私達はスローフード協会の会員である。「スローフード」とは、一言でいってしまえば、「良質な食べ物を食べて幸せになろう」という運動で、そのために世界中で様々な活動を行っている組織である。
その本部であるイタリアから、カルロ・ペトリーニ会長が来日され、レストラン・ミクニ・マルノウチにて講演を拝聴し、スローフード関係者とともに会食をする機会を得た。
当日、会食のスタイルも、これからの立食パーティーのあり方を示すように、大変洗練されたものであったし、何よりペトリーニ氏のお話が素晴らしかったので、その要旨をご紹介しようと思う。
「近年、食品の質の低下は目を覆うばかりであり、その要因は、母なる大地に敬意を払うことを忘れたばかりか、ひどい仕打ちを続けたことによる。母なる大地はなぜそのような仕打ちをうけねばならないのか?
人々が食に費やす時間とお金の割合を削り、その分、医療費や携帯電話などに振り分けた。その結果、食を生産する者は、ひたすらコストの削減を迫られ、大地に除草剤を撒き、家畜を一カ所に集めて人工飼料を与えるといった、人手も費用もかからない、工場方式の生産方法を採らざるを得なくなった。そしてその方法が、今日、食の安全を脅かすことになった。
この流れを良い方向に変えるためには、良質な食品の生産には、必要な人手をかけねばならず、消費者は、良質な食品に相応の価格が存在することを認識することが大切である。このように述べると「ああ、スローフードって、お金持ちの人の運動なのね」と誤解する人達がいる。そうでないことは、食品以外のちょっとした無駄遣いや、不健康な食事がもたらした医療費の支払いを、よく考え直してみるとお判り頂けると思う。
そして、若者にとって食の生産を魅力的と思える環境を作り、彼らが生産現場に返るようにすると共に、食の生産はコンピュータを操作することと同じ、もしくはそれ以上に価値のある仕事だということを、人々に教育しなければならない。
さらに、絶滅の危機に瀕している美味しい食べ物を保護、あるいは復活させ、真の意味でより豊かな食生活ができるように、生産者、消費者、料理人、研究者、ビジネスマン、など、皆が情熱的に手を携えることが必要だ。食こそは誰でも平等に楽しむことのできる素晴らしい文化なのだから」と、身振り手振りを交え、あるときは机を叩きながら、大幅に時間をオーバーして語ったのであった。頼めば一日中でも話し続けてくれそうなバイタリティが感じられた。
私達がスローフード運動を気に入っている点は、「ねばならない」とか「してはいけない」という強制・禁止の要素がないことにある。ファストフードもサプリも「いけない」訳ではなく、また「健康のためには玄米を食べなければならない」というのではなく「・・より・・の方がいいんじゃない?でも、無理をしないで、できることから、少しずつ」と、いう考え方だ。
これに比べると、「・・を飲まなければ・・・、・・を食べてはいけない・・」という生活の方がよほど窮屈で「・・しなければ、・・してはいけない」と考えるだけで、脳はストレスを受け、そのストレスが体にも影響を及ぼし、せっかくの食事や薬も逆効果になっているのではないかという気がしてならない。
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