今日は、8月15日。
終戦記念日です。
去年もそうしたように、この日付にあわせて、今回は近現代史記事を書こうと思います。
近現代史関連の記事では、前回5.15事件について書きました。
政党政治の時代を終焉させたといわれる首相暗殺事件……で、順番からしてその後の大きな動きといったら、昭和8年の国際連盟脱退ということになるでしょう。
一応簡単にその経緯を説明しておくと、国際連盟脱退は、満州事変と深いかかわりがあります。
あの事変後に「満州国」が建国されたわけですが、満州国は日本の傀儡国家、実質的には植民地なのではないか……ということでリットン調査団がやってきて、日本側の主張を否定する報告書を作成。国際連盟は、圧倒的多数でその報告書を採択。日本側がそれを不服として国際連盟脱退を表明するわけです。
では、国際連盟とはなんだったのか。
今回は、この国際連盟というものと、その根底にある集団安全保障という考え方について書こうと思います。
国際連盟とは、集団安全保障体制構築のために作られた組織……なわけですが、この“集団安全保障”という言葉にはちょっと注意が必要です。
集団安全保障という言葉からは「友好国と軍事的な協力関係をつくって敵対国からの攻撃にそなえる」というようなことが連想されるかもしれません。
しかし、集団安全保障とは本来そういう意味ではないのです。
集団安全保障とは、個別の軍事同盟をむしろ否定し、対立関係にある国も含めた国際社会全体を一つの集団として武力衝突の回避を目指すものです。
ネット上の百科事典コトバンクに載っている「マイペディア」の解説には、次のように書かれています。
国家の安全と平和を,公の紛争処理機関や,対立関係にある国も含めた連合組織によって集団的に保障しようとする体制。一国の軍備強化や特定国との同盟の形をとらず,国際紛争の処理に当たっては原則として各国が個別に武力を行使すること(個別的安全保障)を認めない。特定の仮想敵国の存在を予想している軍事同盟とは異なる。歴史的には第1次大戦前の勢力均衡政策に対する反省に基づき国際連盟によって初めて現実化され,国際連合によって制度的に強化された。
具体的には、アメリカのウィルソン大統領が発表したいわゆる14ヶ条の平和原則に基づいて、国際連盟が作られました。
列強がこれまでと同じような考え方で軍事・外交をやっていたら、次の世界大戦は避けられない。そして、その被害は甚大なものになるだろう。それを防ぐためには、これまでとは違う新たな考え方が必要だ。では、どうやったら新たな戦争を防ぐことができるか――それを考えた結果の一つが、国際連盟でした。
しかしながら、歴史上の事実として第二次世界大戦は起きてしまいます。
ということは、結局、国際連盟というものに意味はなかったんじゃないか……と思われるかもしれません。
しかし、私にいわせれば、これは国際連盟の、集団安全保障という概念の失敗ではありません。
国際連盟に米ソの二大国が参加せず(ソ連は途中から参加したものの除名)、常任理事国である日本やイタリアが脱退……と、その枠組み自体が崩壊していったことで世界は第二次大戦になだれこんでいくわけです。二度目の世界大戦が起きたのはみんなが集団安全保障の枠組みを守らなかったからであって、それがきちんと守られていれば大戦は起きなかったでしょう。日本の国際連盟脱退は、そういう文脈から見ても批判されるべきなのです。
もう少し付言すると、国際連盟創設をのぞけば、ウィルソンが14ヶ条で提唱したことのほとんどは、第一次大戦終結後の段階では実現しませんでした。
たとえば、無賠償・無併合の原則。戦争で勝っても、それによって賠償金を得たり新たな領土を獲得したりすることはできないというルールです。これには、フランスなどが猛反対しました。結局ドイツには莫大な賠償金が課され、それによる重い経済的負担が後にナチスを台頭させる大きな要因となったことは間違いありません。この反省から、第二次大戦後、連合国はドイツや日本に賠償金を課しませんでした。そうすると、次の戦争は起きなかったわけです。
もちろん、第三次世界大戦が――少なくとも今のところ――起きていない理由は、それだけではありません。
前に書いたECSCなんかも大きな意味があったでしょう。炭鉱地帯の奪い合いが戦争の原因にならないよう国際共同管理にする――この仕組みが、現在のEUにまで発展しているわけです。
……というふうに、国際社会は戦争が起きないための工夫をあれこれとやってきました。
それが一定程度に奏功しているために、大国間の戦争は起きずに済んでいるわけです。
これはおそらくほとんどの歴史学者が同意することだと思いますが、第三次世界大戦が起きずに済んでいるのは、政治的・経済的な理由によってです。もちろん世界が完全に平和になったわけではないにせよ、第二次大戦以前に比べれば、格段に平和が維持されています。
その状態を維持・発展させるために必要なのは、集団安全保障の枠組みから背を向け、国際連盟から脱退するというような暴挙を許さないこと。それが、歴史の教訓というものでしょう。