ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
現在、 フジロック ブログ と化しています。

グラミー賞 ノミネート 『Best Folk Album』

2017-02-08 23:27:19 | カントリー
SARAH JAROSZ / UNDERCURRENT

グラミー賞授賞式が間近に迫ってまいりました。グラミー特集も佳境です。今回は『Best Folk Album』部門。気になるノミネート作は以下の5作品。


Judy Collins & Ari Hest / Silver Skies Blue
Robbie Fulks / Upland Stories  
Rhiannon Giddens / Factory Girl
Sierra Hull / Weighted Mind
Sarah Jarosz / Undercurrent


注目はサラ・ジャローズとシエラ・ハル。どちらもブルーグラスをベースに10代でデビューした才女。しかもどちらも1991年生まれの同い年。その2人が昨年リリースした最新作は、それぞれブルーグラスの枠にとらわれない自由な音楽表現で聴く者を魅了して止まない傑作となりました。まさにフォーク・ミュージックの未来を担う2人。ではどちらをこの部門の本命に挙げるか? どちらも!と答えたいところですが、やはり「ルーツな日記」といたしましては、デビュー時から推しているサラ・ジャローズなのです!!

テキサス出身のサラ・ジャローズ。09年にSugarhillから「Song Up in Her Head」でアルバム・デビュー。新人ながらグラミー賞『Best Country Instrumental Performance』部門にノミネートされ、受賞こそならなかったものの、その早熟の天才振りを印象づけました。そんなサラ・ジャローズの通算4作目のスタジオ・アルバムが「Undercurrent」です。

彼女のこれまでの作品は、ジェリー・ダグラスやスチュアート・ダンカン、ダレル・スコット、クリス・シーリー等々、豪華な名手達が曲ごとに入れ替わり立ち替わりでバック・アップしていましたが、今作はオーストラリア出身のシンガーソングライター、ジェッド・ヒューズ(g)、ベラ・フレックやニッケルクリークとの活動でも知られるマーク・シャッツ(b)の2人を中心にシンプル且つコンパクトな演奏で纏められています。プロデュースはサラ自身と Gary Paczosa(ゲイリー・パチョーザと読むのでしょうか?)。この方はアリソン・クラウス、ディキシー・チックス、ニッケルクリーク等のエンジニアを務め、これまでに9個のグラミーを受賞している偉人で、サラとはデビュー作以来、4作連続でプロデューサーを務める関係。

サラ自身の弾くアコギだけをバックに歌う1曲目「Early Morning Light」の、まるで朝の陽光のように清々しい音色と、柔らかくも凛とした彼女の歌声を聴き、これぞサラ・ジャローズ!!と嬉しくなりましたね。サラがオクターブ・マンドリンを弾き、ジェッドとマークがサポートする「House Of Mercy」で陰影あるブルージーな味わいを醸せば、サラの巧みなフィンガーピッキングが印象的な「Everything To Hide」ではトラディショナルなフォーク・スタイルを聴かせてくれる。ゆったりとしたリズムの上で何処か寂寞としたサラのヴォーカルが秀逸な「Back Of My Mind」では、ジェッドのエレキ・ギター、ルーク・レイノルズのペダル・スティールがアメリカーナの幽玄に誘う。近年アメリカーナ界隈で話題のシンガーソングライター、パーカー・ミルサップとサラの共作になる「Comin' Undone」は、土臭いグルーヴとティム・ロウアーのオルガンが良い塩梅。サラの寂し気なバンジョーに導かれる「Lost Dog」の孤独感を感じさせるようなサラの歌声も滲みる。フォーキーな質感と柔らかいメロディーに酔う「Take Me Back」はサラとジェッドによる人肌のハーモニーが美しい。サラとイーファ・オードノヴァンの共作「Still Life」には、イーファはもちろんフィドルでサラ・ワトキンスも加わりアイム・ウィズ・ハーの揃い踏み。

曲ごとにギター、マンドリン、バンジョーを持ち替えるサラ・ジャローズ自身も含め、的確且つシンプルなバックの演奏。その瑞々しくもフォーキーな音色を引き締めるマーク・シャッツの低音ライン、スパイスのように響くジェッド・ヒューズのエレキ・ギター。そしてメロディーに寄り添うように表情を変えるサラ・ジャローズの歌声。そして何と言っても曲が良い! メロディーが良い! これまでのサラ・ジャローズというと、豪華なゲスト陣もあって、新世代ブルーグラスとか、ブルーグラスの進歩形としての印象が強かったのですが、今作は純粋に歌物作品として素晴らしい。まさに、シンガーソングライターとして飛躍を遂げた傑作と言って良いでしょう。

前作「Build Me Up From Bones」では 『Best Folk Album』と『Best American Roots Song』の2部門にノミネートされたサラ・ジャローズ。ですが残念ながら受賞を逃しているので、今年こそは獲ってほしいものです。ちなみに今年は『Best Folk Album』と『Best American Roots Performance』の2部門にノミネートされています。そして本作「Undercurrent」により、エンジニアを務めたGary Paczosa、Shani Gandhi、Paul Blakemore の3人が『Best Engineered Album, Non-Classical』部門にノミネートされています。




SIERRA HULL / WEIGHTED MIND
そしてサラ・ジャローズが本命なら、対抗はもちろんシエラ・ハル。10歳で自主制作によりデビュー・アルバムをリリースしたブルーグラスの天才マンドリン少女もいつしか20歳を超え、音楽的な成熟がさらなる飛躍をもたらした最新作が「Weighted Mind」。デビュー時から独自の音楽性を培ってきたサラ・ジャローズに比べ、シエラ・ハルはもっとブルーグラス然としたスタイルを踏襲してきました。そのシエラ・ハルがメジャー3作目にして開いた扉、プロデューサーにベラ・フレックを招き、基本的にベーシストのEthan Jodziewicz(イーサン・ジョズィウィックと読むのでようか?)とのデュオ作という新境地。ユニークな曲群とマンドリン&ベースによる刺激的なアンサンブル。ブルーグラスから一皮剥けて小悪魔的な魅力すら醸す歌声。それらが不思議な雰囲気を醸す。これはブルーグラスの、マンドリンの新たな可能性。見事です。ゲストにアリソン・クラウスやリアノン・ギデンスも参加。


はたしてどちらが受賞するか?

もちろん、60年代にグリニッジ・ヴィレッジで愛されたジュディ・コリンズと若手シンガーソングライターとの美しいデュエット作や、アウトローなオルタナ・カントリーを味合わせてくれるロビー・ファルクスの新作、そしてキャロライナ・チョコレート・ドロップスからソロで大躍進中のリアノン・ギデンスのEPと、どれが受賞してもおかしくない大激戦区なんですけどね。




↓宜しければこちらもぜひ!


グラミー賞 ノミネート 『Best Roots Gospel Album』
グラミー賞 ノミネート 『Best Traditional R&B Performance』
グラミー賞 ノミネート 『Best R&B Performance』
グラミー賞 ノミネート 『Best Urban Contemporary Album』
グラミー賞 ノミネート 『Best Traditional Pop Vocal Album』
グラミー賞 ノミネート 『Best Rock Album』
グラミー賞 ノミネート 『Best Rock Performance』
グラミー賞 ノミネート 『Best Rock Song』
グラミー賞 ノミネート ビヨンセ!!