田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

心の被災が心配だ/麻屋与志夫

2011-06-11 19:19:45 | Weblog
6月11日 土曜日

プログです。

●また二階の書斎が揺れている。あれから三月が過ぎた。マスコミの東日本大震災に関するニュースも毎日続いている。

●裏の山で鶯が鳴いている。梅に鶯と思いがちである。ところが濃緑色の葉かげて鳴く鶯もなかなか風情がある。庭には野鳥が来る。風もないのに小枝が揺れている。鳥が枝から枝へと飛交っているのだ。

●田舎町が震災に襲われたところが違う。神戸のような都会と違い、古くは関東大震災の東京とは違う。日本人の故郷ともいえる東北の街、とくに漁村が港町が震災にみまわれた。なんとも痛ましいかぎりである。

●そこへきて、原発による放射能被害。広島。長崎。被爆にかんしては、いちばん理解を深めていたはずの日本で、福島でこんな被害が出るとはなんとも皮肉な話である。皮肉などという、平凡なことばでは表現しきれない。悲惨な悲劇だ。

●わたしの家は直接の被害はなかった。でも街にはまだブルーシートを屋根に掛けたままの家。石塀がくずれたままの家がある。職人が被災地にかりだされている。比較的軽微な被害にとどまった街の復興はいつになるのか?

●物質的な被害もさることながら、精神的なこころの変化があらわれてくるのは、まだまだこれからだろう。

●わたしなどは、平静な田舎での生活をしてきている。ずっとこのまま静かな生活ができる。とおもっていた。ところが、震災後、子どもたちの勉強にとりくむ姿勢が悲観的になってきなってきている。将来に明るい展望がみられないせいかもしれない。塾生のこころが動揺しているのがわかる。

●物質的な経済的な被災とはちがう。これからじっくりとこころの被災があらわれてきそうだ。心配だ。


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まだ狙われていた/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-11 07:59:17 | Weblog
第二十章 酒の谷唄子

3

「女は男に染まりやすいからな」
「ジイちゃん。いまは女性といったほうがいいのよ」
「これは美智子にいっぽんとられたな」

 自由が丘に唄子をかくまった。
 美智子のところなら、マスコミにはかぎつけられないだろう。
 しられても、庭が広いからはいってはこられない。
 門扉を閉ざす。
 プライバシーは守られる。
 美智子も直人の死後。
 そうして耐えてきた。
 ひとりひっそりと生きてきた。
 ひとは世を忍び、孤独に耐えてこそ。
 おおきく成長する。
 モノの見方がおおきくかわる。
 ひととの付き合い方が変化する。
 ひとりでいる寂しさ。
 世の中にとりのこされた。
 みんなに忘れられた。
 もうがまんできない。
 精根尽き果てた。
 もうだめ。
 それでもさらに深い孤立感がある。
 隠れ忍。
 しのぶ生活にはさらに底がある。
 そこなしに落ちていく。
 深い絶望のはてに光りはさす。
 光のとどかない闇はない。

「わたし、マトリガールズとしてはじめてバイ人つかまえた」
 キリコがドヤ顔でいう。
 歌舞伎町でのことを話す。
「男は女性をつなぎとめておくために……麻薬をすすめる。
いずれにしても、麻薬を取り締まるキリコさんの仕事は高く評価されるべきだ」
 それだけいうと翔太郎も唄子の寝ている二階に上がっていった。

「それにしたも、あれほど堂々と麻薬の売買がされているとは、おどろきだった」
 と隼人。
「それに吸血鬼がからんでいるから、複雑なのよ」
 キリコがめずらしく吐息をもらす。
「こめんね。美智子さん。
唄子さんのことで頭がいっぱいなのに。仕事の話して」
「そんなことはないわ。キリコさんがんばっている。リッパヨ」
 
 このとき。
 バリン。
 と。
 ガラスの割れる音。
「二階よ!!」
 隼人もキリコも動いていた。
 二階の階段を駈けあがった。


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