ソフトバンクは上空20キロメートルの成層圏に通信基地を設ける事業で米グーグルを傘下に持つ米アルファベットと提携する。互いのグループ事業会社が資本提携し、基地局となる無人航空機を打ち上げる。「空飛ぶ基地局」は次世代通信規格「5G」に対応する。地上に設ける基地局よりも広い範囲を安価に網羅でき、地球規模で通信インフラを整えることが可能になる。
日米2社が手を組むのはHAPS(高高度疑似衛星)と呼ばれる成層圏に通信基地を設ける分野だ。同事業を手がけるソフトバンクの子会社「HAPSモバイル」と米アルファベットの子会社「ルーン」が資本提携し、相互出資を検討するもようだ。まずはHAPSモバイルがルーンに約100億円を出資する。
無人航空機は全長80メートル程度の大きさで、動力は太陽光で賄う。成層圏の一定のポイントに数カ月にわたってとどまって電波を飛ばす。コストは数億円のもよう。1基で直径200キロメートルの範囲の地上の通信を担えるとみられる。日本全域を数十基でカバーできる試算だ。
アルファベットはグーグルの親会社で、ルーンはもともと、グーグルが最先端の研究開発に取り組む特命組織として設けた「グーグルX」から生まれた会社だ。アフリカなどで成層圏に通信設備となる気球を打ち上げる実証実験を進めてきた。
一方、ソフトバンク子会社は太陽光で稼働する無人航空機を開発している。2社はノウハウを持ち寄り、2020年代前半にも無人航空機を商用化する計画を進める。
成層圏の通信基地は、地上基地局を設けるのが難しいへき地を含め、地球規模で通信網を構築できる。災害で地上基地局が機能不全となった場合のバックアップにも使える。高度数千キロ~数万キロメートルの宇宙空間から電波を飛ばす通信衛星と比べて通信の遅延が少なく、5Gにも対応しやすい。
地上の基地局は自らの高さを超える空間に電波を飛ばすのは難しい。成層圏での通信基地はこの制限がなく、民間旅客機で電波を受け取ることも可能だ。
成層圏に通信基地を設ける構想は1990年代からあったが、機体の開発がネックだった。太陽光パネルや蓄電池の技術進歩で機体の動力源が確保しやすくなり、商用化の道筋がみえてきた。
今後は周波数の確保や安全な離着陸を保証できるかなどが課題となる。ソフトバンクとグーグルは今後、米国などで飛行試験を重ね、機体認証などの許認可を取得して商用化を急ぐ考えだ。
成層圏での通信基地は米フェイスブックや同ボーイング、欧州エアバスも実用化を目指している。エアバスは18年8月に無人航空機の量産機の試験飛行に成功したと発表した。ソフトバンク、グーグルは新たな通信インフラの普及に向け、これらの競合にも企業連合への参画を呼びかけていくもようだ。
先進国では地上基地局など既存の通信インフラ整備が進んだ。しかしアフリカなど新興国では整備が遅れる。ソフトバンクなどは成層圏での通信により、このインフラ格差を解消しつつ、商機を広げる狙いだ。ソフトバンクは無人機を運営するネットワークを管理し、各国の通信分野への参入を目指す。