Image copyrightREUTERSImage caption次の会談で会おう?
トランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による2回目の首脳会談は、いかなる合意も取り決めもなされぬまま幕を閉じた。
アメリカは、北朝鮮との協議は今後も継続する方針で、ハノイ会談の破綻は大きな落胆ではないと強調している。
突然の終わりを迎えた今回の米朝首脳会談。その原因について北朝鮮の専門家の分析を以下にまとめた。
予想通りの「合意なし」
アンキット・パンダ、外交専門誌「ディプロマット」副編集長
「合意なし」という結果になることは、前々から目に見えていた。実際、昨年のシンガポール会談以降に出された北朝鮮の色々な声明をしっかり読んでいれば、なぜ合意できなかったのか、核心的な問題はなんだったのか、明らかだった。
シンガポール会談の翌日、北朝鮮の国営メディアは金委員長の言葉を引用し、アメリカが「本物の措置」を実施すれば、北朝鮮は「善意の措置を追加」するだろうと伝えた。この時の会談に先立ち、北朝鮮は豊渓里の核実験場の廃棄、核実験と大陸間弾道弾ミサイル実験の一時的停止を発表していた。
数週間後には、ミサイル・エンジンの実験施設と発射設備を部分的に、そして可逆的に廃棄した。
昨年9月の第3回南北首脳会議で、両首脳は、アメリカからの「相応の措置」と引き換えに北朝鮮が交渉のテーブルに置くものの一例として、寧辺(ヨンビョン)核施設を引き合いに出した。
最終的に金委員長は今年の元旦の新年のあいさつで同じことを主張した。相応の措置は、アメリカと北朝鮮の外交関係の進展につながると。この表現は実際には経済制裁のことだったが、朝鮮戦争の終結宣言を含む、あらゆるアメリカの譲歩を意味していると誤解された。
Image copyrightREUTERSImage caption皆笑顔だったが、最終的な合意には至らず
この一連の動きは北朝鮮にとって重要だ。非核化に関する譲歩を今後さらに取り付けるためには、アメリカはまず先に制裁解除に合意しなければならないだろう。北朝鮮は、アメリカが制裁解除の措置を講じるまで交渉のテーブルにはつかないだろう。
トランプ大統領はハノイ会談2日目の記者会見で、まさしくこのことが会談が決裂した原因だと認めた。
アメリカが制裁解除の最初の1歩を踏み出そうとしない限り、非核化へのプロセスは行き詰ったままだろう。その状況が長引くほど、協議が破綻する可能性は高まる。
アメリカの勢いが衰退する?
ジェニー・タウン、北朝鮮分析サイト「38ノース」編集長
予備的な合意もまとめられなかったのは、意外だ。サミット前の協議の最終段階には明らかに、暫定合意の下書きは出来ていたのだから。
記者会見での口調は比較的前向きだった。今でもトランプ政権には前に進む方法が見えているし、交渉を継続する方針でいる。
それは今のところは、好感材料だ。加えて、アメリカが「悪い合意」を受けれるのではないかと考えていた人たちは、ホッとしただろう。
しかし一方で、具体的な義務は米朝どちらにも課されていない。
核実験場の廃棄など、これまで北朝鮮が提供してきた信頼醸成案は、今後は続きそうにもないと私は思う。
米朝問題の停滞は、利害関係者のなかでも特に韓国を非常に苦しい立場に追い込む。韓国は、南北経済協力の再開を可能にする制裁免除が、米朝合意に盛り込まれるよう期待していたが、それは実現しなかった。
さらに、北朝鮮との交渉を継続するというトランプ氏の意思表示をよそに、現在の米国内の政治環境においては、対立する様々な利害関係に飲み込まれ、米朝交渉が失速するおそれがある。
Image copyrightGETTY IMAGESImage captionトランプ大統領は北朝鮮のことよりも国内問題に注力するかもしれない
北朝鮮側のリスク
アンドレイ・アブラハミアン、米スタンフォード大学フェロー
本来この会談は、これまで永遠に続いてきた「僕の勝ち、お前の負けだ」というゼロサム的枠組みではなく、両国が互恵的な「ウィン・ウィン」関係に移行するためのプロセスの幕開けとなるはずだった。
したがって、今回は全員が敗者だと言わざるを得ない。
トランプ氏目線で言えば、切り抜けられる程度の損失だろう。多くを北朝鮮側に譲歩する「悪い合意」をしていれば、長期的な論争や、アメリカの外交政策の専門家からの抵抗を引き起こしただろう。今回の結果についてトランプ氏は、実務者協議で取り戻すことのできる事態だということにした。大統領は帰国し、ニュースサイクルは次の話題に移る。
それこそが、北朝鮮にとってはリスクだ。
両国関係に勢いを生み出すのは難しい。トランプ大統領が国内の政治に気を取られて、好機の窓が閉じる可能性は十分にある。
誰が次期大統領になるのか、そしてその人物が北朝鮮に何を望むのかなど、誰にも分からない。
もはや「最大限の圧力」はない
オリヴァー・ホサム、NKニュース編集長
トランプ氏が言ったように、今回の交渉で北朝鮮が「全ての制裁」の解除を要求したというのは、いかに北朝鮮の一部が事態打開に向けて必死かという表れだ。それ以外の合意など、無意味だという意見が北朝鮮の中にあるということだ。北朝鮮がこれから数日の間にどう反応するか、様子を見る必要がある。
Image copyrightGETTY IMAGESImage caption北朝鮮経済は、制裁による深刻な影響を受けている
韓国も大恥をかかされた形だ。「朝鮮半島の平和と繁栄の未来」についての大きな発表を計画し、会談を受けて北朝鮮との協力関係が拡大することを期待していたのだから。
中国、ロシアもまた、この結果に失望するだろう。
しかし北朝鮮国内の雰囲気は和らいだかもしれない。トランプ氏が北朝鮮に対する制裁を強化せず、近い将来、「ぜひとも」解除されるのを見たい、楽しみだと述べたからだ。
正式な制裁解除はすぐには実現しないだろうが、「最大限の圧力」の時代はもう過ぎ去ったということだ。
相互関係にある人権と非核化
オリヴィア・イーノス、ヘリテージ財団・アジア研究センター アナリスト
トランプ大統領が交渉の場から退席したのは、正しい判断だった。
全制裁解除という北朝鮮側の要求は実現不可能だし、そもそも違法だ。アメリカと国連の制裁によると、北朝鮮の核計画の「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)を実現し、人権問題を改善するまで制裁解除はできないことになっている。
強制収容所にいる8万から12万の北朝鮮国民は、金正恩委員長が進める核・ミサイル計画の資金調達と建設のための自由労働者として搾取されている。
報告書によると、化学兵器や生物兵器の人体実験に使われている人さえいるかもしれない。
Image copyrightGETTY IMAGESImage caption当局は残忍な方法で反対意見を厳しく取り締まっている
ハノイ会談での合意失敗から、より包括的な対北朝鮮政策の必要性が浮き彫りになった。そこでは、人権と非核化を、関連しあう問題として扱わなくてはならない。
両国の今後の外交関係は、もしそんなものがあり得るとするなら、現在のアメリカ法の多面性を反映したものにすべきだ。