ロック探偵のMY GENERATION

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『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~そして、ホテル・カリフォルニアへ~

2017-10-12 16:52:23 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
今回は、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話シリーズです。

これまでは、トミーのシリーズについて書いてきましたが、ここからいよいよ『ホテル・カリフォルニアの殺人』の話に入っていきましょう。

話は、『天国への階段』を応募した横溝正史賞の締め切りである2012年の11月ごろにさかのぼります。


投稿者に休息はない、と以前の記事で書きましたが、この頃の私は、一つの作品を投稿したら、もうその日のうちに次の作品にとりかかる、場合によっては、複数の作品を並行して書き進めるようになっていました。


横溝賞への応募を終えた時点で、翌年の乱歩賞むけの作品が制作途中であり、時間的にいって、翌年の『このミス』むけの作品のネタも考えておくべき時でした。
『このミス』大賞は、私がはじめて一次選考を通過して本格的に小説投稿に取り組むきっかけになった賞であり、特別な存在だったのです。一次選考を通過した年から、毎年応募しており、きたるべき2013年の第12回にも当然挑戦する予定でした。そこで、そのためのネタを考え始めたのです。

さて、どんな話にしようか……

そのときクローズアップされたのが、トミーでした。

応募したばかりの『天国への階段』は、書いている段階でそれなりの手ごたえを感じていました。そこで、このトミーという人物をシリーズ化したらいいんじゃないか、という考えが出てきたのです。

次の作品は、そのための一つの実験でもありました。

その実験とは……制作の順序をまるっきり逆にすること。

『天国への階段』はトリックが先にあり、それをレッド・ツェッペリンにつなげていきましたが、今度は逆に、アーティストから考えようということです。

かつてカールスモーキー石井さんが「歌を作るときに詞と曲のどっちを先に作る?」と問われて「振り付けから」と答えていましたが、そんな感じです。題材になるアーティストから構想する、というのは、普通ちょっとないでしょう。

その実験に選ばれたのが、イーグルスでした。

条件は、まず大物であることです。
誰もが知っている、あるいは、知らなくても曲を聞いたことはある……そんなレジェンド級のアーティストが望ましい。
かつ、それをネタにしてミステリーが書けるようなアーティスト。
また、私自身が気に入っているアーティストであるほうがいいでしょう。
トミーは創作されたキャラクターであり、彼の音楽的志向は私のそれとは必ずしも一致しないので、別に私が気に入らないアーティストでもかまわないのですが、しかし、私自身の好みにあっていたほうがいいのはいうまでもありません。

こうなると、かなり候補はしぼられてきます。
あれこれと考えていて出てきたのが、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」でした。

ホテル・カリフォルニアというホテルで事件が起きる。
これでいこう。
こうして、基本方針が決定されます。

では、事件とはどんな事件か?
もちろん、ミステリーだから殺人事件だ。そして、密室がいい。ホテルなんだから、密室殺人もやりやすいにちがいない。

舞台はどこか?
ホテル・カリフォルニアといってるんだから、カリフォルニアだろう。そういえばたしか、カリフォルニアのあたりには大きな砂漠があった。その砂漠に建っているホテルにすればいい。

そして、重要なルール。
最終的な解決は、タイトルに掲げられている曲によってなされなければならない。
ということは、この作品では「ホテル・カリフォルニア」という曲で謎を解かなければならない。

そこに使われている音楽的な技法、その曲にまつわるエピソード、などなど……

なぜそんな馬鹿げたルールを課すのかと思われるかもしれませんが、ここに、私が投稿生活の中で見出した一つの方法論があります。

それは、「自分に無茶ぶりをする」ということです。

自分自身に対して、「そんな無茶な」という発注をするのです。
鬼発注を受けたほうの自分は、必死でどうにかしようと考えます。そもそもつながるはずがないことを、なんとかしてつなげようとします。その結果として、トリッキーな方法が出てくるのです。
私の経験上、そんなふうにしてできた作品は、自分自身の手ごたえがあり、通過成績もよいのでした。

それれまでは、偶然にそういう状況ができていました。
作品の設定上いろんな制約ができ、その制約によって、無茶ぶりが自然発生し、それが結果としてプラスに働いていたように感じます。
しかし、偶然に頼っていてはいけない。
それを、意図して起こせるようにする必要がある。
トミーシリーズにおける実験は、「自分への無茶ぶり」を意図的に作り出すことでもあったのです。


今回のミッションはこうです。

ホテル・カリフォルニアの一室で、密室状態で人が死んでいる。
この状況を説明し、かつ「ホテル・カリフォルニア」という歌を手がかりにして謎が解けるトリックを考えろ。

鬼発注を受けた私は、必死に考えました。
そして出てきたのが、あのトリックです。

こうして大まかな枠組みができあがり、トミーの実験作が走り始めます。

では、具体的にどのような書き方をしているのか……その点については、また次回書きたいと思います。