田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

美樹、会いたい。智子、会いたい/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-20 08:09:34 | Weblog
第二十一章 悲しみの淵から立ち上がれ

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「たしかに、殺人ということもあるな」
自由が丘。
娘の里恵のところ。
退院した。そのまま同居している。
翔太郎が美智子にいった。
マスコミで連日さわがれた。
いいはなしはなにもなかった。
悪い面ばかりとりあげられた。
世間的に追い詰められた。
事務所は解雇。
頼る人がいなくなっては……唄子さんは、かわいそうだった。
「どこにもいくとこなかったら、ここにきて一緒に住もう。
そのうちほとぼりがさめれば、またタレントにカムバックできるよ」
美智子は必死で慰めていた。
それだけに、美智子の落胆ははなはだしかった。
 
……翔太郎にとっては……美樹が日光の山窩。
妻の智子がその妹。
ふたりとも山の民。
里人が見れば――鬼。
今風にいえば吸血鬼の姫だった。
……とは……。
にわかに信じがたいことだった。
しかし、じぶんが日輪学院で戦った王仁から。
黒服から。
つげられた事実によって。
おおきくかわったことを翔太郎はかんじていた。

隣の部屋で美智子が携帯にでている。
相手はキリコらしい。
「帰れないって――霧降にもどるの? 
もどるのでなくて、出動するの??
それってどういうこと???
隼人もいっしょなのね……」
「オジイチャン。なにか霧降で起きているようよ」
「なにがあった?」
「なんにも教えてくれないの」
「心配だな」
淡々とそういってから、翔太郎は気づいた。
イメージがわいた。緑の麻畑だ。
……美樹……美樹……美樹……いまでも念じれば会えるか。
この念波はいまでも有効か。
50年もたっている。
美樹、おまえは、吸血鬼のお姫様だったのか……。
だからあの日、わたしのまえからふいに消えてしまったのか。
わたしはおまえが、好きだった。
吸血鬼だって鬼ババァだってよかった。
喰われたってよかった。
あのあとの世間からうけた迫害と苦痛をおもえば。
あそこで死んでいたほうがよかった。
吸血鬼の姫だというのがほんとうなら、応えてくれ。
あの頃、わたしが墓場をぬけ。
森のいつもの泉のほとりで念じると姿をあらわしてくれたよな。
応えてくれ。
ツウンと額が熱くなった。
……翔ちゃん。翔ちゃん。
わたしに呼びかけているのは、翔ちゃんなの。
なつかしいわ……。
美樹……、霧降に麻畑があるか? 
美樹いまどこにいる?? 
智子も生きているのだろう。
会いたい。
……麻畑がおそわれる。
そこにいるのだったら逃げるんだ。
逃げてくれ。
美樹、会いたい。
智子、会いたい。
会いたい。
わたしはいまは東京にいるの。過激派ともうつきあいがない。
翔太郎はにわかに精神力を集中したので負荷がかかりすぎた。
……意識が遠のいていく。
失神……する……遠くで美智子の声がしている。
ジイチャン。
ジイチャン。どうしたの。




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