今回は、音楽批評記事です。
前回は、トミーシリーズとして書いていた『悪魔を憐れむ歌』から、ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」について書きました。
その流れで、まず『ホテル・カリフォルニア』の前に書かれていた幻の前作を紹介しようと思います。
それは、このブログで以前一度言及した『天国への階段』です。
横溝正史賞に応募し、最終までいったものの落選した、あの作品です。
このタイトルは、いうまでもなくレッド・ツェッペリンの「天国への階段」からとられています。
というわけで……長い前置きでしたが、今回はその「天国への階段」について書きましょう。
「天国への階段」は、いわずとしれたツェッペリンの代表曲です。
ツェッペリンの4枚目のアルバムに収録されています。この4枚目のアルバムは、ジャケットに文字がほとんどなく、タイトルも表記されていません。それまでの3枚のアルバムが『レッド・ツェッペリン』、『レッド・ツェッペリンⅡ』『レッド・ツェッペリンⅢ』だったために、その流れで『レッド・ツェッペリンⅣ』と通称されていますが、実際にはタイトルがつけられていない不思議なアルバムなのです。
このアルバムは、ツェッペリンにとって重要な作品です。
ツェッペリンというと今では伝説のバンドみたいな扱いになっていますが、現役で活動していた頃は、評論家筋からかなりボロクソに叩かれていました。
それでも熱狂的なファンがいたのであまり問題にはならなかったのですが、『Ⅲ』が一つの転換点となりました。この『Ⅲ』では、それまでのハードロック志向から打って変わってアコースティック路線を打ち出したのですが、そのことが、多くのファンを当惑させてしまいました。逆に評論家が高く評価したかというと、そういうこともなく、評論家たちもまた酷評したようです。それまで順調に飛行してきた“鉛の飛行船”が、はじめて壁に直面しました。
こうして、目指すべき方向を見失いかけていたツェッペリンが意を決して制作したのが、『Ⅳ』なのです。
このアルバムには Rock'n'Roll という曲が収録されていますが、「ロックンロール」というそのものズバリなタイトルで曲を作るというのは、そうそうできることではありません。ミステリー作家が「ミステリー」というタイトルでミステリーを書くようなものです。よほどの自信と覚悟がなければできないことでしょう。しかし、ツェッペリンはあえてそれをやりました。“六番目のストーンズ”イアン・スチュアートをピアノに迎え、正面からロックンロールに取り組みます。ここに「お前らがなんといおうと俺たちがロックンロール代表!」といわんばかりの彼らの決意のほどが見て取れると思うのです。
そして、そんな“Ⅳ”において中心をなす大作が、「天国への階段」、原題 Stairway to Heaven です。
曲は、ジミー・ペイジによる物悲しいギターのアルペジオからはじまります。
ベース音が半音進行で下がっていくのは、「階段」をイメージしているのでしょうか。
そしてそのアルペジオに、ジョン・ポール・ジョーンズの吹くバスリコーダーの旋律が入ってきます。イギリスの民俗音楽なども取り入れてきたツェッペリンの面目躍如といったところでしょうか。
そして、およそ一分ほども続く前奏から、ロバート・プラントの歌がはじまります。
輝くものはすべて黄金だと信じている女がいる
彼女は天国への階段を買おうとしている
彼女は天国への階段を買おうとしている
という、意味深な歌詞です。
神秘的な雰囲気を漂わせながら、アコースティック調に曲は進んでいき、中盤からはダイナミックに展開していきます。
前半部分ではほとんど出てこなかったジョン・ボーナムのドラムも躍動し、ジミー・ペイジのギターソロが炸裂し、再びロバート・プラントのボーカルが入ってきます。
この曲の、クライマックスです。
その後半部分は、次のように歌われます。
耳を澄ましさえすれば
その調べはやがてお前のもとにやってくる
すべてが一つに、一つがすべてになるとき
揺らぐことのない岩となる
その調べはやがてお前のもとにやってくる
すべてが一つに、一つがすべてになるとき
揺らぐことのない岩となる
最後の一行は、英語ではTo be a rock and not to roll となっています。
カンの鋭い方は気づいたでしょう。
実は、この一行のなかにrock and roll という言葉が隠れています。
揺らぐことのない岩……それは、ロックンロールにほかならない。
評論家の渋谷陽一さんは、そのように解釈しています。
渋谷さんは、ツェッペリンの Communication Breakdown を聴いて頭がショートし、それ以来ショートしっぱなしなんだそうですが、つまりはそういうことでしょう。
耳を澄まして待っているものに、絶対的な志向の価値を与えてくれる……そういういくらか錬金術じみたイメージにロックが重ねあわされているのです。
すなわちこの曲は無上のロック賛歌であり、パンク勃興以前のロックンロール第二世代(※私の分類による)に打ち立てられた金字塔なのです。