俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

一過性

2015-11-05 10:31:20 | Weblog
 台風は必ず通過する。だから一定期間耐えていれば問題は解決される。しかし一年中吹き荒れる場所に住むためには全く違った対策が必要だ。地下に都市を築くようなことまで考える必要が生じる。
 日本は四季に恵まれている。冬に耐えれば春になり、夏に耐えれば秋を迎える。気候の問題は時間が解決する。このことが日本人の精神風土になってしまった。困った生徒がいれば卒業するのを待つ。理不尽なクレイムにも詫びて鎮めようとする。問題は先送りする。このように、雄々しく立ち向かうことよりも波風を立てないことが美徳とされた。しかしこんな対応が有効であるのは一過性の問題の時だけだ。放置すれば拡大する類いの問題に対処するための方法ではない。
 人体には自然治癒力が備わっている。だから医師はその場凌ぎをしていれば良かった。咳が出れば咳止めを、頭痛があれば鎮痛剤を処方していればその内、自然治癒力が働いて健康になる。日本の医師はそれが治療だと思っている。だから老化に対しても同じように対応する。関節痛には痛み止めを、便秘には下剤を処方する。しかしこんな対症療法では治療できない。老化には自然治癒力が働かないから、薬が無ければ生活できない薬物依存症患者を大量に作り出すことになる。現在の老人の大半が薬漬けになっているのは医師がデタラメな治療をするからだ。薬漬けになれば当然その副作用に苦しめられる。
 薬は「楽にする草」と書く。元来は薬草の意味だ。しかし楽にすることには二種類ある。完治することと苦痛を感じなくすることだ。この全く異なる二者が今尚、区別されていない。傷口を塞がないまま痛み止めを処方するような愚行が横行している。究極の対症療法はモルヒネ中毒だろう。痛みも苦しみも感じないまま命を失う。
 老人の膝の痛みに有効なのは鎮痛剤ではなくリハビリだ。膝の軟骨は擦り減る一方であり手術しない限り改善されることは無い。しかし膝の周辺の筋肉を鍛えることなら老人にも可能だ。筋肉がクッションの役割を果たせば膝の機能が回復する。
 一過性でない病気の治療こそ真の医療だ。老化や先天性異常などに一時凌ぎは通用しない。苦痛を緩和するだけの対症療法ではなく、治療をする医療が必要だ。リハビリ以外に食生活の改善や軽スポーツなどが有効だろう。但しこれらは医学ではない。医師は病気についてしか学んでおらず健康については何も知らない。医学(=病気学)ではなく「健康学」こそ必要だ。

一般論

2015-11-05 09:52:27 | Weblog
 大学生の時、私は哲学と心理学の二股を掛けていた。心理学科の学生の心理学のレポートを代筆することもあった。ところが途中から心理学に対する興味を失った。当時の心理学が実験心理学に偏っていたからだ。実権心理学ではこんな考え方を採っていた。「90%の人が同じ行動をする」=「90%がそう行動するという法則が成立する」私はこれに納得しなかった。これを偽科学だと考えた。もし落下物の10%が万有引力の法則に背くなら法則そのものを見直す必要がある。世界中の科学者が10%の異常現象の解明に乗り出すだろう。「90%正しい」で満足している限りそれは科学たり得ない。しかし精神病理を扱う異常心理学以外では例外の10%は無視された。当時は科学信仰の時代で人文学も社会学もそれぞれが人文科学や社会科学と名乗り似非科学を目指していた酷い時代だった。
 こんな思い出話を書くのは医学がこれと同じ問題を抱えているからだ。安易に数値化することによって偽科学になっている。統計処理をして数値化すれば科学を装えると思い込んで原因追及を怠っている。
 感染症と栄養においてはちゃんと原因にまで辿り着いている。この病原体が原因でこの感染症が起こり、この栄養素が不足すればこんな症状になると因果付けられている。しかしそれ以外についてはデタラメだ。血圧が高ければ降圧剤、下痢をすれば下痢止めが処方される。原因を問わない。
 先日WHOが「加工肉を1日50g食べれば癌に罹るリスクが18%高まる」と発表した時に私が憤ったのはこれが科学の仮面を被った偽科学だからだ。根本的な間違いは10月28日付けの「肉」で書いたので改めて書かないが、医学の名の元でこんないい加減な発表が相次いでいる。ここ数年だけでも清涼飲料水やお茶やコーヒーなどが病気と関係付けられている。これらの馬鹿げた発表を真に受ける人は余り多くないが、40年ほど前に「コゲを食べたら癌になる」と発表された時の影響は大きかった。多くの人が焼きおにぎりや焼き魚の皮を食べなくなった。ご飯のコゲや魚の皮などの本来利用できる筈の食材が有害物として廃棄された。その後の研究で、毎日コゲをバケツ一杯分食べない限り有害にはならないことが分かったが、今でもコゲを嫌がる人が少なくない。全く人騒がせな発表だった。
 加工肉の話に戻ると、加工肉と一括りにしている時点で科学ではない。肉の加工方法は様々であり添加物はそれぞれ異なるし、材料にされる肉の質も部位も異なる。こんな違いを全く考慮せずに「加工肉でリスクが高まる」などとは科学以前だ。これは「豆に毒性がある」と発表するのと同じようなレベルだ。実際に一部の豆には毒性がある。10年ほど前に「ぴーかんバディ!」という番組で「白いんげん豆ダイエット法」が紹介されたところ大勢が食中毒を患った。これは加熱が不十分だったために起こった事故であり、このことを根拠にして「豆は毒」と一般化することは正確性を欠いている。世界中を探せば発癌性物質を含有する加工肉が見つかるだろうが、これを根拠にして「加工肉で発癌」と発表することは「豆は毒」と同様、乱暴過ぎる一般化だ。