牛・豚・鳥あるいは魚から採取した細胞を培養した人口培養肉あるいは人口培養魚の研究が進んでいる。これが地球上の人口急増に対する食糧難解決の切り札になると言われている。
ロイターの解説記事『アングル:「人工培養魚」は希望の星か、香港で開発進む』によっている:::::::::::::
昨年12月、シンガポール政府が、他国に先駆けて細胞培養による鶏肉を承認したと発表している。また、NPOグッド・フード・インスティチュート(GFI)は昨年発表した報告書の中で、経済成長と所得向上により、アジアにおける従来の肉・魚介類の消費は2050年までに80%近く増大すると予想される、と述べている。
今後の地球上の食糧問題が深刻になってゆくのは不可避であろう。そうした中、オックスフォード大学が2011年、人工培養肉は食肉生産におけるエネルギー消費を最大45%、温室効果ガスの発生を78%以上、必要な土地面積を99%、水消費を最大96%削減する可能性があるという研究成果を発表している。
食糧難に対する解決方法だけでなく、
①乱獲対策にも有効。国連食糧農業機関は、2020年の報告書で、世界の漁業資源のうち3分の1は乱獲状態にあると述べている。
②海洋汚染対策、マイクロプラスチック、重金属、その他の混入物質の増加で海産物の汚染が進む中で、2050年には海洋中のプラスチックの量が魚介類の量を超えることになると予測している。
③動物の権利への配慮も、人工培養肉への切り替えを推進する要因になる可能性がある。
④人工培養肉を食べるという発想は、近年、特にアジアにおいては、以前よりも消費者にとって受け入れられやすくなっている。
細胞培養は、例えば、牛ひれだけの細胞培養を行えば、他の部位の肉はできない。魚なら、赤身なら赤身だけの細胞培養をするから、内蔵とかかしらとかは培養されない。ほしい部位だけの培養が出来るので無駄がないという。こうした人工培養による動物性タンパク質は、食品供給の不安定さを克服するために安定した価格と予測可能な供給量を求める企業にとって、また消費者に近い場所で食材を調達したいと考える企業に有益であろう。
また、各国政府にとっても、COVID-19のパンデミックや貿易紛争により、食料資源の取り合いが生じているがそれがなくせるというメリットがある。
さらに、遺伝子操作の心配があるが、人工培養による魚介類も肉も、遺伝子操作は必要としない。
又、経済効果試算でも国際コンサルタント企業のATカーニーが2019年に作成した報告書によれば、人工培養肉には、総額1兆ドル規模の従来の食肉産業に大きな変化をもたらすポテンシャルがある。この報告書では、今後20年間で、人工培養肉がグローバルな食肉消費の35%を占めるようになると予測している。