再生可能エネルギー導入比率が高い強みを生かす欧州(出所:Volkswagen)
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 欧州が2030年までに、水素(H2)エネルギーの普及に50兆円規模の巨費を投じる。アジア企業を利する電気自動車(EV)頼みの環境対策を転換する。欧州が強いエンジン技術と水素エネルギーを組み合わせ、環境対策と併せて雇用を生む。自動車のライフサイクル全体にわたる規制の検討を同時に進め、電池供給網を欧州に呼び込む構想もしたたかに描く。

 欧州委員会は20年7月8日、「A hydrogen strategy for a climate-neutral Europe(欧州の気候中立に向けた水素戦略)」を発表した。30年までに、水素生成の水電解装置に最大420億ユーロ(約5兆2000億円)、同装置と太陽光発電・風力発電との接続に最大3400億ユーロ(約42兆円)を投じる。

 欧州が水素エネルギーに力を注ぐのは、電化の難しい鉄鋼産業や航空機産業などの環境対策に加えて、自動車産業でアジア企業を利するばかりの現状に危機感を覚えたからだ。欧州自動車メーカーの環境対策は事実上、EVの一本やりである。それにもかかわらず、欧州でEVが普及するほどに、アジア企業がもうかる構図になってしまった。

 EVのコストの多くを占めるリチウムイオン電池の主要メーカーは、中国CATL(寧徳時代新能源科技)、同BYD(比亜迪)、トヨタ自動車・パナソニック連合、韓国LG Chem、同Samsung SDIなどアジア企業ばかりだ(図1)。部材メーカーもアジアに偏り、欧州企業の存在感はない。

 

図1 Volkswagenの新型EVにはアジア製電池
図1 Volkswagenの新型EVにはアジア製電池
ID.3のプラットフォームの大部分をリチウムイオン電池が占める。同電池の調達先は、韓国LG Chemや同Samsung SDI、中国CATLなど複数ある(出所:Volkswagen)
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 しかもEVが普及すれば欧州のエンジン工場がなくなり、雇用が減る。環境対策が進んでも、雇用を失うのは困る。欧州が白羽の矢を立てたのが、水素エネルギーというわけだ。裏には水素エネルギーを活用した合成液体燃料「e-fuel」を使って、旗色が悪いディーゼルエンジンを立て直す意図がある。

†e-fuel=水を電気分解したH2とCO2を触媒反応で合成した液体の炭化水素鎖(燃料)のこと。再生可能エネルギーでつくった「グリーン水素」から生成することで、カーボンニュートラルを実現する。