田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-11-04 13:06:52 | Weblog
「もうすこし堪えて。もちこたえて」

ふたりは蒼白な顔に、青く変化した顔に凄絶な覚悟をみせている。

戦闘能力のあるのはわたしたち家族だけなのか。
このままでは、わたしたちもかみ殺されてしまう。
もうこれまでなのか。     

「いますこし……あいつらをひきつけておいて」

いわれるまでもない。   

幸い無傷の利き腕で片手正眼に太刀をかまえなおす。   
中央にいかにもボス狼の威厳をみせて犬飼がいる。
わたしたちは人狼にとりかこまれている。 
周囲では傷ついた九尾の女たちの苦鳴の喘ぎがきこえる。
血と露出した内臓の生臭いが充満している。
人狼の呻きもきこえる。

わたしたちは孤立している。  
背後でなにやらかすかな音がする。
美智子と祥代が長刀の峰をこすりあわせている。
可聴領域すれすれの音。
なにをしているんだ。
もう戦う気力を喪失してしまっているのか?
どうした、戦え。  
さいごの血の一滴がながれおちるまで気力をしぼってたたかうのだ。                            
森の上空、霧の中から黒雲がわきでた。
それを視界の隅にとらえ、わたしは正眼のかまえのままじりじりと間合いをつめていく。
わたしは人狼の壮絶な体技をみた。
街のあわただしい騒音がきこえていた。
よかった。街の全体が人狼に屈したわけではなかった。
ここからあまり離れていないところで街が動きだした。     
犬飼に手傷を負わせたことで、いつもの日常がはじまっているのだ。
まだ、異形のものは眼交にいるのに、車の警笛が聞こえる。
子供たちが朝の挨拶を交わしているのがきこえてくる。
よかった。子供たちは子供たちのままでいる。

そしてもうひとつの音。  
おもわず、上空をみあげた。
こうもリだ。 
黒い、夥しいコウモリの群れが、羽音をたてて人狼に襲いかかっていく。

朝の街の騒音がすぐそばで蘇ってい。
それなのにここはまだ異界だ。    
いや、わたしたちがなにげなくすごしているすぐそばに、異界が存在しているのだ。

わたしは何匹もの人狼を切ったという確かな手応えと妻の役にたったという満足感をいだいた。            

……その街と異界の狭間で……人狼に刃をむけたまま……失神した。


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