俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

塀の内外

2015-11-15 10:16:29 | Weblog
 巨大な防潮堤は役に立つのだろうか。東日本大震災の折り、世界最大級の防潮堤が決壊し、防潮堤を過信して避難をしなかった人や防潮堤に遮られて海の異変に気付かなかった人が大勢水死した。千年に一度の巨大津波に備える必要などあるのだろうか。防ぐことより逃げるほうが有効だろう。
 馬鹿げた実例がある。1993年に北海道の奥尻島を襲った津波によって住民4,700人中200人以上が亡くなった。国は高さ11mの防潮堤で島を取り囲んだ。しかし防潮堤によって景観も漁場も失った島からは住民の流出が相次いで今の住民数は3,000人にも満たないそうだ。牢獄のような塀の中で暮らすよりは自然や資源に恵まれた暮らしのほうがずっと好ましい。
 牢獄や防潮堤に限らず、巨大な塀は内外を分断する。中世西洋の都市国家は城壁国家だったし、世界最大の建造物である万里の長城は元々、漢族の地と蛮族の地の境界だった。境界の外であれば匈奴やモンゴル族などが何をしようと中国歴代王朝は関与しなかった。
 今、万里の長城は中国の国内にある。これは歴史的には奇妙なことだ。漢族による支配はこれまで万里の長城の外には及ばなかった。万里の長城が古代以来の中国人が定めた国境だ。万里の長城を越えて南北を支配したのは元や清のように、北方民族が漢族を支配した時だけだった。清朝の時代、清の領土は万里の長城を跨いだが、満洲は満州族(女真族)の領土であり、漢族の勝手な立ち入りは許されなかった。
 こう考えれば辛亥革命で清朝が滅んだ時に、ラストエンペラーの愛新覚羅溥儀が満洲国王に収まることが当然とも思えるが、日中ソにモンゴルが絡んだ領土争いは奇々怪々過ぎて正直な話、素人には訳が分からない。日本では余り報じられないが、現在も内モンゴルではウィグルやチベットと同様、独立運動が続いている。
 先日、習近平国家主席は「南シナ海(の島)は昔から中国の領土だ」と語ったが、歴史に基づくなら現在の内モンゴル自治区が中国の領土ではなかったことこそ明白だ。万里の長城という「動かぬ証拠」がある。

自転車事故

2015-11-15 09:40:06 | Weblog
 戦後最高のアスリートはイチロー選手だろう。パワーは乏しいがスピードや反射神経などの総合力で多分№1だろう。そのイチロー選手が高校生の時に自転車通学の途上で自動車との接触事故に遭い、その怪我が原因で投手を諦めて野手に転向したそうだ。最高のアスリートであるイチロー選手でさえ自転車事故を回避できなかったのだから我々凡人に回避できる訳が無い。自転車は危険な移動手段だ。
 天才スイマーの萩野公介選手が自転車事故で骨折して8月の世界水泳を欠場した。水泳の万能選手の萩野選手が陸に上がった河童だったとは思えない。多分陸上でも標準以上の運動能力を備えているだろう。萩野選手やイチロー選手に限らず、多くの一流選手が自転車で怪我をしている。
 たまに前輪の買い物籠に荷物を積むが缶コーヒーなどの重い荷物であれば随分運転しにくくなる。動かない荷物でさえ邪魔なのにここに動く子供を乗せるなどとんでもないことだ。増してや非力な女の細腕だ。多分事故率はかなり高いだろう。
 子供の自転車も危険だ。運動能力が低いだけではなく一般常識が欠けているし、何よりも道路交通法を知らない。自転車に乗る子供には道路交通法の講習を義務付けるべきだろう。
 公園などで子供が事故に遭うとマスコミは騒ぎ立てる。こんな事故よりも自転車事故のほうが遥かに多い。事故が多過ぎるからニュースにならないだけだ。これはマスコミの悪癖だ。新奇な事件ばかり騒ぐから本当に危険なことが知らされない。もういい加減に、犬が人を噛んでも騒がずに人が犬を噛んだら騒ぐような猟奇的な報道姿勢を改めるべきだろう。
 昨年の自転車事故は警察が把握しているだけで11万件あり死者は542人だったそうだ。事故の当事者の年齢層は20歳未満が30.6%、65歳以上が18.5%と子供と老人が極端に多く、この2つの年齢層が半分を占める。これは子供と老人が自転車をしばしば利用するからではなく、運動能力の低さが原因だろう。
 大袈裟な言い方かも知れないが、日常生活で最も命の危険を感じるのは自転車に乗る時だ。道路交通法を守っていてもそれを守らない自動車に遭遇すれば一溜りも無い。裸で戦場にいるようなものだ。電車を利用できない田舎者は不幸だ。都会人は優遇されている。都会には立派な橋があるのに田舎には吊り橋しか無いというぐらいの格差だ。
 認知症の老人による自動車事故が頻発しているが免許証を返納できるのは都会に住む老人だけだろう。電車という文明の利器を使えず今更危険な自転車にも乗れなければ自動車に頼らざるを得ない。