田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

Vを挟撃せよ/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-03-04 11:05:10 | Weblog
30

百子に追いついた美香。
柱の陰にいる百子に直にいう。

「撃ってきているのは、スナイパーとはべつのヤツよ」
「すごく清潔な地下道ね」
翔子は青山や雑司ヶ谷霊園の地下と比べている。
「でも……街はないみたい。ショッピングはできないわね」
百子はジョークをとはしながら催涙弾を投げた。

「オネエ。スナイパーの思念とらえたよ」
美香の脳裡にもいわれてみればかすかに。
かすかに、細い、とぎれそうな思念の糸がふるえている。
その糸口にじぶんの思念を結びつける。
そしてたどる。途中から波の糸は複数となる。太い。
この強い思念はエイドリアンだろう。遠ざかっていく。
柱の陰からVがコロガリ出る。咳き込んでいる。
赤い虹彩をさらに赤くしている。
プシュプシュと太いマフラーから銃声。
そして弾丸がつきた。
「わたしが確保する。後から追いつくから」

翔子が走りだしていた。
翔子がいったように清潔な地下道だ。
ゴミ一つ、吸い殻一つ落ちていない。
どころか、ひとの気配もない。
いままでに通行人がいたようすもない。
人跡未踏の処女雪の山に登っているようだ。
そう感じた理由がある。
地下道は四面とも白い。
そして、いつしか登り勾配。
「抜け道なのよ。このまま進めば、地上にでられる」
「オネエ。ふたりともとまったよ」
「歌っている」
「そうね。歌っているシ」
「ジャズ喫茶……」
「わかるシ。ピットインだよ」
「みんなに連絡入れる」

翔子が携帯を百子にいれる。
ここと、地上から挟み撃ちにする作戦だ。




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百子危機一髪/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-03-03 06:44:56 | Weblog
28

まだ、残っていた。
隠れていた。
もっと、探すべきだった。

「ライフルを納めている」
「ギターケースよ。オネエ」
「そうね。スナイパーライフルよ。
ライフルは解体した。いまケースを閉じた」

もときたビルにふたりは走りだしていた。
百子が伴走していた。
ふたりの異常にきづいたのだ。 

「エイドリアンじゃないみたい」
美香が百子に叫ぶ。
「彼の脇でエレキ弾いていた男」
美香ははっきりと思いだした。
プラチナブロンドのイケメンだ。

百子との距離が開く。
膝も曲げない。
手もらない。
クノイチ走り。
見る間にスバルビルのフロントに消えていく。
右手を上げていた。
携帯が握られていた。
美香はうなづく。
「スイソウノアッタチカシツヨ。水槽の水をぶちまけた」
オエ!! 臭いまで伝わってくる……ようだ。
水槽の下。
「おとし蓋。開ける。もぐる」
「オネエ。翔子も呼んだ」
「翔子のパパも。百子のパパも。アンデイも、みんな来るように」

たった一発の銃声。
ひとりの犠牲者だ。
それが、美香を絶望と恐怖に落しこんだ。
日本はアメリカのように銃社会ではない。
銃による犯罪はすくない。
それがテロまがいの狙撃による犯行。
初めてだろう。
美香は走りながら震えていた。
激怒していた。

百子は美香の声にしたがった。
地下室。死魚が床に散らばっていた。
すごく臭い。
地下室への階段を駈け下りる時。
パタン。
音がした。


蓋はいま閉じられている。
美香に聞いていなければわからなかった。
ソレほど巧妙にできている地下への抜け道。
どこまでもつづいている。
下水を利用したのではない。
地下鉄工事のついでに掘ったのかしら。
森閑としている。
音がしない。
靴音くらい聞こえるはずだ。
美香ほどではないが。
わたしはクノイチ。
テレパシー能力はないが。
わたしもクノイチ。
聴覚は鋭い。
それが、いま前を走っているはずの狙撃犯の――。
待ち伏せだ。
百子はとっさに伏せた。
ビュウンと銃弾が頬を焼いた。
まさに。
危機一髪。 
柱の陰から。
銃口だけが。
見えている。

「百子。Vは一人じゃないシ」


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なにがテレパスだ/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-03-02 03:16:54 | Weblog
27

一瞬、美香はなにが起こったのか、わからなかった。

「Vはガチよ。オネエ」

ふせたままだ。
腹這いのまま。
這ってくる。
匍匐して近寄ってくる。

「Vはどこ? どの方角」
「香世にもわかんない」
「負傷したひとの意識が充満しているからよ。
彼らの苦痛の声がバリャーになってるシ」

狙撃者の思念をたどれない。
Vに噛まれたものもいる。
Vに噛まれたショック。
その恐怖。
Vになるのではないか。
じぶんもVに。
なるのではないか。
その声なき恐怖の戦慄が西口広場に満ちみちている。
網の目のように。
――それで、狙撃者の思念が流れてこない。
恐怖の意識のほうが強烈すぎる。
戦慄の微粒子だ。
外から接触してきているはずの思念を吸い取っている。
恐怖の戦慄が大きすぎる。
多すぎる。
多層的に重なっている。
網目のように。
ひろがっている。
パリヤ―のように。
邪魔をしている。
ダメだ。
いくら思念をこらしても。
敵の意識の切れはしもツカメナイ。
美香と香世、溜息をもらした。

「ヤダネ。オネエ」
「悲しくなるシ」

なにが、超能力者だ。
なにが、テレパスだ。
ほんと、悲しいよ。
ふたりは、また吐息をもらした。

繭の糸のように細くてもたどれるはずなのに。
糸をたどれれば繭の在りかがわかるのに。
判明しない。
たどれない。
だって……狙撃者の意識の流れ……。
……の糸口さえ。
みつからない。

なにがテレパスだ。
なにが超能力シスターズだ。
ふたりは悲しくなった。

警官が撃たれた同僚を抱き起した。
救急隊員がかけつける。

銃撃はない。
狙撃はない。

「百子。噛まれても、すぐには吸血鬼にならない。
血清もあるからって――。安心させて」

百子には香世の依頼の意味はわからない。
なにかある。
百子は美香の願いを、クノイチ48全員に伝える。

「心配しないで」
「助かるから」
「噛まれたくらいでは、ダイジョウブ」
「吸血鬼なんかにならないから」

逆療法だ。
吸血鬼といって、恐ろしいイメージを伝える。
そのイメージを即座に否定する。

効果アリ。
恐怖の網目がほころびてきた。
遮断されていた。
外部からの意識の流れが。
糸口が姉妹の琴線に触れた。
ふたりのこころが同時にピッとなった。
敵の周波と同調した。

「いた。スバルビルの屋上よ」 


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銃声轟く西口広場/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-03-01 10:22:24 | Weblog
26

「エアーポンプを利用してあの部屋の空気を抜いていたのかしら」
美香が素朴な質問をつぶやく。

「単純に、空気を送り込む装置を逆回転させれば……。
ということではないかも」
「でも、酸素がなくなったから、ココの魚が死んだことだけはたしかね」
「逆流防止弁になにか細工すれば、吸気するかも」
「吸気って空気を吸引すること? 吸血鬼らしく吸うことがすきなんだ」
翔子のジョークで締めくくられた。

いくら考えても、理系に弱いわたしたちではムリムリ。
……とはだれもいわなかった。

エイドリアンはどこかに消えてしまった。
美香は水槽で死んでいった魚をおもっていた。
酸欠で死ななくても。
刃ものできざまれて。
生け作りなどといわれる。
まだぴくぴくうごいていることが。
珍重される。人の食事となる。
結局は人のおなかに納まることになる。

人間だって随分と残酷なのだ。
酸欠で死にはぐった。
悪臭で死にそうだった。
奇異な体験が続いた。
日ごろあまり経験しない考えにひたっていた。

「ソバはいくら細かく細くきざんでも植物の粉」
武士を捨ててソバ職人に成った祖先の言葉。

あまりに多くの血を見た末の決断だった。
と美香にはいまなら理解できる。

生きていくことは残酷なことなのかもしれない。

西口広場は群衆が大津波が引くように消えていた。
あれほどの喧騒が――。
ウソみたい。
後には死体と救急隊員をまつ怪我人。
青い粘塊。
Vの死体だ。
ぶすぶす気化している。
「美香&香世さんだね。ありがとう。
爆発物を適切に処理してくれたのでわれわれには負傷者が皆無だ」
と百地隊長。
「百子。Vバスターズも、負傷者0よ」
兆子が父の脇で百子たちを迎えた。

外の空気をすった。
美香たちも生気を取り戻した。

このときだ。

銃声がした。

警察の機動隊員が美香の視線のさきで倒れた。

「ふせて」

百地の声。

吸血鬼との戦いは、新たな局面にはいった。
エイドリアンは銃を使用してきた。




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