田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

キリコの想い・美智子の想い/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-03 10:12:44 | Weblog
第十八章 美智子の涙

9

「助かりました。ありがとう」
隼人がかけつける。
それからキリコに。
「よくやったな」
お礼をいわれた百子が街灯の中で顔を赤らめている。
剛勇無双のクノイチのボスもイケメンにはよわいのか!!
キリコもあらためて隼人を見あげる。
なるほど、小栗旬のようだ。
いまどきめずらしいサムライ面だ。
「ヤッパ、恋人ムードじゃん」
だったら……いいのに……。
「そんなんじゃナイシ」
百子にひやかされた。
キリコのほほが桜色にそまる。
声までうわずっているが。
真顔になって「霧太は!!」
隼人があぶないと夢中で病室をとびだしたきた。
いきなり、痛む足をひきずって走りだした。
きゅうに、残してきた美智子と霧太が心配になった。

美智子はまだねむりつづけていた。

霧太はナース・ステ―ションに連絡した。
美智子をとりあえず翔太郎の隣の病室に移した。
微塵に砕けたガラス。
コウモリの死骸。
大騒ぎになった。
でも駈けつけた所轄の刑事は、日輪学院で共闘した顔見知りだった。
ことなきを得た。
ことが公にはならなかった。

「わあ!! キリコ、有名人のボディーガードしてるんだ。
それも、カッコイイお兄さんたちといっしょなんだぁ」
「弟の、霧太よ。お姉ちゃんが、助けてもらったの」
「噂は、きいています。イカ入り焼きそば、すごくおいしかったって」
霧太がおとなびた挨拶をかわす。
「ねぇ。目を覚ましたら中山さんのサインもらってね」

その美智子はまだ、夢の中――。
……でも、わたしはだめ。 
直人のことを忘れられない。
あれから庭の霧降の滝をみて過ごした。
それはもう、まいにちまいにち飛瀑の音を聞いて過ごした。
直人のことばかりかんがえていた。
やっとすこしたちなおってきた。
またひとを愛することはできない。
怖いのよ。わたしの愛する人は、直人だけ。
直人、直人、直人……長い眠りから美智子は目覚めた。

白い天井、白い壁。
白いカーテン。
でも太陽の光は窓からさしていない。
病室みたい。ここは病室だ。
直人はいない。
直人はいない。
わたしはひとりで白いシーツの海に漂っていた。
思いでの海に沈みかけていたのだ。
はつきりと記憶がよみがえってきた。
このとき、ドアがひらいた。
直人が、いや隼人がはいってきた。
「お目覚めですね」
隼人がうれしそうに笑っている。
「よかった。ぶじで……」
「じいちゃんは? 鹿沼のじいちゃんは」
「隣の病室にいます。助かりましたよ。肩の刺し傷だけでしたから……」
「唄子は……?」


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