アメリカでは、7月までに国民全員にワクチン接種が出来ると言われており、それに伴い、新型コロナウィルス退治は今年の年末には収まるであろうと言われている。しかし、CNNが 、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は21日、CNNの番組に出演し、米国の人々は新型コロナウイルスへの対策として2022年も依然としてマスクを着用する必要がある「可能性がある」との見方を解説していた。ファウチ氏は今年の年末までにはある程度通常の状態に戻るだろうとも述べた。
日本では、ワクチンの接種は、年内いっぱいかかる気配だから、コロナ退治は来年の夏ころという事になるのだろうか?
また、日本人は、コロナウィルスの免疫遺伝子があるというから、意外に早く退治できるかもしれない。TVが放映していたが、東京都医学総合研究所がまとめていたので引用した。
ネアンデルタール人より受け継がれた新型コロナウイルス感染症の重症化に関わる遺伝要因
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化に関わる人の遺伝的な要因が報告されています。 「新型コロナウイルスの重症化の遺伝的要因(2020/07/02掲載)」の記事に、その詳細について記載しました。その記事の中で、3番染色体のSLC6A20、LZTFL1、FYCO1、CXCR6、XCR1、CCR1、CCR3、CCR9など多くの遺伝子がある領域の一塩基多型(SNP)が、重症化と関連すると記載しました。このSNPのリスクタイプを有すると重症化するリスクが2倍ほど高くなることが明らかにされています。
この3番染色体のCOVID-19重症化のリスク要因は、実はネアンデルタール人より受け継がれたものであることが、ペーボ博士らによってNature誌に報告されました。ペーボ博士は、進化遺伝学の分野でとても有名な先生で、ヒトの言語発生と関わる遺伝子の同定や、ホモ・サピエンスのゲノムの中にネアンデルタール人のゲノムが混じっていて、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が交雑していたことを明らかにしてきました。
ペーボ博士らは、このCOVID-19の重症化と関連するSNPのリスクタイプが持つ、次の特徴に注目しました。①リスクタイプは、ヒトにおいて49,400個の塩基からなるハプロタイプ*1 を形成していました。論文上ではこれをコア・ハプロタイプと定義してます。②さらに、このコア・ハプロタイプの外側においても弱いながら、長いハプロタイプを形成していました。実は、こうしたハプロタイプの持つ特徴は、ネアンデルタール人よりホモ・サピエンスに受け継がれた可能性があることが先行研究によって明らかにされていたため、さらなる解析が実施されました。
次に、南ヨーロッパにおいて発掘された約5万年前のネアンデルタール人のゲノムで、この領域を解析しました。その結果、期待した通り、このネアンデルタール人はSNPのリスクタイプを持っており、さらにヒトで見られたコア・ハプロタイプと、よく似たハプロタイプを持つこともわかりました。シベリア南部の約12万年前と約5万年前のネアンデルタール人のゲノムも調べた結果は、一部共有する部分はあるものの、全体としてハプロタイプの形が異なる(つまり似ていない)こともわかりました。
さて、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、共通祖先から約55万年前に分岐したと言われています(ネアンデルタール人は約4万年前に絶滅)。そのため、COVID-19の重症化と関連するコア・ハプロタイプに関して、次の二つの可能性が考えられます。①ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の共通祖先から引き継いだ。②ネアンデルタール人で発生し、それがホモ・サピエンスに受け継がれた。解析の結果、このハプロタイプの特徴から、②である可能性が非常に高く、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが交雑した結果、ネアンデルタール人からホモ・サピエンスに受け継がれたものであると結論付けました。
COVID-19の重症化と関連するコア・ハプロタイプを、南アジア系の人が高い頻度で保有し、特にバングラデシュ人の60%以上の人が保有します。一方、ヨーロッパ系の人は20%弱がこのコア・ハプロタイプを保有しますが、アフリカ系と東アジア系の人は保有する人はほとんどいません。このような頻度の大きな違いは、通常起こることでないことを論文上で統計学的に明らかにしています。そして、このことは過去に自然選択の影響を受けた可能性があることが示唆されます。
ネアンデルタール人からホモ・サピエンスに受け継がれたゲノムは、免疫反応に関わるものがあり、ホモ・サピエンスの生存に影響を与えたのではないか言われています。特に、バングラデシュ周辺では、ネアンデルタール人から受け継がれたゲノムが正の自然選択によって残っていったと報告されていています。ペーボ博士らは、このコア・ハプロタイプを持つ人は、新型コロナウイルス以外のある病原体に対して抵抗力があった可能性があると推察しています。一方、そのすぐ近くの東アジアでは、ほとんどの人がこのコア・ハプロタイプを持っていません。かつて東アジアでこのコア・ハプロタイプを持つ人は、コロナウイルスやその他のある病原体に対して抵抗力が弱かったため、負の自然選択によってその頻度が減っていってしまったかもしれないと考察しています*2。このように、ヒトは病気、特に感染症とともに進化してきたとも言えます。そして、今現在、私たちは新型コロナウイルスによる選択下にいるのかもしれません。
- *1
ハプロタイプとは、一つの染色体上のDNA配列のことです。世代を経るごとに、そのハプロタイプは染色体の組換えにより、断片化していきます(図1)。長いハプロタイプが観察されるということは、長い距離にわたって組換えが起きていないとも言えます。 - *2
何が原因でこのコア・ハプロタイプの頻度が減ったり、増えたりしたのかは、昔(過去)に起きたことですので、現在その原因を確実に同定するのは難しいかもしれません(論文にはこれは書いていません)。
図1
子3は組換えが起きており、片方のハプロタイプが短くなっています。さらに世代を経るごとに組換えにより、最初のハプロタイプは次第に短くなります。また染色体上で遠いところとは組換えが起きやすく、近いと組換えは起きにくい。