俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

還付

2015-09-11 10:48:26 | Weblog
 新しい制度は常に批判に晒されるものだが、私としては珍しく財務省の案を高く評価する。財務省が与党に提案した消費税還付の仕組みはよくできている。流石にエリート揃いの財務省だと感心した。
 還付方式を検討していると聞いて私は酷い仕組みを想像した。消費者がレシートを集めて申告するという方法だ。こんなことをすれば還付の手続きだけで何時間も掛かってしまう。
 還付に上限を設けたのも上手い仕組みだ。軽減税率が必要なのは生活必需品を安くするためであり、同じ食品であっても贅沢品の税率を軽減する必要などあるまい。しかしその線引きが難しい。幾ら以上の牛肉なら贅沢品と見なすかは意見が分かれる。そんな議論を排除して総額だけで制限するとは素晴らしいアイデアだ。消費税の仕組みに初めて不平等性が導入されたことも画期的だ。
 消費税の欠点は逆進性ではない。平等性だ。貧しい人にまで平等に負担させるからこそ悪税なのだと思う。
 逆進性を主張する人は、収入と税額の比率を根拠にして批判をする。これは無意味だ。支出と税額で見れば全く平等だ。彼らは大きな思い違いをしている。金は使って初めて価値が生じる。使わない金など幻の豊臣家埋蔵金のようなものだ。更に、使われなかった金がその後どうなるかが問われねばならない。いずれ使われる。そしてその時には今よりも高い消費税率になっているだろう。使わずに残せば税負担額が増えるということだから逆進性など無い。消費税が収入時ではなく支出時に掛かる税金であり、それが現在だけではなく未来永劫課税される仕組みであることが理解されれば、海外移住でもしない限り逆進性になどならないことが分かる。
 日本の消費税はインボイス(伝票)制ではなく帳簿制だ。これは事業者の事務を軽減するために採用された。しかしこの仕組みには大きな欠陥がある。複数税率に対応できないことだ。だから軽減税率を導入するためにはヨーロッパのようなインボイス制に変更する必要があると思われた。自民党が軽減税率に抵抗し続けたのもこれが最大の理由だ。党の公約である軽減税率の導入を迫る公明党のしつこさに音を上げた自民党が「何とかしてくれ」と財務省に丸投げしたところこの案が提示されたらしい。還付による軽減であれば帳簿制のままで済む。
 今後の課題はマイナンバーカードの使い方だろう。個人情報が蓄積されているマイナンバーカードを持ち歩くことは危険だ。私は買い物専用のサブカードを作るべきだと考える。アルファベットなども使えば8桁程度で固有の買い物ナンバーが設定できるからそれを12桁の数字であるマイナンバーとリンクさせれば、小売店から個人情報が流出する恐れは無くなる。消費者はこの買い物カードを携帯すれば良い。しかしそれが可能であるのならマイナンバーカードとのリンクは必ずしも必要ではなくなる。この点を政府はどう辻褄合わせするのだろうか。
 勿論私は消費税という「平等な」税制を支持しない。財務省の案は、税負担を不平等にして高額消費者に多くの負担を強いるのだから今よりもマシだと考える。
 たまたま関東での豪雨・洪水があったために、還付制度に関する報道が不充分になっているが、今のところ新聞はテレビと比べて否定的であるように思える。これはもしかしたら新聞が軽減税率の対象外にされたことに対する意趣返しなのではないだろうか。困った体質だ。

心理師

2015-09-11 09:51:19 | Weblog
 心理職を国家資格として認める「公認心理師法」が9日に成立した。「心理師」とは馴染みの無い言葉だ。今普通に使われているのは「セラピスト」とも呼ばれる「○○心理士」だろう。なぜ「士」が「師」に変更されたのかについては敢えて詮索しない。
 私は日本の医療に対する不信感を持っているが、特に酷いと思っているのが精神医療だ。昔の「気違い病院」の仕事は患者を家族や社会から隔離することが主たる業務だったが、今もそんな精神病院が多数残っている。治療をすることなど最初から視野に無い。死ぬまで隔離することによって患者の家族の厄介払いをして多額の報酬(医療費)を得るというあくどいビジネスだ。こんな病院に入れられたら囚人のように扱われる。人権を取り戻すためには脱出するしか無いという恐ろしい場所だ。
 困ったことに精神病に対する対応は2種類に分断されている。医学系は精神科医や心療内科医で、心理学系は臨床心理士などだ。この2者は根本的に対立せざるを得ない。
 先に言ってしまうが、私は医学系を全く信用していない。最悪の対症療法だからだ。欝状態の人に抗鬱剤を処方すれば症状が軽減する。しかしこれは治療ではない。ただの誤魔化しだ。失敗して落ち込んでいる人が酒を飲んでどんちゃん騒ぎをして憂さ晴らしをするのと同レベルの問題の多い解消策だ。
 何度も書いたことなので極力短く書くが、欝状態になるのは生活上の問題が原因になっていることが多い。それは医師の手に負えることではないのだから、薬で誤魔化すのではなく、患者本人が問題を自覚して自ら解決せねばならない。このための最も優れた手法が、フロイト以来の心理療法だ。医師であったフロイトが医療の限界を痛感したからこそ心理療法の重要性を説いたのに、なまじっか即効性のある対症療法薬が見つかったばかりに、心理療法がまるで非科学的なオカルトのように扱われている。オカルトであるのはむしろ対症療法薬に依存し切った精神医学のほうだ。
 私もそうなのだが、心に関心を持つ人は心理学を学ぶ。精神医学ではない。医学を学ぶ人は心ではなく体に関心を持つ人が多い。だから彼らは心の問題を安易に体の問題に置換してしまう。心の機微を化学反応程度にしか理解しようとしない。こんな精神科医が軽度の神経症の患者を薬漬けにして完全な狂人にしてしまう。狂った精神医療を少しでもまともなものに変えるためにも「公認心理師」が活躍できる社会に変わって欲しいと思う。
 心理療法は時間が掛かるし患者の努力も欠かせない。しかし正しく原因に立ち向かわない限り、本当の治療は不可能だ。