ロック探偵のMY GENERATION

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『宇宙海賊キャプテンハーロック アルカディア号の謎』

2023-09-17 22:49:29 | 映画


先日、キャプテンハーロックのブルーレイボックスを手に入れたという記事を書きました。
そこでも書いたように、このボックスにはテレビ版42話と別に、劇場公開作品も収録されています。

せっかくなので、今回はその劇場版『アルカディア号の謎』についても紹介しておきましょう。
今回のブルーレイセットにはハーロックの設定などに関する資料がついているわけですが、そこに書かれている内容も参考にしつつ、書いていきます。



『アルカディア号の謎』は、劇場版とはいうものの、999の劇場版などとはちがって「東映まんがまつり」という企画で上映された作品です。
その予告動画のようなものがYoutubeにありました。ここで、レンタル視聴もできるようです。

宇宙海賊キャプテンハーロック アルカディア号の謎

東映まんがまつりは、いくつかのアニメ作品や特撮作品などをまとめて上映する企画です。ここで上映される作品はテレビ放映されたものの再編集だったりすることも少なくなかったようで……『アルカディア号の謎』もそうでした。テレビシリーズ第13話「死の海の魔城」をもとにしています。

その第13話は、謎の信号を受信して地球に戻ってきたアルカディア号が潜水艦から魚雷攻撃を受ける、というもの。
一体何者が……という話になるんですが、実は、原作のほうだとこのエピソードは謎のままで終わってしまっています。


ここで一応注釈をつけておくと、原作のハーロックは未完の作。松本零士先生が亡くなったことで、完結は望めなくなったわけですが……アニメのほうは漫画連載とほぼ同時にスタートし、基本設定を共有しつつ別の物語として展開していきました。その当時のアニメは、こういう形式が少なくなかったようです。
アニメは敵であるマゾーンと決着をつけるまでが描かれていますが、原作のほうは未完のままになっているため、なんらかの伏線と思われるエピソードが回収されないままになっている場合が散見されます。何者かによる魚雷攻撃というのはその一つで、アニメ版ではこのエピソードに一つの解決を与えていました。
そのエピソードが、タイトルにもなっている「アルカディア号の謎」に、まあ多少つながっているということです。

そこで重要なカギとなっているのが、大山マユという登場人物。
上に載せた予告動画にも出てくる女の子です。

このマユというキャラクターは、漫画版とアニメ版の設定における最大の違いでもあります。

アルカディア号を作った天才エンジニア、大山トチローの娘…この人物を登場させることに関しては、アニメ制作陣と原作者である松本零士先生との間で激しい議論がありました。

アニメ版でストーリーの骨格を作ったのは、脚本家の上原正三です。
これまでに何度か書いてきましたが、上原正三はウルトラマンの誕生にもかかわったレジェンド脚本家。特撮やアニメでも深いテーマを扱うことで定評があり、その例として『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」はよく知られています。ハーロックの最終話ではラストシーンで太宰治『右大臣実朝』の一節が引用されますが、これも上原正三によるもの。この人はこの人で、一本筋の通った人なのです。
女の子のキャラを出すべし、というのは、あるいはもっと上のほうが打ち出した方針かも知れませんが……ウエショーさんは大山マユという人物をアニメ版ハーロックの重要キャラとして創作し、松本零士先生はこれに難色を示しました。
原作のハーロックはもう完全に地球を見捨ててしまってるようなところがあって、いまの地球なんかに守る価値はないけれど、それでも己の信念に従って戦う……という、そういうヒロイズムです。いっぽう、上原正三の構想になるアニメ版ハーロックは、地球のために戦うという部分があります。亡き友の忘れ形見であるマユが地球にいるということが、その大きな動機となっているわけです。これは、ハーロックという人物の根幹にかかわるところで、それゆえに松本先生としても簡単には譲れないということになったようです。

最終的には、上原正三とりんたろう監督が松本零士先生と直談判することで、了承を得ました。

原作のほうにマユが登場することはありませんでしたが、ちらっと言及しているせりふがあります。さらに、マユの父親であるトチローは、その後ハーロックの親友として松本零士作品世界の主要人物となっていきます。
上原正三と松本零士という二個の奇才が衝突し、その摩擦のすえに生み出されたがゆえに、それだけの大きな存在になったということでしょう。
……で、その大山父娘とアルカディア号の関係を主題に据えたのが「アルカディア号の謎」ということになるのです。
そう考えると、なにげにこれは、松本零士作品を考えるうえで重要な作品といえるのかもしれません。




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