ロック探偵のMY GENERATION

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ブラックジャック50周年……そして、新作発表

2023-11-25 21:26:51 | 日記


TEZUKA2023プロジェクトによる、『ブラックジャック』の新作が発表されました。

手塚先生の作風を学習させたAIによる新作。
前々から話題になっていましたが、今週の週刊少年チャンピオンにおいてついにお披露目となりました。
今年は『ブラックジャック』の連載開始50周年にあたるということで……こんなところでも50周年があるわけです。


今回の作品は、AIを使っているとはいうものの、そこまでがっつりAIの作ということでもないようです。
いまのAIだったら、ストーリーを作るだけでなく作画も全部こなせるんじゃないかと思いますが、そこまではしていません。ストーリーは人間とAIがやりとりしながら練っていき、作画はAIの提示した絵を参考にしつつ、最終的には人の手で行っているということです。

内容は、たしかに手塚先生の問題意識を反映したものでしょう。
たとえば『火の鳥』に描かれたような……この作品には、ほぼ全身を機械に置き換えて生存しているという人物が出てきますが、似たような話が生命編の一挿話としてありました。
このへんが、AIによる作品ということを考えるうえで、案外一つ重要なポイントなんじゃないかとも思えます。
機能不全となった体の部位どんどんを機械に置き換えていって、どこまでが人間でいられるのか……そんな深いテーマを取り扱っているということになるんでしょうが、しかし、見方を変えれば過去の手塚作品の中からそういうエピソードを拾い上げてきただけというふうにもとれると。ここに、私がAI生成に対して持っている一つの懸念――「AIが学習によって生成するものは既製品のパッチワークにすぎないのではないか?」という問題が顔をのぞかせているようにも思われるのです。
すなわち、AI生成によって作られるシナリオや絵は、結局のところ「どこかで見たような」ものを延々再生産し続けるだけのものになってしうまのではないか、新しいものは作れないのではないか、ということです。
AI生成が、「既存の作品の学習」で成立している以上、それは避けられないのではないでしょうか。
もちろん人間の作る作品であっても「既製品のパッチワーク」という側面は多分にあるでしょうが、しかしそれでも人間の場合は「外部」との干渉が存在します。外部からのインスピレーションによって、それまでにはなかった新しいものを生み出すことができるのです。一方AIは、取り扱える情報がコンピューターの内部で完結していて、外部からインスピレーションを得るということができません。今回のプロジェクトでは、AI生成における著作権はどうなのかという議論も考慮してか手塚作品のみを学習素材としているんだそうで、そういう学習範囲の限界もあってのことでしょうが……先述したような問題意識を踏まえて読むと、やはり「どこかで見たような」シーンの集合体のようにも見えてしまうのです。結局、与えられたテーマに基づいてベクトル計算し、その結果学習データの中から近いものを引っ張り出してきてつなぎあわせているだけのではないか……そんなふうに考えると、ぞっとするような冷たささえ感じられます。
新しいもの、ということでいうと、手塚先生はその生涯において、絶えず新しいものに目を向け続けた人です。だからこそ生涯現役のままでいられた、ということを以前も書きました。たとえば、劇画というものが台頭してくれば、劇画のテイストを取り入れる……それはまさに、自分の内部にはない、外部からの要素を取り入れて新しいものを作り出すということなのです。その観点からすると、過去の手塚作品を学習して「似たようなもの」を作るというやり方は、手塚先生のスタイルを再現することにはなっても、アティチュードの再現にはならないのではないでしょうか。


……と、まあ批判的なことをいいましたが、そうはいってもやはり、今回の試みは非常に興味深いものです。
もとより、短編一本だけでAIの限界を云々するのも早計ではあるでしょう。
なので、せっかくならもっと大きなプロジェクトをやってみるといいんじゃないでしょうか。
長編を一本……たとえば、構想のままで眠っている『火の鳥』大地編をAIが完成させる。これぐらいの野心的なことをやってみたら、そこから侃々諤々の大論争が持ち上がり、また新たな知見を得られるのではないでしょうか。




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2 コメント

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Unknown (sakaki45)
2023-11-26 18:15:00
自分の所でも記事にしていますが、どうのようにして
作品が出来上がっていったのかという解説が興味深かったです。
現段階では、AIが出した案を人間が吟味していくという形が
しっくりくると思います。

流石にAIに感受性や想像力を求めるのは、
まだ難しいとは思いますが、
今後、仮に感受性や想像力を持ったAIが出てきたとしたら、
また別の問題が出てくるでしょう。
著作権等の問題もありますが、AIに人間が職を奪われかねないですし。
現にイラスト関係は、AIが進出してますしね。
AIに関しては、色々と課題があるので今後も注目していきたいです。
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Re:sakaki45さん (村上暢)
2023-12-07 19:33:21
コメントありがとうございます。

もちろん私としてもAIの有用性を否定するものではありませんが、どこかでやはり人間とのすみわけは必要になってくるんじゃないかとは思ってます。
AI搭載のロボットがすべての労働を代替し、人間は何もせずに暮らす……そんな未来ももしかしたらありうるのかもしれませんが、それは果たして幸福といえるのか、そんな問いも出てくるでしょう。いずれにせよ、AIの発達で社会が大きく変化するのは避けられないようで……注視が必要ですね。
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