運用されるF35の機体数は従来機であるF22「ラプター」のすでに約2倍に達しており、ロシアのSU57、中国のJ31やJ20といった非西洋諸国の競合機の何倍にも上る。
F35は速いが最速ではない。機敏だが最も機敏でもない。F35を製造する米ロッキード・マーチン(LMT.N)によれば、同型機の主な強みはレーダーで探知されにくく、センサーなど最新鋭装置が搭載されていることだ。
開発が長期に及び、ライフサイクルコストが1兆ドル(約111兆円)と高額であることから、最近になってようやく運用が開始された。
小柄なパイロットには危険な機外脱出用の射出座席や、細心の注意を要するソフトウエアなど、他の問題を抱えているにもかかわらず、今回の事故を含めてF35の墜落事故は2回しか起きていない。
F35には3モデルあり、Aは通常離着陸型、Bは垂直離着陸できる能力を備え、Cは空母艦載型だ。9日墜落した機体はAモデルだった。
●能力
F35は米プラット・アンド・ホイットニー(UTX.N)製エンジン「F135」を搭載。これはF35向けに開発されたエンジンで、すべてのモデルに搭載されている。推力は4万ポンド以上で、同社によると、最高速度はマッハ1.6程度。
速度は従来機の方が速い。米国科学者連盟によると、日本も運用するF16やF15の最高速度はマッハ2を超え、音速の2倍だ。
F35には、F22のようにジェットエンジン噴射ノズルの向きを変えたり、加速を助けたりすることが可能な推力偏向(スラストベクタリング)機能はない。
だが、尾翼には垂直安定板と水平安定板という操縦翼面が付いており、より小型な一部戦闘機の翼よりも大きい。ロッキードによると、この操縦翼面と最新フライトコンピューターにより、F35は他の機種なら墜落してしまう速度での操縦が可能だという。
「ライトニングII」の最大のセールスポイントは敵のレーダーをかわす能力を備えていることだ。だが、その真価のほどは明らかにされていない。レーダー反射断面積は厳重に守られた極秘事項とされている。
また、F35には位置を保ちながら周囲の空間情報を傍受するよう設計されたレーダーシステムが搭載されている。機体に搭載された複数の小型カメラにより、夜間でも360度のリアルタイム画像を映し出すことが可能だという。
●運用国
米国はF35を200機以上、さらに今後数千機を運用する計画で、最大の運用国である。F35を購入あるいは今後購入を予定している国には、日本、韓国、オーストラリア、シンガポール、トルコ、イタリア、英国、イスラエルなどが含まれる。
4月10日、9日墜落した航空自衛隊のF35「ライトニングII」戦闘機は、米同盟諸国が配備を進めていた最新鋭ステルス機の1つであり、墜落機は初めて日本で組み立てられたものだった。写真はF35A。三沢基地で昨年2月撮影。提供写真(2019年 ロイター/U.S. Air Force/Tech. Sgt. Benjamin W. Stratton/Handout via REUTERS)
英国と日本が最大の海外顧客であり、今後数百機規模で購入する計画だ。
実戦で運用しているのは米国とイスラエルのみである。
●批判
F35は米航空機メーカー大手ボーイングと競合の末、2001年に入札を勝ち取った。しかし06年まで初飛行はかなわず、米海兵隊が実戦可能と宣言した15年まで運用されることもなかった。
同機の開発にはさまざまな問題が発生し、難航した。問題の一部は不思議なものだった。F35は熱くなった機体の一部を冷却するために燃料を使うが、気候によっては、搭載される燃料は冷却された状態が保たれていなくてはならないと、米国防総省は16年に指摘している。
しかし、最大の欠点は高額過ぎることだと批判する声もある。国防総省は12年、F35のライフサイクルコストは向こう50年で1.5兆ドル以上と試算している。米国の航空機開発プログラム史上、過去の記録をはるかにしのぐ最高額である。
ドイツは1月、労朽化しているトーネード戦闘機の後継として予定していたF35の導入を中止した。その理由の1つとして、F35の運用コストが高いことだと、議員らに向けた機密文書の中で説明している。
●安全性
とはいえ、墜落や運用上の危険性は、これまでF35の問題点として挙げられてこなかった。初飛行以降、過去の墜落事故は2018年9月に米サウスカロライナ州で起きた1件だけだった。Bモデル機で発生した同事故では、パイロットは無事に緊急脱出している。
捜査当局は、同事故原因についてエンジンの燃料管の不具合に関連している可能性があるとの見方を示した。問題が修正されるまで、世界各国のF35は運用が停止された。