新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、日本の産業界も大きな打撃を被った。特に影響が大きいのは製造業の筆頭である自動車産業だ。
中国、ヨーロッパ、アメリカ、東南アジア――。日系自動車メーカーも2月以降、最初に感染が拡大した中国を皮切りに、世界の各地域の工場が操業休止に追い込まれた。その後、中国は生産・販売が急ピッチで回復し、ほかの大半の地域でも6月までに工場の操業再開にこぎ着けた。しかし、欧米や東南アジアなどは依然として、新車販売が前年を大きく下回る状態が続いている。
2020年の世界新車販売は前年比約2000万台減の7000万台前後にまで落ち込むと予測される。約2割もの減少だ。一般に自動車工場で黒字が確保できる稼働率は8割とされる。
世界中の新車需要が2割も消失した
日系乗用車メーカー8社は5月に前年度決算を発表したが、今年度の業績予想を公表したのはトヨタ自動車の1社のみ。他社はいずれも「新型コロナの影響で不確定要素が多く、業績予想の算定は困難」として、予想の開示を見送った。
「危機的な状況だからこそ、今わかっていることを正直に話し、基準を示すことは必要だと思った。基準があれば、裾野が広い自動車産業の関係各社が、何かしらの準備ができるのではないか」。トヨタの豊田章男社長はあえて業績予想を公表した意図をこう説明した。
その業績予想を見ると、売上高は前年度比20%減の24兆円、営業利益は同80%減の5000億円と、大幅な減収減益見通しだ。前提となる年間新車販売台数は890万台で、前年度比15%減を見込んでいる。トヨタの営業利益が1兆円を割り込めば、東日本大震災直後の2011年度以来となる。
トヨタは業績見通しを算出する際、「グループの世界販売が4~6月は前年同期の6割、7~9月で8割、10~12月は9割の水準になると想定した」(近健太・最高財務責任者)。8割減益見通しは衝撃的だが、これだけ販売が落ち込む前提でも5000億円以上の営業利益を確保できるという、強い自信も窺える。
一方、赤字が避けられないのが、経営再建中の日産自動車だ。カルロス・ゴーン元会長による拡大路線で過剰な生産設備を抱え込み、近年は急速に業績が悪化。前年度は営業損益が404億円の赤字に転落。過剰設備の減損損失や構造改革関連の特別損失が膨らみ、6712億円もの巨額の最終赤字に陥った。
ゴーン時代に日産は、新興国での生産能力拡大に対して優先的に投資を振り向け、新車開発を後回しにした。その結果、前回のモデルチェンジから長い年数を経た老齢車種ばかりがラインナップに並び、世界的な販売低迷の一因になっている。とりわけ、主戦場のアメリカでは商品力の低い老齢車種を売りさばくため、大幅な値引き販売が常態化、収益性が悪化した。
そうした状況下で、さらに追い打ちをかけたのが、今回のコロナ危機だ。トヨタやホンダなどに比べて日産の販売の回復ペースは鈍く、今年度の販売台数は他社より落ち込みが大きくなる可能性が高い。工場閉鎖や人員削減などのリストラ効果が本格的に出るのは来年度以降とみられ、今年度は営業損益段階での巨額赤字が避けられない。
ホンダの場合、前年度の営業利益は6336億円。コロナ禍の今年度でも、黒字を維持するとみられるが、前年度比では大幅な落ち込みが確実だ。以前から不振の4輪だけでなく、収益柱の2輪もコロナ影響を被っている。
2輪の主戦場はインドネシアやベトナムをはじめとする東南アジアとインドで、いずれもコロナ禍で現地販売が落ち込んでいる。2輪事業は前年度に2856億円の利益を稼ぎ出し、4輪事業(1533億円)よりも利益貢献度が大きいだけに、その販売回復が遅れれば業績への打撃は大きい。
自動車部品も打撃で業界再編が迫る
大手3社以外はどうか。マツダはアメリカで2021年の稼働を目指し建設中の新工場など大型投資が重荷になっており、販売台数の落ち込みも重なって、今年度は営業赤字転落の可能性が高い。スバルは全販売台数の8割を占める北米の需要回復にかかっている。スズキはインドがドル箱だが、4月は全土封鎖で販売がゼロだった。5月から現地の工場や販売店が活動を順次再開したが、その後もインドでは感染収束が見えない状況が続いており、インド事業の先行きが大きな不安材料だ。
完成車メーカーだけではない。自動車の販売不振によって、その下に連なる部品メーカーも窮地に立たされている。大半の部品メーカーは今年度の業績予想を公表していないが、『会社四季報』(2020年3集夏号)での独自予想では軒並み大幅な減益だ。
ちなみに東証業種分類が「輸送用機器」に該当する企業のうち、自動車関連の主要な部品会社30社を例に取ると、30社中26社で今年度の営業利益が前年度より悪化。うち4社は赤字に転落する見通しだ。増益見通しの4社も前年度に多額の一過性費用が発生した反動にすぎない。
デンソーやアイシン精機、豊田自動織機など、ごく一部の大手を除けば、部品メーカーの資金力は限られる。下位メーカーになればなおさらだ。自動車産業では、自動運転や電動化といった「CASE」と呼ばれる次世代技術が台頭し、産業構造の大きな変革も待ち構えている。今回のコロナ禍による業績悪化が引き金となって、自動車部品業界の再編が加速する可能性もあるだろう。