ロック探偵のMY GENERATION

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Pink Floyd, Money

2023-05-17 22:05:07 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

最近の音楽記事では、「今年で50周年を迎える名盤」というのをやってきましたが……今年で50周年を迎える名盤といえば、これははずせないという作品があります。

ピンクフロイドの『狂気』です。

 

というわけで、今回はピンクフロイドについて書こうと思います。

案外この話、先日の記事に出てきたメガデスとも関係がなくはありません。
ピンクフロイド結成当初、バンド名を考えているとき、候補のひとつに「メガデス」という名前があったんそうです。つづりはMeggadeathsで、スラッシュメタルのMegadeth とは違いますが、発音はほぼ同じになるでしょう。


ピンクフロイドといえば、いわゆるプログレッシブ・ロックの黎明期を代表するバンドです。

前回の音楽記事で登場したジェネシスもまた、初期プログレを代表するバンドであり、ピンクフロイドの軌跡はジェネシスと重なる部分も多々あります。
しかしながら、初期のジェネシスはあまりアートロック的なところを出していなかったので、プログレの開祖といえばやはりピンクフロイドやキング・クリムゾンということになってくるわけです。
ピンクフロイドも結成当初はストーンズやフーといった60年代UKロックをカバーしたりしていたようですが、メジャーデビュー時にはもうサイケデリックロックという方向性を固めていました。
そして、そこからプログレッシブというジャンルを確立したバンドの一つということになるわけです。

そのピンク・フロイド8枚目のアルバムにして代表作といえるのが、『狂気』です。
ジェネシス『月影の騎士』と同じ1973年リリースなわけですが、『月影の騎士』がジェネシスの出世作になったのと同様、ピンクフロイドにとって『狂気』はバンドが大きな飛躍を遂げる作品となりました。
バンドにとって最大のヒットというだけでなく、ロック史上でも屈指のヒットを記録したアルバムとして知られています。
そのことはさまざまな数字に表れていて、たとえば、741周にわたってチャートインという記録は現在でも破られていません。セールスとしても、過去に発表された音楽アルバム全体でトップ10に入るレベル。ロックのオリジナルアルバムに限定すれば、史上もっとも売れたアルバムともいいます。


ジェネシスの場合にはピーター・ガブリエルの存在がプログレ期を支えていたわけですが、ピンクフロイドの場合にはロジャー・ウォーターズがそこに擬せられるかもしれません。ピンクフロイドというバンドの性格は、ロジャー・ウォーターズが在籍している間は彼に大きく依存していました。

そして、そのアナロジーでいくと、ジェネシスにおけるフィル・コリンズのような位置づけにあるのがデイヴ・ギルモアです。

もともとは、シド・バレットという人がフロイドの中心人物でしたが、この人がいろいろ問題を抱えていたために、若いころからのギター仲間だったギルモアがサポートのようなかたちでフロイドに加入し、ほぼ入れ違いのようなかたちでシド・バレットが脱退。こうして、ロジャー・ウォーターズがバンドの中心となり、ギルモアはメインギタリストとなりました。

その後ロジャー・ウォーターズも脱退すると、今度はギルモアが中心となってバンドを継続。そこで、ピンクフロイドの音楽性は大きく変化していくことになるのです。

そして、フィル・コリンズと同様、ギルモアもバンドとしてではなく個人としてライブエイドに参加しました。
ブライアン・フェリーのバックバンドでギターを弾いています。
そのステージにおける一曲 Jealous Guy の動画です。

Bryan Ferry - Jealous Guy (Live Aid 1985)

ジョン・レノンのカバーなわけですが、こういうのはやはりロジャー・ウォーターズの世界ではないなと感じます。
ただしロジャー・ウォーターズも、演者として参加はしなかったものの、会場には足を運んでいて、舞台裏でインタビューを受ける映像が残されています。
ライブエイド自体は自宅でテレビで見ていたそうで……それでいてなぜだか舞台裏にやってくるというこの距離感の微妙さ。

Roger Waters - Backstage Interview (Live Aid 1985)



以上書いてきたように、ピンクフロイドはジェネシスと似たような軌跡をたどってきました。
時代の流れに沿って音楽が変化していく中で、似たような変化をしていったということですが……もちろん、まったく同じではありません。

ジェネシスとの違いは、ロジャー・ウォーターズはピーター・ガブリエルほど賞賛できる人物ではないし、デヴィッド・ギルモアはフィル・コリンズほどポップではない、というところでしょうか。

もう一つ重要な違いは、ロジャー・ウォーターズは一時的ながらピンクフロイドに復帰しているということです。
そしてこれが、ライブエイドの後継イベントであるライブ8に重なるというタイミングでした。
その映像がYoutubeの公式チャンネルにあります。
曲は、Money。
『狂気』の収録曲で、シングルとしてもヒットしました。

Pink Floyd - Money (Recorded at Live 8)

ジェネシス『月影の騎士』は、拝金主義への批判があるというふうに書きましたが、この曲もその系統といえるでしょう。
ただ、ロジャー・ウォーターズという人の天分で、毒や皮肉といった感じが前面に出ています。

「マネー」や、アルバム『狂気』にかぎらず、ロジャー・ウォーターズがピンク・フロイドというバンドが描き出す世界観の核心を担っていたことは、ロジャー脱退前後の作品を聴き比べてみればあきらかでしょう。ロジャーが抜けた後のピンク・フロイドは、毒抜きされたような味わいがあります。毒を好んで摂取したがるリスナーにとっては、物足りないでしょう。
私としても、ロジャー・ウォーターズ在籍期のフロイドのほうが好みです。
しかしながら……ピーター・ガブリエルに対するように手放しでロジャー・ウォーターズへのリスペクトを表明することはできません。
というのも、最近のロジャー・ウォーターズは、たびたび物議をかもすような言動をみせているのです。

いや、物議はかもしてもらってもかまわない、というより、どんどんかもしてほしいんですが、問題はその物議の中身です。

たとえば彼は、台湾問題で中国を擁護するような発言をしていたりします。
また、ウクライナ戦争に関しては、ロシアを擁護する立場を表明。
そして、ロシア側の招きに応じて国連でスピーチをするということまでやっているのです。外野でいってる分にはまあ勝手にすればいいと思いますが、ロシア側に要請されて国連に出向くというのは、いかがなものでしょうか。
さらに、今年になってからは、反ユダヤ主義的であるとしてドイツ公演が中止になるというようなことも。ライブでそのような表現をしたからということで、本来なら再来週あたりにフランクフルトで行われることになっていたライブがキャンセルになったということです。
こういろいろ重なってくると、一つ一つのイッシューに対して確固たる信念があるわけでもなく、単に“良識的な態度”に反発して逆張りしているだけとも見えてきます。
モリッシーみたいな感じでしょうか。ひねくれを悪い方向にこじらせるとこうなってしまうという……


まあ、今のロジャー・ウォーターズの話をするとそういう感じになってくるので、最後に日本がらみの話題を。

71年、伝説の『箱根アフロディーテ』の画像です。
「原子心母」をやっています。仕方のないこととはいえ、音質はよいとはいえず、もとの曲から削られている要素がかなりたくさんあります。ただ、当時の雰囲気はよく伝わってくるんじゃないでしょうか。

Pink Floyd - Atom Heart Mother: '71 Hakone Aphrodite

そして今年の話題として、木暮"shake"武彦さんの率いるピンクフロイドのトリビュートバンド「原始神母」が、『狂気』50周年を記念した完全再現ライブを行なうことになっています。ピンクフロイドの作品は数年前から次々に50周年を迎えているわけで、そのつど同様のイベントをやっており、今年は6月18日、日比谷野音で『狂気』の全曲を演奏するということです。

木暮"shake"武彦さんはレベッカのギターを弾いてた人ですが、カルメン・マキさんのバックバンドOZでギターを弾いたりもしています。原始神母のライブにマキさんが来たりすることもあるようで……そういうレジェンドの世界につながっていくのです。




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