ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『自らの身は顧みず 』 ( 4項目の感想 )

2017-09-29 18:02:21 | 徒然の記

 田母神俊雄氏著』『自らの身は顧みず』( 平成20年刊 ワック株式会社 ) を読了。

 氏は昭和23年に福島県で生まれ、今年69才ですから、私より4才年下です。昭和46年に防衛大学を卒業して自衛隊に入り、平成19年に航空自衛隊のトップである、航空幕僚長に就任します。

  平成20年に、氏はアパグループ主催の懸賞論文に応募し、最優秀賞を受賞します。題名が、「日本は侵略国家であったのか」でしたが、同論文が政府見解と異なる主張であるとして問題視され、航空幕僚長の職を解かれます。

 辞職を迫られますが拒否したため定年退職という扱いで、自衛隊を追われるように退官させられます。

 平成26年、氏はチャンネル桜の水島社長と意気投合し、東京都知事選に立候補します。61万票を得て、立候補者16名中の4 位となりますが、自・公の押す舛添氏に敗れたのは、多くの人の知る通りです。私は覚えていませんが、同年12月の衆議院議員選挙に次世代の党から出馬し落選してもいます。

 翌27年の4月、都知事選における選挙運動で、公職選挙法違反があったとして逮捕されます。訴えたのは、確か、チャンネル桜の水島氏でなかったかと記憶しています。都知事選で、千葉県民の私は選挙権がなかったのですが、田母神氏の主張に共鳴し、応援いたしました。年金暮らしなので多くはできませんでしたが、スズメの涙ほどの寄付をしました。

 日本を思う保守二人が、都知事選で集めた資金の使途で仲違いし、裁判で争うとは、思ってもみないことでした。全国の支援者から集まった金が、一億余円だと聞きましたが、そんなはした金で名のある保守が合い争うことに、失望と幻滅を覚えたのは、つい先日のような気がしております。

 そういう事情があるため、氏の著作を前に、複雑な気持ちになりました。どんな意見を述べているのか、確かめてみたい好奇心と、金銭トラブルへの不信感が交じり合い、素直な気持ちで、本に向き合うことができませんでした。

 そして、読後の感想はどうだったか。詳しい説明は後にしまして、思いつくままの印象を並べてみます。

   1. 日本への思いは90%、氏の意見と同じ。極右だと氏が言われるのなら、私も同じことになる。

   2.  氏は、来栖参謀総長以来二人目の、政治的犠牲となった自衛官だった。

   3.  国の安全保障、防衛省の組織に関する意見は正論であり、いずれ見直される時が来る。

   4. 歴史に関する意見も正論だが、「何が何でも日本が正しい」と主張する頑固さに、真面目な保守は違和感を覚える。

  と、こんなところです。同じ保守と言いましても、林房雄氏や竹山道雄の著作を手にした時のような、強い感銘や敬意の念は、残念ながら生じませんでした。
 
 『私の昭和史』を書いた末松平太氏は、軍の組織で言えば、将官であるた田母神に比べますと、ずっと下位に位置する大尉でした。

 同名の『私の昭和史』を出した、白石正義氏は、士官学校を中退した特務機関要員でしかありませんでした。けれども私は、将軍である田母神氏の著作より、末松氏や白石氏の本に敬意と感謝の念を捧げました。人柄の違いがそうさせた、と思えてなりません。

 この感想は、著書だけでなく、他のことも知っているため、氏に厳しくなっているのかも知れません。

 「誰にでも分かりやすく、ユーモアを交えて語る。」と氏は言いますが、氏の「ユーモア」は、いわゆる「駄洒落」の類で、知的な風刺や警句の味がありません。「誰にでも分かりやすく」というのも大事ですが、物ごとを単純化してしまうのでは、事実が間違って伝わる危惧を覚えさせられます。

 「私は、日本の国をいい国だといってクビになりました。」「そんなら、自衛隊のトップには、日本の国は悪い国だという人間がふさわしいのか。」

 講演会でも、氏は聴衆の笑いを誘っていましたが、こうした単純化や極論は、愚かな者を笑わせても、真面目な人間は眉をしかめます。

 「国防の基本には、愛国心がある。」「日本はいい国だと自衛隊員が誇れなくて、どうして国が守れるのか。」

 氏の意見に反対しませんが、「日本はいい国」という表現の中には、氏独特のレトリックがあり、素直に肯定できない夾雑物が含まれます。

 巻末に挿入された例の「論文」も、戒改めて読み直しましたが、同じ印象でした。以前は読み過ごしたのですが、今度はじっくり読みました。簡単に言いますと、このレベルの内容なら若い自衛官の正論であり、将官である氏の立場なら、別の表現方法があったのではないか・・という印象でした。

 反日・左翼のマスコミと、反日の野党が跋扈している日本で、自衛隊のトップがこうした論文を書けば、どういう騒動になるか予測がつきます。戦後70余年が経過したのに、今も隊員たちの誇りを踏みにじるのかと、自衛隊のトップである氏の怒りを理解しますが、それでも、「論文」の文章表現には疑問が残る私です。

 氏の論文は、政府とマスコミと世論に対する反撃で、反日左翼に言わせれば、「敵対的攻撃」と受け取られる言葉です。氏は承知の上で論文提出を決断し、問題提起する意義も考えていますから、一つの覚悟と評したい気持ちもあります。

  いずれにしましても、氏への正しい評価は、ずっと後になるはずです。安全保障法が成立した今、来栖氏が再評価されているように、憲法改正後に、田母神氏が見直される日が来るのかもしれません。政界で69才といえば、まだ活躍できる年ですから何がどうなるのか、一寸先は闇の世界でもあります。氏の活躍を見守ります。

 明日から、4項目の感想を述べたいと思います。

コメント (2)
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