太陽の5000万倍ほど。
ただ、一方のブラックホールは高密度のガスの中に埋もれているので、はっきりしたことは分かっていません。
図1.“ZS7”周辺の宇宙をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”で撮影したもの。画像の中心付近に“ZS7”が写っている。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, D. Magee, P. G. Pérez-González, H. Übler, R. Maiolino, et. al)
図1.“ZS7”周辺の宇宙をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”で撮影したもの。画像の中心付近に“ZS7”が写っている。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, D. Magee, P. G. Pérez-González, H. Übler, R. Maiolino, et. al)
今回の研究では、ブラックホールの近傍で高速運動する非常に高密度のガスや、ブラックホールが降着円盤を形成する際に発生する高エネルギー放射に照らされた高温の電離ガスの証拠を発見しています。
図2.右端が“ZS7”を拡大したもの。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, D. Magee, P. G. Pérez-González, H. Übler, R. Maiolino, et. al)
図2.右端が“ZS7”を拡大したもの。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, D. Magee, P. G. Pérez-González, H. Übler, R. Maiolino, et. al)

宇宙誕生から10億年ほどの間に、すでに大質量のブラックホールが存在していたことが分かっています。
このことが意味しているのは、ブラックホールは短期間のうちに急速に成長し大質量のブラックホールになったことです。

また、銀河とその中心に位置する超大質量ブラックホールは、互いに影響しあいながら成長してきたことも分かっています。

このことから、ブラックホールが急成長をする重要な経路として、銀河中心のブラックホール同士の合体があると考えられています。

また、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による他の発見と合わせると、今回の結果は、超大質量ブラックホールが最初期の頃から銀河の進化と関係してきたことを示しています。


超大質量ブラックホールに伴う重力波の検出

今回発見された2つのブラックホールが合体すれば、重力波(※2)が発生することが考えられます。
※2.一般相対性理論によると、中性子星のような高密度な天体の周りでは時空(時間と空間)が歪んでいる。このような高密度な天体が運動することで、歪みが波として宇宙空間に伝播する。これを重力波という。
2015年以降、アメリカの“LIGO”や欧州重力波観測所の“Virgo”といった重力波望遠鏡の観測によって、ブラックホール同士の合体などに伴って放出されたとみられる重力波が、何度も検出されてきました。
ただ、検出された重力波は、比較的軽い恒星質量ブラックホール同士によるものでした。

超大質量ブラックホール同士の連星が合体する前に放出されるような低い周波数の重力波は、地球上の検出器ではとらえることができないんですねー

それは、地上の重力波望遠鏡がターゲットにしているのは、互いの周りを回るような激しい公転天体からの1秒間に数十回から数千回もの重力波だからです。
これらの重力波望遠鏡は、10Hz~10kHzの周波数帯で重力波を検出する設計になっています。

一方で、極めて接近した白色矮星同士の連星や、超大質量ブラックホール同士の連星が合体した場合に発生する重力波だと、発生する重力波の周波数は0.0001~1Hzという比較的ゆっくりとした低い周波数になります。

このようなゆっくりとした重力波は、地震波のような地面の振動の周波数に近くなります。
そう、地面の振動の周波数に埋もれてしまい、地上の重力波望遠鏡で観測することが非常に難しくなる訳です。

たとえば、ヨーロッパ宇宙機関は2035年の打ち上げを目指して、宇宙重力波望遠鏡“LISA(Laser Interferometer Space Antenna:レーザー干渉計宇宙アンテナ)”の開発を進めています。

“LISA”では3つの衛星が連携し、衛星間でレーザー光を往復させることで干渉計として機能させます。
約250キロの基線長を実現できるので、1mHz(ミリヘルツ)以下の周波数帯で重力波を検出できる感度を持たせるようです。

なので、“LISA”を用いることができれば、超大質量ブラックホール同士の合体に伴う重力波の検出が期待できますね。


こちらの記事もどうぞ


生命活動に関連して放出される化学分子の存在を証明することは困難… 系外惑星“K2-18b”にジメチルスルフィド存在するのか

2024年05月22日 | 系外惑星
太陽以外の恒星の周りを公転する太陽系外惑星(系外惑星)の中には、地球のように適度な温度と豊富な液体の水を持つかもしれない惑星がいくつか見つかっています。

その一つ“K2-18b”について、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による大気組成の観測の結果、豊富なメタンと二酸化炭素に加えて、生命活動と関連のあるバイオマーカーとして注目されている“ジメチルスルフィド”が見つかったと、2023年9月に発表された研究では報告されていました。

でも、今回の研究では、この報告に否定的な結果でているんですねー

本研究では、“K2-18b”模した惑星の大気をコンピュータでモデル化。
シミュレーションにより熱や光によって生じる化学反応を再現してみると、この観測データを元にジメチルスルフィドを検出できたという先の研究結果は、怪しことが示されたそうです。

ただ、“K2-18b”については、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による追加観測が予定されています。
なので、今後の観測でジメチルスルフィドが検出される可能性は残されているようです。
この研究は、カリフォルニア大学リバーサイド校のShang-Min Tasaiさんたちの研究チームが進めています。
図1.赤色矮星“K2-18”(左側の赤色の天体)の周りを公転する惑星“K2-18b”(右側の青色の天体)のイメージ図。“K2-18”には、他に“K2-18c”という惑星も公転している(中央の褐色の天体)。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))
図1.赤色矮星“K2-18”(左側の赤色の天体)の周りを公転する惑星“K2-18b”(右側の青色の天体)のイメージ図。“K2-18”には、他に“K2-18c”という惑星も公転している(中央の褐色の天体)。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))


生命活動に関連して放出される化学分子

観測技術の進歩によって、天文学者は地球と似た環境を持つと推定される系外惑星をいくつも見つけています。

地球と似た環境があれば、そこに独自の生命体が存在するかもしれないと考えるのは自然なことです。

では、仮に独自の生命体が存在するとして、その証拠はどのようにして見つければいいのでしょうか?

生命活動に関連して放出される化学分子を見つけることは、生命探索の大きな手掛かりの一つとなります。
バイオマーカーと呼ばれるこれらの分子は、生命活動によって大量に生成されることを特徴としています。

分子の種類によっては、生命活動に伴って生成される量の方が、その他の要因によって生成される量を上回ることもあります。


代表的なバイオマーカーの発見

地球から約120光年彼方に位置する惑星“K2-18b”は、ジメチルスルフィドと呼ばれる硫黄化合物の発見が報告されたことで注目されました。

ジメチルスルフィドは、生命と関係のない自然界の化学反応でも生成されます。
でも、地球では特に植物プランクトンの活動によって大量に生成されることが知られている、代表的なバイオマーカーとなります。

2023年9月のこと、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測結果を元に、“K2-18b”の大気組成を調べた研究成果が発表されます。
すると、この研究成果が大きな注目を集めることになるんですねー

それは、バイオマーカーの一つジメチルスルフィドの発見に加え、二酸化炭素とメタンが豊富に見つかった一方で、アンモニアが見つからなかったことが理由でした。

この組み合わせは、1%の水素を含む温暖な気候の大気と、その下に液体の水で構成された海が存在する環境で得られると考えられています。

ただ、最も興味深い分子ジメチルスルフィドについては、その存在を示す信号が弱いため、この結果を発表した研究者自身も予備的な結果だと認めていました。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された“K2-18b”の大気組成。真ん中の赤い帯内にジメチルスルフィドの存在を示すスペクトル線が現れている。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された“K2-18b”の大気組成。真ん中の赤い帯内にジメチルスルフィドの存在を示すスペクトル線が現れている。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))


シミュレーションによる推定

今回の研究では、“K2-18b”のような大気組成を持つ天体で、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が観測可能なほどの高濃度なジメチルスルフィドが生じるのかをシミュレーションしています。

ジメチルスルフィドは生命活動もしくは自然のプロセスによって発生し、恒星からの紫外線によって分解されます。

ジメチルスルフィドの濃度がジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるほどのレベルになるのかどうかを最終的に決定するのは、生じる量から分解する量を差し引いた値になります。

本研究では、生物が全く存在しない場合から、地球よりも豊富な生物が存在する場合までの様々な条件を設定。
ジメチルスルフィド以外の化合物も含めた、様々な分子の生成量を推定しました。

他の分子の生成が想定されたのは、いくつかの硫黄化合物が雲の生成に関与していると考えたからです。
雲は日光を遮断し、紫外線によってジメチルスルフィドが分解されるのを防ぐ効果があります。

シミュレーションの結果、ジメチルスルフィドの濃度がジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の性能で“K2-18b”の大気中から検出できるほど高くなるには、地球の20倍以上の生物の存在が必要だと分かりました。

さらに分かったのは、これほど生命豊かな環境を想定しても、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データからジメチルスルフィドの存在を証明することは、困難であることに変わりはないこと…

この結果からすると、“K2-18b”が生命あふれる惑星だと考えるよりも、ジメチルスルフィドを検出したという結果が幻であると考えるほうが妥当なのかもしれません。
図3.今回の研究結果により、“K2-18b”は地球よりはるかに生命が豊富か、もしくはバイオマーカーの検出が幻という両極端な可能性が見えてきた。現時点では後者の可能性が妥当だと考えられる。(Credit: Shang-Min Tsai (AI生成))
図3.今回の研究結果により、“K2-18b”は地球よりはるかに生命が豊富か、もしくはバイオマーカーの検出が幻という両極端な可能性が見えてきた。現時点では後者の可能性が妥当だと考えられる。(Credit: Shang-Min Tsai (AI生成))
ただ、2024年後半にはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“K2-18b”の追加観測が予定されています。
この観測により、今回の研究が示す少し残念な結果は早めに覆る可能性もあります。

現在の観測結果だけでは、ジメチルスルフィドの存在をはっきり確定させることはできません。
この追加観測によって、白黒をはっきりさせるデータが得られるかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ


全体がマグマで覆われた惑星“TOI-6713.01”を発見! 潮汐力と恒星からの放射による加熱

2024年05月20日 | 系外惑星
ある天体の近くを別の天体が公転している場合、潮汐力によって内部が過熱されて地質活動が活発になることがあります。

そのような天体の一例が木星の衛星イオです。
イオは、ほぼ常に複数の火山が噴火しているほど地質活動が活発です。

今回の研究では、地球から約66光年離れた恒星“HD 104067”について、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”による観測データを分析。
その結果、これまで見逃されていた3番目の惑星の候補を見つけています。

今回見つかった惑星候補“TOI-6713.01”は、他の惑星からの潮汐力によって表面温度が最大約2400℃に加熱され、全体がマグマで覆われているようです。
近くからは、まるで“スター・ウォーズ”に登場する惑星“ムスタファー”のように見えるそうです。

さらに、近い将来には“TOI-6713.01”のマグマからの熱放射を観測できる可能性もあるようです。
この研究は、カリフォルニア大学リバーサイド校のStephen R. Kaneさんたちの研究チームが進めています。
図1.表面がマグマで覆われた高温の惑星のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA & Dani Player(STScI))
図1.表面がマグマで覆われた高温の惑星のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA & Dani Player(STScI))


潮汐力によって天体の内部が変形し加熱される現象

地球の海では、衛星の月の重力によって周期的に潮の満ち引きが発生しています。
このように、他の天体の重力の影響で副次的に発生する力を“潮汐力”と呼びます。

潮の満ち引きほど目立ちませんが、潮汐力は岩石や氷のような硬い個体にも働いています。

別の天体の重力がもたらす潮汐力によって、天体の内部が変形し加熱される現象があります。
この現象は“潮汐加熱”といい、内部の変形を繰り返すことで発生した摩擦熱により、天体内部は熱せられることがあります。

潮汐力は、天体同士の距離が激しく変化するほど強くなる傾向にあります。
一番分かりやすいのは、天体の公転軌道が主星に対して円形でない(離心率が大きい)場合です。

離心率とは、公転軌道が真円からどの程度離れているのかを示す値。
真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1よりも大きくなります。

たとえば、月の公転軌道は離心率0.0549の楕円形なので、地球に近付く時と遠ざかる時の距離の差は約4万km。
地球に近付いて大きく見えるタイミングの満月はスーパームーンと呼ばれています。

この離心率が大きい(楕円)の公転軌道を持つ天体は、主星に近づくたびに内部の変形が起こり摩擦熱が発生することになります。


太陽系の衛星の中で最も火山活動が活発な天体

太陽系内には、潮汐力を受けている天体が地球の他にも複数存在しています。
その典型的な例が木星のガリレオ衛星です。

ガリレオ衛星は、木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)のことです。
ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれています。
衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができたわけです。

ガリレオ衛星の1つエウロパの公転軌道は真円に近く、木星から受ける潮汐力が大きいことから、地球の月のように公転周期と自転周期が一致し、常に同じ面を木星に向ける“潮汐ロック”という現象が発生しています。
さらに、他のガリレオ衛星からも潮汐力を受けているので、エウロパでは内部の氷が解けて、地下に広大な海が存在するのではないかと考えられています。

衛星イオも、木星と他のガリレオ衛星から潮汐力を受けていますが、その影響はもっと激しいものとなっています。
潮汐力による内部の加熱により、イオの表面には最高で1300℃にも達する熱い火山が無数にあり、高温のマグマを放出。
内部を加熱する熱の発生量は100兆ワットと推定されていて、これは地球の熱(47兆ワット)の2倍以上になります。
図2.NASAの探査機“ニューホライズンズ”によって撮影された、イオの3つの火山が同時に噴火している画像。(Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory & Southwest Research Institute)
図2.NASAの探査機“ニューホライズンズ”によって撮影された、イオの3つの火山が同時に噴火している画像。(Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory & Southwest Research Institute)
イオは太陽系の衛星の中では、最も火山活動が活発なことが有名で、その表面に確認されている火山は400以上。
そこからは硫黄を含むガスが放出されているようです。
地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体になります。(※1)
※1.金星では2023年に、現在でも地質活動が続いている可能性が高い証拠が見つかっている。でも、噴火は確認されていない。


潮汐力による過熱と恒星からの放射により全体がマグマで覆われ惑星

太陽以外の恒星を公転する太陽系外惑星(系外惑星)の中には、惑星同士の距離が木星のガリレオ衛星並みに近いものも複数見つかっています。

惑星同士の距離の近さから連想されるのは、ガリレオ衛星のイオのような潮汐力によって極端に加熱された惑星の存在。
このような惑星は、時に“スーパー・イオ”と呼称されます。

今回、研究チームは、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”の観測データを分析する作業の中で、恒星“HD 104067”のデータに注目。
“HD 104067”には、この研究以前に2個の惑星が見つかっていて、研究チームが見つけたのは3個目の惑星の存在を示すデータでした。

3つ目の惑星が公転しているのは、“HD 104067”惑星系の中で最も内側。
その公転周期はわずか約2.15日で、直径は地球の約1.30倍だと推定されています。

論文の発表時点では、本当に惑星が存在しているかどうかは確定していませんでした。
なので、この惑星には“TESS”のデータから発見された惑星候補を示す“TOI”(※2)から始まる、“TOI-6713.01”という名前が付けられています。
※2.TOIは“TESS Objects of Interest”の略で、日本語では“TESSの観測によって得られた関心の高い天体(候補)”という意味となる。
“TOI-6713.01”には、より外側の軌道を公転する惑星が存在していること、それら惑星同士の距離が近いことから、重力による潮汐力を受けていることが考えられます。

研究チームの計算から分かったのは、潮汐力の強さはイオの数百万倍(8垓6000京W)にも達すること。
この極端な状況を、研究チームでは“完璧な潮汐嵐(A Perfect Tidal Storm)”と表現し、論文のタイトルとしています。

潮汐力による過熱と恒星からの放射を合わせると、“TOI-6713.01”の表面温度は最大で2373℃(2647K)まで加熱されていると予測されます。
これは、表面の岩石が溶ける温度を十分に上回っているので、予測通りであれば“TOI-6731.01”は表面全体がマグマで覆われているはずです。


マグマからの熱放射を直接観測

潮汐力による過熱と恒星からの放射で加熱された“TOI-6713.01”は、まるで“スター・ウォーズ”に登場する火山とマグマに覆われた惑星“ムスタファ―”のように、赤く光る惑星のように見えるはずです。

地球から遠く離れている“TOI-6713.01”ですが、惑星の状況を間接的に知ることができる可能性はあります。
それは、“TOI-6713.01”の表面温度が、低温の恒星の表面よりも高い温度に達していると予測されているからです。

高い表面温度により、“TOI-6713.01”からは赤外線が放射されているはずです。
その赤外線を観測データから抽出できれば、惑星について何か分かるかもしれません。

残念ながら、今回の観測で使用された“TESS”の場合、観測できる波長の範囲が狭いことや、“TOI-6713.01”からの放射が弱すぎるので、赤外線放射の観測データを抽出することはできませんでした。

でも、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のような高い赤外線感度と高性能な分光器を持つ望遠鏡が使用できれば、“TOI-6713.01”のマグマからの熱放射を直接観測できるかもしれません。

もし、観測に成功した場合、惑星全体がマグマで覆われているような極端な環境を持つ惑星について、潮汐力と熱の関係に関する興味深いケーススタディとなるはずです。
そのためには、まず“TOI-6713.01”の存在を確定し、より多くの観測データをそろえる必要がありますね。


こちらの記事もどうぞ


JAXAとヨーロッパ宇宙機関共同の水星探査ミッション“ベピコロンボ” 推進システムに十分な電力を供給できない不具合が発生

2024年05月19日 | 水星の探査
JAXAとヨーロッパ宇宙機関が共同で推進する水星探査ミッション“ベピコロンボ”で、不具合が発生していることが公表されました。
発生している不具合は、電気推進システムがフルパワーで動作しないというものです。
図1.水星に接近する“ベピコロンボ”のイメージ図。手前側に太陽電池アレイを備えた電気推進モジュール(イオンエンジン)が見えている。(Credit: spacecraft: ESA/ATG medialab; Mercury: NASA/JPL)
図1.水星に接近する“ベピコロンボ”のイメージ図。手前側に太陽電池アレイを備えた電気推進モジュール(イオンエンジン)が見えている。(Credit: spacecraft: ESA/ATG medialab; Mercury: NASA/JPL)


ラスターに利用できる十分な電力が供給できない問題

“ベピコロンボ”は、JAXAとヨーロッパ宇宙機関のそれぞれの周回探査機で、水星の総合的な観測を行う日欧協力の大型ミッションです。
周回探査機は、JAXAの水星磁気圏探査機“みお(MMO : Mercury Magnetospheric Orbiter)”とヨーロッパ宇宙機関の水星表面探査機“MPO(Mercury Planetary Orbiter)”の2機。
この2機の周回探査機は、飛行を担当するヨーロッパ宇宙機関の電気推進モジュール“MTM(Mercury Transfer Module)”に積み重なった状態で搭載され、水星を目指しています。

現在、“ベピコロンボ”は、“みお”と“MPO”、そして“MTM”が結合した状態で水星に向かっています。
“MTM”の太陽電池アレイと電気推進システムは、水星までの航行中に“ベピコロンボ”の推力を生み出すために使用されています。

ヨーロッパ宇宙機関によると、2024年4月26日にスラスターに十分な電力を供給できない問題が“MTM”に発生。
問題を把握した運用チームは、すぐに復旧作業を開始し、5月7日までに“ベピコロンボ”の推力は元のレベルの約90%まで回復しています。

でも、“MTM”が利用可能な電力は依然として本来よりも低く、全ての推力を回復することは、まだ実現できていないとしています。

現在運用チーム進めているの、現状の電力レベルで安定した推進力を維持することで、今後の飛行にどのような影響を与えるかを推定すること。
一方、問題の根本的な原因を特定し、スラスターに利用できる電力を最大化するための作業を、並行して続けていくそうです。
図2.“ベピコロンボ”の分解図。上からJAXAの水星磁気圏探査機“みお”、水星周回軌道に投入されるまで“みお”を保護する筒状のサンシールド、ヨーロッパ宇宙機関の水星表面探査機“MPO”、ヨーロッパ宇宙機関の電気推進モジュール“MTM”。(Credit: ESA/ATG medialab)
図2.“ベピコロンボ”の分解図。上からJAXAの水星磁気圏探査機“みお”、水星周回軌道に投入されるまで“みお”を保護する筒状のサンシールド、ヨーロッパ宇宙機関の水星表面探査機“MPO”、ヨーロッパ宇宙機関の電気推進モジュール“MTM”。(Credit: ESA/ATG medialab)


4回目の水星スイングバイへ

2018年10月にフランス領ギアナより打ち上げられた“ベピコロンボ”は、2025年12月の水星周回軌道投入に向けて、惑星間空間を減速するように航行していました。

これは、地球よりも内側の惑星に行くには、加速ではなく減速が必要なため。
水星の周回軌道に入るのに必要なエネルギーを、もし地球の外側にに向けて使ったとすると、太陽の重力圏を脱出できてしまうぐらいになってしまいます。

そう、距離としては近い地球と水星ですが、到達するためのエネルギー的には遠い存在になるんですねー
このため用いられるのが、燃料消費の無いスイングバイという飛行方式です。

探査機が、惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式があります。
これにより探査機は、燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行えます。
積極的に軌道や速度を変更する場合をスイングバイ、観測に重点が置かれる場合をフライバイと言い、使い分けています。

水星までの航行に予定されている、“ベピコロンボ”の軌道を変える惑星スイングバイは全9回。
“ベピコロンボ”は1回の地球スイングバイ、2回の金星スイングバイ、そして6回の水星スイングバイを実施することで、これらの惑星の重力を使って徐々に減速するんですねー

2021年10月1日に“ベピコロンボ”は1回目の水星スイングバイを実施し、その最中に搭載装置による科学観測を実施しました。
“ベピコロンボ”は、2022年6月と2023年6月にすでに2回目と3回目の水星スイングバイを実施し、今年(2024年)9月には水星で4回目のスイングバイを行う予定です。

“ベピコロンボ”は、現在の電力レベルが維持できれば、スイングバイに間に合うよう水星に到着することが可能なようです。
打ち上げから約7年かけて水星に到達するのは2025年12月、世界初となる2機の探査機を周回軌道へ投入し、2026年春から科学運用を開始するする予定です。


こちらの記事もどうぞ