多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

格安コンサートと展覧会の歩き方

2017年08月25日 | 美術展・コンサート
退職して小遣いが激減した、その影響がいちばん大きいのは美術展やコンサート・演劇鑑賞などの教養費だ。美術展のチケットはたいてい1500円くらいするしコンサートは3000円、演劇は5000円以上する。
そうした苦しい経済状況で、無料コンサートは助かる。アマチュアのことが多いが、なかにはプロが混じるものもある。
6月にすみだトリフォニーでNTTフィルハーモニーのオール・シベリウス・プロ、7月に板橋区立文化会館で高田馬場管弦楽団の演奏を聞いた。NTTの指揮は新田ユリさん(日本シベリウス協会会長)、ヴァイオリン協奏曲ニ短調の独奏は伊藤亜美さんだった。これは自由席1500円だったが、知人からチケットを贈呈された。

馬場管は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」とブラームスの交響曲1番のポピュラーなプログラム、ピアノ独奏は上野優子さんだった。
わたしは森山さんの指揮がみたくて通っているのだが、完全に禿頭になっておられてびっくりした。みかけはロブロ・フォン・マタチッチのようだった。オーケストラを完全コントロールして音楽をつくる新田さんの指揮とは対照的で、音楽に身をまかせパフォーマンスしながらもエンディングの盛り上がりを綿密・周到に作り上げ感動の曲作りをするのでファンになった。馬場管というとマーラー、ブルックナーの派手な大曲の印象が強いが、この90回コンサートでは、ブラームスをゆったり粘っこく演奏した。円熟の演奏に聞こえた。1曲目のドヴォルザーク「スケルツォ・カプリチオーソ」の後半では「指揮台上での連続ジャンプ」がみられ、一ファンとして狂喜した。
板橋区立文化会館は遠方だったので、往復時間を読み違え開場1時間前に到着したが、すでに10人くらい並んでいて驚いた。すみだトリフォニーも長蛇の列だった。
昔ロンドンを旅行したとき、王立音楽院(RAM)や王立音楽学校(RCM)の学生たちが、教会などを借りて無料に近いアンサンブル・コンサートをやっていたが、地域の人でそこそこ客席が埋まっているのをみて、こういう地域に根差す音楽活動もいいなと思った。あれから20年、日本もこのころの状況に近づいてきた気がした。

8月にはサックスの須川展也さんの門下生の発表会を武蔵野市民文化会館で聞いた。どういう性格のコンサートがわからなかったのだが、最後に須川さんから「かつて芸大を卒業したころ、最初埼玉大学、のちに東京大学吹奏楽部のトレーナーをしていた。そのときの教え子の演奏会が30年も続いている」とのことだった。須川さんはその後芸大の教員になり、もう一般の人を教えることはなくなった。ということで、メンバーは固定で増えることはないが、30年も続いているということがすばらしい。須川さんと奥方の小柳美奈子さん(ピアノ)はスペシャル・ゲストという肩書になっていた。
この日舞台に立ったサックス奏者は15人だった。
演奏曲はグリーグの「森の静けさ」(抒情小品第10集)、ミヨーのスカラムーシュより「ブラジレイラ」シューマンの「アダージョとアレグロ」ブルッフの「コル・ニドライ」など、もとはピアノ、ホルン、チェロなどで編曲したものが多いのは、サックスという楽器なので仕方がない。しかし1840年代に発明されたこの楽器、人間の肉声に一番近いといわれるがたしかにそうだと感じた。日本人に合っている楽器のひとつだ。いちばん好きだったのは、最後のカルテットによるミヨーの「フランス組曲」(磯田健一郎編曲)だった。ノルマンディー、ブルターニュなど5つの地方名の曲で構成される。吹奏楽の演奏を聞いて好きになった。サックスはソロももちろんすばらしいがカルテットがいい。かつてマルセル・ミュール・サクソフォン四重奏団のピエルネやジャン・リヴィエの曲を毎晩のように聞いていたことがなつかしい。
最後に、師匠の須川展也&小柳美奈子スペシャルステージを聞いた。まずJ.Sバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータから2曲、次に真島俊夫のシーガル、最後に狭間美帆編曲「すべてを知っている場所」からの便り――ガーシュイン・メロディーズだった。サマータイム、I Got Rhythmなど、ガーシュインの名曲がたくさん入っているメドレーだった。小柳さんのピアノ伴奏も、もちろん主役を立てながらご自身もとても楽しそうに演奏されていてすばらしかった。三鷹まで行った甲斐があった。
三鷹の駅に降りるのは、2年前の伊沢さんの市議選以来だがあれは南口で、北口に下りるのはおそらく10年前の浅野都知事選の集会で文化会館に来て以来のはずだ。

美術館の特別展でも、たまに低額のものがある。
この夏横尾忠則現代美術館で700円の「ヨコオ・ワールド・ツアー」をみた。サブタイトルは開館5周年記念展だった。2013年正月に開館記念展I 横尾忠則展「反反復復反復」をみた記憶があるが、あれからもう5年かと感慨深かった。
ニューヨーク、イタリア、ロンドンなどヨーロッパ、バンコクやインドに行った時に啓発されたモチーフが使われているようだが、もちろん横尾なので、風景がが出てくるわけではない。ビートルズの「アビー・ロード」のもじりで、石川、椎根、今野のマガジンハウス(当時は平凡出版)の編集者+横尾が歩道を渡る写真や巌流島の決闘をモチーフにした「大入満員」など。ライオン、アシカなど動物の観客で満員の絵だった。3階の会場にはサンタナ、キャット・スティーブンス、マイルス・デイヴィスなどのレコードジャケットが並んでいた。リサ・ライオンの力強い肉体を題材にした映像作品が印象に残っている。

JR灘駅をエレベータでまたぎ越すミュージアムロードを歩いて1.5キロ、海側の県美本館に行く。横尾展の半券を見せると常設展(県美プレミアム展)に400円で入れる。
青木千絵展「漆黒の身体」が予想外によかった。発泡スチロールに麻布を貼り、その上に漆を塗り重ねて乾燥後に表面を木炭で丹念に研ぎあげて完成させる、乾漆という技法だそうだ。わたくしは漆器や螺鈿は昔から好きだが、工芸でなく彫刻の領域の作品があることを初めて知った。女性の下半身と足、だいたい尻の像が多い。上半身は卵型や円柱など抽象的なフォルムに溶け込んでいる。解説の制作者のことばに「不安や恐怖、心細さを感じながら、外界から遮断するように殻の中に閉じこもり、ただ静かに無言の中に存在する人の姿が表現されて」いると書かれていた。等身大なので 問題のところも丸出しになっているかもしれない。ちょっとエロっぽいが作者が女性だと知り驚いた。1981年岐阜県生まれ、金沢美術工芸大学出身の若い方で、もちろんわたしは知らない人だった。細くて長い足指が印象的な作品だった。「手で見る造形」がひとつの売りで、係の人にいえば手袋を借りて触れる作品ということになっていたが、時間がなくパスした。退館してから惜しいことをしたと思った。

福田眉仙「南京紫金山」(1938)
常設展ではもともと椎原治や安井仲治の写真「流氓ユダヤ」シリーズや吉原治良、白髪一雄らを中心とする「具体」の作家、シーガルの「ラッシュ・アワー」などが好きだった。今回は貝原六一「落馬するドン・キホーテ」(1982)とグループ位「非人称人間(13体)」(1967)が気に入った。新収蔵作品で福田眉仙「南京紫金山」(1938)という絵を発見した。南京大虐殺が前年12月なので、1年未満で日本人の画家が入ってのどかな風景画を描いていたとは驚いた。
海側の出口を出たところに、高さが6mもある大きな少女像が立っていてびっくりした。阪神大震災20周年記念にヤノベケンジが制作した「サン・シスター」という作品だそうだ。

ヤノベケンジ「サン・シスター」
☆その他、路上でやっているものは原則無料だ。8月はじめに新宿西口、三井ビル横で芸能山城組がケチャまつりをやっていた。「バナナのたたき売り」を見たくて行ってみた。時間の都合でガムランとケチャの初めのほうだけしかみられなかったが、谷島先生が今年も元気にバナナマンをやっておられる姿をみて安心した。
また5月の連休の「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」もこの一種だ。1枚だけ1500円程度のチケットを購入すれば、半券提示で多くのイベントを聞くことができる。

ケチャまつり
☆「コンサート情報」というサイトがあり、そのなかに「入場無料!コンサート一覧」のページがあることがわかった。(下線部をクリックするとリンクにつながる。以下同様)また上記サイトには「チケットプレゼントコンサート一覧」というページもある。
美術展関連では下記のサイトがある。
  無料で楽しめる都内の美術館・美術展・ギャラリー
  ご招待券プレゼント
なお、西洋美術館、近代美術館などはコレクションが充実しているのに常設展は500円前後でコストパフォーマンスがたいへんよい。ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)、資生堂ギャラリー富士フイルムフォトサロンのように原則無料の施設もある。また65歳以上無料の施設もいくつかある。
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