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今年旧約聖書を読み進めているが、私が最も信頼を置いて読んでいるのは岩波書店の旧約聖書(2004年)である。割り合い詳しい註が、本文に添えて左側の頁に出ていて読み応えがある。当ブログで扱った文書説*への言及が、関根訳(1956年)ほど強調されていないが引き継がれている。そして、気付いたことは、七十人訳、サマリア五書、ペシッタ(シリア訳)、ウルガータ、それに死海文書が、ヘブライ語の旧約聖書本文とは違う異文を伝えている場合、それが参考にあげられていたり、補足、翻訳の資料に用いられたりしていることであった。

モーセ五書の本文について、文書説が本文の重複・繰り返し、あるいは矛盾や統一性欠如などについて説明してくれる有益な仮説であった。最近気付いたのは、少し次元が異なるが七十人訳やサマリア五書なども、聖書本文を読んでいく上で今日の読者の助けになる貴重な資料であるということである。時にヘブライ語本文に欠損箇所があるとき、それを補ってくれる。それらの諸訳が作成された時期などを簡単にまとめると次のようになる。


 七十人訳 紀元前3世紀。律法(トーラー)のギリシャ語訳。アレキサンドリアで翻訳された。岩波書店版で断然多く参照されている。


 サマリア五書 紀元前432年前後(通説)~BC122頃。バビロン捕囚後作成されたと考えられている。エルサレムのユダヤ教団に反発し、分離した異端グループのもの。
 ペシッタ(シリア語訳)紀元2世紀。ペシッタ(peshitta)は”simple, common, straight, vulgate”に相当する意味。
 ウルガータ(ラテン語訳)383-405年AD。キリスト教教父ヒエロニムスが翻訳。Vulgate は language of the common people の意味。
 死海写本 紀元前3世紀~紀元1世紀。これは翻訳ではなく写本である。


[左から旧約、七十人訳、新約、ウルガータ。時間的な関係が分かる。Paulo Brabo, 2007年。]

以上の資料の価値について具体的な例をあげれば、バラムの出身地が従来ユーフラテス河のほとりとされてきたのを、サマリア五書、ペシッタ、ウルガータの読みに従いアンモンの地アルノン川のほとりとしている(岩波訳 民数22:5)。また、「雌ろばがわたしを避けなかったら」と仮定否定文に訳されているのは、七十人訳、ウルガータに従った訳である。これはヘブライ語で「わたしを避けたなら」とあるのを文脈から判断して調整したものである。ほかにヘブライ語本文で言及している人物が誰なのか分かりにくい時、他の訳が参考になっている例が数多く見られるし、ヘブライ語独自の分かりにくい表現や本文が壊れている箇所で補われている。以上、聖書学の専門家の目には今頃になって漸く、ということになろうが、私にとってはサマリヤ五書やペシッタなど聞き慣れない聖書の価値を感じることができた経験であった。

かくして聖書を学ぶ者にとって、最も重要な三つの言語をあげるとすればヘブライ語、ギリシャ語、ラテン語ということになる。

*文書説は、旧約聖書のモーセ五書が主として次の四つの文書から構成されるとする仮説である。1、ヤハウィスト(J資料)、2、エロヒスト(E資料)、3、申命記史家 D、4、祭司文書(P資料)。ただ、五書研究の状況は諸説が登場し、大変混沌としたものとなっている。そのため、翻訳担当者によって文書説参照の度合いが異なってくる。ただ、大筋は共通認識となっていて、「古典的四資料仮説」(山我哲雄)という表現がそれを表わしている。

参考
旧約聖書翻訳委員会「旧約聖書 I [机上版]」岩波書店、2004年。

当ブログの記事 2014.02.08 モーセ五書の文書説 末日聖徒の対応は
2014.02.17 モーセ五書の「文書説」を受け入れた場合
2014.03.29 モーセの史実性
2014.04.10 [書籍紹介]米末日聖徒が旧約聖書の文書説について出版

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