2月12日(祝)午後、文京区民センターで「今こそ、反戦・平和の運動を教育と社会に! 2.12総決起集会」が開催された(主催:都教委包囲・首都圏ネット 参加:100人)。2003年の10.23通達発出から20回目の節目の集会で、今年は大内裕和さんの講演がメインだった。
大内さんは2003年ごろから教育基本法改悪反対運動を高橋哲哉さん、小森陽一さん、三宅晶子さんらの学者と先頭に立ってやっておられた。その後松山大学、中京大学を経て2022年に武蔵大学へ移って東京に戻り、最近は英語スピーキングテスト問題で都教委批判を続けている。
A4で11pの詳細なレジュメに基づき、1980年代から40年にわたるグローバル資本主義、新自由主義、国家主義の内外の進展をタテ糸とするスケールの大きいお話だった。そのアウトラインを、とくに教育との関連に重点をおいて紹介する。
大内さんは、まず最近の沖縄・南西諸島の軍事要塞化と大川原加工機「冤罪」事件という2つのトピックスから講演をはじめた。沖縄・南西諸島で、とりわけ石垣・宮古・与那国などで戦争準備体制というより、戦争実行体制を整えつつあること、大川原加工機事件は警視庁公安部、公安外事一課、経産省、検察が一体となった冤罪事件で現代版のファシズム「治安弾圧」事件であり、なぜ現在この2つの事象が起きているのか、という指摘から始まった。
■講演
21世紀型ファシズムと戦争にどう立ち向かうか
大内裕和さん(武蔵大学教授)
●新自由主義と国家主義のホップ・ステップ・ジャンプ
転換点は中曽根政権の1984年だった。この年、臨時教育審議会設置法によりその後臨教審が設置され、日本育英会法改正により有利子奨学金が導入され奨学金事業の金融化がスタート、国鉄再建推進に関する臨時措置法により国鉄分割民営化が始まり、新自由主義・国家主義へと向かうはじめの「ホップ」となった。
次に1995年日経連が「新時代の『日本的経営』」を発表し、労働者を、A長期蓄積能力活用型、B高度専門能力活用型、C雇用柔軟型の3グループに分類し、Aのみ無期雇用(正規社員)、BCは有期雇用(非正規)にする構想だ。そのとおり99年に派遣業種の拡大を行う派遣法改悪、2004年には製造業への派遣解禁を行い、非正規雇用労働者が激増した。
それまでは自民党ですら生活の向上が目標だったが、今後は生活の向上はしないと堂々といった。そこから変わった。また90年代市場競争はグローバル競争に拡大し、格差も地球大で拡大した。地域紛争に直面することもあるので、支配層にとって自衛隊を海外に出すことが重要な目標になった。
しかしこれまでの資本主義は生活保障するから国民統合が可能だったがそうでなくなったので、イデオロギーによる国民統合、歴史修正主義がでてきた。97年「新しい歴史教科書をつくる会」や日本会議が結成され、その延長に教育基本法「改正」がでてきた。新自由主義と国家主義が結合し、これが「ステップ」だ。
一方96年に首相に就任した橋本龍太郎は六大改革(新自由主義改革)を掲げ、そのひとつが行政改革だった。2001年の省庁再編で大蔵省は財務省と金融庁に分割され力が弱まり、通産省は経産省に変わり勢力を拡大、首相直属機関の内閣府が設置され通産官僚が多数登用され、新自由主義政策を推進した。
2001年成立の小泉政権のもと郵政民営化法が成立し、日本政府の新自由主義的再編が完了し、「ジャンプ」となった。
また1996年に中選挙区から小選挙区制に移行し、派閥が弱体化し中央集権化が進み、それまでの自民党選挙を支えた建設業、医師会、特定郵便局、商工会議所が衰退し、代わって日本会議、統一教会などが支え、極右化することになった。
●21世紀ファシズムのスタートとしての「10.23」通達
1999年石原都知事が誕生し極右都政が開始された。2003年「10.23」通達による日の丸君が代の強制は、それまであった学校現場の自由、学校現場における抵抗勢力をいかにして圧殺するか、とりわけ教職員組合のなかの活動家を攻撃にさらし力を弱くするかということが目標になった。これは異論を許さないのでファシズムといっていい。
「10.23」通達を21世紀のファシズムの出発として考え、みなさん方の活動は21世紀の反ファシズム運動だと考えてよい。
石原が、どうしてあれほど票を取ったのか。なにがあったかというと、石原が21世紀のグローバル都市を打ち出したからだ。東京都立大学の解体も、教育現場の攻撃であると同時に新自由主義的な大学の再編のスタートだった。しかもそれは1990年代以降資本主義の構造が変わるなかで製造業中心から情報サービス産業へ、とくに都市部の再開発、いま起こっている東京の再開発は石原改革の延長線上にある。日本中の金融、情報、サービス部門の上層労働者が集まっている。
かつてドーナツ化現象で多摩地域にどんどん新しい住宅ができたがいまは違う。23区が最大の人口集中地域でひとりで人口を集めている。明らかに都市の再開発で変わった。デベロッパーと結びつきながら公共部門の民営化が進んだ。
石原が支持されたのは「首都移転」への批判だ。東京一極集中批判に対し、東京一極集中を堂々と肯定する。もう人のいうことを聞かなくなった。人の意見を封殺してしまう。わたしは24年間東京を離れていたが、東京と東京以外の格差は広がる一方だ。もう違う国だ。70年代までの日本全体の一定の平等な生活水準はまったく消え去っている。
現場に対するファシズム的攻撃とグローバル公共政策をつなげて考えることが重要だと思う。
●21世紀の極右・ファシズムを導いた安倍政権
2006年首相に就任した安倍晋三は教育基本法「改正」を実現し、任期中の憲法「改正」を唱え始めた。
安倍政権は財務省軽視の経産省内閣だったので、産学連携を推進し、第二次安倍政権では1人1台端末と様々なEdTech(エドテック)の「未来の教室」プロジェクトなど、教育ビジネスへの参入を始めた。
第二次安倍政権を支えたブレーンはJR東海の葛西敬之だった。葛西は官邸官僚の杉田和博、今井尚哉らを育成し、またNHK会長人事に介入した。目標は第一次安倍政権を結果的に倒したNHKと朝日を抑え込むことだった。メディアコントロールである。
1980年代の新自由主義が21世紀の極右・ファシズムへという事情は、アメリカではレーガンが現代のトランプ、イギリスではサッチャーが現代のBrexitを生んだ。中曽根、橋本らの路線がなければ、橋下・維新は出てこない。
大事なことは、新自由主義と現代の極右・ファシズムは連動しているということだ。
●岸田政権、そして今後の課題
岸田政権は大学卒業後の所得に応じた「出世払い」制度の導入を提言している。これは在学中負担ゼロといっているが、結局卒業後に学費を払わせるということ。それははっきりしている。親負担から本人負担へ、つまり学生はマイナンバー登録だ。現行保険証の廃止は迫っている。ということは、貧しい家庭で奨学金を借りている健康な若者の捕捉が可能になる。
すでに経済的徴兵制の動きは進んでいて、名簿提供とか、大学生協で自衛隊のパンフが配布され、大学の文化祭に自衛隊のブースが出ている。こういうなかで、すでに文教予算を防衛関係費予算が上回っている。今後防衛費が5年で倍増する。
そういうなか2023年統一地方選で維新が台頭した。それを日本版ファシズムといってよい。
1970年代後半以降の新自由主義グローバリズムは極右独裁路線の台頭と世界戦争という時代状況になってきている。
米国英国型のアングロ・サクソン資本主義と軍事力が株主主権資本主義になり世界の戦争構造を作り出している。NATOの東方拡大はロシア・ウクライナ戦争を招き、アメリカ―イスラエル同盟の結果、ガザ虐殺が行わている
大事なことは「9条改憲阻止」や「軍事費2倍増反対」にとどまらず沖縄南西諸島のリアルな実態を共有し「憲法9条を実行する」実践、戦争が開始された場合の「抵抗」を具体的に想定した反戦平和運動・改憲阻止闘争のバージョン・アップが必要だと思う。
「貧困と格差」を是正し、気候変動にストップをかけるには、資本の私的所有から「社会的所有」「資本の社会化」への移行が必要で、平等とか循環型経済とか、労働者・市民参加型の「社会主義的連邦主義」を構想することが重要だ。
■現場からの問題提起
憲法と教育・教育現場――教職員組合の現状と仲間づくり
宮澤弘道さん(多摩島嶼地区教職員組合執行委員長)
1 教員の現状
階層化 行政の職位にならい、統括校長から主幹教諭、主任教諭、教員まで6段階に階層化され職場のつながりがなくなった。かつては教務主任はベテランや子育てが終わった人だったが、いまは職層で係が決まっている。「あの先生、主幹のくせに全然仕事をしない」「あの人、主任のくせに、私たちのほうがずっと仕事をしているよね」と減点方式で教員をみるようになる。給料表が違うからだ。かつての教員の給料表がいまは主任の給料表になった。教諭は一段低い給料表を使うことになり、40代半ばではほぼ頭打ち、年に数百円しか上がらない。右肩上がりにするには主任になるしかない。
病気がちとか子育てで忙しいという個人の事情は関係ない。殺伐とした雰囲気が出てきているのがいまの職員室だ。
教員の多忙 教員が忙しいのは確かだ。2022年の日教組の調査で月間残業時間・平均123時間、だから働き方改革というが、これ非常に危ない。
東京都ではスクールサポートスタッフという、教員資格をもたないパートタイム職で雑務をしてくれる人がいる。よく見るとテストの〇付けまでやっている。テスト結果をみて「ここが弱いかな。もう少しみてあげないと」「急に文字が雑になってきている。何かあったのかな。話を聞こうか」など、〇付けは情報の宝庫だ。でも忙しいからといって明け渡す。
また「年度教育計画なんて国が決めてくれればいい」と平気でいう教師がいる。カリキュラムの自主編成権は学校にある。それはわれわれが長い間勝ち取ってきた権利であるにもかかわらず、働き方改革の名のもとに、守らないといけないものまで奪われていくことが非常にこわい。
教員不足の原因 定額働かせ放題、保護者対応、採用時期が遅い等がメディアでいわれるが、本質は別のところにある。
職員室の階層化による競争と不公平感による疲弊、人事考課制度の強化により、つねに評価の目にさらされ、ものすごいストレスを感じる、
パワハラが減らない。研修制度がしっかりできたので管理職によるパワハラは減った。逆に中堅どころの主任・主幹のパワハラがひどい、非常に増えた。彼らは研修を受けていないし、パワハラで勤務評定がどうかなることがないのでひどいものだ。
1年目の条件付き採用教員が1年後にどうなったか、2022年度には総数2429人のうち正式採用にならなかった人が108人、うち年度途中の退職者が101人いる。2つのパターンがある。ひとつは教育に希望を見いだせなくなった人、もうひとつは辞めたくないが管理職に「このままなら不可を出す。もし教員になりたいなら来年また採用試験を受けろ」と脅され泣く泣く退職届を出す人である。2005年度まで不採用率は1%前後(他府県は0%台)だったが、パワハラ相談の増加とリンクし、この3年3-4%に増加した。簡単にクビを切れるシステムが東京都で全国で突出した状況を生み出した。
2 憲法・人権・道徳と教育
わたしたちは体も心も国家の管理下にある。2002年に健康増進法が施行され、健康は憲法25条の権利ではなく「義務」になった。学校で健康診断の結果メタボと診断されると、校長室に呼び出され紙を渡され「注意してください」といわれる。まだ道徳の教科化で「心」も評価対象になった。
「政治に無関心な教員」という問題も大きい。選挙の前に校長は「みなさんは教育公務員なので政治活動には制限がある」などと朝礼などでいい、受け取る側はよくわかっていないので「そうか政治活動してはいけないんだ。選挙に行くのもヤバイ」と冗談のようだが選挙に行ってはいけないと思い込んでいる教員が一定数いる。
道徳で人権教育をやればよいという人がいるが、それは違う。人権というのは対象がいい人か悪い人かは関係ない。あくまでも人としての権利の保障だ。だが道徳は対象がいい人か悪い人かで判断が異なる。
「修身」と「特別の教科 道徳」の違い 教科は科学だ。一般化したり体系化できるから教科として成り立っている。文科省は道徳を扇の要として、各教科の学びのなかに道徳的な学びを入れろという。科学のなかに道徳という非科学的なものが入り込む恐ろしさが出てくる。人権は時代が変わっても不変だ。だが道徳は時代が変わると、変わる。民主主義国として立憲主義を標榜している国で、あってはならない教科が教科になってしまっている現状がある。
3 教職員組合の現状
本当に厳しく、組織率も低い。組織力向上のためには、現場のなかでとにかく人に寄り添うことをやっていかないといけないと思っている。職場だけではなく、まずは身近な人と井戸端会議のなかで政治の話、現状の話をする。身近な近所の人と話せるようにすれば、それが運動につながっていくと思う。
■現場からの報告
英語スピーキングテスト(ESAT-J) 中学校教員
2年目でどう変わったか。昨年に比べ、特別措置がわかりやすくなり、生徒にとって受験場所の連絡が1ヵ月ほど早くなったことがよかった。
しかし、中3担当者は受験ですごく大変なのに、わけのわからないESAT-Jという怪物が来て余計な仕事が増え、負担の重さが本当に大変だ。
1学期後半からESAT-Jの仕事がある。まずシート説明会で説明し、次にESAT-Jの申し込み方を説明し、申し込んでいるか1人ずつ確認しないといけない。
きつ音や学習障害があったり、読み込むのに時間がかかったり、色弱の生徒といった特別措置の生徒には特別措置対応用のプリントがあり、担任が把握し特別な対応をしないといけない。
夏休みに三者面談で ESAT-Jの申込み状況の最終確認をする。
申請がむずかしい生徒も各クラス5人くらいいる。申請はパソコン申請だが家にパソコンやプリンターがない生徒、外国籍や申請方法がよくわからない生徒、不登校の生徒には、担任が一人ずつタブレットを使っていっしょに申請する。
11月受験票到着後、全員分あるか確認する。宅急便で送付されるので中身がなにかわからない。せめて「受験票在中」と書いてほしい。
受験票について生徒に説明し、当日は学年担当が学校に待機し事故に備え、翌日は受験報告用紙を全員に提出させないといけない。持ってこない生徒に早く出すよう急かし、何人受験したか区に報告する。1月にようやく点数結果が来る。11日ころタブレットやスマホで見られるので、見るよういうが生徒はロクに見ない。スコアレポートという点数が書かれたものが学校に到着する。1枚は生徒に配布し、もう1枚は調査書といっしょに各受験校に送る。受験校は1校だけでなく50校くらいあり、ちゃんと間違いなく入れたか確認しないといけない。
その点数を調査書に入力しないといけないが、調査書は12月に作成し、いままではそこで終わっていた。しかし余計なテストが付いたので入っていない調査書と点数を入れた調査書と2通りつくらないといけない。だから1月に調査書作成の仕事が増える。この調査書を使うのは都立の一般入試の生徒だけなので、学校の1/3程度の生徒しか使わない。
今年からESAT-JのYEAR1,2(1年用、2年用)が加わった。これはブリティッシュ・カウンシルが運営している。1-3月にテストを実施する。問題は1種類だけなので、塾に行っている生徒は問題を知り練習している。ならば配って授業でやればよい。それをわざわざ時間を取ってやらせるのか。塾に通っている生徒はもう問題を知っている。なのに先週英語の先生は一生懸命このテストの練習をしていた。
その他、五次訴訟の原告、最高裁まで闘った根津公子さんから「声を上げることの大切さ」、学習サポーターに応募し263人中2人のみ不合格で、理由が組合活動をしていたとしか考えれないため提訴した元教員、小学校でミサイル避難訓練が強行され中学で自衛隊車両まで動員し「自衛官募集」チラシを配布する防災学習の実態、練馬や中野のミサイル想定住民避難訓練への抗議活動など、7人の方からスピーチがあった。
日本のPAC3をアメリカに「輸出」し、さらにウクライナに移設、つまり間接的に日本からウクライナに武器を輸出するという話に、大内さんの戦争実行体制に入っているという話がダブって聞こえ、驚かされた。
大内さんの21世紀型のファシズムが到来し、戦争も間近という講演に加え、教員社会の悲惨な現実をリアルに知ることができ、充実した3時間あまりだった。
なおこの集会の全容は、この2つのサイト(クリック)をご覧いただきたい。
●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。