アンティマキのいいかげん田舎暮らし

アンティマキは、愛知県北東部の山里にある、草木染めと焼き菓子の工房です。スローライフの忙しい日々を綴ります。

紅テント~状況劇場の思い出

2021-05-16 23:57:21 | 映画とドラマと本と絵画
   ひと月かふた月まえ、たまたまつけたNHKテレビの「アナザー・ストーリー」という番組に、唐十郎が出ていました。https://okmusic.jp/news/413498/

        彼らが新宿花園神社で紅テントの公演を始めたのは1967年。私が、京都の下賀茂神社の境内ではじめて状況劇場の公演を見たのは1972年か73年だったとおもいます。

   狭いテントの中に用意された御座に座り、開始時間近くになると舞台に立った人から、「せーの、はい!」と声がかけられ、いっせいに前と横に移動。隣の人とくっつくくらいきちきちに座らされてやっと開演となりました。

    私の記憶では、その、紅テント観劇初体験の時に初登場したのが小林薫だったとおもいます。シャイな感じの青年が、唐十郎に「京都出身の小林薫!」と紹介されました。その折の演目は「風の又三郎」。又三郎役が彼だったか、根津甚八だったかおぼえていないけれど。

    派手な衣装と化粧、大きなアクション、シュールな舞台装置とおどろおどろしい音楽。大げさな節回しで語られるセリフは、一言一言が意味ありげで、魅力的でした。物語の転回点になると、照明がふっと変わったり消えたりして、音楽もぐぐっと調子がかわる。その時感じた不思議な気分はいまだに覚えています。

    当時は麿赤児や四谷シモンはいなくなっていて、最も光って見えたのは大久保鷹。彼が登場し、ひとこと、「こんばんわ」と独特の口調でいうだけで、満場に拍手がわきました。

   番組には、俳優をずっと前に引退した彼も登場していました。舞台では不気味な迫力を撒きちらしていた彼が、ものわかりのよさそうな上品なおじいさんになっていました。

   次の年だったかに見たのは「ユニコーン物語」。その次の年はなんだったのか、覚えていませんが、そのどちらかで、インパール作戦によって死んだ兵士の亡霊を大久保鷹が演じていたように記憶していますが、違っているのかも。

   李礼仙と根津甚八が絡むミノタウルスの話も、謎めいていてよかった。その芝居の時だったかどうか忘れましたが、李礼仙が舞台をおりて花道~といっても御座が少し左右に開けて小道が作ってあるだけ~を走ってきたのですが、その時何かにつまずいた拍子に、花道のすぐ隣に座っていた私の膝にぽこんとすわってしまいました。「おお!」と周囲の声。ついで笑い声が。私も何となく晴れがましい気持ちになりました。李礼仙を抱いてしまった。

   毎回、芝居の最後はいつも、舞台の裏の天幕がはぎとられ、神社の木々や大道具を積んできたトラックの荷台が、夜空に立ちはだかるようにして私たちの眼前に現れます。クレーンも出てきたことがあるような気がします。見慣れたはずの夜の町の光景が、2時間の芝居の間にすっかり違うものに変貌したような錯覚を覚える瞬間でした。

   帰るときはいつも興奮状態。今から思うと、京都に行った最初の年から状況劇場の存在は知っていたのに、見に行かなかったのが悔やまれます。

   でも、その後、大学を卒業してから訪れたのは、1回か2回だけ。以前のような興奮や魅力を覚えなくなって、やめてしまいました。私が変ったのか、芝居が変ったのかわかりませんが。

    今回久しぶりに、唐十郎の声~脳梗塞か何かを患い、うまく口が回りにくいようでしたが~を聞き、昔の写真を見て、懐かしさと当時の感激を思い出しました。



    
コメント
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