アンティマキのいいかげん田舎暮らし

アンティマキは、愛知県北東部の山里にある、草木染めと焼き菓子の工房です。スローライフの忙しい日々を綴ります。

綾渡の夜念仏と盆踊りを見学しました。

2013-08-14 23:57:28 | 小さな旅
   友人に誘われて、先週土曜日10日に豊田市足助地区の綾渡の夜念仏と盆踊りを見に行きました。

   この夜念仏と盆踊りは、国の重要無形民俗文化財。夕方、足助交流館が手配したバスに乗り、うねうねとした細い山道を登って20分ほどで綾渡に。周囲を山に囲まれた美しい里です。

   到着したのは7時少し前。すでに、鉦をもって笠をかぶった浴衣姿の男衆たちが、曹洞宗のお寺・平勝寺参道の入り口に集まっています。じきに彼らは念仏を唱えながらお寺の山門に向かいました。

    山門の前に止まり、ここで一行は「辻回向」を行ないます。見物客が多くて見えなかったのですが、ここには石仏がたくさんあるそうで、彼らは石仏に向かって念仏を唱えていたのでした。

    夜念仏は、昔は足助から稲武、岐阜県の山岡町あたりまで広く行なわれていたお盆の行事だそうですが、今に残るのは綾渡だけ。昭和35年に保存会を結成し、集落をあげてこの伝統行事の保存に努めてきました。

    昔は、初盆を迎えた家に35歳以下の男衆が出向いて念仏を唱えて回り、平勝寺には、施餓鬼供養と観音の命日の日に集まって同様に念仏を唱えていたそうですが、青年の数が減ってきたことから昔ながらの風習を継続しにくくなりました。そこで、毎年8月10日と15日に、平勝寺での回向だけ行なうようになったとのことです。

    さて、一行は山門で「門開き」の念仏を唱えます。そして寺の住職が門を開けると、彼らは境内に入ります。

    最初に参るのが観音堂。ここで「観音様回向」を唱えます。ついで、隣の氏神の鳥居の前で「氏神回向」、最後に平勝寺本堂前で「仏回向」を唱えます。

    回向の文句はそれぞれ異なります。でも、ずっと静か。ほとんど暗闇の中で、念仏を唱える声だけが聞こえてきます。

    ところで、このお寺は曹洞宗の古刹。寺の境内に観音像があったり神社の鳥居があったりするのはよそでも見たことはありますが、他力本願を願う人たちが自力本願を主張する禅寺で念仏を唱えるという風習が昔からあったというのには、ちょっとおどろきました。でも、このお寺、昔は天台寺院だったそうなので、複雑ないきさつがあって今に至ったのかもしれません。

    夜念仏が終わると、境内に明かりがともります。いよいよ盆踊りです。この盆踊りは、太鼓も三味線も、もちろんラジカセなども一切使わずに、「音頭とり」と呼ばれる男性の歌う歌にあわせて踊ります。

    盆踊り歌は、10曲。順番が決まっていて、「越後甚句」に始まり、「御嶽扇子踊り」「高い山」と続き、「甚句踊り(足助綾渡踊り)」で終わります。  

    写真手前から二人目の年配の女性は、腰の落とし方がすばらしかった。かなりお上手な踊り手らしいのですが、昔の農民の体の動かし方は、こうだったのだろうなと思わせるしぐさでした。そういえば、阿波踊りも、ほとんどずっと腰を落として踊っています。今の私たちがあの体勢を維持するのは難しいことですが、昔の農民たちなら、あの姿勢こそ普段どおりの楽な姿勢だったのではないかと思います。

    私も踊りの輪に入りましたが、かなり難しい振りもあり、まったく習得できませんでした。白い扇子を使う踊りや、地面をこする下駄の音で拍子をとる踊りなど、ユニーク。最後の「甚句踊り」の振り付けは、稲藁を縛り、脱穀して籾を広げる収穫の動作をそのままに再現しているらしい、と現地でたまたま出会った知人が教えてくれました。

    盆踊り歌は、いずれも綾渡で古くから歌いつがれていたものと、近代になってからできたと思われるものがあるようですが、どれもみな色恋がテーマ。なかでも、「娘づくし」は、シモネタのジョークがいっぱいです。駄洒落がちりばめてあって、若い娘たちがはにかみながらもくすくす笑って踊っていたようすが髣髴とされます。若くはない私は顔を赤らめることはなかったけれど、何度もくすっと笑いました。

    盆踊りは、男女の出会いの場だったとよく聞きますが、これらの歌詞はそのことを彷彿させるに十分。ひとときの開放感が、日々のきつい労働で疲れた体と心を癒したのだろうな、と思います。

     夜9時過ぎ、盆踊りは終了。昔はおそらくもっと踊り続けていたのでしょうが、いまは、歌い手の数が少ないので、咽喉を痛めることのないよう、大事をとってひととおり踊り終わったらおしまいにしているのだそうです。

     寺を出てバスの待つ場所に向かう道の端には、小さなろうそくがずらっと立てられ、道案内を。美しくももの哀しい風景です。それにしても、いまは、この小さな里にだけ残る夜念仏と昔ながらの盆踊り。廃れそうになるのを食い止め、保存に力を注いできた人たちの苦労は大変なものだったことでしょう。

   さて、この行事は、明日15日にも行なわれます。足助交流館では、毎年6月から8月にかけて、3回ほど連続して綾渡の盆踊りの講習会を開いています。くわしくは交流館にお問い合わせ下さい。なお、このブログ記事は、足助交流館から配られた資料を参考にし、交流館館長の河澄健一さんが内容の確認をしてくださいました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする