既に読まれた方も多いかと思うけど、高野和明氏の傑作『ジェノサイド』
である。初版が出たのが二年前だが、図書館での予約待ちで一年半して、
ようやく順番が廻ってきた。高野作品では『13階段』や『グレイヴデ
ィッガー』を大変面白く読んだが、本書が現時点での最高傑作に思う。
アフリカの未開社会に突然変異で「神」のような、脅威の超人類が誕生
してしまった。彼(アキリ)は三歳児だが、アメリカは国を挙げて彼を抹
殺にかかる。「神」の三歳児と国家アメリカとの暗闘というのが、本書
の筋のひとつである。
実はまだ、最後まで読み終わっていないのだが、気に入ったセリフがあっ
たので、引用したくなった。以下、作中人物ハイズマン博士の言である。
「いいかね、戦争というのは形を変えた共食いなんだ。
そして人間は、知性を用いて共食いの本能を隠蔽しようとする。
政治、宗教、イデオロギー、愛国心といった屁理屈をこねまわしてな。
しかし根底にあるのは獣と同じ欲求だ。
領土をめぐって人間が殺し合うのと、縄張りを侵されたチンパンジー
が怒り狂って暴力を振るうのと、どこが違うのかね?」
(p409『ジェノサイド』(高野和明著):改行随時引用者)
「君には気の毒だが、ペンタゴンの作戦には協力できん。
新しい人類が現われたのなら、それは喜ばしいことだ。
現生人類は、誕生から二十万年を費やしても殺し合いを止められなか
った哀れな知性生物だ。
殺戮兵器をかき集めて威し合わなければ共存できない、この現状こそ
が人間の倫理の限界だったんだ。
そろそろ次の存在に、この星を譲ってもいい頃だと思うね」
(p409『ジェノサイド』(高野和明著):改行随時引用者)
戦争は「形を変えた共食い」という生物学的表現は面白いし、我々人類
は、国家も人間も互いに「威し合わなければ共存できない」という倫理
の限界の指摘は、私には、矢が的を射抜いたように印象深かった。
最も、このようなモチーフや視点は、SF作品では既出なものだろう。
私はJP・ホーガンの『星を継ぐもの』等に登場する、超知性体ガニメア
ンを思い出したが、それでも、生命科学や創薬化学の有機合成等に、緻密
な言及が散りばめられた労作の中に置かれると、一際いぶし銀で重たいメ
ッセージ性が感じられた。
高野氏の『ジェノサイド』は力作・労作・傑作である。英米圏等で翻訳さ
れても、かなりヒットしそうに思うが、著者も「世界市場」を狙っている
のかな? それは知らないけど、今後が楽しみな作家である。
参考文献:『ジェノサイド』(高野和明著)角川書店
である。初版が出たのが二年前だが、図書館での予約待ちで一年半して、
ようやく順番が廻ってきた。高野作品では『13階段』や『グレイヴデ
ィッガー』を大変面白く読んだが、本書が現時点での最高傑作に思う。
アフリカの未開社会に突然変異で「神」のような、脅威の超人類が誕生
してしまった。彼(アキリ)は三歳児だが、アメリカは国を挙げて彼を抹
殺にかかる。「神」の三歳児と国家アメリカとの暗闘というのが、本書
の筋のひとつである。
実はまだ、最後まで読み終わっていないのだが、気に入ったセリフがあっ
たので、引用したくなった。以下、作中人物ハイズマン博士の言である。
「いいかね、戦争というのは形を変えた共食いなんだ。
そして人間は、知性を用いて共食いの本能を隠蔽しようとする。
政治、宗教、イデオロギー、愛国心といった屁理屈をこねまわしてな。
しかし根底にあるのは獣と同じ欲求だ。
領土をめぐって人間が殺し合うのと、縄張りを侵されたチンパンジー
が怒り狂って暴力を振るうのと、どこが違うのかね?」
(p409『ジェノサイド』(高野和明著):改行随時引用者)
「君には気の毒だが、ペンタゴンの作戦には協力できん。
新しい人類が現われたのなら、それは喜ばしいことだ。
現生人類は、誕生から二十万年を費やしても殺し合いを止められなか
った哀れな知性生物だ。
殺戮兵器をかき集めて威し合わなければ共存できない、この現状こそ
が人間の倫理の限界だったんだ。
そろそろ次の存在に、この星を譲ってもいい頃だと思うね」
(p409『ジェノサイド』(高野和明著):改行随時引用者)
戦争は「形を変えた共食い」という生物学的表現は面白いし、我々人類
は、国家も人間も互いに「威し合わなければ共存できない」という倫理
の限界の指摘は、私には、矢が的を射抜いたように印象深かった。
最も、このようなモチーフや視点は、SF作品では既出なものだろう。
私はJP・ホーガンの『星を継ぐもの』等に登場する、超知性体ガニメア
ンを思い出したが、それでも、生命科学や創薬化学の有機合成等に、緻密
な言及が散りばめられた労作の中に置かれると、一際いぶし銀で重たいメ
ッセージ性が感じられた。
高野氏の『ジェノサイド』は力作・労作・傑作である。英米圏等で翻訳さ
れても、かなりヒットしそうに思うが、著者も「世界市場」を狙っている
のかな? それは知らないけど、今後が楽しみな作家である。
参考文献:『ジェノサイド』(高野和明著)角川書店