小田原周辺のマイナースポットや些細な出来事を少しずつ
小田原の端々



電車移動の際に読書をして過ごす事が多くて毎月15冊前後の小説を読んでいる。気に入った作家の作品以外では過去の文学賞受賞作品を読むようにしていて、先日読了した芥川賞受賞作の舞台が小田原だった。保坂和志著の「この人の閾」は1995年上半期の芥川賞受賞作。文庫本で70ページくらいで、全編にわたり小田原が舞台となって話が進んでいく。詳しい内容は割愛するが、仕事のため小田原にやってきた主人公が客先に電話したところ不在を告げられて、時間調整のために小田原在住の大学時代の友人を訪れる話。小説は「小田原、一時」という約束の時間に着いて駅前から電話を入れると…と始まり冒頭から小田原の名が出てくる。小説の中心となるのが、大学時代の友人である関根真紀さん宅。地名などの表記は無く、文中で「海がすぐそこ」「畑や田圃がだいぶ残っていて」「小高い丘のようなものもなくて」とある。また原付バイクで小田原駅まで15分程度の場所の設定。諸々の条件に一番合う場所は東町のれんげ幼稚園の裏手あたりが該当するのではと思う。さらに文中にある「幅1メートル程度の農業用水路まで流れていて」の条件を加えると町田小学校の東側150mほどの寿町4丁目周辺が該当しそうな場所となる。個人的には保坂和志の小説は過去に何冊か読んだことがあって、独自の文章はセンテンスが長くて読みづらく苦手だったが「この人の閾」はわりと読みやすかった。昨年読んだ小説の何冊かの中にも小田原が登場したものがあったので、機会をみつけてブログで紹介したいと考えている。

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小説を読むのが好きでジャンルを問わずに乱読しているが、時折小田原にちなんだ作家や作品を読むようにしている。先日読了した立原正秋の「舞いの家」は昭和四十年代半ばの小田原が舞台の小説だった。立原正秋の「舞いの家」は昭和46年に刊行された長編ロマン小説。文庫本で440ページほどで半分くらいが小田原やその周辺が舞台となっている。詳しい内容は割愛するが主人公の妻は能楽の宗家の娘で、小田原の板橋に宗家の能楽堂がある設定。主人公の夫は宗家の跡をついだ能役者だが女にだらしなく小田原と東京を行き来しながら妻以外と色恋沙汰を繰り広げながら話が進む。先日、作中に登場した場所に出かけた。小説の冒頭で登場するのが香林寺。『家を出てしばらく坂道をおりて行くと香林寺の前に出る。そこから板橋地蔵尊のある中板橋まで下り坂である。そこは箱根の入口で、麓の方では、早川に沿って箱根登山電車が走っていた。』と小説は始まる。香林寺の門前は、今でもそのまま小説の舞台となりそうな情緒ある佇まい。主人公が住む邸宅と能楽堂は香林寺裏手の高台に位置している。現在では閑静な高級住宅街で小説の描写に近い風情が今も残っている。小田原駅周辺の店は何店か登場するが店名まで書かれているのが浜町の蓑屋という割烹料理店。主人公が妹たちと連れ立って訪れ、作中では『蓑屋は、海岸にちかい浜町で、ふるい暖簾をまもっている割烹料理店だった。…以前はよく酒をのみに行く夫について行き、季節の魚など好みに応じてこしらえてもらったものだが…』とある。その当時、蓑屋という割烹料理店が浜町に実在したのか不明だが、あるとすると宮小路周辺だと思われる。その宮小路も年々昔ながらの料亭や割烹料理店が少なくなり活気が無くなってしまった。主人公が何度か足を運ぶ場所として登場するのが城山の陸上競技場や城内の小田原城や動物園。作中では小田原城前の茶屋が描かれているが今では軽食を売っていた建物は無くなり広場の一部になっている。確か公衆トイレ横に位置していたように記憶している。動物園の描写で登場するのがライオン。だが、雌のライオンについて奇妙な描写があり『その向こうにはライオンの檻があり、雄と雌が入っていたが、雌の方は下腹の方に大きな瘤が二つ出来ていた。腫瘍かもしれない、…」とある。小説が刊行された昭和40年台半ばに実際瘤のある雌ライオンがいたのかこれも不明。城址公園の動物園にいた動物のいくつかは剥製となって入生田の生命の星・地球博物館に展示されている。ライオンの剥製は小田原城址公園で飼育されていたライオンだったように記憶している。小説自体は煮え切らない主人公の夫にイライラするものの、一昔前の小田原が舞台になっているので楽しく読み進められた。今まで何冊か小田原にちなんだ小説を読んだが、『小田原』という地名が最も多く登場するのはおそらくこの立原正秋の「舞いの家」だと思う。また小田原にちなんだ小説を読んだ際には作中に登場した場所に散策に出かけたい。

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あまりジャンルを問わずに書評や受賞作などを参考に手当たり次第小説を読んでいるが、気に入った作家が見つかると10作品くらい連続して読むことがある。昨年読んで気に入った作家の一人が絲山秋子で色々と読み進める中に小田原が舞台の中編小説があった。絲山秋子の「妻の超然」は2010年に刊行された中編小説集。そのなかの表題作である「妻の超然」は文庫で90ページほどの中編小説。主人公は小田原在住の夫婦で市内各所が舞台となって物語が進む。先日、作中に描かれた場所へ出かけた。詳しい内容は割愛するが「妻の超然」は倦怠期の夫婦の日常と夫の浮気について書かれた小説。主人公の妻は小田原駅近くの中高層マンションに暮らしており、夫は小田原市内の製薬会社で働いている。作中で小田原の印象については「小田原は幕の内弁当のような街だ。ごま塩をふったご飯を真っ白な壁の小田原城に見立てるならば、商店街は色とりどりのおかずのように立ち並ぶ」とある。その商店街についての描写もあるが商店街名までは書かれていない。しかし作中には「魚屋のすぐ先に布団屋があったり…」との記載があってそれらにぴったりと合うのは錦通り周辺。おそらく魚屋は魚國で布団屋はナカヤマのことだと思われる。主人公の妹の旦那の叔母である舞浜先生なる人物も小田原在住で、作中では箱根板橋の旧内野醤油店近くのログハウスに住んでいる設定。箱根板橋の旧東海道沿や住宅街についてはしっとりとした描写で書かれている。箱根板橋周辺は立原正秋の小説「舞いの家」の舞台にもなっている。主人公の買い物先として何度か登場するのが川東地区のロビンソン百貨店。そのロビンソン百貨店は2013年の3月に西武小田原店へと変わってしまった。なにもすることがない日に主人公が訪れるのが小田原城址公園の動物園。主人公とウメ子とのやりとりがほのぼのした描写で書かれている。残念ながらウメ子は2009年の9月に亡くなっている。「妻の超然」の初出は新潮の2009年3月号なので、半年間は作中に描かれた諸々の風景が揃っていたが残念ながら現在はそのいくつかが失われたり変わっている。地元が舞台なのでやはり親近感を持って読み進められてなかなか面白かった。ストックしてある何冊かの小説の中にも小田原が登場するのでまた機会があればブログで紹介したい。

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小説を読むのが好きでジャンルを問わずに乱読している。小説を選ぶ際には書評や文学賞などを参考にしていて、昨年読んだ直木賞受賞作の小説の中に小田原が舞台として登場していた。 2006年に刊行された三浦しをんの「まほろ駅前多田便利軒」は第135回直木賞を受賞した小説。以降、本屋大賞を受賞するなどの人気作家の代表作の中に小田原がほんの少しだが登場する。先日、「まほろ駅前多田便利軒」の中に描写されている小田原の各所へと出かけた。大まかなストーリーは割愛するが、便利屋を営む主人公が夜逃げをした依頼人を探しに東京から小田原へと訪れるシーンが9ページほど描かれている。小田原東インターチェンジで小田原厚木道路をおりた主人公は「酒匂川を越えたところで、ガソリンスタンドに入った」とある。酒匂川を超えるための橋は飯泉橋・小田原大橋・酒匂橋などあるが普通に考えると小田原東インターチェンジ下りてすぐの国道255号沿いを飯泉橋方面へ渡ったものと推測される。酒匂川を超えたところのガソリンスタンドに該当するのがダイヤ昭石小田原飯泉橋SS。小説中ではガソリンスタンド店員に周辺の地理を尋ねているが現在は店員の姿はほとんど見えないセルフのスタンドになっている。酒匂川を越えたところにあるガソリンスタンドから主人公は「大雄山線というローカル線と私鉄の箱根急行線に挟まれて、細い三角州状の住宅地はあった」場所へと向かう。作中では小田急線は箱根急行線として描かれているのでとりあえず小田急線と大雄山線が交差する場所へ。大雄山線五百羅漢駅の北側、扇町5丁目付近で小田急線と大雄山線が交差している。 2つの路線に挟まれ三角州状の住宅地に該当する場所は交差部分周辺の半径200mほどの場所と考えられる。作中の描写では「マンションと古いアパートの電灯が、暗い畑の向こうに青白く延々と連なっている。踏みこんだら二度と帰れぬ、燃える夜の森のような光景だった」と描かれている。とりあえず該当エリア内で畑を探すと五百羅漢駅西側の一画にしかない。小説中の大仰な描写にぴたりと当てはまる場所はなかったが、手前が畑で三角州状の住宅地というとこのアングルが一番近いと思われる。小田原の中でも特別に何か有名な観光スポットがある訳でもない扇町5丁目付近が何故小説に登場したのか定かではないが、作者の三浦しをんさんの母方が小田原の人なので扇町5丁目周辺になにか土地勘があったのかもしれない。今回の探索もなかなか楽しかった。

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趣味といえる程ではないが小説を読むのが好きで今年は200冊以上の小説を読んだ。小田原ゆかりの小説家の作品では小田原が舞台になることがあるが、話題になるような小説の中で小田原が登場するのは伊豆や箱根へと出かける際の地名や車窓からの描写程度がほとんどであるように思う。先日読んだ村上春樹の小説の中では小田原が舞台となっている場面が割合多めに書かれていた。村上春樹の長編小説「ダンス・ダンス・ダンス」は1988年に刊行後、20カ国以上の翻訳され300万部近く発行されたベストセラー。文庫本上下巻で約700ページ中の15ページが小田原が舞台となっている。先日、小説の舞台になった小田原市内の各所を巡った。全体のストーリー内容は割愛して小田原が登場する最初の場面が小田原城の動物園。主人公が13歳の霊感のある少女と箱根の別荘から小田原へと車で降りてきて映画が始まる時間までの暇つぶしとして動物園を訪れる。小説が刊行された1988年当時はまだフルラインナップで動物が揃っていたように記憶しているが、小説に描かれているのは猿だけ。小説中に「お城の中に動物園のある町なんて小田原以外にはまずないだろう。変わった町だ」と小田原の感想を述べた部分があるが、子供の頃は身近に動物園があることが普通だったのであまり変わっているとは思っていなかった。刊行から25年以上が経過し動物園で残っているのは猿の檻だけになってしまったが小説の舞台が今も残っているのでとりあえず良かった。動物園を後にした主人公たちが向かうのは二番館という名称の映画館。もちろん架空の名称の映画館だが、城址公園から徒歩で行ける映画館はその当時、オリオン座・中央劇場・東映・東宝の4館くらい。登場する二番館は邦画を上映していて「映画館は言うまでもなくがらがらだった。椅子は固く、押し入れの中にいるみたいな匂いがした」と書かれている。その描写に一番見合うのはおそらく東映ではないかと思う。東映だった建物はすでに解体され跡地は和菓子屋さんの店舗になっている。映画を見ていて気分が悪くなった少女を連れて主人公は国府津の海岸へと向かう。国府津海岸の描写は釣り人と西湘バイパスを往来する車のタイヤ音など。良くも悪くも描かれてはいない。国府津海岸での場面の大半は堤防に寄りかかって少女と主人公が話す場面。小説の中では話が大きく展開する大事な場面だが実際に訪れると実に地味なロケーション。国府津海岸の堤防はここ数年の嵩上げ工事のため大部分の区間が新しくなっている。小説の描写と実際の場所とのギャップやロケーション探しは意外と楽しい。今年読んだ直木賞受賞の小説内でも小田原が数ページほど舞台となったものがあるのでまた、そんな場所を巡ってみたいと考えている。

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