ロック探偵のMY GENERATION

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『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』

2019-09-25 17:59:03 | 映画
 
今回は、映画記事です。

いったんガメラの話をしましたが、ここでまたゴジラシリーズに戻って、シリーズ第12作目の『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』について書きましょう。
公開は、1972年。

ガイガンという、名脇役怪獣が初登場した作品で、地球侵略をもくろむMハンター星雲人と、地球人たちの戦いが描かれます。
その予告編の動画を貼り付けておきましょう。

【公式】「地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン」予告 ゴジラとアンギラスがタッグを組んで地球を守るゴジラシリーズの第12作目。

メガホンをとるのは、福田純監督。
ゴジラ映画では、何度か監督を務めている方です。『ゴジラ対ガイガン』の前には、第7作『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』と第8作『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』を手掛けています。この人が監督した作品は、コミカルタッチというか、どこかほのぼのとした感じが前面に出る傾向があるように思われますが、本作もまさにそうでしょう。予告動画の最後に流れてくる歌からも、それは十分伝わってくると思います。


キャストで注目されるのは、『ウルトラセブン』のアンヌ隊員役として知られる菱見百合子(現・ひし美ゆり子)さんでしょう。本作では、空手三段の女傑として登場し、キレのあるアクションを披露してくれます。

本作は、一般的に、ゴジラが“正義の味方”というポジションに定着した作品といわれます。
前作『ゴジラ対ヘドラ』では、ゴジラは必ずしも人間の味方と言い切れない部分がありますが、『ゴジラ対ガイガン』以降は、一点の留保もなく完全に人類の味方となっています。
そう考えると、それまでゴジラ映画に頻繁に登場していたモスラが第一期シリーズ後半になってふっつり登場しなくなるのは、“正義の味方”という役どころをゴジラに奪われたためなのかもしれません。

すっかり「宇宙怪獣の侵略と戦う正義の味方」となったゴジラですが、この映画はタッグ戦となっています。

宇宙怪獣側は、Mハンター星雲人が召喚したガイガンとキングギドラ。凶悪タッグです。
迎え撃つ地球代表は、ゴジラとアンギラス。
アンギラスとはいささか頼りない気もしますが、この頃にはゴジラの弟分のような扱いになっていて、後の『ゴジラ対メカゴジラ』でもゴジラの前座的なかたちで登場しています。

10作目あたりから、ゴジラはそれまでにはない演出を取り入れるようになった……と以前書きましたが、それはこの作品にも見られるでしょう。

本作における演出的な特徴として、“劇画”というモチーフを挙げることができます。
漫画ではじまるオープニングは、なかなか秀逸だと思ってます。

そしてそのモチーフは、この映画で――しばしば否定的に――よく注目される、「ゴジラとアンギラスの会話」にも見られます。
怪獣同士の会話が吹き出しのせりふで表現されているというやつですね。予告篇の演出にあるものの、さすがに本編でそれはないだろう……と思って観ていると、本編でも吹き出しが出てくるのです。
いくらなんでもということで批判されることが多い場面なんですが、しかしこれも、その部分だけを見てはいけないと思うんです。
たしかにそのシーンだけを見たら、怪獣映画としてどうなんだと思うところです。
しかしこの映画は、漫画が一つのモチーフとなっています。そのモチーフに基づくものと考えれば、また別の受け止め方ができるでしょう。単に、怪獣同士の意思疎通をうまく表現する方法が思いつかないからそんなふうにしたわけではないんです。

ネタバレになるので詳細は書きませんが、クライマックスのシーンでも漫画のモチーフが顔をのぞかせます。
このシーンは、別にそんな演出をしなくとも話は通じるんですが、あえてそういうふうにしたところがポイントだと思います。

こうして全体を見てみると、「マンガ」あるいは劇画というモチーフが一つのテーマとして扱われていることがわかります。

おそらくは、ちょっと前にあった劇画ブームを背景にしていると思うんですが……東宝自体が、『子連れ狼』などの劇画原作映画をヒットさせていたということも背景にあるらしいです。
ゴジラ映画は、その時代の流行なんかを取り入れることがよくあって、この作品で使われるマンガ的な表現は、そういう文脈でとらえられるべきでしょう。


あと、この映画を観る際の注意点は、Mハンター星雲人の正体が閲覧注意なアレだというところですね。これはきっちり本物のアレを使って撮影されているそうです。裏側リアルなところも出てくるので、ここはちょっと気をつけたほうがいいかもしれません。

ここに、シニカルな文明批判を読み取ることもできるでしょう。
彼らの住んでいた星は、もともと人間のような生物が住んでいたものの、無謀な繁栄を追求したために環境破壊によって荒廃してしまったのです。そして、アレがはびこる星になってしまいました。そのことが語られるくだりでは、前作『ゴジラ対ヘドラ』に出てきたヘドロの映像が流用されたりもしています。このあたり、『ゴジラ対ヘドラ』で見えた路線を引き継いでいるようでもあります。繁栄を求めるあまりに、鉛と放射能の星になってしまい、アレが支配する世界……Mハンター星雲人によれば、地球もまた同じ道をたどっているのです。このシーンに、『ゴジラ対ヘドラ』の毒の効いたメッセージのリフレインを聴きとることができるかもしれません。ただ、全体のコミカルタッチとのミスマッチがあって、そういうメッセージ的な部分もなんだかとってつけたようなものに感じられてしまうんですが……


ここで、ガイガンという怪獣についても触れておきましょう。

ガイガンは、次作『ゴジラ対メガロ』にも登場。さらに、その次の作品である『ゴジラ対メカゴジラ』にも当初は登場する予定だったといいます。それは実現しませんでしたが、ずっと後になって『ゴジラ FINAL WARS』では結構重要な役割を担って登場します。

モスラやキングギドラといった“常連”怪獣ほどの存在感はありませんが、いぶし銀的な魅力がガイガンにはあります。
両手の鎌と、腹についたノコギリ、X-MENのサイクロプス風の目から発射される光線――これらのビジュアル的なインパクトも、ちょっとほかの怪獣にはないものです。
サイボーグ怪獣で、殺し屋というか、用心棒というか、そんな仕事人的な雰囲気をまとっています。
Mハンター星雲、シートピア、ブラックホール第三惑星といったところに住む人たちが、その殺し屋を雇って派遣しているらしいのです。
このガイガンが初登場したということも、本作に関して特筆されるところでしょう。

さらに、音楽にも触れておきましょう。

この作品では、伊福部昭によるゴジラのテーマが戻ってきます。

前作、前々作ではあのゴジラのテーマが流れませんが、この作品ではそれが復活しました。
『怪獣総進撃』以来2作を経て、ゴジラのテーマが戻ってきたのです。
しかし……伊福部音楽をぜひ使いたいという制作意図でそうなったわけではなく、これも使いまわしの一環だそうです。
作曲家に新たな曲の制作を依頼したり、ミュージシャンを集めて録音すると、当然ながらお金が発生する。その経費を節約するために、過去の映画の音楽をピックアップしてきたのだとか……「音楽の経費を削ったところで、全体の予算はほとんど変わらない」と音楽担当者が抵抗したものの、田中友幸プロデューサーと福田監督に押し切られたということです。
それらの曲は、おもにゴジラ映画からですが、それ以外のものもあります。
テーマ音楽は、東宝が関わっていた大阪万博の三菱未来館で使われた音楽の流用ですが、この選曲もいささか情けない理由によるものです。はじめは『宇宙大戦争』のテーマ曲を使おうとしたものの、それは有名な曲だから流用とばれる可能性がある。さすがにテーマ音楽が在りものなのはどうかと思われるから、流用であることがばれにくいものを――ということで、この曲を選んだそうです。
いや、むしろそれこそ、それはどうかと思わされる話ではありますが……映画産業が、特撮が、それだけ追い詰められた状況だったということでしょう。

音楽に関してもう一つ付け足しておくと、『ゴジラ対ガイガン』にはエンディングテーマがあります。
これはさすがに書き下ろされたものだと思いますが……ただ、作曲したのは、前々作『ゴジラ ミニラ ガバラ オール怪獣大進撃』の音楽を担当した宮内國郎さんで、そのあたりの事情はよくわかりません。
「行くぞどこでも 平和のためだ」という歌いだしから、いやいやちょっと待ってくれよとなる歌ですが、「広い世界をかけめぐり めざすは悪い怪獣だ」と続き、最後は「ガンバレ ガンバレ ぼくらのゴジラ」としめくくられて愕然とさせられます。
この歌もまた、本作からゴジラが「正義の味方」に定着したとされる所以でしょう。第一作ゴジラや、平成ゴジラを見て育ったものとしては、尋常じゃない違和感があります。
しかし、これもまた、ゴジラシリーズが生き残りのために選んだ道だったということでしょう。本当にそこにしか道はなかったのかと私は思ってますが……

ともあれ、結果として、『ゴジラ対ガイガン』は、前作に続いてそれなりの成績をおさめました。
要因はいろいろあるでしょうが、タッグマッチという方式でキングギドラを登場させたことも大きかったと思います。観客動員数は、前作『ゴジラ対ヘドラ』をやや上回り、東宝にとってもほとんど望外の成功だったんじゃないでしょうか。こうして、昭和ゴジラはもう少しだけ生きながらえることになるのです。





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