ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『統帥権について』 ( 統帥権に関する二つの意見 )

2018-03-14 19:35:22 | 徒然の記

 三潴 ( みつま  ) 信吾氏著『統帥権について』( 昭和48年刊 国民新聞社  )を、読みました。

 氏の略歴を紹介します。

  ・大正5年、東京に生まる。

 ・昭和16年東京帝国大学、法学部卒。

 ・明治大学予科教授を経て、高崎経済大学教授。

 ・同大学長を経て、現在附属図書館長。

 ・共立女子大学、麗澤大学講師を歴任。平成15年1月6日逝去」

 たった180ページの文庫本なのに、読み進むのに難渋しました。二回読み返しましたが、まだ理解できないところが残っています。

 今月の初め、富田健治氏の著『敗戦日本の内側』を読み、独立国には軍隊が必要で、やがて軍備が整えられる日が来るという意見に賛同しました。

 首相の知らない間に、戦争が現地軍の判断で拡大していく。どうすれば、軍の独走が防止できるのか。これが大東亜戦争での大きな課題でした。

 富田氏は答えとして、「軍の統帥を、絶対に国務から独立させてはならない。」と、語りました。ところが同じ保守でも三潴氏は、「統帥権の確立」なくして、国防軍は成立しないという意見です。

 「まえがき」で氏は、本書の内容が大きく二つに分かれると解説しています。

   1. 統帥権が明確化されていない現在の自衛隊は、軍隊ではない。

   2. 国防軍の再建には、統帥権の確立が前提である。

 同じ保守なのに、どこからこの違いが生まれるのか。三潴氏が大学を卒業した昭和16年が、どういう年であったのかを調べてみました。

  ⚫︎  2月14日 - 野村駐米大使がルーズベルト大統領と初会談

  ⚫︎  4日13 日-日ソ中立条約成立

  ⚫︎  6月30日-ドイツが日本に対して対ソ参戦を申し入れるも日本は拒否

  ⚫︎  7月16日 - 第二次近衛内閣総辞職( 松岡洋右外相更迭 )

  ⚫︎  7月18日 - 第三次近衛内閣成立( 外相豊田貞二郎 )

  ⚫︎  7月25日 - 米が在米対日資産を凍結

  ⚫︎  7月26日 英が在英日本資産を凍結

  ⚫︎  7月27日- 蘭印が在蘭印日本資産を凍結

  ⚫︎  7月28日- 日本軍、フランス領インドシナ南部進駐

  ⚫︎  8月 1 日- 米、石油の対日輸出全面禁止を発表

  これでみますと、三潴氏と富田氏の年令差というより、経験が違います。「軍の統帥を、絶対に国務から独立させてはならない。」という富田氏の意見は、近衛内閣の書記官長として日中戦争を終息させようと、軍部と議論を重ねた経験から出ています。

 三潴氏の意見は貴重な保守の論理ですが、やはり学者の意見に過ぎないのでないかと思います。

 明治30年生まれの富田氏は、大正10年京都帝国大学法学部を卒業し、内務省に入りました。静岡、岐阜、神奈川県等で、警視を務め、大阪府警察部長、内務省警保局長、長野県知事を歴任した後、第二次、第三次近衛内閣で、内閣書記官長の任にありました。

 大戦末期の日本を、二人はその目で見ていますが、当事者だった富田氏と、学者だった氏の視線は、これほど違っています。

  と言っても、三潴氏の著作を軽視してはいません。ローマ法とゲルマン法の違い、宮務法と国務法の区別など、新しい知識を得させてもらいました。憲法改正に関する次の意見は、襟を正して聴く価値があります。

 ・戦後の日本におきまして、憲法をなんとか改正せよとか、立て直せとかいう議論が出ます。

 ・国会議員だとか、あるいは政党だとかが、軽々しく、いろいろな改正の狼煙を上げたり、あるいは改正の具体案まで、個人的に出すような、軽率な人まで出てくる。

 ・そんなことをやって、しきりに功を焦っておりますけれど、いまもってそれが出来ないわけです。」

 ・すでに日本の主権が回復して、20年を過ぎておるわけですが、それでも、まだ出来ない。

 ・いかにみんなが慌てながら、しかも基本的な地道な努力をしていないか、ということが分かるわけです。

 ・今日の憲法論で申しますならば、みんなが、手続きのことばかり言っておりますけれど、根本的には、教育を立て直すことの方がむしろ先で、前提になるということをよく考えなければなりません。

 ・憲法を変えなければ、教育が立ち直らぬと言っているのは、むしろ責任転嫁でありまして、今の憲法であったって、まだまだ幾らでも教育の立て直しはできます。

  憲法の研究から発布まで、9年の歳月をかけた明治憲法と比較をしながら、たった10日分余りでGHQが作った現憲法が、果たして「憲法」と呼べるものなのか、分かりやすく氏が説明してくれます。

 保守憲法学者の中で氏は少数派だと書かれていますが、正論には耳を傾けなくてなりません。

 韓国が北朝鮮へ中国へアメリカへと擦り寄り、半島情勢が険しくなりつつあります。北のテポドンが日本に向けられ、弾頭には核も載せられそうだというのに、反日の野党は書類だ日報だと、重箱の隅を突つき国会の審議を止めています。

 マスコミが同調しているのか、煽っているのか、安倍政権を揺さぶっています。いずれも、利敵行為ですが、総理が乗り切れるのか、倒されるのか、情けない政争が続いています。

 国会の論戦を横目にしつつ、三潴氏の著書に向っています。「温故知新」の読書から、見えてくるものがあると信じ、「ねこ庭」に向かいます。

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