ロック探偵のMY GENERATION

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ビーチボーイズの名曲を振り返る+α

2021-07-08 16:28:38 | 過去記事

ビーチボーイズ「素敵じゃないか」(The Beach Boys, Wouldn't It Be Nice)
今回は、音楽評論記事です。前回このジャンルでは、モンキーズについて書きました。そこで、「ロックンロールの変化の波に乗ろうとして失敗したアーティスト」としてビーチボーイズの名前を......


過去記事です。
ビーチボーイズについて書いています。

例によって、あらためて探してみると、こんな動画がありました。
「素敵じゃないか」に、ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラがオーケストラ伴奏をくわえたものです。
オーケストラで始まりますが、あのイントロはちゃんとそのまま残してくれてます。
歌の内容を踏まえたかわいらしいアニメーション動画もすばらしい。


The Beach Boys, Royal Philharmonic Orchestra - Wouldn't It Be Nice (Lyric Video)



さて……
プラスアルファということで、ビーチボーイズというバンドについてもう少し書いてみようと思います。

元記事で、ビーチボーイズの最初の三枚のアルバムアートワークはサーフィンと車がモチーフになっていると書きましたが、その画像などは載せていませんでした。
今回は、それらのジャケットをYouTubeの動画に使われているアルバムジャケットの静止画というかたちで紹介しましょう。
曲もついているわけですが、曲はあえてアルバムのタイトルチューンではないものをチョイスしました。


まず、ファースト・アルバム「サーフィン・サファリ」のジャケット。
まさに、これでもかといわんばかりのサーフィン/ホットロッドです。

Summertime Blues (Mono/Remastered 2001)

曲は、かのサマータイム・ブルース。
いろんなアーティストにカバーされていますが、ビーチボーイズもやってました。この曲はシングル Sufin' Safari のB面にも入ってます。


セカンド・アルバム「サーフィンUSA」。
曲は、Shut Down。これも代表曲の一つです。

Shut Down (Remastered 2001)



サード・アルバム「サーファー・ガール」。

In My Room (Remastered)

曲は、In My Room。
引きこもりのようにもとれるこの歌は、サーフィン/ホットロッドという仮面の奥にあるブライアン・ウィルソンの素顔を垣間見せているのかもしれません。そういった点で、『ペットサウンズ』の前駆的な曲とも目されます。



そして、ペットサウンズがあるわけです。

アルバム『ペットサウンズ』から、Sloop John B の動画を。

The Beach Boys - Sloop John B Promo Film (Official Video)

In My Room とは逆に、Sloop John B は『ペットサウンズ』のなかにありながらサーフィン/ホットロッドの残り香のようなものが漂っています。ゆえに、このアルバムのなかではやや浮いていると評されることも。

ついでに『ペットサウンズ』からもう一曲、「僕を信じて」。
ブライアン・ウィルソンがソロでやっているバージョンです。

You Still Believe In Me

ビーチボーイズ関連の記事をいくつか書いていたときにどこかでこの曲に触れたと思いますが、これは、私が個人的に『ペットサウンズ』のなかでもっとも気に入っている歌です。
歌詞、メロディ、ハーモニー、アレンジ……すべてが素晴らしい。



さて……
ここからは、ペットサウンズ以後のビーチボーイズの歴史を、楽曲とともに概観しましょう。



『ペットサウンズ』は、今でこそ名盤とされていますが、元記事にも書いたとおり、発売当初はそれまでのビーチボーイズファンを困惑させました。
さりとて、新たなリスナーを獲得したわけでもなく、そこからバンドは迷走していくことに。
各メンバーは、ドラッグやアルコールへの依存、新興宗教への加入……など、落ち目のバンドあるあるのフルコースといった観を呈しました。



低迷と直接関係があるかはわかりませんが、ビーチボーイズの曲には、シャロン・テート惨殺で知られるカルト集団の長チャールズ・マンソンの作品があります。

Never Learn Not To Love (Remastered 2001)

デニス・ウィルソン作としかクレジットされていませんが、この曲がチャールズ・マンソンの手になるものであることは、その筋では有名な話。
フラワームーブメントが盛んだったころのカリフォルニア界隈には、単にヒッピーという枠ではとらえきれないいかがわしい集団も存在していて、マンソン・ファミリーもそのなかの一つです。ジャクソン・ブラウンも、彼らに接触しそうになったことがあるといいます。
いうまでもなく、チャールズ・マンソンはかのマリリン・マンソンの名前の由来でもあるわけですが、元祖マンソンさんはこんな牧歌的な曲を作っていたのです。


1970年代。
低迷期にあってはそれなりに評価された作品として、1971年のSurf's Up があります。

Surf's Up (Remastered 2009)

タイトルチューンは、前にモンキーズの振り返り記事で名前が出てきたヴァン・ダイク・パークスも制作に参加した曲です。
もともとはお蔵入りとなったアルバム『スマイル』に収録されるはずだった曲で、『スマイル』のためにヴァン・ダイク・パークスが制作に関与した作品の一つでもあります。
surf's up というのは、サーフィンの準備が整ったことを意味するサーフィン用語から転じて、広く「準備ができた、さあ始めよう」といったような意味の慣用表現だそうです。このアルバムジャケットからなかなかその感じは伝わってきませんが、それがつまりこの時期のビーチボーイズだったということでしょう。

このアルバムからもう一曲、'Til I Die を。
これはブライアン・ウィルソンの手になる曲ですが、ブライアン・ウィルソンがソロでセルフカバーしている動画でご紹介しましょう。

'Til I Die

  僕は大海のなかのコルク
  荒れた海を漂っているんだ
  海はどれだけ深いんだろう
  僕は道を見失ってしまった 

と、ブライアンは歌います。
この寂寥……これこそが素顔のブライアン・ウィルソンということであり、私がいうところの第二世代ロックンロールなのです。
モンキーズの振り返り記事で、もしもヴァン・ダイク・パークスがモンキーズのオーディションに合格していたら……と書きましたが、結局それは、歴史に存在しえない類のイフなのでしょう。ヴァン・ダイク・パークスを、そして素顔のブライアン・ウィルソンをはじき出したところで成立するのが、60年代のウェストコーストでした。それゆえに、『スマイル』を60年代に発表することはできなかったのです。

  僕は地滑りのなかの岩
  山肌を転がり落ちていくんだ

という歌詞は、以前紹介したフーの Long Live Rock の歌詞と似ています。
英語詞は、I'm a rock in a landslide rolling over the mountainside となっていて、歌詞の中に rock & roll が潜んでいます。
レッド・ツェッペリンも「天国への階段」で同様の趣向を用いましたが、そこで歌われる rock not to roll (「揺らぐことのない岩」)よりも、ブライアンの場合は、「ロックは死んだ」と歌ったフーのほうに近いでしょう。
landslide(地滑り)という言葉はフーも使っていましたが、それまでの価値観、ロックを取り巻く環境が大きく変化していくさまが、そんなふうに感じられていたということじゃないでしょうか。ビーチボーイズは、ロックンロールそのものにおいても、進むべき道を見失っていたのです。

  僕は風にさらされる木の葉
  すぐにでも吹き飛ばされてしまうだろう

と、歌は続きます。
この歌詞は、O.ヘンリの名作「最後の一葉」を思い起こさせます。孤独をテーマにした歌ですが、そんなふうに考えると、寂寞の奥に力強さも感じられるのです。


時代は流れ、80年代。

この時期には、いくらかバンドが復調の兆しをみせていて、ライブ・エイドへの出演なんていうこともありました。
以前ライブ・エイドでの Good Vibrations を紹介しましたが、ここでは同じステージでの Surfin' USAを。

The Beach Boys - Surfin' USA (Live Aid 1985)

最後に「サーフィンUSA」と歌うところで客席のほうへマイクを向けていますが、オーディエンスがそれに応じる声はあまり聴こえてきません。単にマイクが拾えなかっただけなのか、それとも……


さらに時は流れ、1990年頃。

この頃にもなると、ビーチボーイズはすっかり過去の存在となり、新たにリリースするアルバムもことごとく酷評されるようになっていました。

そんなどん底の時代に一瞬の輝きをみせた名曲ともいわれるのが、「ココモ」。

비치 보이스 The Beach Boys - Kokomo

ワーナー・ミュージック・コリアがアップしている動画ということで、タイトルがハングルになってます。私には読めませんが、やはりハングルで「ココモ」と書いてあるんでしょうか。しかし、だとしたら最初は同じ文字が連続するはずではないかという疑問も……まあ、それはともかく、こうして韓国のワーナーミュージックがわざわざ動画をあげているところからすると、ビーチボーイズ、意外と韓国でも人気?


2000年代。
2004年には、伝説のアルバム『スマイル』のリリースがありました。ただし、ビーチボーイズではなくブライアン・ウィルソンのソロアルバムとしてですが……
そこに収録されていた「英雄と悪漢」のライブ映像を。この曲は、 アルバムSmiley Smile にも収録されていました。

Heroes And Villains

『スマイル』発表は、伝説の作品がおよそ40年の時を経て世に出たということなんですが、その割には不発に終わった感も否めません。
幻の作品だったからよかったのに本当に作っちゃったのかよ……みたいな反応を示す人も少なくなかったようです。
この「英雄と悪漢」や、同じく『スマイリー・スマイル』に収録されている「グッド・ヴァイブレーション」、あるいは先に紹介した Surf's Up のように、スマイルに収録予定だった作品の多くは、その後のアルバムに細切れに収録されており、それも『スマイル』があまり話題を呼ばなかった理由の一つでしょう。


2010年代。
ビーチボーイズも、2012年に結成50周年を迎えます。
モンキーズの場合と同様、アニバーサリーを記念してアルバムを制作しました。
その名も、『神の創りしラジオ』。
下は、タイトルチューンの動画です。

The Beach Boys - That's Why God Made The Radio

ウィキによれば、これはもともと1990年代に作られた曲らしいです。
共作者の一人であるジム・ピートリクは、サバイバーのボーカルをやっていた人。サバイバーといえば、映画『ロッキー3』のテーマ曲「アイ・オブ・タイガー」……ということで、前回の『ロッキー』の記事ともつながってきます。
まあ、それはただの偶然ですが……ただ、アニバーサリーということでこのアルバムにはいろんなミュージシャンがゲストで参加しているようです。
ジム・ピートリクも参加していて、ほかに著名ミュージシャンとしては、スティーリー・ダンやドゥービーズの活動で知られるジェフ・バクスターなども。先に動画を紹介したタイトル曲では、ニック・ロウがギターを弾いているということです。


最後に、ごく最近の話題として、ウィルソン一家三世代で歌う 「神のみぞ知る」(God Only Knows)です。
『ペット・サウンズ』に収録されている名曲。
コロナ禍ゆえか、長老ブライアンはリモートでの参加ですが……

Kelly Clarkson Sings ‘God Only Knows’ With Carnie, Wendy & Brian Wilson ft. Lola Bonfiglio |Kellyoke  

  きみがいなければ
  この世界が僕に示せるものなどなにひとつない

この歌詞は、そのままブライアン・ウィルソンその人にむけられるべきものかもしれません。