脳辺雑記帖 (Nohhen-zahts)

脳病と心筋梗塞を患っての独り暮し、Rondo-Nth の生活・世相雑記。気まぐれ更新ですが、気長にお付合い下さい。

『ジェノサイド』(高野和明)を読んで‥。

2013年03月02日 21時21分04秒 | 読書・鑑賞雑感
既に読まれた方も多いかと思うけど、高野和明氏の傑作『ジェノサイド』
である。初版が出たのが二年前だが、図書館での予約待ちで一年半して、
ようやく順番が廻ってきた。高野作品では『13階段』や『グレイヴデ
ィッガー』を大変面白く読んだが、本書が現時点での最高傑作に思う。

アフリカの未開社会に突然変異で「神」のような、脅威の超人類が誕生
してしまった。彼(アキリ)は三歳児だが、アメリカは国を挙げて彼を抹
殺にかかる。「神」の三歳児と国家アメリカとの暗闘というのが、本書
の筋のひとつである。

実はまだ、最後まで読み終わっていないのだが、気に入ったセリフがあっ
たので、引用したくなった。以下、作中人物ハイズマン博士の言である。

「いいかね、戦争というのは形を変えた共食いなんだ。
 そして人間は、知性を用いて共食いの本能を隠蔽しようとする。
 政治、宗教、イデオロギー、愛国心といった屁理屈をこねまわしてな。
 しかし根底にあるのは獣と同じ欲求だ。
 領土をめぐって人間が殺し合うのと、縄張りを侵されたチンパンジー
 が怒り狂って暴力を振るうのと、どこが違うのかね?」
       (p409『ジェノサイド』(高野和明著):改行随時引用者)

「君には気の毒だが、ペンタゴンの作戦には協力できん。
 新しい人類が現われたのなら、それは喜ばしいことだ。
 現生人類は、誕生から二十万年を費やしても殺し合いを止められなか
 った哀れな知性生物だ。
 殺戮兵器をかき集めて威し合わなければ共存できない、この現状こそ
 が人間の倫理の限界だったんだ。
 そろそろ次の存在に、この星を譲ってもいい頃だと思うね」
       (p409『ジェノサイド』(高野和明著):改行随時引用者)

戦争は「形を変えた共食い」という生物学的表現は面白いし、我々人類
は、国家も人間も互いに「威し合わなければ共存できない」という倫理
の限界の指摘は、私には、矢が的を射抜いたように印象深かった。

最も、このようなモチーフや視点は、SF作品では既出なものだろう。
私はJP・ホーガンの『星を継ぐもの』等に登場する、超知性体ガニメア
ンを思い出したが、それでも、生命科学や創薬化学の有機合成等に、緻密
な言及が散りばめられた労作の中に置かれると、一際いぶし銀で重たいメ
ッセージ性が感じられた。

高野氏の『ジェノサイド』は力作・労作・傑作である。英米圏等で翻訳さ
れても、かなりヒットしそうに思うが、著者も「世界市場」を狙っている
のかな? それは知らないけど、今後が楽しみな作家である。

参考文献:『ジェノサイド』(高野和明著)角川書店







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