ロック探偵のMY GENERATION

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イランについて

2020-01-14 16:20:03 | 時事



このところこのブログでは、米イラン間の緊張状態について何度か書いてきました。

それもいったんは落ち着いたということで……
ここで、イランという国について、ちょっと思うところを書いてみたいと思います。

イランという国は、今から四十年ほど前まで、パーレビ王朝という王権が支配していました。

第二次大戦後にモサデク首相という人が石油産業の国有化など改革を行なおうとしたところ、クーデターで倒されてしまったのです。
このクーデターの背後にはアメリカのCIAによる工作活動がありました。
これは、巷によくあるイルミナティみたいな陰謀論ではなく、一般的に知られていることです。CIAは、共産主義の拡散を阻止するべく海外での工作活動を目的として作られた組織であり、イラン政変はそのごく初期の仕事でした。

モサデク政権が倒れた後のイランでは、モサデクと対立していた国王が「白色革命」と呼ばれる改革を行います。
これには反発する国民も多く、弾圧が行われました。
こうしてイランは、強引に資本主義の側に引っ張り込まれ、親米派の国として富裕層中心の社会となったのです。

その王政を打倒したのが、1979年のイラン・イスラム革命でした。
弾圧にもかかわらず、王権に対する国民の反発は強く、アメリカの支援がありながらも持ちこたえることができなかったのです。

この革命は、後にいろんな影響を及ぼしています。

イランに渡るはずだった米軍機がイスラエルの手に渡り、これがいわゆる「オシラク・オプション」につながり、また、革命に付随して米大使館占拠事件が発生。52人の大使館員を人質にとり、この「52」という数字は、先日トランプ大統領が「イランの52の地点を攻撃する準備をしている」というところにつながっているといいます。そして、人質の身代金をめぐって、後にレーガン政権を揺るがすイラン・コントラ事件と呼ばれるスキャンダルが持ち上がることにもなりました。

イスラム革命後にイラン・イラク戦争が勃発するわけですが、そのときアメリカは「敵の敵は味方」理論でイラクを支援していました。「アメリカはサダム・フセインを支援していた」といわれるのは、そういうことです。

イスラム革命は、その名が示すとおりイスラム体制樹立を目指すもので、これは欧米の価値観と対立する部分を持っていました。
ホメイニ体制は欧米の文化も敵視し、ロックもそのなかに含まれています。
クラッシュが Rock the Casbah という曲をやってますが、これもそういう背景を踏まえたものといわれます。

The Clash - Rock the Casbah (Official Video)

この曲がイスラム革命を風刺したものだとすれば、そこには前に紹介したRUSH「2112」と同じモチーフを読み取ることができるでしょう。
そうなると、宗教と自由との関係、普遍主義と相対主義……といった、いろいろなことを考えさせられます。「ラーガ」というイスラムとはまったく関係のない言葉が出てくるのは、ある種のゆがんだオリエンタリズムではないのか――といった批判もありうるでしょう。

ともあれ、イスラム体制がロックを敵視したために、ロックの側もイスラム原理主義には敵対的です。
ロックをやってる人は戦争には反対ということが多いと思いますが、相手がイスラム原理主義となると微妙にブレてきたりするのも、そういうことだと思われます。
クラッシュの Rock the Casbah は、後の湾岸戦争中に一種のキャンペーンソングとして扱われたことがあったそうですが……ジョー・ストラマーも、これは大いに不本意だったといいます。
ラッシュの「2112」は、近未来を舞台にした一種の比喩であり、やはり現実の戦争をそれと同じように考えることはできません。

たしかに、政教分離や社会的な自由という面で、イスラム体制に欧米の価値観と相いれない部分があるのは事実でしょう。
しかし、イスラム体制が確立するまでには、アメリカという大国の身勝手なふるまいがあったということもまた事実です。

自分に都合の悪い体制を転覆させ、その体制がクーデターで打倒されると、今度は敵対する隣国(イラク)を支援する。そして、そのサダム・フセイン体制が自分にとって都合の悪い存在になると、今度はそちらを攻撃する……こんなことを繰り返していれば、中東に平和が訪れないのも道理です。

トランプ大統領の不干渉主義は、そんなふうに海外の政権にあれこれ干渉しないという点では、いいことなのかもしれません。
今回の緊張状態でトランプ大統領がさらなる武力行使に踏み切らなかったのも、つまりはそういうことでしょう。
偽善的な行為が嫌いだからこそ、アメリカの歪んだ正義にもとづいた行動はしないという……ねじれねじれて一周して、結果アメリカ以外の世界にとってはいいことになってるんだと思います。
ただ、このあとどう転ぶかはまだ未知数な部分が大きいですが……





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