明暗がくっきり分かれる決算となった。
牛丼チェーン「すき家」を手がけるゼンショーホールディングスが2月5日に発表した2018年度第3四半期(2018年4月~12月期)決算は、売上高4548億円(前年同期比4.4%増)、営業利益146億円(同7.2%増)と好調だった。
一方、「吉野家」を展開する吉野家ホールディングスが1月に公表した2018年度第3四半期(2018年3月~11月期)決算は、売上高1500億円(前年同期比2.4%増)と増収ながら、営業利益は5.6億円の赤字に転落した(前期は25億円の黒字)。
「吉野家」と「すき家」、価格戦略に差
牛肉やコメなど原材料価格の高騰や従業員に支払う人件費の上昇といった要因が業績を圧迫していることは、両社に共通している。それにもかかわらず、営業利益にこれほど大きな差がついたのは、コスト増の対抗策が大きく違ったためだ。
その1つが価格への反映だ。すき家は2017年11月に、並盛350円(税込み、以下同)を据え置いたうえで、中盛(ご飯の量は並盛と同じで、具のみ大盛)と大盛の価格を10円、特盛やメガでは50円引き上げた。
一方の吉野家は「牛丼は日常食。そのため、顧客は10円、20円の値上げに敏感に反応する」(吉野家ホールディングスの河村泰貴社長)として、並盛380円など牛丼の価格を据え置いた。
特徴的なのは、新商品の投入サイクルだ。
すき家は1カ月~1カ月半の周期で期間限定商品を発売する。2018年度には、通常の牛丼の上にトッピングを載せた「お好み牛玉丼」や「食べラー・メンマ牛丼」を投入した。中でも、2018年12月から発売した「白髪ねぎ牛丼」は、「旨白ダレ」と「旨辛ダレ」の2本立てで販売したことが顧客の支持を受けた。
これら限定商品の価格は480~500円と、通常の牛丼よりも高い。「今は比較的、高付加価値の商品を受け入れてもらいやすい環境にある」と、ゼンショーホールディングスの広報担当者は話す。
吉野家は既存店売上高の前年割れ続く
その結果、すき家の既存店売上高(2018年4月~2019年1月)は前年同期比3.3%増と、会社計画の年間2.9%増の水準を上回って推移している。客数は0.7%増とわずかな増加にとどまったが、客単価が2.6%上昇し、売上高を押し上げた。
一方の吉野家は苦しい。足元の既存店売上高は、今年1月まで4カ月連続で前年割れが続いている。
既存店は2018年8月までは高い伸びを見せていたが、豪雨や台風など天候要因に加え、店舗の作業負担に配慮し、高単価の定食や「豚スタミナ丼」など、昨年人気だった商品を投入しなかったことがマイナス要因となった。価格を据え置いて客数を取りに行ったものの、そもそもすき家ほどには新商品を販売していないうえに、投入を控えたことが“あだ”となった。
2016年から自社の公式アプリで、2018年3月にはニュースアプリで店員に見せて利用するクーポンの配布を開始。2018年9月から10月にかけて、吉野家、はなまるうどん、ガストによる割引券「3社合同定期券」も実施した。ただ、商品の魅力をアップするよりも、割引に依存したこうした施策は想定していたほどの売上高の増加にはつながらず、逆に現場の負担を増加させる要因になっている。
致命的な失敗はないが、1つひとつの小さな誤算が積み重なって現状の苦戦を招いたと言える。
吉野家は採算を改善するための施策も打っている。昨年11月から関東地方で実験的に、牛丼(並盛)にサラダとみそ汁がつくセットメニューの「500円ランチ」を販売。今年1月には「牛皿定食」を発売。牛丼の具と米飯を分け、卵とみそ汁をつけて、こちらも500円で提供している。ただ、どちらも既存の商品を新しい見せ方でアピールしただけに過ぎず、顧客にどこまで支持されるかは不透明だ。