多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

ミラノ・スカラ座のボックス席から

2023年11月16日 | 

12年ぶりの海外旅行で、ミラノとバルセロナに行った。イタリア、スペインを訪れるのは初めてだ。じつは3年前の5月、同じコースの旅を計画しチケットも取っていたが新型コロナ禍でキャンセルせざるをえなくなり、今回はその復活旅行だった。

3年前はなんの問題もなく、スカラ座のチケットを予約できた。今回はウェブで空席をみつけ予約にチャレンジしたが、何度やってもなぜかうまく登録できなかった。そのうち全席売切れになり、当日売り出す天井桟敷席の存在を知り、12時ころいけば13時に登録し17時半に購入するシステムなので12時前に行ってみた。すると通常のチケット売場が12時オープンで人が並んでいたので、わたくしも並んでみた。どういうことなのか少しは当日チケットも売ることがわかった。この時期なのであまりよい席は残っていないはずだが、チケット購入に2回来るよりずっとよいので、58ユーロの4階のボックス席券を入手した。あまりいい席ではないとはいわれた。
出し物はモンテメッツィの「三人の王の愛」。モンテメッツィ(1875-1952)はヴェルディ後の作曲家で、プッチーニより17歳下、ジョルダーノより8歳下のミラノ音楽院出身の作曲家だ。この作品を1913年38歳のときミラノで上演し出世作となった。全3幕、休憩も入れて2時間あまりの小さい作品だった。
3人の王とは、アルトゥラ国を征服しいまは盲目の老王・アルキバルド、その息子マンフレート王、征服された国の前王子アヴィートである。マンフレート王の妻フィオーラは、アヴィートの元の恋人で、アヴィートはいまも忍んで訪ねてくる。不貞を知ったアルキバルドは激高しフィオーラを絞め殺す。アルキバルドもじつはフィオーラを愛していた。フィオーラの死を知り嘆くマンフレートとアヴィートは死ぬ。3人の亡骸をみてアルキバルドは深く絶望する。
  (あらすじはこのサイト(下線をクリック)で読むことができる)。ちょっと文楽や歌舞伎にありそうな話だ。

さて19時半開場なので行ってみると、初日ということもありフォーマルな黒い衣装を着用した男女がたくさん並んでいた。とくに女性は黒のフォーマルだがいろんなスタイルがありセレブの雰囲気を感じられた。
スカラ座の座席は2000席ほどなのでそんなに巨大ではない。わたしのボックス席は4人掛けで前列2人、後列2人、偶然だが全員日本人だった。
正面下を見下ろすと、オーケストラボックスの舞台に向かって右側後方、金管とチェロの一部が見える。舞台は背景の幕の右側が少しみえるだけ。しかも座れば向かいの4階ボックスがみえるだけなので、前列の人の後ろに立ってみていた。それでも役者が見えるのは5%ほど、95%は金管奏者の姿だけだった。金管奏者をこんな角度から見下ろす機会はまずない。トランペット3,トロンボーン3、ホルン4,チューバ1のかなり大きな編成だった。
アルキバルド役 Evgeny Stavinsky(バス)が熱演 フィオーラ役Chiara Isotton(ソプラノ)も好演していた。
前列の人の前の手すりに英語の字幕が流れる。ときどき盗み見させていただき歌詞やセリフの内容を理解した。そんなわけで演技は見られず、ラジオのオペラ実況放送を聞いているようなものだった。かつてウディ・アレンの「ハンナとその姉妹(1986)でオペラのボックス席の映像をみて憧れたことがあったが、違う「現実」があることがわかった。ただスカラ座は馬蹄形だし、映画はニューヨークで劇場が違うせいもあるのかもしれない。
2幕と3幕のあいだに20分ほど休憩があった。1階ホワイエに降りると、ワインを片手に談笑する人が多数いた。雰囲気はだいたいわかった。

オケは、うまいとか表現力が豊かという印象はもたなかったが、まとまりがよいこと、そしてなにより手慣れていることが特徴だった。合唱団も葬儀の女性の行列しかみえなかったが、やはりまとまりがよく動きがこなれている印象だった。東京の新国立劇場合唱団も、遠くない将来こんなふうになるのかと期待した。
指揮のピンカス・スタインバーグも、わたしはまったく知らない方だがプロフィールをみると1945年テルアビブ生まれで今年78歳。もとはヴァイオリン奏者で、ウィーン、ベルリン、ロンドン、パリ、ミラノなど著名な劇場でオペラの指揮をしている。
 
この日、午前中にスカラ座の建物の左側棟続きの博物館を見学した。スタートは最上階のホールからだが、部屋の周囲にトスカニーニ、ジョルダーノ、プッチーニ、マスカーニなどの彫像が並んでいる。ゼフィレッリの特集展示のようなことをしていた。ゼフィレッリというと映画「ロミオとジュリエット」(1968 パラマウント映画)の監督で有名だが、オペラの演出でも有名だった。新国立劇場のこけら落とし「アイーダ」(1998)を担当していた。

右下がマリア・カラスの肖像
小部屋には、さまざまなオペラの古い記録や資料、歌手たちの肖像画・写真が展示されていた。スカラ座は1717年建設、76年火災で焼失したが78年に場所を少し移し再建、カルーソー、サルティーニ、ストルチオ、レジーナそしてマリア・カラス。この劇場がオペラの発展ととともにあったことがよくわかる。
一部、劇場内を見下ろせるコーナーがあった(撮影禁止)。すぐ前方下にAVの調整室のようなスペースがあった。またそのコーナーの近くに男女のトイレがあった。これは劇場のトイレとまったく同じで、男女とも1人分しかない。しかも距離が近い。公演中、当然男性用は空いていて女性は列ができている。着飾ったトイレ待ちの女性の列の横を出入りするのはちょっと変な感じだった。
スカラ座広場からドゥオーモまでヴィットリオ・エマヌエーレ2世ガッレリアという天井の高い200mほどのアーケードが続く。プラダ、ルイ・ヴィトン、サン・ローラン、フェンディ、ディオール、グッチなど高級ブランド店が並ぶが、わたしには関係がない。
アーケードを通りかかったとき、たまたまユニフォーム姿のブラスバンドがパレードをしていた。だれか有名な人が来訪しその出迎えの式典のようだった。スカラ座地元の祝祭ムードを盛り上げていてよかった。このシーンを朝のうちに見たので、夜劇場内で金管奏者たちをみると華やいだ気分になった。

ミラノのドゥオーモは1813年完成した、ゴシック様式の全長158m、幅92m、高さ108mという巨大な建築物だ。200年前の人たちはなぜこんな巨大な建物を、しかも外壁に聖人、神や天使、家畜など3000もの彫刻を高い部分まで付けてつくったのか、と感心する。考えてみると日本の東大寺は木造ではあるが、1200年も前につくったものなので、大型宗教には人のパワーを集中させる誘因力があるのだろう。
せっかくミラノに来たのだからみに行こうかと昼食後行ってみたが、今日のチケットは売切れとのことだった。
代わりに隣の建物にある20世紀美2術館(Museo Del Novecento)に入った。7階だったか最上階からドゥオーモがよく見え、ドゥオーモから広場を見下ろしてもたぶん似たような景色だろうと思えたので、よかった。

フォンタナの作品
この美術館は2010年オープンの新しい美術館だ。入口には、菱形の4つの辺にDANCE FIRST THINK LATERという4つの語句を並べ花をモチーフにしたネオン管のポップな作品があった。
20世紀のイタリア美術の流れが理解できるよう展示されている。ボッチョーニ、キリコ、モディリアーニなどイタリア人だけでなく、カンディンスキーやクレーの作品も並んでいた。「第四階級」という労働者の絵や未来派の作品もあった。とくにフォンタナの作品を複数みられたのがよかった。
具体的な説明はできないが、特に戦後は日本の美術の歩みと似ていると思った。国境がなくなり地球がより狭く密接になったということなのだろう。

ついでに隣の地下鉄駅サン・バビラから徒歩10分ほどのミラノ音楽院(ジュゼッペ・ヴェルディ音楽院)に行ってみた。とても格式のある古い建物だった。もちろん校内に入るわけではない。声楽の練習の声でも聞こえないかと思ったが、残念ながらピアノと管楽器の音くらいしか聞こえなかった。
もっと学生がいるかと期待したが、夕方だったので卒業生らしい4-5人のグループが玄関前にいるだけで「やあ、久しぶり」とでも声をかけあっている様子だった
周囲をぐるっとを歩いてみた。大きな教会や教会の寄宿学校があり、北の建物にはガエターノ・ドニゼッティ通り、西にはベッリーニ通りという表示があったり、ミラノ大学政治・経済・社会科学部や女子大学という表示の建物があった。この日、学生の姿はみかけなかったが、学生街なのかもしれない。

2泊3日の短い滞在だったが、美術館に行ったりオペラをみたり充実した旅だった。ミラノを離れる日の朝、ミラノ中央駅近くのホテルから近所を散策した。
1㎞ほど歩くと住宅街に入る。駐車中の車は小型車が多かった。メーカーはフィアットが多いのは当然だが、その他ドイツ車(ベンツ、アウディ、BMW,VWなど)、プジョーやトヨタもみかけた。

公園もあり、犬の散歩をしている人もおり、住みやすそうな町にみえた。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。

 


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