先端技術とその周辺

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新型原子炉、小型モジュール炉(SMR)は安全?

2021年02月20日 01時03分10秒 | 日記

原子力産業は長年にわたり規模が縮小していたが、活況を取り戻そうとしている。その鍵を握るのは、小型化した原子炉かもしれない。

 原子炉メーカーは、新技術と最先端のエンジニアリング、市場に優しいアプローチを駆使して新たなシステムを開発している。既存の原子炉と比べ、生み出すエネルギーの量は小さいが、かなり小型化され、コストも安い。

 小型モジュール炉(SMR)と呼ばれるこの新しい原子炉は、コンパクトな格納容器に設置することができ、従来のものに比べ遮へいと監視を弱めても安全に稼働できるとうたわれている。SMRにより、発電所は巨大な砂時計のような形をした冷却塔が不要になるかもしれない。過熱を防ぐために水中に設置されるタイプのSMRもある。

 官民による数十億ドルの投資を受けて数十のSMRが設計されているが、米国とカナダの規制当局から事前審査を受けているのは一握りだ。米ユタ州の公営共同電力事業体は2029年末までに米国内初のSMR稼働を目指す。中国はSMR開発に大規模な投資を行っている。ロシアは昨年、船上でSMRを稼働させ、移動可能な発電所だとアピールした。

いままでの原子炉を小型化、出力も20分の一で、仔魚しやすく、』コストも低いものが研究開発されていると言う。そして、既に海外では実証実験が始められているという。SMR(Small Modular Reactor)と呼ばれているものである。ただ、核廃棄物の問題は依然、存在する。一方、トヨタの推進力と売り物がなくなりつつある石油業界が強力に進めようとしている水素社会、水の電気分解以外で得られる水素は、そう多くはないので、SMR と 水素エネルギーは、もしかしたら共存共栄するのかも!?
 

各国が手掛けようとしているから、SMRの方式もいろいろある。経済産業省の資源エネルギー庁がWebサイトにまとめているので用紙を纏めてみた。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/smr_01.html

 

 

①NuScale SMR

米国NuScale社はSMR開発の先駆者の1つで、これまで米国エネルギー省からの支援を得ながら開発を進めています。初号機の建設はアイダホ国立研究所(INL)の敷地内に計画されており、米国の原子力規制委員会での審査も最終段階にあります。

特徴
リストアイコン 1モジュールの出力は6万kW、通常の「加圧水型」原子炉の1/20程度
リストアイコン 最大12個のモジュールを大きなプールの中に設置
リストアイコン 1モジュールは、「圧力容器」「蒸気発生器」「加圧器」「格納容器」をふくむ一体型パッケージで、大型の冷却水ポンプや大口径配管が不要
リストアイコン 各モジュールは、それぞれ独立したタービン発電機と復水器に接続
リストアイコン 小型化と一体化を図ることにより、大規模な冷却材喪失事故のリスクを回避

 

(提供)NuScale Power社

②BWRX-300

日立GEニュークリア・エナジー社と米国GE Hitachi Nuclear Energy社はSMRであるBWRX-300を開発中です。同社は、原子力発電所の設計・製造経験と、さまざまな製品のモジュール製造経験が豊富で、その経験を活かした原子力イノベーションを進めています。米国でBWRX-300初号機の建設をめざして、米国原子力規制委員会にはすでに安全審査項目に関する技術レポートを提出しています。また、カナダでの建設も視野に入れ、カナダ原子力安全委員会でも審査を開始しています。

特徴
リストアイコン 従来の「沸騰水型」よりもさらに構造が単純で、建設コスト、運転コストの低減が可能
リストアイコン SMRのメリットである低い総建設費、工場完成一体据付、建設工期短縮のメリットを生かして資本リスク、建設リスクの低減が可能
リストアイコン ガス火力並みの価格競争力を持ち、米国のガス火力発電プラントの建て替え需要も視野に
リストアイコン 圧力容器と一体になった弁を採用し、大規模な冷却材喪失事故のリスクを実質的に回避

 

(提供) GE Hitachi Nuclear Energy社

③PRISM

PRISM(Power Reactor Innovative Small Module)も米国GE Hitachi Nuclear Energy社が開発するSMRですが、こちらは原子炉の冷却に水ではなくナトリウムを使った原子炉です。「高速炉」と呼ばれるタイプの原子炉で、従来の原子炉と比べて廃棄物の有害度が低く、量も少ない、ウラン資源を有効活用できるといった特徴があります。米国エネルギー省は、PRISMをベースとした熱出力30万kWの多目的試験炉(VTR)を、アイダホ国立研究所に建設し、2030年までに運転開始する計画を推進しており、これがPRISM型の原子炉の第1号になると見られています。

特徴
リストアイコン 空気の自然循環を利用して熱を冷やす方式を採用し、高い安全性・信頼性をもつ
リストアイコン 高速炉は大気の圧力(大気圧)と同程度の圧力で運転されることから、冷却材喪失事故やそれにともなう格納容器内の圧力上昇が発生しない
リストアイコン 出力あたりの原子炉建屋の大きさは、「加圧水型」や「沸騰水型」のSMRよりもさらに小さい
リストアイコン 高レベル放射性廃棄物の体積を減らすことが効率的にできる
リストアイコン 炉心温度が高く、軽水炉型にくらべて熱効率を飛躍的に向上できる

脱炭素化にも役立つ原子力イノベーションを支援

革新的な原子力技術を開発する動きは、米国で10年ほど先行して起こっていますが、近年、日本企業の研究開発も活発化しています。経済産業省でも、2019年から、「NEXIP(Nuclear Energy X Innovation Promotion)イニシアチブ」の下で、民間企業などによる革新的な原子力技術開発の支援を始めています。

また、2020年1月21日には、エネルギー・環境分野の革新的技術の確立を目指す「革新的環境イノベーション戦略」が策定されました(「イノベーションを推進し、CO2を『ビヨンド・ゼロ』へ」参照)。原子力は、この戦略の中でも触れられています。



戦略では、「安全性・信頼性・効率性のいっそうの向上」に加えて、「再生可能エネルギーとの共存」、「水素製造や熱利用といった多様な社会的要請の高まり」も見すえて、原子力関連技術のイノベーションを促進することとしています。SMRは、そうしたイノベーションの一例であり、今後の発展が期待されます。