田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

大麻の葉、ケシの花/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-22 06:56:33 | Weblog
第二十二章 奥霧降高原


2

老婆のくちびるがわなないた。 
手をのばして老婆のほほにふれた。
つめたい。
冷えきっている。
深いしわが刻まれている。
チョッと寂しそうにくちびるを結んでいる。
10前に別れたきりの母のくせだ。
「おかあさん」
「…………」
「かあさん!!」
「…………」
涙をこぼしながらキリコを見つめている。
キリコはだまって老婆をだきしめた。
にわかには信じられない。
母がこなに年をとって見える。
母が老婆に見える。
母の辛い日々をおもうと。
母の苦しい日々をおもうと。
恐ろしい。
悔しくもある。

老婆は震える手でふところから草の葉をとりだす。
ぐっしょりと濡れている。
くしゃくしゃになった草の葉。

「やっぱり、大麻ですかね」
警官が緊張感の欠けた声でいう。

大麻の葉のようなものを持った老婆が助けられた。
という情報は正しかったのだ。 

震えながらその葉っぱをキリコに手渡す。

なつかしそうにキリコのほほにふれる。

また意識を失ってしまった。

バリバリとヘリの音がする。
隼人はあわてて外にかけだした。
ドクターヘリがついたのだ。
霧はまだ晴れていない。
隼人は発煙筒で着陸地点を知らせた。

「あんなになっちまって」

応急処理を済ませた。
キリコの母は古川記念病院に搬送されていった。
老婆としか見えなかった。
変わってしまっていた。
まだ45歳のはずだ。
死んでしまっている。
とサル彦ジイにいわれていた。
母に会えてキリコはうれしそうだった。
「兄貴にも、おっかあ、のこと知らせておいた。
死んでいると思っていたから、霧太なんか泣いていた。
みんな霧降りに向ってる」

そういうキリコの涙声だ。
遙か向こうの福島の山々のほうまで、霧がかかっていた。

「決まりだね。
このおくにむかしサル彦ジイチャンが忍んだ敵のがある。
そこに大麻畑がある」
「ぼくも親父から聞いたことがある。
栃木県は戦時中までは野州大麻の生産量日本一。
45万貫の生産額をほこっていた。
むろん、その茎から繊維をとるのが目的だった」

霧がうすれた。
一面に緑の山だ。

「なにかあったな」
ヘリについているモニターに本部から連絡がはいった。
「なにかあったの?」
「ぐうぜんなの」
女子職員の声がした。
「キリコ。見えてる?」
「これは!」 
キリコに変わって、隼人が絶句する。
モニターに霧降川が大写しになっている。
「あんなに探していたのに」
「だから偶然が幸いしたといったでしょう」
「いつごろ撮ったもの?」
「昨日らしい。
霧降では見たこともない。
めずらしい花なのでTV局に持ちこんできた山岳写真家がいたの」
「なんとね。ケシの花か。
これで決まりだな。
でも、いまごろケシが咲くのか」
「古い。古いわね。
このハイテックの時代よ。
どんな栽培方法でも採用できる。
東京のビルで稲を育てられるのよ」



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霧代おばあちゃんなの/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-21 09:22:32 | Weblog
第二十二章 奥霧降高原

1

「春の霧降もいいわよ。
雪解けの水で霧降の滝も増水している。
美智子さん誘っていこうか」

キリコが隼人に声をかける。
隼人は特殊犯罪捜査室の隅に机を置いている。
直人の部屋が同じ階にあってそこに住みこんでいる。
仕事には同じ部屋にいたほうがいいだろう。
ということで秀行が机を空けてくれた。
麻薬取締官の机もある。
同居人のおおい部屋だ。

「それはいい。行詰まったときは、現場にもどる」
秀行が離れたところで妹のことばをきいていた。
あいづちをうつ。
「現場百回ですね。
ぼくも直人の滑落事故現場をこのめでみたいですから」
「このところ、おかしいと思わないか。
芸能界やスポーツ界で麻薬汚染が多発しすぎる」
タレントが大麻煙草を吸ったということで逮捕さている。
ごていねいに、自宅の部屋で大麻を栽培していた。
角界の関脇級の力士が逮捕された。
断固として大麻吸引、その事実を否定しているものもいる。
あれほど空港で厳重に見張っているのに。
その蔓延ぶりは異常だ。

赤の緊急ランプが点滅した。
「わかりました。霧降川ですね」
キリコが受話器を置く。
「霧降りにいく運命みたい」

「場所はわかるのか」
「兄さん。わたしがどこで育ったか忘れたの」
「ドクターヘリにも出動要請をして置く。連絡を絶やさないようにな」
「隼人。いくわよ」

屋上に格納してあった。
あの日光遊覧ヘリだ。

「こんどは、わたしに操縦させて」

キリコがまぶしそうな顔で隼人を一瞬みつめた。
出会ったころのことを、思いだしているのだ。
「美智子さんに、今日はもどれないかもしれないって連絡しといたわ。
翔太郎さんがいるから安心よ」
「いいのか、そんなことして」

霧降は霧の中だった。
このあたりを遊び場として育ったキリコでなかったら。
着陸地点を探せなかったろう。
滝のずっと上流だ。 
現場に駆け付けたばかりといた警官。
ヘリの到着のはやさにおどろいている。

「ほんとに、東京からきたのですか? おどろきました」
「流れ着いたという女のひとは? どこ」
「あ、失礼しました」

ふたりは炭焼き小屋に案内された。
いまは、炭焼きはしていない。
観光客が興味をもつかもしれない。
費用をかけて撤去することもあるまい。
いまは使用されていない小屋。
なん十年も、放置されている。
やっと風雨を避けられるといつた小屋だった。
渓流釣りにきていた男たちがいた。
発見して連絡をよこした人たちだ。

心配そうにのぞきこんでいる。
その先に!!! よこたわっていたのは……。

「おばあちゃん。霧代おばあちゃんなの」



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美樹、会いたい。智子、会いたい/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-20 08:09:34 | Weblog
第二十一章 悲しみの淵から立ち上がれ

4

「たしかに、殺人ということもあるな」
自由が丘。
娘の里恵のところ。
退院した。そのまま同居している。
翔太郎が美智子にいった。
マスコミで連日さわがれた。
いいはなしはなにもなかった。
悪い面ばかりとりあげられた。
世間的に追い詰められた。
事務所は解雇。
頼る人がいなくなっては……唄子さんは、かわいそうだった。
「どこにもいくとこなかったら、ここにきて一緒に住もう。
そのうちほとぼりがさめれば、またタレントにカムバックできるよ」
美智子は必死で慰めていた。
それだけに、美智子の落胆ははなはだしかった。
 
……翔太郎にとっては……美樹が日光の山窩。
妻の智子がその妹。
ふたりとも山の民。
里人が見れば――鬼。
今風にいえば吸血鬼の姫だった。
……とは……。
にわかに信じがたいことだった。
しかし、じぶんが日輪学院で戦った王仁から。
黒服から。
つげられた事実によって。
おおきくかわったことを翔太郎はかんじていた。

隣の部屋で美智子が携帯にでている。
相手はキリコらしい。
「帰れないって――霧降にもどるの? 
もどるのでなくて、出動するの??
それってどういうこと???
隼人もいっしょなのね……」
「オジイチャン。なにか霧降で起きているようよ」
「なにがあった?」
「なんにも教えてくれないの」
「心配だな」
淡々とそういってから、翔太郎は気づいた。
イメージがわいた。緑の麻畑だ。
……美樹……美樹……美樹……いまでも念じれば会えるか。
この念波はいまでも有効か。
50年もたっている。
美樹、おまえは、吸血鬼のお姫様だったのか……。
だからあの日、わたしのまえからふいに消えてしまったのか。
わたしはおまえが、好きだった。
吸血鬼だって鬼ババァだってよかった。
喰われたってよかった。
あのあとの世間からうけた迫害と苦痛をおもえば。
あそこで死んでいたほうがよかった。
吸血鬼の姫だというのがほんとうなら、応えてくれ。
あの頃、わたしが墓場をぬけ。
森のいつもの泉のほとりで念じると姿をあらわしてくれたよな。
応えてくれ。
ツウンと額が熱くなった。
……翔ちゃん。翔ちゃん。
わたしに呼びかけているのは、翔ちゃんなの。
なつかしいわ……。
美樹……、霧降に麻畑があるか? 
美樹いまどこにいる?? 
智子も生きているのだろう。
会いたい。
……麻畑がおそわれる。
そこにいるのだったら逃げるんだ。
逃げてくれ。
美樹、会いたい。
智子、会いたい。
会いたい。
わたしはいまは東京にいるの。過激派ともうつきあいがない。
翔太郎はにわかに精神力を集中したので負荷がかかりすぎた。
……意識が遠のいていく。
失神……する……遠くで美智子の声がしている。
ジイチャン。
ジイチャン。どうしたの。




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日光で森林浴/麻屋与志夫

2011-06-19 22:34:21 | Weblog
6月19日 日曜日

プログです。

●日光のあまりの寂れようにおどろいた。
新聞やテレビで知っていた。
日光に震災後客足が途絶えた。
ともきいてもいた。
行政と市民が早急に手をうたないと、
たいへんなことになりそうだ。

●田母沢御用邸記念公園。
建物の内部はなんども拝観しているので日本庭園をめぐった。
和の調和のとれた静謐な日本庭園にカミサンはすっかり興奮して、
シャッターをきりまくっていてた。
ここでも、カミサンがシャッタ―を切る音があたりの静かさを乱すだけ。
客はほとんどいなかった。
おかげで、すばらしい景観を独り占めした感じがした。

●日光植物園。
公園の隣にある。
入って左側のずっと奥、
田母沢川にかかった通御橋をわたって隣接の公園との境界まで歩いた。
この川はやがて大谷川に流れ込む。
わたしたちは、二つの川の流れの音をききながら緑の中を歩いた。
いつしか寡黙となり、
わたしはカミサンと知り合ったころのことをおもっていた。
ふたりでどれほどの距離を歩いてきたことだろうか。
これからどれほどの日々をともに過ごすことが出来るだろうか。

●自然に囲まれて悠久の時間を感じていると、
町が寂れるとか、
観光客をどうやって日光に呼び戻したらいいのか、
そんなことはわたしが心配してやることではないのだ。
とおもってしまう。

●だがじぶんたちが、
生きているこの世がすこしでも住みよくなるように、
と願わなければならない。
なにか、時代がわたしが期待したほうにはいかないようで不安なのだ。

●帰りもJR。
日光駅発16時の列車に乗った。
駅のフラットホームにはわたしたちだけだった。
発車間際にそれでも十数人の乗客が乗り込んできた。

●森林浴をしたためか日ごろのストレスがすっかり解消していた。
あすからはまた小説を書く。
書きたいことはまだまだある。
緑の世界から精気を贈られた一日だった。

●しめて20595歩。まだ健脚は衰えていない。うれしかった。

●シャシンは近日中に整理してカミサンがアップしてくれるはずです。



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犯人は? モーだけが知っている/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-19 05:58:50 | Weblog
第二十一章 悲しみの淵から立ち上がれ

3

唄子の死因が調べられている。
携帯の通話記録から最後に話した相手として、
美智子は呼びだされた。

警察では、唄子はどこかほへかで殺されたとみている。

「ヤッパ―、美智子さんがいうように隼人おかしいよ。
Nが秘めたメッセージの意味を調べる必要がありそうね」
キリコが黒い瞳をきらきらさせて隼人を見あげる。
麻取りの事務所だ。

あれほど注意深い唄子が部屋に入れた人はだれか?
あるいは……呼び出されたのか。
みんなが駈けつけたとき、唄子の部屋の鍵はあいていた。
「バンビイ」のだれかが、唄子を呼び出した可能性がある。
猫のモーが事務所にいたのだ。
唄子は猫を抱えて美智子のところから自宅にもどっていた。 
死亡場所は唄子の自宅マンションではない。
どこかほかで殺された。
自室に運ばれてきた可能性がある。
という警察からのリークがキリコたちマトリの部屋でも、はなしあわれた。
ダイイングメッセージについてはなにも発表されていない。
殺されて、運ばれたのではない。
部屋につれてころられときはまだ死んでいなかった。
睡眠薬をのまされていた。
事務所で殺されかけた。
なぜなら猫のモーが事務所にいる。
イマもいる。唄子はモーを事務所に預けた。
でもあの日にはずっとモーといつしょだった。
猫のモーがひとりで事務所にいけるはずがない。
唄子がだいていったのだろう。
そして、モーがそこにいても不思議に思わないのは。
事務所で働いている人間だけだ。
そこで、殺したかどうかはまだわからない。
社長はその時間には、香取監督とロケ地の打ち合わせをしていた。
社長のいきつけの事務所前の小料理屋『初音』の女将が証言している。
ロケ地を日光にきめるまでかなり長電話をしていた。
隼人の調べだからまちがいない。

では唄子を殺したのはだれだ。
犯人はだれだ。
確定はできないのだ。
それを追求する手立てはない。
事件はうやむやのうちに……時間だけがすぎていく。


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あす晴れたら日光に行こう/麻屋与志夫

2011-06-18 21:48:32 | Weblog
6月18日 土曜日

メイキング・オブ 三億八千万年の孤独(4)

●プログです。

●明日は取材も兼ねて、日光に行こうと思う。
若いものに留守をさせて出かけよう。
なにかこう書くと日光までかなりの距離があるように思われる。
そんなことはない。
隣り街だ。
30分とはかからない。
震災の後、観光客が激減して、宿泊設備はガラ空きの状態が続いている。
らしい。
ともかく震災はあらゆる方面に悪影響をおよぼしている。

●今連載中の小説は霧降りに行く美智子と隼人の場面ではじまった。
ラストシーンはやはり霧降高原で締めくくろうと思っている。
それで日光に行く必要ができた。
前回作の「超能力シスターズ美香&香世」の続編も書きたい。
日光柳生流「但馬道場」の場面からはじめたいと思っている。
むろん、こうしたネーミングはフイクョンだ。
だからといって、その土地の描写はリアルでやらないでいいということはない。
日光の街のいまが見たいのである。

●東武日光駅から田母沢御用邸記念公園まで歩けるかな。
さらに日光植物園。
さらにさらに裏見の滝までどうだろうか。
天候とそのときになって、足にきいてみなければわからない。
滝まではすこしムリだろう。
たぶん、4万歩くらいになる。

●カミサンの方は、地球のGに逆らうほどの体重がない。
「わたしは平気よ」とすましたものだ。
すごい健脚だ。
羨ましい限り。

●カミサンはわたしの取材にはなくてはならない存在だ。
カメラウーマンだ。
ともかくどんなことになるか。
すばらしい彼女のシヤシンをお見せできることは確かだ。


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ZはNよ。NIKKOのNよ!!/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-18 04:15:47 | Weblog
第二十一章 悲しみの淵から立ち上がれ

2

「Zは、アルファベットの最後の文字でしょう。
だからもう終わりだ……とか、そんなわけないよね」
「ないとおもう」
キリコが美智子の悲しみを和らげようてしている。
わざとおどけている。
それがわかるだけに、百子もやんわりと否定した。

「あの文字をZと見るから、
いくら考えても意味がわからないのだとおもう」
「じゃ、なんと読むの」
キリコと百子がセカセカきく。

「こうしてみると、ほら……」
携帯を横にした。
Nに見える。

「Nだったら、日輪教の頭文字のNかも知れない」
「そうか。Nね」
ふたりは感心している。

日輪教の黒服にコロサレタということなの?
ふたりは同じ疑問。
らしい。

「それは警察にまかせましょうよ。
どうせわたしたちが、いくらかんがえてもわからないわ。
わたしね。おもいだしたの。
日輪教に唄子と監禁されていたときにいろんなこと話した。
唄子いっていた。
『はじめはマリファナだった。
なんの気なしに、パーティーですすめられたの。
それから習慣になった。
やめられなくなった。
健一はわたしにはやさしかった。
収入のあるわたしをひきとめておくために麻薬をすすめた。
そんなことない。
クセになってわたしが、やめられなくなったのよ』
かわいそうな唄子。
おおぜいのひとにとりかこまれていた。
でもいつもひとりぼっちだった。
その唄子がいっていた。
『わたしがこうしてつかまっているのは、
健一がヤッラの流通経路を知ってるんだとおもう。
それをシャベレばバイ人は元売りに消される。
だからわたしを拉致して健一を牽制している。
でもわたしもそんなこと知らされていない。
健一も知らないのではないかしら。
ただひとつだけ……きになることがあるの。
日光の細尾でスケートしたことがあった。
日光の遅い桜がさいていた。
だから去年の五月ごろだった。
室内リンクのリストルームてバイ人が接触してきた。
すごく安い値段だった。
それをいうと、地元ですからってバイ人が笑っていた。
わたしそのことを、日光の観光案内のパンフレットに書きとめた。
地元?
なんのことかしら? 
そうメモした記憶がある。
あのときは……わからなかった。
なにも危険を感じなかった』
そうよ、このNはNIKKOのNよ。
唄子は本棚でそのときのパンフレットの綴じこみを探していたのよ」


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ダイイング・メッセージはZ/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-17 12:10:11 | Weblog

第二十一章 悲しみの淵から立ち上がれ

1

美智子は堪えた。

唄子がソファの横に倒れていた。
脈をみた。
頸動脈に指をあてた。
キリコは横に首をふった。

「えっ、死んでるの」
百子がひくくつぶやいた。
安らかな、死に顔だった。
美智子は懸命に涙をおさえた。
それでも嗚咽がもけれた。
やがて、涙もこぼれはじめた。
泣きだすと、もう止まらない。
――ごめんね。すぐにきていればこんなことには、ならなかった。
 
警察の事情聴取をうけていた。
はじめは「有名人だからといって遠慮しません」などとっていた。
それはそうだろう。
あれだけの白兵戦が自由が丘の街中でおこなわれたのだ。
あとになって、穏やかな取り調べとなった。
上層部から指示があったのだろう。
マトリガールズのキリコもいた。
フロリダから来たポリスの隼人もいた。
だいいち。一般家庭が黒服の集団に襲われた。
などとは、発表できるはずがない。
――ごめんね。唄子。
唄子はもう口をきくことはない。
そう思うと、悲しみはさらに深く、おもくなった。
その重苦しい悲しみの中で、美智子はかんがえていた。
――どうして……わたしの家から……やはり、自殺なのだろうか。
クスリを飲んだのかしら。
検死官の役などやったことはない。
推理小説も読まない。
美智子にはなにもわからない。

話しかけても、返事はもどってこない。
あのさわやかな、
少し甘えたような調子のある、
唄っピの声はきくことができないのだ。

床に指で文字が書いてある。
Zとよめた。
手にはボールペンが握られていた。
メモ帳がおちている。
なにか書こうとしていたのだ。
本が乱雑に床に散らばっていた。
他殺だとしたら、犯人が唄子の本棚でなにか探した。
なにを?

美智子の頭を一瞬暗黒がよぎった。
黒い波頭が現れて消えた。
鉤状に曲がった五本の指が、本をつかんでいる。
なにかページを繰って探している。
男はこちらに背を向けている。
顔はわからない。
アイツラだろう。
黒服だ。
なにを探していたのか。
ようやく目覚めた美智子の能力ではそこまでだった。
翔太郎ジイちゃんがいれば、もっとビジョンが見えるはずだ。

床にはダイイング・メッセージのZ。 




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あなたの背にも死神が? /三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-16 12:56:20 | Weblog
第二十章 酒の谷唄子

8

唄子は麻薬をやっていた。
野外パーティで両手をあげてハシャいでいた。
夫婦で踊りまくっている同じ映像。
なんどもテレビで放映されている。
オチメのタレントほどかわいそうなものはない。
人気が一日で逆転する。
そうなると風評被害もともなってとめどもなくおちていく。

日輪教団に捕らえられていた。
あのときマインド・コントロールにかかっていた。恐れがある。
なにをゆっても、ムダみたい。
それでも「帰ってきて」と呼びかけた。
「そこは危険なのよ」

わたしはパニックルームにいる。
外にはでられない。
庭には黒服がおおぜいいる。
死闘はつづいている。
母も里佳子おばさんも、キリコも隼人も百子もみんな戦っている。
長押にかけてあったナギナタ。
床の間の刀。
あれがみんな真剣だった。
知らなかった。

パニックルームが役に立つなんて。
想像もしなかった。

こうしてフツウの生活をしている。
フツウの家が襲われるなんて恐怖。

戦いをモニターで見ているだけのわたし。
なんの役にもたたない。
歯がゆい。
悲しい。

黒服が一団となって襲ってきた。
わたしたちの憩いの庭に侵攻してきた。
平穏な日常が、いかに酷くくずれるか。
破壊されるか。
バラの庭がもうめちゃくちゃだ。
春にはまたバラが見られると。
みんなで楽しみにしていたのに。
理不尽だ。
なんてことが、起きたの。
黒服。
まるで津波のよう。
そう黒い津波。
黒服は溶けあって黒い波。
魔の波動となった。
庭に満ちている。
黒服は集まって融合した。
悪魔として凝集した。
暗黒の津波となって。
わが庭に充満している。

平凡な家を。
平凡な家庭の団欒を。
悪の津波は破壊した。
わたしたちを殲滅しょうと襲ってきた。
この黒服の襲撃を悪魔の所業と思った。
嗅ぎ取った。
認識した。
美智子は黒服の集団の巨大さに慄いた。
そして黒服の波動は……。
唄子ものみこもうとしている。
部屋の床からたちのぼってくる寒気に美智子は戦慄した。
わたしたちは、歴史のターニング・ポイントに。
いつしかさしかかっていたのだ。
いままでのなんの変哲もない日常。
消えようとしている。
不安MAX。

美智子はあいつぐトラブルに襲わた。
DNAのなかに潜んでいた能力に目覚めたようだ。
唄子があぶない。
唄子は死神にとりつかれている。
憑依されている。
唄子の背中の死神が。
見える。


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人形であるはずがない/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-16 06:57:16 | Weblog
第二十章 酒の谷唄子

7

美智子はパニックルームにひとりとりのこされた。
二階、トイレの隣から。
玄関の脇から。
何箇所か入口はある。
広い地下室だ。

モニターをつけた。
すさまじい戦いだ。
みんな無事にもどってきて。
神に祈った。
なんの気なしに、門の外にきりかえた。
そこで、美智子は息をのんだ。
さいしょはわからなかった。
舗道の暗闇に――。
いくつも人形が倒れていた。
まだ動いている。
人形であるはずはなかった。
クノイチ48。
彼女たちだ。
クノイチ48。
彼女たちが門扉の外で黒服と死闘をくりひろげていたのだ。
クノイチ48。
彼女たちが黒服が門扉からなだれこむのをくいとめていた。
だから狙撃されてから門扉が破られるまでにタイムラグがあったのだ。
美智子は泣いていた。
涙がながれていた。
とめどもなくながれた。
ひとは、だれかに支えられている。
そのだれかの名前も顔もわからない。
でも、そのひとたちの支えで、
そのひとたちとの絆で、
救われている。
わたしたちが、
今あるのは、
そうしたひとたちのおかげなのだ。
わたしの映画を三年も待ってくれたフアンがいた。
ありがたい。
うれしい。
ありがとう。
そして。
クノイチ48のメンバー。

救急車が到着した。
みんな、助かって。 

警官が到着した。
パトカーが来た。

ふいに携帯がなった。
唄ツピーと名前がでている。
「ブジ帰れたから。家にいるから」
「どうして? どうしてわたしのところにいなかつたの」
「迷惑かけられないから……」
「わたしのところのほうが安全だから」
「わたしの部屋でないとモーがおちつかないのよ」
「わたしは、唄子さんにあこがれて芸能界にはいった。
あたたかく、唄子さんは迎えてくれた。
それからずっと世話になってきた。
こんどは、わたしが守る。唄子のことまもるから」



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