第十九章 麻薬汚染
2
煙が部屋に充満していた。
抹香や、線香のにおいだけではない。
日輪学院本校の職員室に隣接し隠し部屋だ。
日輪教団のテンプルだ。
隣の教団ビルが完成するまでの仮住まいだ。
PCが何台もならべられている。
教祖のありがたい読経がながされている。
教祖は不在だ。
だからテープ。
だからこそ、みんなリラックスしている。
教団の事務職員は大麻タバコをくゆらせている。
退廃ムードだ。
テレビにみいっている。
干し草を燻したような臭いが職員室には充満していた。
酒の谷唄子が渋谷署に出頭した。
星公弁護士が同行していた。
澁谷署の前からの中継だ。
「夫の大津健一はすでに大麻取締法違反で現行犯逮捕されています」
リポーターが興奮してしゃべっている。
ニースはライブで流されている。
「あの弁護士わたしの好みだぁ」
教団のクーガー女、高嶺花子がうめいた。
「ちょっと花子さん、大麻とMDMAをいっしょにやったらやばいことになるわよ」
「へいき、へいき。
いつもわたしがやってるのケイコ知っているでしょう。
ここのクスリはぜんぶただだもん。
ヤラナキャソン、損てなものよ」
花子は視線を宙に泳がせていた。
貪欲に男を組み敷いているじぶんを想像しているうちにほんとうに目が裏返った。
白目になった。
「ほら、クスリのダブルはヤバイといってるのに」
ケイコが深い溜息をもらした。
花子はカワチに倒れこんでしまった。
唄子は黒や、銀色のマイクを渋谷署のフロントでつきつけられていた。
そのあまりの数に唄子は怖気づいた。
こんなのいや。
こんなのいやだわ。
マイクの林の中で声がする。
「ほんとに覚せい剤やっていたのですか」
「コドモさんはどうしたのですか」
「なぜすぐに出頭しなかつたのですか」
「失踪中はどこにいたのですか」
好き勝手な質問が乱れ飛ぶ。
唄子は眼をふせた。
はやく。
こんなこと。
おわればいい。
おわればいい。
俯き、唇をひきしめて罵声に耐えた。
質問が糾弾の声としか感じられなかった。
断罪の声としかきこえなかった。
こんなこと。
はやくおわってほしい。
なにか冷たいものが。
ほほをながれている。
ながれている。
しばらくして……涙。
これは涙。
……と気づいた。
わたし泣いている。
人前でたあいもなく……泣いている。
人前であられもなく……泣いている。
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煙が部屋に充満していた。
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日輪学院本校の職員室に隣接し隠し部屋だ。
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教団の事務職員は大麻タバコをくゆらせている。
退廃ムードだ。
テレビにみいっている。
干し草を燻したような臭いが職員室には充満していた。
酒の谷唄子が渋谷署に出頭した。
星公弁護士が同行していた。
澁谷署の前からの中継だ。
「夫の大津健一はすでに大麻取締法違反で現行犯逮捕されています」
リポーターが興奮してしゃべっている。
ニースはライブで流されている。
「あの弁護士わたしの好みだぁ」
教団のクーガー女、高嶺花子がうめいた。
「ちょっと花子さん、大麻とMDMAをいっしょにやったらやばいことになるわよ」
「へいき、へいき。
いつもわたしがやってるのケイコ知っているでしょう。
ここのクスリはぜんぶただだもん。
ヤラナキャソン、損てなものよ」
花子は視線を宙に泳がせていた。
貪欲に男を組み敷いているじぶんを想像しているうちにほんとうに目が裏返った。
白目になった。
「ほら、クスリのダブルはヤバイといってるのに」
ケイコが深い溜息をもらした。
花子はカワチに倒れこんでしまった。
唄子は黒や、銀色のマイクを渋谷署のフロントでつきつけられていた。
そのあまりの数に唄子は怖気づいた。
こんなのいや。
こんなのいやだわ。
マイクの林の中で声がする。
「ほんとに覚せい剤やっていたのですか」
「コドモさんはどうしたのですか」
「なぜすぐに出頭しなかつたのですか」
「失踪中はどこにいたのですか」
好き勝手な質問が乱れ飛ぶ。
唄子は眼をふせた。
はやく。
こんなこと。
おわればいい。
おわればいい。
俯き、唇をひきしめて罵声に耐えた。
質問が糾弾の声としか感じられなかった。
断罪の声としかきこえなかった。
こんなこと。
はやくおわってほしい。
なにか冷たいものが。
ほほをながれている。
ながれている。
しばらくして……涙。
これは涙。
……と気づいた。
わたし泣いている。
人前でたあいもなく……泣いている。
人前であられもなく……泣いている。
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